令和トラベルと考える近未来の旅ーー鍵は「ワクチンとワンクリック体験」

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アフターコロナが近づきつつある今、大きな打撃を受けた旅はどのように変わり、私たちにどのような体験を提供してくれるのでしょうか。昨年、このテーマに予想を立てたのが令和トラベルの篠塚孝哉さんです。

篠塚さんたち令和トラベルは新時代のトラベルエージェンシーを目指し、今年、大きな調達で話題になりました。そこで本誌では篠塚さんに昨年の記事の振り返りをしてもらいつつ、これからの旅に必要なテクノロジーやサービス像についてそのヒントを伺ってきました。

旅の再開を占うワクチンの「考え方」

2020年に実施した予想の方法はリゾートホテルやシティホテル、旅館などの宿種と日本人のバケーションや海外渡航といった旅の目的を掛け合わせたマトリックスで評価する、というものでした。

篠塚さんはまだアフターコロナ(ワクチン接種が完了してコロナ禍が終息している状態)ではないとしつつも、ほぼこの予想通りだったとお話されていました。国内についてはGo To トラベルキャンペーンが一時期実施された際、多くの旅行客が移動したことでも、その反動の大きさはある程度証明されたと思っていいでしょう。

では旅が動き出すのはいつなのか。

篠塚さんがポイントにしていたのがワクチンです。単純に接種率が高い・低いではなく、「どの種類のワクチンを打ったのか」が重要になってくると予想されていました。篠塚さんが論点として挙げていたのが着地国(旅で到着する国)と発地国(旅に出発する国)、そして個人の三点です。

ワクチンは国によって承認されているメーカーが異なります。例えば米国ではジョンソン&ジョンソンの製品が使えますが、日本では未承認です。同じようにロシアや中国のように独自の製品を使っている場合があり、これを発地・着地双方が「安全である」と承認するかどうかが争点になるんですね。

日本国内で安全とされても着地側の国で「いや、それはこちらでは承認されていません」となると、いわゆる隔離措置が取られます。現在でも実施されているような2週間にも及ぶ長期隔離が発生すると当然、旅行どころではありません。仕事ならまだしもレジャーはほぼ無理です。

ここに三点目の個人の恐怖感というものが加わるわけです。

篠塚さんはこの3つの論点をしっかり押さえて、各国(特に日本が発地であれば日本政府)の対応を注視した上で、どこの国・エリアが解禁となるのかを見極める必要があると指摘していました。

そしてその上で、彼らがまず選んだのがハワイなのだそうです。

ハワイから始める新しい旅の体験

実はここ1カ月ほど、篠塚さんは現地調査を兼ねてハワイに滞在していたそうです。現地ではマスク姿はなく、飲食店などもほぼ回復した状況だったそうです。(※ここ数日で米CDCからマスク着用のメッセージがあるので状況は日々変化していることは付け加えておきます)

ちなみにハワイ州は一定条件を満たした人に10日間の隔離措置を免除しています。このようにワクチン条件が揃った国を皮切りに、段階的に令和トラベルとしても新しい旅の体験を提供していきたいとされていました。

では、新しい旅の体験はどのようなものになるのでしょうか。篠塚さんたちはまだサービス開発の途中なので、具体的なプロダクトとしては示す前ですが、ひとつのビジョンとして「Amazonのワンクリックのように簡単に旅ができる」体験を提供したいと考えているようです。

例えば決済については今、世界的に大きなトレンドとなっている後払い(Buy Now Pay Later)という流れがあります。スウェーデンのKlarna(クラーナ)とAffirm(アファーム)が代表例で、Klarnaは現在、評価額で456億ドル(約5兆円近く)を付ける、トップクラスの注目株です。

実は旅の後払いは2年前ぐらいに一度ブームがやってきていて、老舗OTAのExpediaがこのKlarnaと提携し「Book Now Pay Later」という後払いを提供したり、Upliftが旅行代理店向けに分割払いサービスを提供しています。国内でもバンクがTravel Nowという後払い旅行サービスを立ち上げたのを記憶している人がいるかもしれません。現在はエアトリが「エアトリNow」として運営しています。

ただ、篠塚さんは後払いの体験は確かに興味はあるとしつつ、旅行代理店の利益率(10%前後だそうです)やキャッシュフローといった構造に課題があり、広がりは限定的ではと見解を示していました。篠塚さんが言う、旅をワンクリックで買えるような体験のひとつにはこういった決済に関わるものがあるかもしれませんが、後払いはハードルが高いのかもしれません。

もうひとつ、旅に関するテクノロジー・サービスで最近注目が高まっているのが特化型のバケーションレンタルです。コロナ禍でリモートワークが進んだことで注目されたのがワーケーションです。RV Shareは創業自体、2013年とかなりの古株なのですが、昨年のAndreessen Horowitzが掲載したマーケットプレイスのランキング「Market Place100」にランクインするなど急に利用を伸ばしました。

同様のケースでキャンプ場のシェア「HipCamp(創業は2012年)」など、ホテルや旅館とは異なる新しい体験への注目が集まっています。また、バケーションレンタルについても国内でNOT A HOTELのような、ホテル自体のあり方を変えるスタートアップも出てきています。

これらの件について篠塚さんはまず、ワーケーションやグランピングといった、コロナ禍に大きく話題となった屋外体験について一定のファンはつくものの単体でそこまで大きな市場を獲得するまでにはならないのではという見解を示していました。ボリュームゾーンはやはりメインの旅行とツアー(合計すると日本国内だけで4兆円市場)であり、これらの特化型は限定的という予想です。

一方、NOT A HOTELについては少し別の視点でコメントをされていました。それが超高級リゾートの需要です。NOT A HOTEL自体はこちらの記事を参考にしていただければと思うのですが、このモデル自体はスカイコートやリゾートトラストなどが実施しているものをソフトウェア的にアップデートかけたもの、というのがイメージに近いです。

参考記事

この分譲型モデルが可能にしたのが、郊外に作ろうとしている大型リゾートタイプの物件です。篠塚さんの話では、日本国内では海外に比べて超高級リゾート需要(予算で1、2000万円)を満たす、1泊数百万円のホテルがなく、ここにNOT A HOTELの物件がハマるのではないかと予想されていました。

旅がかつてのように再開するまでにはもう少し時間がかかりそうですが、その間にアップデートされる体験をどこに見定め、サービス検証を含めて準備できるかどうか、この辺りがトラベル系スタートアップの勝負所になりそうです。

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本稿は7月27日開催したBRIDGE Tokyo Meetupのざつだん企画「未来の旅はこうなる、令和トラベルと話そうの会」の公開収録を記事にしたものです。今後の参加を希望される方はBRIDGE Membersにご参加ください

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