JR東日本、スタートアップ協業プログラム第4期デモデイを開催——Suicaをビルゲートの鍵にするアイデアで「Akerun」が優勝

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JR 東日本スタートアップは26日、インキュベーション/アクセラレーション・プログラム「JR EAST STARTUP PROGRAM」の第4期デモデイを開催した。これは JR 東日本とスタートアップのオープンイノベーションを促進するためのプログラムだ。応募のあったスタートアップ242社のうち18社が採択され、約半年間におよぶプログラムに参加、この日のデモデイを迎えた。

今回は、「地方創生」「観光・インバウンド」「スマートライフ」という3つの提案テーマが設定された。本稿ではデモデイでのピッチの結果、審査により入賞した5社を紹介する。

デモデイで審査員を務めたのは、以下の6人の皆さん。提案内容の「新規性」「ビジネス性」「JR 東日本のリソースをいかに活用しているか」の3つの指標によって評価された。

  • mediba 代表取締役社長 江幡智広氏
  • グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 仮屋薗聡一氏
  • 守屋実事務所 代表 守屋実氏
  • コラボラボ(女性社長.net 運営)代表取締役 横田響子氏
  • JR 東日本 常務取締役 事業創造本部長 喜㔟陽一氏
  • JR 東日本 常務取締役 総合企画本部長 坂井究氏

(文中写真は、いずれも当日のライブ配信から)

【スタートアップ大賞】フォトシンス(スマートライフ)

副賞:100万円

スマートロック「Akerun」を開発・提供するフォトシンスは今年で設立6周年を迎えた。Akerun は累計5,000社の企業が利用しており、オフィスワーカーの7.4%が Akerun を日常的に使ってカギを開けている計算になるという。同社は今年8月に公表した新戦略「Akerun Access Intelligence」でビジネスからプライベートまで全ての鍵をクラウド化する構想を明らかにしている。

この構想では、ユーザが普段利用している交通系 IC カードやスマートフォン、社員証・入館証といった固有の ID をメールアドレスや電話番号といったデジタルの ID に組み合わせて「Akerun ID」として登録。これにより、オフィスやビル、自宅などさまざまな空間へのアクセスを可能になる。JR 東日本との協業により、フォトシンスは Suica ID と Akerun ID の連携を可能にする。

具体的には、東京・代々木にある JR 東日本の本社ビルのフラッパーゲートについて、現在はゲストに対して受付で個別に発行しているカギを Suica にリプレイスする。JR 東日本本社を訪れる関係会社社員を対象に、アポ登録時に Suica 番号を入力してもらい、Suica でゲートを通過できるようにする。Suica 開発元の JR 東日本メカトロニクスは、API 利用料で収入増を狙える。

【優秀賞】さとゆめ(観光・インバウンド)

副賞:50万円

さとゆめは、過疎に悩む人口700人の山梨県小菅村で「村まるごとホテル」なるコンセプトを展開。同村には100軒の空き家があるが、これらを客室に改修し現地村民にキャストとして働いてもらうことで、分散型のホテルを実現するというものだ。既に4棟6客室と22席あるレストランが営業しており、客単価3万円・稼働率4割が損益分岐点とされる同事業で、12月末までほぼ満室となっている。

既にある資産を活用し、現地に現金収入や事業創生をもたらす効果があることから、さとゆめではまず、乗降客が減少しながらもマイクロツーリズムで注目を集めつつある青梅線で、「沿線まるごとホテル」事業に着手。駅を降りてすぐに本格的な自然やアウトドアを楽しめる「アドベンチャーライン」と JR が名付けた青梅駅〜奥多摩駅間で実証実験を開始し、将来は全国展開も視野に入れる。

これらの区間では集落の中に佇むように駅が存在しているため、無人駅をフロントに、古民家を客室に、現地住民をキャストとすることで、駅を始発点とした体験を観光客に提供できるようになる。駅でチェックイン時にウェルカムドリンクを提供し、付近を案内し、客室では沿線食材を利用した飲食体験も提供可能。青梅線全体で、年間5万人分の乗降客数を底上げできる可能性があると見積もる。

