法人向けカード事業・経費精算簡略化のUPSIDER、事業加速で宮城氏と水野氏の共同代表体制に移行

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新たに UPSIDER の共同代表取締役に就任する水野智規氏(左)と、以前から代表取締役を務める宮城徹氏(右)
Image credit: Upsider

法人向けカード事業や企業内の経費精算簡略化サービスを提供する UPSIDER は12日、共同創業者で COO を務めていた水野智規氏が代表取締役に就任すると発表した。これまで代表取締役を務めていた宮城徹氏と共に、共同代表取締役の体制を取る。水野氏が務めていた COO は空きポストとなるが、同社では今後、社内外から新たに適任者を登用する計画だ。これとあわせ、同社では優秀な人材を確保するために、エンジニアの理論年収(1年間勤務した場合の給与と賞与の和)を1,000万円以上に引き上げることも明らかにした。

UPSIDER は2018年5月の創業、その2年後の2020年7月に法人カード事業の UPSIDER をローンチ、今年4月にはクレディセゾン(東証:8253)と共に「支払い.com」をローンチした。

UPSIDER は、スタートアップなどこれまで十分に法人カードを利用してこなかった企業に対して、企業のステージや規模に関わらず高い利用限度額を提供。また、カード決済後、即日で管理画面から利用明細を確認できるほか、会計 SaaS などとの連携により、会計処理や支払管理などの財務や業務の課題を包括的に解決できる。支払い.com は、クレジットカードでは通常支払えない取引先に対し、クレジットカードの与信枠を使って支払ができるサービスだ。

BRIDGE のインタビューに対し、宮城氏は、2人の共同創業者が共に代表取締役を務める体制を取る理由について、UPSIDER の著しい成長スピードを挙げた。UPSIDER のローンチから約2年を経て、UPSIDER、支払い.com の両方を合わせたユーザ企業数は4,000社。ただ、ここ直近は1ヶ月で1,000社のペースで増え続けているそうだ。フィンテックの性質上、求められる機能が多様で複雑だったり、セキュリティや財務の健全性を求められたりするなど、フィンテック以外の企業よりもケアすべき社内課題は多い。

スタートアップとしての経営の舵取りが難易度を増す中、宮城氏は経営層の陣容を分厚くすべきとの課題感を持っていたところ、水野氏を共同の代表取締役に迎えることで、水野氏本人やステイクホルダーからの賛同を得たという。「代表が一人で決め切れるほど、簡単なものではない」という宮城氏は、経営陣により優秀な人材を集まる環境づくりに注力したいとしている。今回発表のあったエンジニアの人材募集強化も、エンジニアから経営陣への登用を念頭に置いたものだろう。

Image credit: Upsider

UPSIDER は昨年10月に明らかにしたシリーズ B のエクステンションラウンドで、アメリカで UPSIDER 同様のカード事業を展開する Brex やミレニアル向け投資アプリを展開する Robinhood に投資する Greenoaks Capital から資金調達している。Brex もまた、Henrique Dubugras 氏と Pedro Franceschi 氏という共同 CEO 制をとっているし、Robinhood も Vlad Tenev 氏と共に、Baiju Bhatt 氏が共同 CEO の体制を取っていた(現在、Bhatt 氏はチーフクリエイティブオフィサー)。

すなわち、著しい成長を目指す上で代表取締役2名体制で攻める、という考え方は、UPSIDER のステイクホルダーに取って理解しやすかったかもしれないし、また、それができる顔ぶれが揃っていたことも UPSIDER にとって幸運なことだ。宮城氏がマッキンゼーの金融関連プロジェクトの出身、水野氏がユーザベースで NewsPicks の立ち上げやマーケティング責任者を務めた、という互いに畑違いのバックグラウンドも経営判断に厚みを持たせることに寄与するだろう。

水野は元エンジニア(編注:NewsPicks 以前、ABeam Consulting で金融機関の業務システムフルリプレースに従事)だが、エンジニアのバックグラウンドを持った人が経営のトップに就く例は、日本のフィンテックでは珍しいかも。自分達が代表的な事例を作ることによって、金融出身でなくても、プロダクト出身の人がフィンテックを作れることを証明していきたい。(宮城氏)

門外漢と専門家が協力し合うと、素晴らしいものができると信じている。そうして、価値あるものを生み出していきたい。社内にはかなり多様な(バックグラウンドを持つ)メンバーがいるので、いろんな個性、キャラクターが組み合わさることで、UPSIDER という組織も強くなっていくと思う。(水野氏)

この分野では、先月「バクラクビジネスカード」を発表した LayerX、「Staple(ステイプル)」を展開するクラウドキャスト「paild」を展開する Handii などがしのぎを削る。先日の「Canvas【2022年07月号】まとめ」にも書いたが、昨年の BNPL ブームに続き、今年は日本からも ESM(社員経費精算自動化)周辺からユニコーンが生まれるのは時間の問題だろう。INITIAL は UPSIDER の6月時点の時価総額を352億円超と推定しており、間違いなくユニコーンに近い存在の一つと言える。

<参考文献>

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