スタンドアロンのVRヘッドセット、ついに大きな飛躍へ(後編)

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実際のところXR2搭載デバイスでの体験はどんなものになるだろう?

(前回からのつづき)Qualcommはチップセットとリファレンスプラットフォームの両方を開発者に提供するが、完成したXR2搭載ヘッドセットは会社によってさまざまだということに注意しなければならない。たとえば、このチップセットが理論上は従来のVR画面の6倍の解像度を持つとしても、Focusシリーズの解像度が従来の6倍になるわけではない。これまでQualcommはチップレベルの機能を提供してきたが、特定のオーディエンス、一連のアプリケーション、および価格帯に適した部品を選択するのは各OEMの責任だ。

筆者は、一般的なトレンドとしてVRディスプレイは高解像度の方向へ向かっていると強く信じているが、その性能比は6倍ではなく1.5倍から2倍になるだろう。数カ月前、筆者はPico Neo 2が提供する注目すべき視覚的明瞭さについて解説した。同ヘッドセットの解像度は片目あたり1,920×2,160であり、Oculus Questの片目1,440×1,600の2倍に近づいている。適切な状況下では、ディスプレイに網目模様が見えてしまう「スクリーンドア効果」がほとんどない豊かなポリゴンとテクスチャを提供し、ユーザを驚かせてくれる。

Neo 2はSnapdragon 845(835とXR2のパフォーマンスの中間辺りに相当するチップ)を搭載しているため、XR2ヘッドセットならPicoの製品を上回ると期待できる。6月に述べたように、Neo 2のグラフィックはリフレッシュレートが非常に高速で(Questの72Hzに対して75Hz)、Questの視覚体験をさらに高解像度なものへバージョンアップしたかのように見える。QualcommがXR2について語っていることと、LynxがLynx-R1について示したことに基づけば、新たなヘッドセットは普遍的にではないにしても、ほぼ90Hzのリフレッシュレート、つまり画面酔いを起こしにくいPCクラスの表示速度を実現できそうだ。

Facebook Horizonは相互作用やエンターテインメント体験を共有できるバーチャルソーシャルスペースだ
Image Credit: Facebook

FacebookはQuestのパフォーマンスで皆を驚かせ、Snapdragon 835から誰も想像もできなかったほど複雑な視覚体験を引き出した。Qualcommは、XR2のCPU・GPU性能が835の2倍だと示唆したが、初めのベンチマークが信用に値するなら、それは過小評価だ。QuestはPlayStation VRタイトルのグラフィックスと同等とまではいかなかったが、ほぼ近似することができた

XR2搭載のタイトルが初心者レベルのPC VRではないにしても、最新世代のコンソールVRに匹敵すると予想するのは当然だ。ゲームだけでなく、Facebook Horizo​​nなどのソーシャルアプリケーションやVirtual Desktopなどのプロダクティビティ/ストリーミングアプリも、Oculus Riftとほぼ同じくらい詳細かつ複雑で滑らかに見えるはずだ。

気をつけたいのは「最新世代」と「初心者レベル」は変化し続けているということだ。現在、コンソールの世代交代からわずか2カ月しか経っていないが、ベーシックなPCでさえ日々グラフィックパフォーマンスが向上し続けている。モバイルクラスのXR2ヘッドセットでは、ハイスペックな専用マシンの必要性を完全になくすことはできないだろうが、このままいけばテザリングを利用するヘッドセットと利用しないヘッドセットとの視覚体験の差はさほど重要にならなくなるだろう。

XR2 AIはどうか?

昨年12月に数値が明らかになったものの、Snapdragon XR2のAI処理能力は十分に評価されておらず、複合現実ヘッドセットのパフォーマンスを向上させる上で大きな要素になる可能性がある。Snapdragon835のTOPS(1秒あたりの演算処理回数を兆で表したもの)が約1.3なのに対し、XR2は15であり、11倍の改善だ。これはQualcommがノートPCクラスのSnapdagon 8cx Gen 2(TOPSは9)の3分の2を上乗せした速度であり、理論上、旗艦クラスのスマートフォン用チップセットのSnapdragon 865と同等になる。

「理論上」と書いたのは、数値が必ずしもAIのパフォーマンス全体を表すわけではないからだ。量も大事だが、性能を実際に測るためには質とシステムレベルのエンジニアリングおよびソフトウェアも考慮に入れることが重要だ。初期のOculus Questを振り返ると、限られたコンピュータビジョンシステムで魔法のようにルームサイズのSLAMスキャンと6DoFのコントローラートラッキングを生み出していた。

その後Facebookはソフトウェアをアップデートし、きわめてスムーズなハンドトラッキングを付け加えた。トラッキングとカメラを得てAI馬力が10倍になったヘッドセットがどんなことを実現できるか想像してみてほしい。CPUから一部のAI関連タスクをオフロードすることで汎用パフォーマンスが向上すると考えられる。

Oculus Questのハンドトラッキング
Image Credit: Facebook

AIの性能が複合現実ヘッドセットのパフォーマンスに影響を与える方法は他にもある。たとえばコンピュータの対戦能力を強化することや、半分既知の問題に対するソリューションを生み出すことなどだ。ボイスコントロールをより豊かにしたり、ARヘッドセットでは現実世界とデジタルコンテンツをシームレスに混在させたりすることが可能となるだろう。

いつになる?

新型コロナウイルスの流行と経済の不安定さのせいで、多くのXR開発者にとって2020年の計画が崩れてしまった。Magic Leapは大量解雇、HTCのCEOは辞任、Facebookはイベント「Oculus Connect」を改称し完全オンラインイベントに変更、複数のVR開発者がピボット売却廃業した。Lynxが2月に発表した時点ではR-1の発売日は夏だったが、延期となったのも不思議ではない。

現時点では何も確定していないが、まもなく店頭でSnapdragon XR2に会えることを筆者は信じている。堅牢なCPU/GPU/AI馬力とセルラー接続の自由度を組み合わせた豪華なモデルではなく、5G接続のない、初期モデルのヘッドセットだ。

早くても来年はまだ、現在の米国以上に堅牢な5Gインフラストラクチャを持つ地域であっても期待できないかもしれない。だがその日が来れば、至る所でVR/ARを体験することが可能になり、エキサイティングで急速に進化していくテクノロジーにとってさらに大きな前進となるだろう。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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