ChatGPTとLLM(大規模言語モデル)を使ったボットは、顧客体験をどう向上させるか——有識者に聞いた未来像

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Close-up view of hand of robot holding glass of water at wooden table
Photo by IgorVetushko, licensed by Depositphotos.

大規模言語モデル(LLM)を使った人工知能(AI)チャットボットがここ数週間で急成長し、さまざまな業界の企業リーダーの関心を集めている。そのようなチャットボットの1つである「ChatGPT」は、ローンチから1週間で100万人を超えるユーザを獲得し、テック界で特に目立った波紋を呼んだ。

Juniper Research によると、ChatGPT をはじめとするターボチャージされたモデルやボットは、今後数年間、顧客とのやり取りで重要な役割を果たすとされている。Juniperr Research の最新レポートでは、AI を搭載したチャットボットが2023年末までに顧客との会話の最大70%を処理するようになると予測している。

これは、カスタマーエクスペリエンス(CX)の強化とインタラクションの効率化のために、AI への依存が高まっていることを浮き彫りにしている。チャットボットの会話はますます人間に近くなっており、企業がこの技術を利用してマーケティング戦略を改善し、パーソナライズされたサービスを提供し、一般的に効率化を推進する機会は数多く存在する。

音声認識と自然言語処理(NLP)は、顧客管理とコールセンターの自動化において長い歴史を持っているが、この分野のベテランによると、新しい大規模言語モデル(LLM)使ったチャットボットは、CX の未来を大きく変える可能性がある。

検索エンジン SaaS プラットフォーム「Algolia」の CTO Sean Mullaney 氏は、VentureBeat に次のように語った。

LLM は、検索アルゴリズムの仕組みを根本的に変えている。従来の検索エンジンは、クエリに含まれる個々の単語と、コンテンツの大規模なインデックスに含まれる単語を照合するが、LLM は単語の意味を効果的に理解し、より関連性の高いコンテンツを検索することができる。

LLM を利用したチャットボットやバーチャルアシスタントの登場により、顧客はより自然で会話に近い形で企業と接することができるようになった。これは、カスタマージャーニー全体を通じてより良い CX を提供する上で、大きな前進となった。その結果、LLM は、カスタマーサポート、セールス、マーケティングの強化を目指す企業にとって、最適なソリューションとなった。

しかし、新しいボットの導入に課題が無いわけではない。第一世代のチャットボットがすでに示しているように、成功は約束されたものではない。

汎用性が高いにもかかわらず、多くの第一世代のチャットボットは、複雑なリクエストや質問を理解するのに苦労し、対話を通じてコンテキストを維持することに限界がある。その結果、チャットボットが限られたインタラクションに限定されることが多いため、時には陳腐で硬直したカスタマーエクスペリエンスになることがある。多くの場合、インタラクションは最終的に人間にルーティングされる。

AI 企業 Conversica が最近行った調査では、ユーザが体験した第一世代のチャットボットは、顧客の期待に応えていないことが示されている。同社によると、5人のバイヤーのうち4人が、回答が独自のニーズに対応していない場合、チャット体験を放棄しているとのことだ。

Conversica の CEO Jim Kaskade 氏は、次にように述べている。

第一世代のチャットボットは、あらかじめ決められたスクリプトに依存しているため、プログラミングが面倒で、メンテナンスはさらに困難だ。さらに、簡単な質問も理解できず、ユーザはあらかじめ書かれたメッセージに従った対応に限定される。GPT のような LLM を搭載したエンタープライズ対応の AI 搭載アプリケーションは、変化をもたらすことができる。

ChatGPT は会話型 AI の状況を変化させる

ChatGPT に触発された LLM は、さまざまな会話スタイルやコンテンツのトーンを取り入れることで、企業が顧客に対してより魅力的にコンテンツを提示する能力を提供することができる。また、LLM は顧客との対話に基づいて学習・適応し、継続的に応答の品質と全体的なCXを向上させることができる。

AI を活用した顧客情報プラットフォーム「Dialpad」の最高戦略責任者 Dan O’Connell 氏は、ChatGPT などの LLM を使ったチャットボットは、エージェントが顧客と直接よりよく関わるための編集・提案ツールとして機能すると考えている。

時間の節約や記録の追記だけでなく、トピックやアクションアイテムの特定、センチメントのマッピングなど、さまざまな使い方ができる。(O’Connell 氏)

こんにちは、ChatGPT です。何でも聞いてください。

従来のチャットボットでは、一見すると知的な会話形式でやり取りができ、GPT-3 の NLP アーキテクチャは、質問、内容、文脈を「理解している」と思わせるような出力を出す。しかし、現在の ChatGPT のバージョンには、潜在的に誤った情報や政治的に正しくない回答まで生成してしまうという欠点もある。OpenAI チームは、事実関係の問い合わせに対して ChatGPT に頼らないようにと忠告しているほどだ。

OpenAI のリーダーである Sam Altman 氏のTwitterの投稿に見られるように、ChatGPT のクリエイターでさえ、その有用性に限界があることを認めている。

 

クラウド通信プラットフォーム「Sinch」の ML・AI 部門エンジニアリングディレクター Pieter Buteneers 氏は次のように語っている。

ChatGPT のようなモデルの問題は、ChatGPT がインターネット上で見つけたすべてのものを、たった1,750億の数字(人間の脳の5,000分の1)に「記憶」していることだ。そのため、ChatGPT が出す答えに100%の自信があるわけではない。特にインターネット上の知識をすべて保存するとなると、細かい部分まで覚えておくことは不可能だ。だから、どんな状況でも、最初に思いついたことをぶちまけるだけだ。

