未来の働き方はワーク・オンデマンド、その方法を提供する世界のスタートアップをご紹介【ゲスト寄稿】

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本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。

This article was first published in Entrepreneur APAC.

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「ギグ・エコノミー」から「ギグ」という文言を削除する時が来ただろうか? ほとんどの電話がスマートになった今、誰も「スマートフォン」とは言わななった。そして今、私たちは、オンデマンドで必要に応じて仕事をすることが、仕事の未来だと思われる段階に来ている。すべての仕事ではなく、多くの仕事でだ。マッキンゼーの調査によると、61%の企業が今後数年の間に、より多くの短期労働者を雇用することを期待している。他の調査によると、専門職からブルーカラーの仕事まで、あらゆるカテゴリーでこの慣行が増加している。

市場の変化に柔軟に対応したいという雇用主のニーズと、それに合わせて仕事をしたいという人々のニーズや欲求——そんな2つの力がこのトレンドを後押ししており、その影響はスタートアップの領域で顕著に見られる。多くの新興企業が成長のために柔軟な人材を求めている一方で、必要な人的資源を提供し、サポートする企業も現れている。

東南アジアの VC である当社は、ASEAN10ヵ国で起きているこの現象を目の当たりににしている。このような動きは、モバイルテクノロジーを中心とした急速な近代化と、それに耐えうる伝統的な制度とが融合した、世界の中でも多様性に富んだ地域で独自に展開されることが多いのだ。匿名の例を挙げてみよう。新興企業 A 社は、2億7,000万人以上の人口を抱える広大な国インドネシアでモバイル決済アプリの普及に努めている。そのためには、道端の小さな屋台から実際のレストランまで、地元の飲食店を経営するワルンと呼ばれる業者を取り込むことが重要だった。ワルンは国中に存在するため、決済プラットフォームに登録するには、特定の地域を直接訪問する必要がある。そこで、オンデマンド人材派遣会社であるスタートアップ B 社が、数日後にはチームを結成して対応にあたった。

新しい人材派遣業は、オフラインとリアルの仕事をマッチングさせるマーケットプレイスを中心に展開されている。しかし、このような働き方を実現するためには、フレキシブルなスタッフを管理するためのツールや、最も需要の高い仕事のために労働者を訓練するなど、他の要素も必要だ。ここでは、世界と東南アジアの5つの産業分野における代表的なプレイヤーとビジネスモデルをご紹介する。

オンデマンド・スタッフィングのマーケットプレイス

Image credit: Upwork

企業がフレキシブルなスタッフィングを利用する理由の一つに、定期的なプロジェクトワークへの対応がある。これには Web 開発者やグラフィックデザイナーなどのホワイトカラーが関わっており、このような人材を対象としたオンラインマーケットプレイスの代表的な存在がアメリカの Upwork だ。人手を必要としているクライアントは、このサイトにプロジェクトを掲載し、その仕事に応募してきたフリーランサーを面接して選ぶことができる。

東南アジアのマーケットプレイスのスタートアップの多くはそれぞれ異なる、ブルーカラーやグレーカラーの仕事のニーズが多いからだ。マレーシアの GoGet は、興味深いダブルプラットフォームモデルを採用している。「ビジネス」ポータルでは、労働者からデータ入力スタッフ、展示会のヘルパーまで、さまざまな労働者をオンデマンドで提供しており、「ホーム&ライフ」ポータルでは、個人の買い物客、家事手伝い、列の立ち番などを個人で雇うことができる。一方、インドネシアの Sampingan(Golden Gate Ventures の投資先)は、企業の顧客にターンキーアプローチを提供することに重点を置いている。同社は、オンラインマーケティング用のナノインフルエンサーを含む、非常に幅広いブルーカラー/グレーカラーの労働者を擁し、ワークマネジメントツールとサービスを一式で提供している。後者は、それ自体が重要な製品ラインとなっている企業もある。

スケジューリングとスタッフ管理

クライアント企業にとって、フレキシブルなアワーリーワーカーの活用は、サラリーマンの場合よりも難しい。一人一人が特定の時間にしか働けないこともある。しかし、全員を効率的に採用し、必要に応じてチームでスケジュールを組み、給与支払のためにタイムレコーダー管理を行わなければならない。アメリカの WurkNow は、ブロックチェーンを利用したモバイルベースのシステムを提供している。

