洪水特化のパラメトリック保険FloodFlash、日本進出へ———創業者に聞いた、水害大国の市場可能性

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Hurricane Sandy NYC by Jordan Balderas
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ロンドンを拠点とするパラメトリック保険スタートアップ FloodFlash は、シリーズ A ラウンドで1,500万米ドルを調達したことを明らかにした。

このラウンドは、シカゴを拠点とする気候テック特化ファンド Buoyant Ventures がリードし、ミュンヘン再保険(Munich Re、フランクフルト証取:MUV2)の CVC である Munich Re Ventures、ソニーフィナンシャルベンチャーズとグローバル・ブレインが共同で運用するファンド、MS&AD インシュアランスグループホールディングス(東証:8725)傘下のアメリカ拠点 CVC である MS&AD Ventures、ベルリンの PropTech1 に加え、既存投資家の Pentech、Local Globe、Insurtech Gateway が参加した。

パラメトリック保険は、損害と因果関係のある指標(パラメータ)が、契約時に設定した条件を満たした場合に、予め決められた一定額の保険金を支払う保険のことだ。従来の保険が実際に被った被害を算定して補償するのに対し、パラメトリック保険では保険請求時の支払査定が必要無いため、被害に遭った企業などは BCP(事業継続計画)などの観点からも、資金の迅速な手当が可能だ。FloodFlash はその名の通り洪水被害に特化していて、条件合致から48時間以内に保険金を支払う。

アメリカ海洋大気庁(NOAA)によれば、過去40年間にアメリカで発生した洪水による被害額は1,510億米ドルを超えている。アメリカは洪水リスクが高いにもかかわらず、洪水保険に加入しているのは、住宅所有者の5~15%、中小企業では5%に満たない。その結果、毎年200億米ドル以上の保険の適用を受けない被害が発生している。アメリカに次いで大きいのは日本だ。FloodFlash CEOの Adam Rimmer 氏によれば、2018年7月の西日本豪雨(平成30年豪雨)では、多くの被害が保険の適用を受けていなかったという。

実のところ、洪水をはじめとする大規模災害に対応するための保険というのは、保険会社にとって都合のよいものではない。自動車保険であれば、自賠責であれ、任意であれ、一定期間にならして考えれば、一定の頻度で事故が起きて保険金請求がなされるので、支払査定人の配置や保険金の準備も予め予定することができる。しかし、洪水保険の場合、普段は全く何も起きず、大惨事が起きるや否や莫大な数の加入者から保険金請求の連絡が寄せられることになる。IT 的な表現をするなら、バースト性が高いというわけだ。

インタビューに答えてくれた FloodFlash のメンバー。左上から時計回りに:共同創業者兼 CEO Adam Rimmer 氏、筆者、共同創業者兼チーフサイエンティスト Ian Bartholomew 氏、マーケティング責任者 Chris Hall 氏

CEO の Rimmer 氏と、同じく共同創業者でチーフサイエンティストの Ian Bartholomew 氏は、世界最大のリスクマネジメント会社 RMS(Risk Management Solutions)の出身だ。ロンドンの Lloyd’s に象徴される通り、イギリスの保険市場は世界に見ても傑出している。さらに、Rimmer 氏によれば、イギリスは洪水モデリングや洪水データの質も非常に高いそうだ。洪水リスクの高い地域に対しイギリスでは政府から補助金が出るため、他国ほどではないにせよ、保険が適用されない洪水リスクは潜在するという。

実のところ、イギリスで始めたのは、我々がそこに住んでいたからだ。そして、偶然にも、ロンドンは世界の保険会社の半分の規模をおさえている。我々がこの分野で仕事を始めたのは、他の人にはない洞察力と、活用できる専門知識があると思ったからだ。保険が適用されない洪水リスクがあるから、それを解決したいと考えた。

