事業をWeb3化したらどうなる?ーー琵琶湖で起業家・VC50名が合宿「Upstream BootCamp(UBC)」成果を披露

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ニュースサマリ:企業経営者やベンチャーキャピタルファンドの有志で開催された勉強会「Upstream BootCamp(UBC)」は7月3日、滋賀県守山市にて実施した合宿の成果発表会を実施した。テクノロジー系のスタートアップ経営者、約30名とベンチャー投資事業に携わるキャピタリスト10名がチームを組み、2日間でビジネスアイデアを仕上げる。テーマは事業のWeb3化で、実際に提供している事業(チーム内の誰かが運営しているものが中心)をトークナイズした場合、どのようなプランになるかを考えた。

合宿のテーマを説明するマイネット代表取締役の上原仁氏。彼の呼びかけでイベントが開催された

この合宿イベントは関西や沖縄、名古屋など「非」東京で事業に携わるスタートアップ経営者(※外部資本を積極的に受け入れている急成長企業)と、東京を中心に成長した資本市場のキーマン、スタートアップ経営者をつなげることを目的としている。合宿で検討されたトークナイズされたアイデアが実際に施行されるかどうかはそれぞれの事業者次第だが、アイデアにとどまらず現実性のあるプランを練っていた。下記に評価が高かった4つのプランを共有する。※追記:文末に当日参加したキャピタリスト、起業家、学生のみなさんの情報を追加した。

  • アートファン(堤達生氏チーム/グランプリ)
  • KIKIN(北尾崇氏チーム/守山市長賞)
  • mentally3.0(立石美帆氏チーム/AWS賞)
  • Save to earn(矢澤麻里子氏チーム/立命館大学賞)

トークンでアート市場を活性化「アートファン」

アーティストのファンコミュニティプラットフォーム「ART★FAN」をまとめたのはベンチャーファンドSTRIVEのジェネラルパートナーを務める堤達生氏のチームだ。起業家メンバーはアートローグの鈴木大輔氏、立命館大学の日野原颯氏、プロッセルの横山和輝氏が参加した。

ART★FANはアーティストのファンに対してファントークンを発行することで、ファンは少額からアーティストを応援することができる。富裕層によって支えられてきた従来のアート市場において、トークン発行によるファンからの資金流入を発生させることにより、アート市場自体の拡大を期待したもの。アート関連のメディア「アートローグ」の事業をWeb3ナイズしたアイデアで、実現可能性・社会価値・市場性が評価されグランプリを受賞した。

ファントークンは応援しているアーティストが成長して人気が高まることにより、トークン価値自体も高まる仕組みになっている。ファントークン保有者によって作られたファンコミュニティでは、ファン限定イベントや内覧会への参加、作品の優先購買権利などが与えられる。より多くのファンがアーティストを支援することにより、アートの歴史をつくる一員になれるのも魅力とした。

一点もののNFTアートと異なり、トークン(ERC20・代替性)を発行することでアート業界の権威などを巻き込んだ展開が可能になる。例えばこういった有識者による目利き評価を掲載することで、アートの価格の透明性や妥当性も担保できるとした。

ソーシャル基金プラットフォーム「KIKIN」

サイバーエージェント・キャピタルのシニア・ヴァイス・プレジデントを務める北尾崇氏のチームが提案したアイデアが「KIKIN」だ。起業家メンバーには、liloの堀勝通氏、エイジレスの小出孝雄氏、ERAKEの嘉名雅俊氏が参加し、守山市長賞を受賞した。

KIKINが解決するのは、寺社仏閣などの文化遺産やスタジアムなどの施設の資金不足だ。現行の寄付では、寄付者からすると資金の実際の用途が不透明であることや、小口寄付をしても名前が見える形で残らないことが課題となっている。そこでトークンを活用したソーシャル基金プラットフォームのアイデアを考えた。

KIKINではクーラー導入や修繕といったプロジェクトベースの小口寄付をオンライン受付することができる。

資金の使い道はブロックチェーンによって追跡可能で不正利用を防止できるほか、寄付者が同意した用途にのみ承認制で資金の引き出しが可能になるDAOを組成する。また、従来は物理的制約があり、寄付者の名前を刻んだ記念碑を残すことができなかったような小口寄付でも、改竄不能なブロックチェーン台帳によって名前を残すことができる。

守山市のある滋賀県は、日本一大きな湖・琵琶湖や、寺院数が日本で一番多いことでも知られている。今回、審査員の一人を務めた守山市長の宮本和宏氏は、そうした観光資源や文化遺産が抱える資金不足などの課題を解決できるのではと評価した。