ベトナムでは、サムスンのようなグローバル企業からの受託製造が経済の大きな部分を占めている。スタートアップの Viet.co は、中小企業向けにオンデマンドの労働者と管理ツールを提供することで、ニッチな分野を開拓している。シンガポールに拠点を置く StaffAny は、会社の垣根を超えて働くことを可能にする管理スイートを持っている。これにより、ワーカーは仕事の機会を組み合わせて働くことができ、同時に ASEAN 全体の労働力をより流動的にすることができる。また、インドネシアの AdaKerja は、スケジューリング、給与計算、リクルーティングを1つのサービスにまとめ、これらの付加価値サービスを融合させている。

賃金への早期アクセス

欧米でも東南アジアでも、給料日までの生活を余儀なくされている労働者には、早期賃金アクセス(EWA)プログラムが人気だ。EWA には、プレペイデイ・ローン(給料日前貸出)を低金利で利用できるものと、これまでの労働時間に応じてお金を受け取ることができるものがある。アメリカでは、BranchPayActiv などの企業がこの分野の初期のリーダーだ。ASEAN のスタートアップでは、GajiGesaWagelyGajiku などが有名だ。

EWA サービスは通常、バンドルの一部として提供される。例えば Branch は、EWA とスケジュール管理や給与管理を統合したエンタープライズパッケージを販売している。PayActiv や Wagely などは、従業員が自分で予算を計画・管理できる「ファイナンシャル・ウェルネス」システムを提供している。

国境を越えた仕事の円滑化

今月初め、Papaya Global は1億米ドルを調達しユニコーン入り。それを祝して、NASDAQ MarketSite に社名が表示された。
Image credit: Papaya Global / NASDAQ

海外での雇用は、バーチャルなリモートワークの容易さと、経済のグローバル化が大きな要因となっている。我々の VC はシンガポールに本社を置いているが、ここでは世界中の人々が仕事をしているし、東南アジアの人々は家と仕事の間で物理的に国境を越えることも珍しくない。このような形態は、人材を確保するには最適だが、各国の雇用規制に対応するには頭痛の種となる。

アメリカの Deel やイスラエルの Papaya Global は、このような複雑な問題に対処するために設立され、それぞれ140カ国以上のコンプライアンスに対応している。シンガポールに拠点を置く Multiplier は、ASEAN 企業の国境を越えたコスト削減と人材アクセスの拡大を専門としており、これは東南アジア全域で成長しているスタートアップにとって非常に重要なニーズだ。

職業訓練

アメリカを拠点とする Lambda School は、コーディングやデータサイエンスのオンラインキャリアプログラムを提供しており、革新的な延納モデルを採用している。公務員が重要な雇用手段である中国では、Offcn Education Technologies(中公教育)が、公務員試験の準備やトレーニング、教員養成、職業訓練などのコースを提供し、ユニコーンの地位を獲得している。

ASEAN 諸国の政府は、オンデマンド・ワークへの支持を強めている。インドネシアでは、2020年の「オムニバス法案」で労働法を緩和し、迅速な臨時雇用を可能にしたほか、新型コロナウイルスによる経済的影響からの回復を早めるための大規模なプログラムを開始した。失業者は、近い将来の社会的支援と再就職のためのトレーニングを受けることができる「prakerja(就職前)」アカウントを取得できる。

prakerja プログラムは、人々を支援すると同時に、スタートアップのエコシステムを刺激するという二重のメリットがある。Kitalulus のような新しい企業がトレーニングを実施するために設立され、既存のスタートアップも後押しされている。急成長中のエドテック企業 Ruangguru は、初等・中等教育科目のオンライン家庭教師や自己学習用のモバイルプラットフォームを持っている。現在は、企業向けのトレーニングプラットフォームの提供にも乗り出している。コアラインと新ラインの両方が成長し続ければ、小学1年生からミドルエイジのキャリアチェンジまで、あらゆる段階でモバイルベースの学習を提供できる企業になるだろう。

結論

アウトソーシングは世界をフラットにした。オンデマンド・ワークは次の進化だ。理想的には、すべての人にとって経済がより効率的かつ効果的になることだ。

東南アジアでは、オンデマンドのスタートアップは課題を抱えている。例えば、優秀なトラックドライバーや倉庫作業員が履歴書を持っていないような地域では、ブルーカラーの労働者を事前に確認することは困難だ。しかし、ASEAN にはイノベーションを生み出すための多くの利点がある。この地域は巨大(総人口約7億人)かつ成長しており、モバイルフレンドリーだ。また、シンガポールだけでも4つの公用語を持つなど多様性に富んでいるため、スタートアップは設立当初から多彩な成長モードに入ることができる。未来の仕事の形が見えてきたとき、その多くが東南アジアで生まれてくることを期待している。

本稿の執筆には、Nidhi Singh 氏の協力を得た。

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