音楽スタジオのSaaS化「Pirate Studios」が示す“コロナ下”エンタメの可能性

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※本記事は.HUMANS社が運営するメディア「THE .HUMANS MAGAZINE」からの転載

コロナ禍、対面・接触型のサービス価値が高まっています。人件費やオペレーションコストを削れる可能性もあることから、ビジネスモデルとしても評価されている印象です。

たとえば、2C向け生鮮食品トラックデリバリー「Cheetah」が挙げられます。アプリで食料品を注文すると、日本の生協のように近所までトラックが来てくれます。顧客は直接トラックから注文品をピックアップしてもらうフローになっています。さながら移動式の事前注文スーパーとも呼べる業態です。

Cheetahは元々、レストラン向けに食材のセットEC販売を軸に成長していましたが、パンデミックの影響で2Cへとターゲットを変えて成長しています。ピボット直後でありながらB事業時に近い売上を上げられているといいます。事業加速をさせるために4月末に3600万ドルの調達を実施しました。

また、“Hardware-as-a-Service”を標語する「Minnow」はつい先日220万ドルを調達。同社はAmazon Hubのようなロッカー型の食品ピックアップIoTを開発しています。レストランと提携して食品をポッド内に配置。いつでも顧客ができたての料理を楽しめるサービスを展開。公共施設などに配置し、IoT・食品管理ソフトウェア・レストラン提携企業・配達員までの全てを一気通貫で提供しています。

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Pirate Studiosウェブサイト

このようにパンデミックをきっかけに従来の事業モデルを非接触型にする流れが発生していますが、今回紹介する「Pirate Studios」は音楽スタジオ事業でwithコロナ時代に沿ったサービス展開をしています。

Pirate Stuidosは、完全自動化された24時間セルフサービスの音楽スタジオを運営する音楽テクノロジー企業です。ミュージシャン・DJ・プロデューサー・ポッドキャスター向けにプロのリハーサル・制作・レコーディングスタジオへ手頃な料金で音楽スタジオを提供しています。

予約した音楽スタジオのスペースや設備の種類に応じて、1時間あたり4ポンドという低料金を設定しており人気とのこと(場所により価格は変動し、相場は1時間10ユーロほど)です。累計2000万ドルの資金調達に成功しています。

従来、音楽スタジオは高コストであり、かつSNSが台頭した現代に見合ったソーシャルな場ではありませんでした。こうした課題を解決するため、Pirate Studiosはサービスの特徴に2つの事業軸を置いています。「IoT化」と「自動録音/ライブストリーミング」です。

IoT化に関して、オンライン予約・24時間のキーコード アクセスおよび施設を管理するためのIoTコントロールにより、セルフ運営の音楽スタジオを確立させています。同社の強みはまさにこの点にあります。

設置コストはかかりますが、一度設定してまえば、「音楽スタジオのSaaS化」を図れます。半無人のサラダバーレストラン「Eatsa」を運営していた「Brightloom」のように、トラブルシュートのための最低限のスタッフ数だけ残して店舗運営する業態のイメージが近いです。冒頭でお伝えしたように、オペレーションコストを従来比で大きく削れる可能性があるからです。

さらに、Pirate Studiosは「自動録音/ライブストリーミング」のサービスも提供しています。スタジオ内で収録された音源をPirate Stuidosの専用ソフトウェアがミキシングとマスタリングで処理。その上で、ビデオとオーディオのストリーミングセッションができるように設定されています。

YouTube、SoundCloud、Spotifyの世代は、より多くの音楽コンテンツを手軽に発表したいニーズを持っています。プロ並みのクオリティでなくとも、それなりの高品質なものを高頻度で、ストレスなくSNS上で発表したいといった需要の高まりがそれです。YouTubeライブでスタジオから直接音楽を届けるユースケースは、コロナ禍で受け入れられるモデルではないでしょうか。

このように、Pirate StudiosはIoTおよび独自ソフトウェアを通じて、音楽スタジオの自動化とオープン化を図ることに成功しました。

同様の事業モデルは他市場でも展開される可能性は非常に高いと考えています。現在、「無人化」「自動化」と言えばコンビニに当てはめることが多いでしょうが、たとえばカラオケや漫画喫茶のような業態にも応用できるかもしれません。

Pirate Studiosがサービス価値を自動録音システムを使ったソーシャル性に軸を置いたり、事業モデルを根本から変えて価格破壊を起こしているように、大手プレイヤーがいる領域であってもまだまだスタートアップの参入余地はあるでしょう。アジアでも十分に通用するモデルだと感じます。

本稿は次世代コンピューティング時代のコミュニケーションデザイン・カンパニー「.HUMANS」代表取締役、福家隆氏が手掛ける「 THE .HUMANS MAGAZINE」からの要約転載。Twitterアカウントは@takashifuke。同氏はBRIDGEにて長年コラムニストとして活動し、2020年に.HUMANS社を創業した