160カ国以上で500万人が利用、文字起こしAI「Notta」が新機能を発表——世界展開と日本市場重視の両立強調

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Image credit: Masaru Ikeda

Notta は、日本にも一時進出した中国のバイクシェアリングサービス Mobike(摩拜単車)の創業者 Ryan Zhang(張岩)氏が創業したスタートアップだ。AI 文字起こしサービス「Notta」を提供している。事業開始当初は中国・深圳に本拠を置く Langogo(合言信息科技)の一サービスだったが、その後、事業単体で会社が独立し、シンガポールに本社を設置して、現在は最も顧客が多い日本にも営業拠点を置いている。

Notta は23日、都内で記者会見を開き、同社 COO の田村清人氏と営業部長の八陣健一氏が登壇し、新機能の発表と今後の事業戦略について説明した。田村氏は以前、トレジャーデータの取締役執行役員チーフカスタマーオフィサーを務めていた。また、八陣氏は2017年11月までの23年間、日本マイクロソフトでパートナーセールス統括本部・東日本パートナー営業本部部長を務めた経験を持つ。

機能の拡充

Notta COO の田村清人氏
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Notta は2020年に iOS と Android のモバイルアプリとしてのサービスを開始。現在では、音声の文字起こしだけでなく、リアルタイム翻訳、AI 要約機能、さらには他システムとの連携機能など、多岐にわたるサービスを提供している。従業員数は約70名、2年前のシリーズ A ラウンドで1,000万米ドルを調達している。

特筆すべきは、Notta のグローバル展開の速さだ。現在、160カ国以上でユーザを獲得しており、全世界で累積500万人以上のユーザを抱えている。日本国内においても、日経225銘柄企業の68%で利用実績があるという。今回の記者会見では、主に3つの新機能が発表された。

先ごろ発表された「Notta Showcase」
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  1. カスタムテンプレート機能 …… ユーザが自身のニーズに合わせて、文字起こしや要約のテンプレートをカスタマイズできる機能。これにより、業界や企業特有の要件に対応した文書作成が可能になる。
  2. AI プロンプトの最適化機能 …… ユーザの要求に応じて、AI が生成する要約や分析の内容をより適切なものに調整する機能。例えば、「簡潔に箇条書きでまとめたレポートを作成してください」といった指示を与えることで、より使いやすい形式の出力を得ることができる。
  3. 複数会議の統合分析機能 …… 長期間にわたる複数の会議やインタビューの内容を統合して分析する機能。これにより、一連の会議やプロジェクトの全体像を把握しやすくなる。

これらの新機能は、一部は既に利用可能で、残りも2024年中にリリースされる予定だ。Notta は先ごろ、動画コンテンツの自動吹き替え機能を持つ「Showcase」も発表している。この機能は、観光や企業研修など、多言語対応が求められる場面での活用が期待されている。

営業戦略と市場展開

Notta 営業部長の八陣健一氏
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Notta はまた、新たにダイワボウ情報システム、SB C&S とディストリビュータ契約を締結したことを明らかにした。八陣氏によれば、2023年5月頃から本格的にパートナー募集を開始し、現在では複数の販売パートナーと契約を結んでいる。さらに、ソリューションベンダーやハードウェアメーカーからの引き合いも増加しているという。

また、同社ではテクノロジーパートナーとの連携も進めている。田村氏によれば、Salesforce、HubSpot、Notion、さらに Microsoft Teams、Google Meet、Webex、Zoom など主要オンライン会議システムとの連携が完了している。田村氏は Notta がグローバル展開を進める一方、日本市場を重視し、現在は「社内の議論は日本市場の話題が多くなっている」と述べた。また、日本で特に Notta が受け入れられている点について、田村氏は次のような市場の特殊性を理由に挙げた。

  1. 文字起こしや議事録作成が企業文化として定着している。
  2. オンライン・オフラインが混在する会議形態が多い。
  3. 日本語対応の精度が重視される。

Nottaは、AI 技術の活用において柔軟な姿勢を取っている。田村氏は、「一つのエンジンにこだわるというよりも、どのエンジンが一番目的に即しているかという観点で設計している」と説明した。具体的には、文字起こしのエンジンも言語ごとに最適なものを選択しており、今後の AI 技術の進化にも柔軟に対応していく方針だ。セキュリティに関しては、ISO27001や SOC2などの認証取得を進め、特にデータの保管場所については全て日本国内であることを強調した。

Notta の今後

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Notta は、単なる文字起こしサービスから、企業の DX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する総合的なコミュニケーションプラットフォームへと進化を遂げようとしている。田村氏は、「どういうユーザ体験で、どういう形でユーザの業務フローを改善できるアプリケーションを作っていけばいいのか」という点に注力していると述べた。

一方で、急速な成長に伴う課題も浮き彫りになっている。特に、増加するユーザやパートナーからの要望に対応するための体制づくりが急務だ。また、グローバル展開と日本市場重視のバランスをどう取るかも今後の重要な課題となるだろう。

文字起こしサービス市場は、2023年から2030年にかけて年平均24.8%の成長が見込まれている。これを背景に、海外企業も日本市場に参入してきている。田村氏は、この状況について「文字起こしをするということ自体は、今後どんどんコモディティ化していく」と分析。その上で、Notta の差別化ポイントとして、ユーザ体験の向上と業務フローの改善に焦点を当てていく方針を示唆した。

八陣氏は、 Notta が個人ユーザから大企業まで幅広い層に利用されていて、ユーザからは、「数多くある文字起こしサービスの中でも、唯一 Notta だけが利用を許可されている」という声を多く聞くと述べ、企業における Notta の信頼性の高さを強調した。具体的な活用事例としては、以下のようなものだ。

  1. 会議の議事録作成 …… 1時間の会議の議事録作成が、従来の3時間から30分程度に短縮された。
  2. 商談記録 …… スマートフォンで録音しながらリアルタイムで文字起こし、チームでの情報共有が可能になった。
  3. 多言語対応 …… 58言語に対応し、緊急時の外国人対応などで活用している。

これらの事例は、Notta が単なる文字起こしツールを超えて、業務効率化や情報共有、さらには言語バリアの解消にまで貢献していることを示している。

また、Notta が直面している技術的課題の一つに、録音会議での話者識別精度の向上がある。田村氏によれば、この点については、現時点で詳細は明らかにできないものの、近い将来、新機能の開発・実装により改善が見込まれるという。また、田村氏は、オフライン環境での利用や、より高度な AI 分析機能の実装など、今後の技術開発の方向性も示唆した。

ハードウェアの進化や API の拡充に応じて、アーキテクチャを柔軟に組み替えていきます。(田村氏)

田村氏は、「会話から無限の価値を見つけ出す」という同社のビジョンの実現に向けて、継続的な投資と開発を行っていく意向を示した。特に、AI 技術の進化を見据えた研究開発や、グローバル展開のための体制強化、さらにはパートナーシップの拡大など、多角的な成長戦略を描いている。

田村氏はまた、Notta の成長を支える重要な要素として、従業員の多様性と組織文化、特に多様なバックグラウンドを持つ人材が集まっていることを強調した。特に、グローバル展開と日本市場重視を両立させるため、多言語・多文化に対応できる組織づくりを進めているという。この多様性が、製品開発や顧客サポートにおいても強みとなることを期待しているとした。

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