南米向けシード特化「BVC」、2号ファンドがファーストクローズ——新投資先にデジタルレストランやネオバンク

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BVC の中山充氏
Image credit: Brazil Venture Capital

※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから

2020年のブラジルにおけるスタートアップ投資は35億米ドルに達し前年比で3割ほど上昇、2020年のユニコーンの数は前年から3社増えて14社となった。一方、日本の2020年のスタートアップ投資は43.2億米ドルで、ユニコーンの数は前年比1社(Spiber)増えて7社。単純比較はできないものの、ブラジルは世界で最も新型コロナウイルスの状況がひどい国でありながら、日本の約2倍のペースでユニコーンをこれまでも、そして昨年も生み出したことになる。

Brazil Venture Capital(BVC)の中山充氏もまた、コロナ禍で日本に留まることを余儀なくされ、地球の裏側を遠隔で支援する多忙な日々を送っているが、ブラジルやペルーで新たに参画したパートナーやアソシエイトの尽力もあり、投資活動は順調に進んでいるという。BVC が昨年12月に組成を明らかにした最終規模10億円の2号ファンドはファーストクローズを迎え、その投資家の顔ぶれと、投資を実行したスタートアップ2社が明らかになった。

BVC の2号ファンドの投資家は、その多くが次のような日本のエンジェルによって構成されている(名前非開示の方を除く)。

  • 奥野慎太郎氏 ベイン・アンド・カンパニー マネージングパートナー 東京オフィス代表
  • 天野治夫氏  HENNGE 取締役副社長
  • 大前創希氏  DRONE FUND 共同創業者 / 代表パートナー
  • 曾我健氏   SGcapital株式会社 代表取締役
  • 汾陽祥太(かわみなみ・しょうた)氏  HENNGE 執行役員
  • 松岡達也氏  日本医療支援研究所 代表取締役社長
  • 髙橋伸彰氏  フィル・カンパニー / PHALs 創業者       ほか

【2号ファンド出資先その1】ペルーでも、デジタルレストランは人気「Digital Restaurants」

Image credit: Digital Restaurants

先月末、パリ発で現在はロンドンなどでデジタルレストランを展開する Taster が2,700万ユーロ(約40億円)を調達した。彼らが、ゴーストレストランやクラウドキッチンではなく、敢えてデジタルレストランという表現で自らを呼ぶのは、どこかのブランドの裏方として調理リソースを提供するだけでなく、自ら新しいブランドを構築しようとする姿勢の表れだろう。ヨーロッパを代表するフードデリバリ「Deliveroo」のパリ市内での売上では、Taster 傘下ブランドがマクドナルドやバーガーキングに続き3位の座につけている。

Digital Restaurants をそのまま社名に冠したスタートアップを始めたのが、今回で4度目のスタートアップに挑戦するペルーの連続企業家 Pedro Neira Ferrand 氏だ。起業家の海外展開を支援する組織「Endeavor」や「Founders Network」への参加を認められた彼は以前、ラテンアメリカ向けのデーティングアプリ「MiMediaManzana」を創業・経営していた(現在はシャットダウン)。

Digital Restaurants は、ペルーに拠点を置き、日系ペルー料理レストラン「Osaka」を南米主要都市で展開する MCK Hospitality と提携している。チキンサンドイッチの「Lucky’s Crispy Chicken」、ポケ丼の「Poke for the People」、ハンバーガーの「Black Burger」といったデジタルレストラン特化ブランドを展開。現在はペルーでのみサービスしているが、南米各国に事業拠点を持つ MCK との連携で、多国展開する場合にも食材調達などのオペレーションを組みやすい。

<参考文献>

【2号ファンド出資先その2】ブラジルの成功モデルは、コロンビアでタイムマシン経営が可能「Mono」

Image credit: Mono

中山氏は以前のインタビューで、南米では金融インフラは整っているものの、誰もが金融サービスにアクセスできる環境が乏しいと語っていた。既存の金融機関が面倒でやらないようなサービスを、彼らのインフラを使ってスタートアップが提供すれば、そこに大きな市場が生まれる可能性がある。その一例が、BVC が1号ファンドから投資した ContaSimples だ。現在の顧客は13,000社、年内にそれを3倍にまで増やす計画だ。同社は昨年末、ブラジルのフィンテック特化 VC である Quartz のリードで250万米ドルを調達した

この ContaSimples のコロンビア版とも言えるのが Mono だ。クレジットヒストリーは無いが、事業でカード決済の需要が高い起業家や個人事業主へのカード発行で成長している。メッセンジャーアプリ「WhatsApp」のみで銀行口座を開設でき、複数のデビットカードや会計 SaaS との連携が可能だ。Mono の4人の創業者の全員がこれまでにフィンテックスタートアップ経験者で、そのうちの2人は、かつて Y Combinator に採択されている会社の創業に関わった(2017年夏バッチ参加の tpaga)。

南米のデジタル銀行の分野ではブラジルの Nubank とアルゼンチンの Uala、決済分野ではウルグアイの dLocal やメキシコの Clip など、フィンテック業界からのユニコーンクラブ入りは増えつつある。さらにこれらのユニコーンの多くに共通して言えることは、早い段階でソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資参加している点だ。ソフトバンク・ビジョン・ファンドはミドルかレイターステージで出資する傾向にあるが、BVC はアーリーステージで未来のユニコーン予備軍にリーチできているのは興味深い。


BVC では今後、2号ファンドからブラジルのスタートアップ4社への出資も内定しているという。また、2016年8月にスタートした1号ファンドからはこれまでに12社に投資実行されているが、中山氏によれば、「その中からそろそろイグジット案件が出そう」とのことだ。1号ファンドのポートフォリオには、給与担保ローン自動化の bxblue、前述した ContaSimples、効率的な農薬散布を行うドローン技術を開発する ARPAC などがある。

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