世界的な「後払い(Buy Now, Pay Later)」ブーム、東南アジアが牽引するかもしれない理由【ゲスト寄稿】

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本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。

This article was first published in Entrepreneur APAC.

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1958年、ソビエトとアメリカの宇宙開発計画が人工衛星を軌道に乗せるための競争を繰り広げていた時、Bank of America は、地球上に多大な影響を及ぼすであろう商品を発売した。BankAmericard は、後に Visa となり、リボ払いのクレジットカードの普及の先駆けとなった。これは宇宙時代の消費者に「現代の支払方法」として宣伝された。

今、新しい支払方法が飛び立とうとしている。BNPL(Buy Now, Pay Later=後払)モバイルアプリの世界での利用は、2018〜2019年の1年間から162%急増した。アメリカでは昨年、BNPL は240億米ドルの購入額を占めた。パンデミックが始まったとき、従来のクレジットカードの取引量は減少したが、BNPL は e コマースの成長と並んで上昇を続けた。BNPL は、今後数年間でデジタル購買の中で最も急速に成長する形態になると予想されており、2025年までに世界中で3,500億米ドル近くの取引に達すると予測されている。

これまでのところ、BNPL の成長は、それぞれスウェーデン、アメリカ、オーストラリアに拠点を置く Klarna、Affirm、Afterpay などの欧米系スタートアップが牽引してきた。これらの企業は、他のいくつかの企業と合わせて年間30億米ドルを超える収益を上げ、昨年の Mastercard の収益の約20%に達すると予想されている。 しかし、東南アジアでは、BNPL には3つの特長がある。第一に、クレジットカードの普及率が低いため、BNPL にとっては競争が少ないこと。第二に、銀行がクレジットカード発行のために必要とする信用格付け機関が実現するのは、ほとんどの ASEAN 諸国では10年も先のことであること。 そして最後に、負債を嫌うアジアの文化は、「現金と同じ」と感じる「ゼロ金利」の分割払いを温かく受け入れていること、だ。

そのため、当社の東南アジアのベンチャーキャピタルは、ASEAN 10カ国の BNPL 新規参入企業に注目している。インドネシア、ベトナム、マレーシアなどの発展途上国や、小さいながらも高度に発展したシンガポールでは、課題を抱えている市場がある一方で、BNPL モデルのメリットに対する強い受容性も見られる。

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バリュープロポジションと ASEAN の成長

「Klarna」
Image credit: Klarna

クレジットカードの借金を回避したい、または回避する必要がある消費者のために、BNPL は古い概念を現代風にアレンジした分割払いプランを提供している。あなたがミレニアル世代(主要な見込み客層)で、新しいアパートの家具を探しているとしよう。Web 上で素敵なソファを見つけたものの、それは数百米ドルとあなたの給料では高額だ。理想的にはコーヒーテーブルも欲しいところだが、それだとさらに高くなってしまう。「カートに入れる」ボタンの隣には、数ヶ月間の支払をゼロ金利で分散できるオプションがあり、すぐにこのクレジットの資格を得ることができる。「たった5つの情報でリアルタイム審査できる」と、ある BNPL 企業の売り文句には書かれている。だから、あなたもソファを購入し、カートにテーブルを入れる。

この典型的なシナリオは、BNPL 企業がクレジットカード会社よりも加盟店に高い取引手数料を請求できる理由を示している。BNPL は、クリックスルーのコンバージョン率を高め、BNPL が無ければ発生しないような販売を促進する。さらに良いことに、それは AOV(平均注文量)を押し上げる。一方、新規顧客にはアプリが提供され、加盟店の商品の定期的なプロモーションが表示され、リピートビジネスも増加させる。

BNPL のアカウントを持つ顧客は、もちろん過剰な支出をしたくなるかもしれない。クレジットカードと同じように、延滞料が発生したり、有利子ローンを組んだりすることになるかもしれない。しかし、簡単で無利息のエントリーポイントを提供し、ワンタッチで口座の状態を透明化できるアプリと組み合わせることで、新規ユーザを維持するのに十分なのだ。特に東南アジアでは、文化的にクレジットカードが敬遠されている一方、無利息の分割払いがスマートな支出方法のように感じられている。欧米では60~80%であるのに対し、ASEAN のクレジットカードの普及率は低く、ほとんどの国では数%ないし20~30%となっている。対照的に、人口2億7,500万人を持つ東南アジア最大の国であるインドネシアでは、BNPL 企業の Kredivo と Akulaku の2社が、Google Play 上で既に1,000万件以上アプリがインストールされている。シンガポールで設立・拠点を置く Hoolah は、2020年の一年間で取引量を1,500%増加させた。

