自然言語処理AIで「ロボット弁護士」に挑戦したDoNotPay、その結果は

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Image credit: DoNotPay

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

OpenAIによる自然言語処理AI、ChatGPTの勢いが止まらないようです。ネット検索の分野では大きく水をあけられたMicrosoftが検索エンジン「Bing」にChatGPTを組み込むことでGoogleへの対抗ののろしをあげる一方、本家Googleも近く同様の自然言語処理を基盤としたBardを公開予定としています。

このように勢いが増す自然言語処理系のジェネレーティブAIでひとつ、興味深い話題がありました。ロボットは弁護士になれるのか?というチャレンジです。ご紹介する2015年創業のDoNotPayはニューヨークを拠点とするスタートアップで、Andreessen Horowitzからの資金提供を含め、これまでに累計2,770万ドルを調達しています。

創業当時、スタンフォードの学生だったJosh Browder氏は駐車違反に異議を唱えるためのボットを開発しました。当時、彼の活動を伝える記事によると、ニューヨーク市だけでも毎年5億ドル以上の駐車違反の罰金を徴収しており、市にとっては大きな収入源のひとつである一方、誤った違反チケットの発行も見受けられたそうです。そこでBrowder氏はAIを使ったQ&Aボットを作成し、出頭した法廷で違反を免れる方法を伝授するサービスを開始したのです。そんな彼らが自然言語処理に興味を持つのは当然の流れでした。ChatGPTを開発提供するOpenAIがGPT-3のインターフェースを公開した2020年からその処理能力をサービスに取り込み、駐車違反だけでなく移民などより広範囲な法的トピックスをカバーするようになります。こちらの記事では彼らのアプリを通じて米国・英国で300万件の訴訟に活用されたとしています。そしてついに、彼らは「AI弁護士」という未知の領域に挑戦しようとしました。今年の2月後半に実施される予定の交通違反の法廷にDoNotPayのアプリが弁護士として登場することになっていたのです。

DoNotPayの方法は以下の通りです。被告はスマホアプリを法廷に持ち込み、全ての発言を聞いた後にイヤフォンを通じて被告に対しアプリが何を発言すべきかを指示します。法廷にこのようなデバイスを持ち込むことは違法なケースが多いのですが、DoNotPayの主張では「補聴器」として許可されるケースがあると主張していたようです。

しかし、この計画は断念に追い込まれます。Browder氏によると、弁護士としての資格を持たないアプリが法律行為を行うことは軽犯罪にあたる可能性があるという指摘を受けたそうで、また、実際に法廷で正しく音声を聞き取れるのかどうかという点も怪しかったようです。

DoNotPayは社名が語るように、弁護士を雇う余裕のない人たちに向けたソリューションを目指しています。今回の事例はさすがに飛躍していましたが、高額請求や信用機関とのトラブルなど、社会にはまだまだ法律の力で回避できるシーンが多くあります。同社は今後、そういった小さな課題解決を目指すべく、AIをトレーニングしていくそうです。

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