韓国の新型コロナ対策が称賛を集める裏には、スタートアップの努力が大きく貢献

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本稿は、ソウルとシンガポールを拠点とするスタートアップ向けマーケティング支援会社 G3 Partners の創業者兼 CEO Nathan Millard 氏によるもの。彼は Google Campus Seoul のメンターであり、2012〜2014年は、BRIDGE のパートナーメディアでもある韓国のスタートアップメディア beSUCCESS でエディタを務めた。


韓国のテクノロジーを活用した新型コロナウイルスへの取り組みが注目を集めている。

韓国セジョン市の薬局。開店前にマスクを買うため並ぶ人たち。
CC BY-SA 4.0: Ricknasia

同国のウイルス拡散防止への努力は、市民が自分自身および他者を守るための政府からの要請を無視した宗教団体により一時的に妨害されてしまったが、ほとんどの韓国人のオーバーシュートに対する対処は迅速かつ効果的で、また、テクノロジー主導だった。

最近になって、同国の1日あたりの感染者数は急減しており、また新型コロナウイルスによる死者数の割合は、世界的にも最低レベルの1%未満となっている。

パンデミックに対する同国の取り組みで特筆されるのは積極的なウイルス検査と透明性であり、各国から称賛を受けるとともに、アメリカ含む他のあらゆる国々の取り組みと比較しても優秀とされている。

透明性とデータへのアクセス

「Corona Map(코로나맵)」

関連当局および関連するスタートアップは、ウイルスの拡散状況を追跡し、防御するソリューションを開発するための広範囲の情報リソースへのアクセスを許されている。感染ケースの情報と感染者の行動履歴もまた、インタラクティブなウェブサイト「Corona Map(코로나맵)」とスマートフォンアプリを通じて公開されている。

韓国の保健福祉省副長官の Gang-lip Kim(김강립、金剛立)氏は3月9日に、レポーターに対して次のように述べている。

市民の参加を可能にしているのは、オープンであることと透明性です。

彼はまた、対策チームは「クリエイティブな思考と最先端テクノロジーを活用して、最も効果的な対策を打ち立てること」を重視しているとも述べている。

韓国のハイテクかつ透明性の高いソリューションにより、同国は「感染者数の増加率を抑え込む」のみならず、それを他の国々のような極端な、強権的な手法に頼らずに実現している。

積極的な検査

ドライブスルーの検査施設
Image credit: 韓国・釜山(プサン)市役所

韓国は新型コロナウイルス検査において、全世界の先頭をきっている。同国は現在1日あたり2万の検査が可能であり、平均して1万件をこなしている。高陽(コヤン)市、仁川(インチョン)広域市、世宗(セジョン)特別自治市などの多くの都市で、ドライブスルー検査ポッドを提供しており、実用化したのは韓国が世界初である。

ドライブスルー方式はその後、ドイツアメリカイギリスで導入されている。

韓国の積極的な検査の利点は、数字が示している。記事執筆時点で、同国は人口百万人あたり3,862件の検査を実施しており、検査率は世界一である。対してアメリカでは、同じ百万人あたり23件のみである。

検査の正確性とスピードの改善

Seegene の新型コロナウイルス検査キット
Image credit: Seegene

さまざまなスタートアップがまた、オーバーシュートを阻止すべく参戦している。

たとえばソウルに拠点をおく診断技術の企業 Seegene は、新型コロナウイルス検査にかかる時間を従来の24時間から6時間に削減できる検査キットを開発した。同社はAIを活用した自動化システムを用いて、迅速な検査を可能にしている。今では同社のキットは、韓国で行われる検査の80%に用いられている。

Seegene の IR(インベスターリレーション)マネージャ Park Yo-han(박요한)氏は、Bloomberg に次のように述べている。

検査キットの開発は、当社にとって野心的な投資でした。

Seegene はこのキットをドイツとイタリアにも供給しており、販売国を更に拡大することも計画している。

MiCo BioMed の高速分子分析システム
Image credit: MiCo BioMed

バイオ技術スタートアップ MiCo BioMed は、高速分子分析システムを開発した。これは患者が陽性かどうかをわずか1時間で検出できる可能性がある。同社は以前、2017年のU-20ワールドカップ、2018年の平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックなどのイベントに向けた、バイオテロ病原体を検出する機器を開発している。

さらに2社のバイオ技術スタートアップ、Ahram(아람바이오시스템)とDoknip Biopharm(독립바이오팜)は、わずか30分で新型コロナウイルスウイルスを特定できるバッテリ駆動のポータブル検査機器を生産すべく提携した

当局はマスク供給改善に向けて協力

웨어마스크(WHERE-MASK)

韓国も、世界中の多くの国々と同じく、医療用マスクの供給不足に直面している。市民はときによっては、指定された販売店でマスクを買うために何時間も長蛇の列に並ぶことを強いられている。

いくつかのスタートアップの代表者と韓国政府の職員が、3月にソウルのホテルで会合を持ち、マスク供給問題を改善するためのマッピングソリューション開発について議論を持った。

スタートアップ企業の間で議論された戦略は、たとえば韓国のユビキタスなメッセージングアプリ「Kakao Talk(카카오톡)」を通じてアラートを送信したり、既存の地図サービスに医療用マスクのデータを追加したり、地域別の新型コロナウイルスオーバーシュート状況を追跡したり、海外の公開 API(Application Program Interface)を用いた「マッシュアップ開発環境」を構築することなどである。