この急速な成長は、BNPL 企業がクレジットカード会社とは根本的に異なる点にも起因している。クレジットカードは、銀行口座間のリンクとしての役割を果たす。例えば、Visa や Mastercard は、実際にクレジットカードを発行する銀行から、あなたが購入した加盟店口座に送金する。一方、独立した BNPL は、ネットワークリンカーとバンカーを一つにまとめたものだ。Hoolah は買い手にクレジット機能を提供し、売り手にお金を直接支払う。これにより、従来の銀行取引のような手間をかけずに、新しい加盟店を簡単にオンボードすることができる。

明らかなマイナス面は、BNPL がより多くのリスクを負うことだ。景気後退の局面で、Visa は収益を失うかもしれないが、デフォルトについて心配する必要はない。しかし、BNPL 事業を立ち上げるとき、あなたはその日から立ち往生する可能性がある。そして、アントレプレナーシップのすべての分野でそうであるように、チャレンジをチャンスに変えることで成功することができる。

ASEAN の BNPL はどう輝くか

ネットプロテクションズが2020年に発表した世界の BNPL カオスマップ
Image credit: Net Protections

おそらく一番厄介なのは、クレジットに申し込む人の審査だ。それは迅速に行われなければならない。クレジットカードを利用する資格が無いかもしれないが、それにもかかわらずリスクが高いユーザを対象にしなければならないため、スイートスポットが存在する。さらに、東南アジアのような比較的新分野の市場では、従来の審査は厳しくなる。前述の通り、ほとんどの国にはアメリカ型の FICO スコアを作成する信用情報機関がない。多くの人々は、いずれにしても信用情報が乏しく、多くの人々は銀行から融資を受けていないか、あるいは最近融資を受け始めたばかりだ。

プラス面としては、デジタルウォレットの利用率が高いことが挙げられる。大手の GrabPay と GoPay は、人気の高い配車サービスや宅配サービスを提供する企業によって誕生したもので、ASEAN 全体で巨大なユーザ基盤を持ち、成長を続けている。シンガポールに拠点を置く Grab とジャカルタに拠点を置く Gojek だ。このようなウォレットを利用することで、詳細な支出履歴を把握することができる。

すべての要素を考慮すると、BNPL は今後5年から10年で東南アジアで爆発的に成長すると私は見ている。主要なプレイヤーは、リスク評価のためのアルゴリズムやデータセットを開発しており、時間が経てば経つほど価値が高まるだろう。ユーザが利用を始めた後のリスクに積極的に対処するために、BNPL 企業は顧客エンゲージメントや支払スケジュールの調整などの分野でイノベーションを起こしている。

また、欧米の BNPL がよく扱う取引よりも小規模な取引でも利益を上げられるようになってきている。(例えば、アメリカの Affirm は、2,000米ドル以上の Peloton 社製エクササイズバイクの購入に多くの資金を供給している。消費力が低いながら成長している ASEAN 市場では、平均的な買い物は200米ドル以下だ。最も多く購入されているのは衣料品や身の回りのアクセサリーなどである。)

また、従来の銀行やグローバルなクレジットカード会社を利用したいと考えていても、今のところ利用できていない顧客を、この地域の BNPL 企業が獲得していることがわかる。注目すべき新進気鋭の企業としては、Hoolah、Pace、Atome、日本の Paidy などが挙げられるだろう。 さて、ここで最後のポイントだが、こういった企業は自国や近隣の市場の強みを活かして成長しているが、サイバースペースには国境が無い。ASEAN のトップ企業は、英語と地元言語の両方でサービスを提供している。新しい消費者金融の質問は「財布の中に何が入っているか」ではなく「スマートフォンに何が入っているか」だ。その答えが東南アジアの BNPL アプリになる日が来ても驚かないでほしい。

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