
ピックアップ:Transmutex, V-Labs, GliaPharm and Deasyl get FIF Funding
ニュースサマリ:ジュネーブを拠点とし、CERNから生まれた画期的な原子力技術を開発するTransmutexは4月、Fongit Innovation Fund(FIF)から10万スイスフランのシード資金を確保した。FIFは国際連合が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)に向けて有益なサービスを支援するためのプログラム。支援を受けることとなった一社、Transmutexは様々な研究センターや業界と提携して、10年以内にパイロット原子力発電所の提供を目指す。
話題のポイント:原子力発電に関して、世界中の人がネガティブな印象を持っています。原子力による被害が多い日本人も例外ではなく、一般財団法人日本原子力文化財団の「2021年度 原子力に関する世論調査」によると、58.3%の人が「危険」46.8%の人が「不安」と答えています。
中でも放射性廃棄物の処理は原子力発電の安全性よりも先立つ不安の対象になっているようです。発電所から出る廃棄物は放射能レベルに応じて地層に埋める深度や廃棄物を囲う障壁が異なる浅地中処分、余裕深度処分、地層処分に分けて処分されます。これらによる環境への影響がどの程度になるのか、多くの人が不安に思っているわけです。
さらにネガティブを大きくする要因として放射性物質の「半減期」があります。放射性物質の原子は放射線を出すことで安定した状態に変化していきます。つまり放射性物質の量は時間が経つと減少するのですが、この放射性物質の量が半分になるまでの時間を「半減期」といいます。この半減期が原子力発電で排出される放射性物質はとても長く、放射線を出し切るのに30万年かかると言われています。原子力で発電する限り、人類が存続しているかも分からない遠い未来に向けて消えることない危険物資を増やし続け、管理していかなければならないのです。人類が背負う十字架と言えるかもしれません。
こうした問題に取り組むのが今回取り上げたTransmutexです。Transmutexが作るトリウムを使用した亜臨界核変換加速原子炉「TMX-START」が実現するのは核分裂と核融合を超えた核変換です。技術ポイントは次のとおり。
- TMX-STARTの重要な機能は、原子力発電で発生する放射性廃棄物の半減期を大幅に短くし、放射線を出し切るまでの時間を300年にすることが可能で、従来の1000分の1に短縮された廃棄物に変換できることです。つまり、300年後も同じ電力量を発電しているとしたら地下深くで長期保管される放射性廃棄物の量が増えなくなる時が来るということです。
- Transmutexは、粒子加速器と原子炉という2つの技術分野を組み合わせて核変換する原子力エネルギー創出を目指しています。
- 鍵となる物質が「トリウム」です。トリウムはレアアース採掘時に副産物として取れたり、石炭灰に高濃度で含まれている物質で、弱い放射性を持つため単なる廃棄物として扱われています。要は現在はゴミであるトリウムを燃料とし、プロトン加速器を原子炉に組み合わせることで核変換を誘発するのです。
- この核変換によって排出される放射性廃棄物が寿命の短い物質です。また、トリウムは用途がほとんどないため十分な量が存在する点もトリウム燃料の魅力的なポイントと言えます。

トリウムを用いた亜臨界核変換加速原子炉の核変換に関して詳細が気になった方はこちらをご覧ください。参考にした資料になります。
- Thorium fuel cycle — Potential benefits and challenges
- In-depth interview (French) of Jean-Christophe de Mestral on reinventing nuclear energy with Thorium
特に日本人は核と名の付くものに対して敏感で、福島第一原発以前からも7割以上の国民がネガティブな感情を抱いているそうです。発明された技術に善悪はありませんが、残された欠点を新たなアイディアで更に改良し、人間だけなく環境との共存を選べるようになってきたことはポジティブに捉えていくべきなのでしょう。原子力発電の安全性と廃棄物の効率的な処理の発展に注目していきたいです。
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