この取り組みに対するコミットメントを証明すべく、政府はすでに、販売されている医療用マスクのデータ公開を開始しており、開発者はマスクのマッピングサービスの開発にこれを利用できるようになっている。

他の機関も提携を始めている。韓国健康保険審査評価院(HIRA、同国のヘルスケアのコストを評価する機関)、薬局、郵便局は、在庫や売上データを提供している。全国チェーンの小売店である農協 Hanaro Mart(농협하나로마트)も、情報提供の協議中である。

「goodoc マスクスキャナ(마스크 스캐너)」
Image credit: B-Bros(비브로스)

当局は、Naver(네이버)や Daum(다음)といったメジャーポータルサイト、スタートアップ、また開発者コミュニティがこれらのデータを活用して、市民が医療用マスクの情報により効率的にアクセスできるようなウェブやモバイルサービスを迅速に開発することを望んでいる。

いくつかのスタートアップは、すでにこれを実行している。

病院の場所がわかり予約ができるアプリ「DdocDoc(똑닥)」を運営する B-Bros(비브로스)は最近、マスクが販売されている店舗と在庫量がリアルタイムでわかるマッピングサービスをローンチしている

DdocDoc に連携された地図は5分毎に更新される。

B-Bros の CEO Sone Yong-beom(송용범)氏は、地元のスタートアップニュース Platum(플래텀)にこう述べている。

消費者は販売チャネルを見つけることが困難であり、また、薬局など在庫を持っている店舗では、店頭が混乱して従業員は疲弊しています。

Koronavi(코로나비)

水処理スタートアップの OhMyWater(오마이워터)は、市民に医療用マスクが買える店舗の情報を提供する独自のウェブサービスのプロジェクトを進めている。

同社はローカルのスタートアップのハブである D Camp(銀行青年創業財団=은행권청년창업재단のインキュベーション・プログラム)の協力のもと、地元のスタートアップにこのプロジェクトに参画するよう求めている。同社はまた、このソリューションをさらに最適化するために、開発者と協業するためのミーティングを開催することも計画している。

韓国情報化振興院によれば、Web やモバイルサービス開発者10社が、医療用マスクの国指定販売業者に関するサービス提供を開始している。韓国トップのオンラインサーチポータルである Naver と Daum Kakao(다음 카카오)もまた、マスクの情報提供を開始する予定だ。

ソーシャルディスタンシング:殻を破るために

韓国は現在、史上最大の自宅勤務の実験を推進している。対面での仕事を重視することで知られる同国で最大規模の企業においても、リモートワークを推進している。ほとんどの学校や大学は3月末まで休校しており、政府は、業務や教育の枠外においても、対面での接触を最小限にするよう推奨している。

これは韓国のスタートアップにとって、国民の困難をサポートするビジネスチャンスである。

たとえば、リモートワークのソフトウェアを販売する Rsupport(알서포트) は、スタートアップその他の企業に対して、自社のリモートミーティングソリューションを無償で提供し、彼らがこの危機を克服するためのサポートを行っている。

別のスタートアップ Classum(클라썸) は、同社のオンライン教育サービスを、休校や休講に悩まされている学校、教育機関、その他教育職に提供している。同社のプラットフォームは、質問、通知、ノート、フィードバック、アンケートその他あらゆる教室の必要事項を提供可能で、またそれをオンラインに最適化している。

アメリカのスタートアップアクセラレータ Techstars は今年韓国で事業を開始したが、同社ですら、韓国で最初のアクセラレーションプログラムを、リモート会議で開催することを計画している。

「LaundryGo」のスマートボックス
Image credit: 衣食住カンパニー(의식주컴퍼니)

隔離疲れ、人との交流、精神的な疲れなどの課題に取り組むスタートアップもいる

クリーニングサービス「LaundryGo」は、洗濯物を玄関前のスマートボックスに入れておくと、深夜にこのスマートボックスを回収し、衣類を洗濯して、翌日深夜までに玄関前に配達してくれる。

同社のサービスは特許取得済で天然由来の抗ウイルス洗剤を使用しており、乾燥には超高温の蒸気を用いて殺菌している。このプラットフォームのユーザ数は、韓国人が新型コロナウイルスの懸念に伴いランドリーやドライクリーニング店への来訪を控えていることから、旧正月以来20%増加している。

また、SNS アプリ「Azar」は、一日中引きこもっているユーザのストレス解消のため、190カ国の人々とビデオチャットでつながれる機能を提供している。韓国スタートアップの HyperConnect が開発した同サービスは、「Tinder」 のようにスワイプひとつで見知らぬ相手と自由にビデオチャットすることができる。

瞑想アプリ「Kokkiri(코끼리)はまた別のアプローチをとり、この混乱のなか、ユーザに心の平穏をもたらそうとしている。30人ほどの瞑想と心理学専門家がこのサービス立ち上げに参加しており、特筆すべきはベストセラー作家で僧侶のヘミン和尚(혜민스님)がこのプラットフォームのコンテンツクリエーションを主導していることである。ユーザは日替わりの瞑想や心理学的なアドバイスを得られ、また、環境音、リラックス音楽その他のメディアにより身体と精神を安定させることができる。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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