欠点はあるものの、新進気鋭の ChatGPT には、他のチャットボットと比較して大きな利点がある。ユーザの意図を理解し、文脈を維持し、会話中も高度にインタラクティブであることに優れているのだ。さらに、ChatGPT の NLP の可能性とクエリに効率的に応答する能力は、企業に CX の強化を目的とした現在のチャットボットのアーキテクチャを見直させることになった。

コンタクトセンターのプラットフォームを提供する Five9 の CTO 兼 AI 責任者 Jonathan Rosenberg 氏は、ChatGPT が行ったようにゼロショット学習などの AI アルゴリズムを活用することが、優れた能力を持つ LLM を開発する鍵になると述べている。ゼロショット学習とは、機械学習モデルが機械学習中にカバーできなかった入力に直面した場合の例だ。

GPT-3 が他と違うのは、前任者ができなかったこと、つまり、どんな質問に対しても明示的に学習させることなく、一貫した出力を生成できるほど大きくなったことだ。GPT-3の設計は、前任者と比べて何かが根本的に違うというわけではない。むしろ、ゼロショット学習は、モデルサイズがある閾値を超えるまでは十分な精度がなく、その時点からずっとうまくいくようになったのだ。(Rosenberg 氏)

AI 搭載分析プラットフォーム「Dataiku」の日常 AI 戦略アドバイザー Kurt Muehmel 氏は次のように述べている。

ChatGPT のようなモデルは、企業がコンタクトセンター内で行うすべてのことを従来の会話型 AI に置き換えることはできないだろう。導入する企業は、人間の専門家による対応の見直しを着実に行うプロセスを構築し、時間の経過とともにパフォーマンスが低下しないよう、システムを適切にテスト・保守する必要がある。

しかし、企業はチャットボットや GPT のような LLM を単なるギミックとしてではなく、特定のタスクを実行するための貴重なツールとしてとらえる必要がある。組織は、その影響を最大化するために、ビジネスに具体的な利益をもたらすユースケースを特定し、実装する必要がある。そうすることで、これらの AI テクノロジーは、業務の効率化と成功の推進において、変革的な役割を果たすことができる。

Glassbox の CTO Yaron Gueta 氏は次のように述べている。

ChatGPT の可能性は、このテクノロジーがテキスト内の感情的なニュアンスをより多く理解できることにある。人間が重要な役割を果たす必要があるため、コンタクトセンター内で企業が行っていることを完全に置き換えることはできない。ChatGPT は、チャット・インタラクションの中でエンドユーザ体験を向上させることができるため、企業はチャットチャネルとコールセンター間の通話偏向を大幅に減らすことができるようになる。

会話型 AI モデルのチューニングとメンテナンス

GPT のような会話モデルの汎用性は、コンピュータビジョン、ソフトウェアエンジニアリング、科学的研究開発など、幅広い潜在的なアプリケーションで実証されている。

「難しい部分」は、e コマースやカスタマーサポートなど、ベースとなるトレーニングから答えが得られないような特定の顧客問題を解決するためにモデルを細かくチューニングすることだ。さらに、これらのユースケースでは、製品カタログやヘルプセンターの記事といったドメイン固有のユースケースに対応するために、微調整を行うための独自の企業データが必要だ。(Algony の Mullaney 氏)

同様に、データ分析プラットフォーム「Sqream」のクラウドエキスパートである Yori Lavi 氏は、次のように述べている。

トレーニング、テスト、継続的なモニタリングが重要であることを忘れてはならない。重要なのは、GPT のようなモデルは、しばしばその答えの価値/リスクを認識させる必要があることだ。チャットボットによるリスクの高い判断は、常に検証/評価されるべきだ。したがって、CXを高めるために、企業は複雑なニーズに対する答えを見つけ、以前の質問/コンテキストを基に結果を微調整できるチャットボットの作成に取り組むべきだ。

先進的な LLM の活用で CX を向上させる

デジタルエクスペリエンスプラットフォームメーカー「Acquia」でプロダクト DXP 担当 SVP を務める Deanna Ballew 氏は、ChatGPT のような高度な LLM は会話型 AI のデータセットと能力になり、他のテクノロジーは ChatGPT を進化させて学習させると考えている。

2023年には多くの実験が行われ、ChatGPT にビジネス価値を付加する新製品が登場することだろう。これは、サポートエージェントが消費者に対応する方法にも及び、自動化されたボットを使用したり、独自のデータセットで ChatGPT を活用して素早く回答を得たりするだろう。(Ballew 氏)

同様に、ジェネレーティブ AI スタートアップ Peech の CEO Danielle Dafni 氏は、カスタマーサービスやサポートにおけるこうしたモデルの利用が増えることは、企業がより高度なチャットボットの開発に投資し続け、CX の向上につなげる必要があることを意味すると述べている。しかし、そこには見返りがある。

これらのモデルを採用して、既存のチャットボットの対話における感情の認識と対応能力などを向上させる企業は、より優れたカスタマーサポートとエクスペリエンスを提供するのに有利になる。(Dafni 氏)

Conversica の Kaskade 氏はこう予測する。

ChatGPTと従来の LLM チャットボットは、今後も進化を続け、顧客とのやりとりを理解し対応する能力がより洗練されていくだろう。広く一般に認知されることで、より多くの顧客がチャット機能に GPT レベルの会話能力を期待し、第一世代のスクリプトボットは塵と化すだろう。

Kaskade 氏は、現在の開発は、ジェネレーティブ AI 能力を持つ Web チャットソリューションの採用の転換点に過ぎないと述べている。彼は、今後3年以内にこれらが B2B と B2C でユビキタスな存在になると予測している。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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