
Image credit: Anobaka
【2日午前10時更新】本稿初出時「日本で初めてCVCが独立」としましたが、前例として Spiral Ventures が IMJ の CVC から独立した事例があったため、タイトルを訂正しました。
VC やファンドに所属していたキャピタリストが独立し、スクラッチから新たな VC やファンドを立ち上げるケースはしばしば見られる。それでさえ、キャピタリストがそれまでのトラックレコードだけを武器に LP から新ファンドの資金を集めるのは並大抵の努力ではないが、今回のように VC やファンドが MBO(経営陣買収)されるケースはさらに稀だ。言うまでもなく MBO するには多額の資金が必要であるし、元々のオーナーや株主から理解を得る必要があるからだ。
KVP(旧 KLab Venture Partners)の代表取締役社長でパートナーの長野泰和氏は、KVP の親会社である KLab(東証:3656)から KVP を MBO し、新社名を「ANOBAKA(アノバカ)」に改めることを明らかにした。ANOBAKA と聞いてピンと来た読者は日本のベンチャー史に造詣が深いに違いない。KLab の創業者で取締役会長を務める真田哲弥氏が学生時代に起業したリョーマをはじめ、80年代後半〜90年代の起業モーメンタムをまとめた「ネット起業!あのバカにやらせてみよう(文藝春秋・刊、岡本呻也・著)」に因んでいる。
優秀な人が成功するというより、勇気のある人が成功する世界。それを応援するコンセプトを具体化した名前にしたかった。(長野氏)
MBO のスキームについては、KLab が先週、投資家に対して発表した適時開示によれば、長野氏は KLab から KVP の発行済株式の7割を買い取り、KVP は KLab の特定子会社ではなくなる。買収額は公表されていないが、経営の自由度を高め、海外投資家から資金を集めやすい環境を整えることで、2022年春にも数十億円規模の新ファンドを立ちあげる計画だ。

KVP の前身は、2011年に SBI インベストメントと KLab がジョイントベンチャーで設立した KLab Ventures。その後、KLab の100%子会社として KLab Venture Partners が2015年に設立された。17億円規模となった1号ファンドからは48社に投資、今年10月末に調達をクローズしたばかりの2号ファンドは28億円を集め、すでに約30社に投資を実行済だという。
物流スタートアップの CBcloud、遠隔医療プラットフォームのネクストイノベーションをはじめ、投資先のパフォーマンスがかなりいい状態。アーリーで投資して、n-2 期や n-3 期(上場前の監査法人による審査を受けるフェーズ)にあるスタートアップも数社いる。(長野氏)
KVP は KLab の CVC でありつつも、ファンドの過半数以上を KLab 以外の外部 LP からの資金が占めている。一方、KLab はその本業であるゲーム開発に経営資源を集中するようになっており、ゲームを投資対象にしてこなかった KVP のポートフォリオとは事業面でのシナジーが薄れつつあった。そんな中で、KVP のファンドのパフォーマンスの良さが長野氏の心に火をつけることになる。
トップティアの VC になれそうな自信が出てきた。これを CVC の状態でやり続けるかを考えた時、やはり限界があるな、と。親会社との関係を意識しながら投資を続けると、それが成長圧力になりかねないのでは、と思うようになった。
そんな思いを真田(KLab 取締役会長)に吐露する機会があり、「チャレンジしたらいいじゃん、ちゃんと応援したい」と言ってもらえた。(KLab の)他の役員を全員説得して了解を得て、先週、適時開示が出て、12月1日に MBO が完了したところ。(長野氏)
KVP は今週にも新しい門出を祝ってオンライン・オフラインのハイブリッドイベント(一般非公開)を開催する。その場には、真田氏をはじめとする〝ANOBAKA レジェンド〟が招かれ、長野氏への祝辞や新生「ANOBAKA」への期待が披露される予定なので、BRIDGE でも改めてお伝えしたい。
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