Ian と 私ははかつて、カリフォルニアの RMS で、非常に大きな再保険契約をまとめるチームで仕事していた。そこでは parametric trigger、つまり、実際の被害額ではなく、風速、地震のマグニチュード、洪水の深さに基づいて保険金が支払われるというものを開発していた。

2012年に発生したハリケーン・サンディ(Hurricane Sandy)でアメリカ各地が災害の影響を受けた際、Ian が RMS でニューヨーク地下鉄のために parametric trigger を開発した。サンディで災害の影響を受けて以降、ニューヨーク地下鉄は適切な洪水保険を見つけるのに苦労したそうだ。

そこで、ニューヨーク地下鉄は、ニューヨークの潮位計で測定した水位が一定のレベルに達したら、設備修理のために2億米ドルの保険金を支払うという契約を結んだ。このように、彼らはパラメトリック保険という考え方を使って、保険に加入できないような状態から、保険に加入できるような状態になった。

しかし、このような大きな契約を結ぶには、投資銀行、弁護士、その他もろもろに数百万米ドルを費やさなければならない。こういうことは、保険業界ではよくあることだ。日本でも、地震のパラメトリック保険など多くの事例がある。金融派生商品「キャットボンド(catastrophe bonds)」というものだ。

我々の知識をもってすれば、大衆向けの商品にすることができると考えた。なぜなら、この商品は、世界中の人が災害から立ち直るのに役立つからだ。(Rimmer 氏)

<参考文献>

屋外に設置する FloodFlash の浸水センサー
Image credit: FloodFlash

FloodFlash の現在の顧客の約3割は不動産業界だが、製造業、スポーツ・レクリエーションの分野でも関心を高めており、中にはサッカーのプレミアリーグも FloodFlash のサービスを利用している。ありがちな表現にはなるが、FloodFlash が目指そうとしているのは「パラメトリック保険の民主化」ということだろう。Rimmer 氏はこの商品を、大企業ではなく中小企業に使ってもらえるものにしたいと力説する。そしてこれを可能にするのが、リスク細分化を可能にする同社独自の IoT センサーだ。

Adam と私は RMS で、あらゆる種類の自然災害の発生確率を数値化するモデルを作っていたので、我々は洪水リスクモデルを出発点として使っている。なぜ洪水かというと、他のどの災害よりも最も保険金不足の問題が大きいからだ。

これまでの洪水リスクモデルや他の種類のデータ(一部は有料で購入し、一部はオープンデータを利用)を使って独自のアルゴリズムを開発し、どこかが洪水に見舞われる可能性について確率的な見解を構築している。これが、私たちの重要な強みの一つだ。

我々が何年もかけてコンサルティングしてきたことだが、今では中小企業向けにもっと自動化されたものに作り変えることができた。我々が独自のセンサーを持っていることも、大きな魅力のひとつだ、洪水が起こるたびに独自のデータを生成し、それを価格設定にフィードバックすることで、常にプロセスを改善することができるのだ。(Bartholomew 氏)

Ian Bartholomew 氏 と Adam Rimmer 氏
Image credit: FloodFlash

FloodFlash は自ら保険を販売することなく、保険金支払のリスクを(保険会社の後ろで)最終的に請け負う再保険会社と、保険を販売する保険会社の間に入って機能する。今回の資金調達に参加した投資家の顔ぶれを見る限り、日本では、少なくとも MS&AD インシュアランスグループホールディングスが FloodFlash のパラメトリック保険を販売する可能性があることを推測できる。

この分野では、アメリカの Jumpstart が2018年から地震パラメトリック保険を提供している。地震の多いカリフォルニア住民に対し、地表面の地動最大速度(PGV)が秒速30cmに達したときに保険金が支払われる。日本では、東京海上日動火災が地震パラメトリック保険「EQuick 保険」を2020年に発売、また、SOMPO ホールディングスはシステムダウン時のパラメトリック保険をイスラエルの Parametrix と開発している。

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