トークンで共感を生み、悩みを解決する「mentally3.0」

心の悩みを匿名で相談できる「mentally(メンタリー)」をトークナイズしたアイデア「mentally3.0」が評価されたのが、くふうカンパニーの立石美帆氏のチームだ。Mentallyの西村創一郎氏、RyuLogの平良美奈子氏、Tavernの小路真矢氏が参加し、AWS賞を受賞した。

うつ病やうつ状態を抱える人々は国内で6人に1人と社会課題化している。にも関わらず国内でここまで問題が深刻化する理由は、こういったメンタル不調をきたした場合でも病院などでカウンセリングを受けるハードルが高いことに起因しているという。

この解決に向けて、mentallyではすでにオンラインにて悩みを匿名で打ち明け、それに対して経験者が回答するというアプローチをとっている。今回のアイデアとなるmentally3.0では、ここにメンタリートークンを発行してインセンティブを加え、回答してくれてありがとうなどの気持ちを表現できるようにした。トークン保有者は自分の知りたい他人の回答を見るときにも消費される仕組みになっている。悩みを投稿し、解決していく共感のプロセスによってトークンエコノミクス全体の価値が上がる設計を目指す。

ゲームのように生活習慣病を予防「Save to earn」

生活習慣病をゲームのように楽しみながら予防するアイデアが評価されたのがYazawa Ventures代表、矢澤麻里子氏のチームだ。Sketchbookの多田出昇氏、WorldTryoutの加治佐平氏、ワンネイティブの木村沙那ダイアナ氏が参加し、立命館大学賞を獲得した。

「Save to earn」のアイデアは、デバイスなどを活用して日常的な健康情報を収集し、血糖値や睡眠時の心拍数などの健康スコアリングデータに基づいてトークンを付与するもの。ユーザーはゲームを楽しむように健康データを収集することで同時に予防効果も見込める。

チームはビジネスモデルとして医療保険のリプレイスを挙げた。ユーザーは保険料を支払う代わりにデータ収集用のデバイスと「Saveトークン」を購入する。日々の健康スコアリングデータを収集し、健康的な生活を送ることでトークンが付与される。万が一、怪我や大きな疾患を患った場合には保険金と同様にトークンがまとまって付与される。このトークンを一般的な暗号資産取引所へ上場させることで取引や現金化が可能になる。チームの試算では1000人規模の参加者で分配が可能になるとした。

これまで掛け捨ての保険では保険料が返ってくることはなかった。Saveトークンを使えばゲームのように楽しみながら、お小遣い程度のリターンがあるのでそれがモチベーションにつながると解説していた。

以下、当日参加したチームと発表内容のまとめをお伝えする。

世界から性被害を根絶する「Living Room」:Live配信を行うことで無料で泊まれる宿泊所
東証グロースに上場しているキャリア代表の川嶋一郎氏のチーム、参加した起業家メンバーはMasenticの安達慶太氏、ネットオンの木嶋諭氏。

介護から始まる魅力的な街つくり「Heart Full」:近所の助け合いを復興するDAO
ベンチャーファンドW Venturesのジェネラルパートナーを務める東明宏氏のチーム、参加した起業家メンバーはカイテクの武藤高史氏、Rementalの佐藤利音氏、スイベルの大城仁氏。

フードロスを削減する「SHOKUZAI」:消費期限連動型ダイナミックプライシングトークン
ベンチャーファンドFull Commit Partnersのジェネラルパートナーを務める山田優大のチーム、参加した起業家メンバーは立命館大学の細川隼輔氏、シューマツワーカーの松村幸弥氏、Ookamiの尾形太陽氏。

Web3時代のmen’s資生堂へ「Brilliant Beast」:NFTでエンゲージメントを高めるメンズメイクブランドとメディア
East Venturesのアソシエイトを務める村上雄也氏のチーム、参加した起業家メンバーは立命館大学の兒島雅偉氏、アットゲームの向井利哉寿氏、立命館大学の佐藤宇宙氏。

eSports大会での資金循環を可視化する「e-players3.0」:大会主催者のNFT証明書発行
ベンチャーファンドTHE SEEDのジェネラルパートナーを務める廣澤太紀氏のチーム、参加した起業家メンバーはPapillonの都築亮吾氏、リモデラの福本拓磨氏。

大規模・長期プロジェクトのモチベアップ「Zippar3」:NFTを利用した称号制度
ベンチャーファンドANOBAKAのパートナーを務める長野泰和氏のチーム、参加した起業家メンバーは Zip Infrastructureの須知高匡氏、Plalyの稲尾拓也氏、立命館大学の河上智久氏。

執筆・取材協力:Upstream Bootcamp運営/上原晶さん( @aki__uehara )

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