【優秀賞】ソナス(スマートライフ)

副賞:50万円

高度成長期に全国で建設された鉄道や交通のインフラは劣化が激しく、近年は労働人口の低下から無線 IoT などを使った高効率なメンテナンスが注目を集めている。無線はケーブル敷設を必要としないので実装が容易である一方、電波障害や干渉などで通信が不安定になることがあり、信頼性が求められるインフラの監視やメンテナンス現場では、無線が信用できないとの声もしばしば聴かれる。

ソナスは、IoT 向けの省電力マルチホップ無線通信技術「UNISONet」を開発している。技術の詳細は以前書いた拙稿に委ねるが、複数のユニットから同時に電波をぶつけることで意図的に干渉を起こし、利用可能なあらゆるルートを使って確実な通信を確立できる独自の通信技術だ。通信ロスのないデータ収集や多種多様なトラフィックを同一ネットワーク上に収容できるのが特徴。

JR 東日本とは、熊谷駅と新潟駅周辺の2カ所で PoC を展開中だ。熊谷駅周辺では、既存システムと並列して電化柱の傾き監視システムに UNISONet を導入。従来は360人分かかっていたシステムが20人分で導入でき、3ヶ月間にわたりデータロスは確認されていない。新潟駅周辺では駅建設工事現場の列車停止システムに無線ユニットを設置し実験を行なっている。

【審査員特別賞】グリーンインパクト(地方創生)

副賞:10万円

健康ブームや和食ブームから世界的にわさびの需要は伸びる兆しを見せているが、一方で、わさびの生産量はこの十年間で半減している。生産量が減っているのは、生産者減少や自然災害によるもの以外に、耕作放棄水田が増えたことで、水源涵養(水田の水が地下に浸透して、地下水の涵養源になること)されたわさび田の水源が減少していることも関係している。

一方、鉄道の歴史は排水の歴史でもある。トンネルを掘れば水が湧き出し、JR 東日本をはじめ鉄道会社各社はその排水に頭を悩ましてきた。上越新幹線の中山トンネルでは1分間に50トンの水が湧き出し、100万人都市の全住民の消費量に相当する上質な水は、現在はその使い道もなく排水されている。グリーンインパクトは、このトンネル湧水を使ってわさび生産を展開する。

同社では、わさびは選んだ理由として、収益性が高いこと(上質なものはメロン並みの高い値がつく)、12毛作が可能(1年を通して収穫が可能)、増産がしやすい(分根により1株→5株程度への種苗増殖が可能)を挙げた。新潟の GALA 湯沢、千葉・久留里の円覚寺、群馬の土合駅で実証実験を行っており、それぞれ、施設内のレストランやホテル、グランピング客に料理で提供される予定。

【オーディエンス賞】SD C(スマートライフ)

副賞:10万円

SD C は、処方箋が無くても病院薬が購入できる「セルフ薬局」を展開している。病院で処方される薬のうち約半数については、医師の処方箋が無くても薬剤師による対面であれば販売が可能であることから、薬を処方してもらうだけのために病院やクリニックに出向くことなく、短い待ち時間で薬を購入できる施設として注目を集めている。

新型コロナウイルスの感染拡大により、鉄道駅には乗降客が減り新たな活路が求められているが、SD C では、移動手段の通過点でしかなかった鉄道駅を「スマート健康ステーション」として、ヘルスケアのワンストッププラットフォームの入口に変化することを提案。東京駅は構内既設ドラッグストア「Eki RESQ」との連携、西国分寺駅で空きテナントを活用した自前店舗の実証実験を行う。

東京駅と西国分寺駅構内で期間限定で展開する店舗では、SD C が市中で営業するセルフ薬局の1.5倍の来店客数を想定(実際に何人かは開示されていない)。また、東京駅店舗では月坪売上28万円(月照190万円)、西国分寺店舗では月坪売上22万円(月照250万円)を目指す。オンライン事前問診で薬引渡し時の待ち時間をさらに短縮し、将来はフィットネスや病院との連携も図る。

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