5Gで警備人材不足の解消へ、鍵は警備ロボの「視力向上」ー三井不動産とSEQSENSEが実証実験

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写真左から:SEQSENSE事業部マネージャーの笹井仁氏、代表取締役社長の中村壮一郎氏、三井不動産商業施設本部 施設管理部統括の添田実氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

KDDIと三井不動産、無人警備ロボット「SQ-2」を展開するSEQSENSE(シークセンス)の三社は2021年3月16日、事業共創の取り組みとして5G通信とロボットを活用した警備の省人化に関する実証実験を完了しました。埼玉県富士見市にある商業施設「三井ショッピングパーク ららぽーと富士見」にて実施されたもので、本来人が目視で確認する商業施設内の異常を、SQ-2の自律走行警備にて細部にわたり確認できるかを検証しています。

事業共創プログラム「∞(ムゲン)の翼」のプロジェクトとして実施されたもので、KDDIは館内に5G環境構築と機器を提供し、三井不動産とSEQSENSEが中心となって商業施設における警備省人化に必要な検証データや各種フィードバックを取得しています。

今回の取り組みについて、三井不動産の添田実氏と、SEQSENSE代表取締役社長の中村壮一郎氏、事業部マネージャーの笹井仁氏にお話を聞きました。

施設における警備の課題

今回の実証実験に投入されたSEQSENSEのSQ-2は、これまでにもオフィスビルの自律走行型警備ロボットとして実績を積んできた筐体で、今年2月には東京都庁でも導入実験を実施、予め決められたルートの自律巡回や指定場所の写真撮影、ロボットに搭載されているカメラ映像のリアルタイム監視などを検証しています。全高約1,3メートル、重さは65キログラムの筐体で、大手町ビルヂングや成田空港第三ターミナルへの導入実績があります。

「警備に限らず施設の管理業務全般に言えることですが、求職者が非常に少なく、この5年くらいは人手不足が顕著になってきました。一方で商業施設事業として成り立たせるためには、管理コストの上昇も抑えていく必要があります。そういった状況の中で安全安心を提供し続ける品質維持が、非常に大きなミッションになっています」(添田さん)。

警備の仕事はさまざまありますが、基本となる内部巡回では、不審な人がいないか、防災設備に問題がないかなどを目視で確認し、問題を未然に防いでいます。さらに商業施設では、迷子の対応や交通誘導、落とし物の受付など幅広い仕事が発生します。広大な商業施設の巡回は館内を歩いて回る必要があり、時間を要する仕事です。SQ-2がこの部分を代替してくれることで、ロボットが巡回している間に落とし物台帳登録などの事務処理を済ませるといったマルチタスク処理が可能になる、というわけです。

「SQ-2は自律走行の精度が高く、館内くまなく巡回できるのを確認しました。以前の巡回時と違うことが起きていたらアラートを出せる機能もあり、ずっと目視で映像を見ている必要もありません。人間が巡回することにかなり近いことが実現できると感じています」(添田さん)。

自律移動型のセキュリティロボット「SQ-2」

実はオフィスビルと商業施設では同じ警備業務でもかなり勝手が違うそうです。新たなチャレンジとなった点をSEQSENSEサイドはこのように説明してくれました。

「オフィスビルでの実績は増えてきていますが、警備ロボットにとって大きなマーケットである商業施設へも進出を目指しているため、ららぽーとでのトライはよい機会でした。今回の走行試験で当社のロボットがこれまで事業を展開してきたオフィスビルよりもはるかに人通りが多い環境で安定した走行を実現したことは大きな自信になりました。一方で、商業施設で発生するテナントの入れ替え・レイアウト変更、オフィスビルにはない施設の広大さがロボットが自律走行に利用する3次元地図の編集作成作業に影響を与えるという、新たな課題も見えてきました」(笹井さん)。

5Gが可能にする「視力向上」の理由

ららぽーと富士見での実証実験では、このSQ-2が持つ「目」の解像度を上げる検証も行いました。SQ-2は元々4G/LTE回線を使い、遠隔への映像・画像送信を行います。巡回中に撮影した消火器などの状態をリアルタイムに防災センターから確認しています。

一方、こういった広大な館内における通信には環境の問題がつきまといます。SQ-2は元々高精細な画像を送信することができる筐体なのですが、送信する際の通信環境が悪ければそれに合わせた圧縮レンジの画像を送る仕様になっており、施設を5G化することでつねに高精細な映像の配信が可能です。

実は警備に必要な画像には思っている以上に高精細な情報が必要となります。巡回業務で目視確認しているものは、消火器に貼られた5センチくらいのラベルの情報や小さな落とし物、こぼれた飲み物など多岐にわたるためです。

「現状では、どうしても細かい部分は映像からは見づらいと言われており、5Gには一定の効果があると感じました。また通信が早くなることで、いまロボット側で処理していることをクラウド側でできるようになると、ロボット側のCPUを下げられ、価格を下げられる可能性があると考えています。一方で、高画質化によっては録画画像の保存容量が増えるなど、新たな課題も浮き彫りになりました」(笹井さん)。

今回の検証を通じて商業施設における警備の省人化、5G環境の有用性や課題が見えてきました。結果を踏まえ、3社では引き続き商業施設における警備省人化に向けた事業共創の取り組みを継続していく予定です。

「高精細な映像で遠隔から確認できるとなると、今後、より足回りが強化されたり、屋外対応したりすることで、利用シーンが増えていくことは期待したいですね。たとえば万が一地震などの災害が発生した際、人間より先に館内を巡回させるなどを検討しておきたいと考えています。天井から何か落ちてこないかなど、先にロボットで館内状態を高精細な映像で確認できれば、危険を避けることができます。また、外部の庭の夜間不審者対応も危険が伴う業務であるため、通常2~3人で行かざるを得ない状況です。そこをまずロボットが行くようなことができるといいと考えています」(添田さん)。

「SEQSENSEは会社の第一歩としてまずは警備の分野に取り組んできました。今後もより安全により動くものを作っていきたいと思っています。さらに、施設管理においては警備以外も人手不足が深刻です。さまざまな分野のサービスロボットを、大企業への技術提供による協業も含め、取り組んでいきたいと考えています」(中村さん)。

 

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