事業サイドが考える「日本型CVC」像とは|日本型大企業とスタートアップ、協業成功のヒント #2

SHARE:

本稿はコーポレートアクセラレーターを運営するゼロワンブースターが運営するオウンドメディア「01 Channel」からの転載記事

前回からのつづき)01Booster CONFERENCE 2022のラストセッションでは「日本の事業創造、次の世界へ」と題して、日揮代表取締役社長執行役員の山田昇司氏と、ストライク代表取締役社長の荒井邦彦氏の対談セッションをお送りしました。CVC開始から1年。山田社長が感じた手応えをお話いただいた初回に続いて、話題は日本型CVCの在り方に移っていきます。

——とはいえ、大手企業とスタートアップの間には大きなギャップがあります。実際にCVCを運営する上で、このギャップを埋めるためにどういう工夫をされていますか?

山田さん:(事業会社から)ギャップを埋めるための努力は当然として、逆にスタートアップさんに何を求めるか? に立ち返って、我々事業会社サイドが考えることは必要かもしれません。私どもがスタートアップさんに資金を投入するにあたって期待することは、既存の事業に画期的な考え方を取り入れて、自分たちの事業を強化するか、スタートアップさんに場を提供して自分たちの事業を発展してもらうとか、“お互いに高めあって発展すること”を目指していきたいんですよね。

つまり、最終的にIPOして財務的リターンを求めるというのは一般的な投資家が考えることであって、我々が事業サイドとして、本質として求めていることではないんです。財務的リターン、言ってみれば“投入した資金を倍にして返せ”とか、そういう話はあまりしたくないですし、そういったことは実業の企業は考えるべきではないと思います。実業のためにスタートアップさんと一緒にやっていきましょうと。これが日本型のCVCじゃないかなと思いますね。

荒井さん:資金面で言えば、昔はお金を持っている人が偉かったんだけど、今は地位が下がっちゃっています。逆に今は、事業を生み出せる人に価値があるっていう流れになっていますよね。新しい事業に投資していくことが今まで以上に必要になっていくのではないでしょうか。

——お金そのものではなく、事業を生み出す価値の方が希少性が高くなっているということですね。ところで、脱炭素化など社会的な潮流のなかで、日揮さんをとりまく環境も大きく変化していると思うのですが、実際のCVCではどのような事例がありますか?

山田さん:日揮のCVCは今年で2年目に入りまして、今までで8件の実績があります。

荒井さん:それはすごいですね!

山田さん:全体としては100億円の枠組みを設けていまして、一号ファンドとして50億円の枠を設定しました。具体的には、再生可能エネルギー分野が3件、ライフサイエンス関連が3件、DX関連1件、環境分野1件の計8件。例えば業界の潮流が激変しているエネルギー分野では、京都大学発の京都フュージョニアリングという、核融合発電のスタートアップに支援をしています。

核融合発電とは、言ってみれば究極のエネルギーですよ。我々が持っている原子力関係の技術と組み合わせれば、核融合で日本の将来が大きく変わるかもしれませんので、それは非常に楽しみだな、と思っております。エネルギー分野ではペロブスカイトの太陽電池をやっているエネコート社も支援しています。

——日揮さんはエネルギー業界以外にも幅広く事業を展開されていて、さらにスタートアップでその領域を広げようとしています。その選択はどのようにしているんですか?

山田さん:2019年の分社化の際に、中長期計画として「日揮が将来あるべき姿」としての4領域を定めたんです。カーボンニュートラルへの貢献、人生100年時代の実現。産業のスマート化、そして強靭なインフラの構築。この4領域が軸としてあるので、スタートアップ企業を見る際も、その視点で見ているということですね。当社としては、この枠組みにはまってくる企業を探しています。

——非常に前向きでアグレッシブにされている反面、いろんな方向に新領域を広げていくのってけっこうご苦労が多いのではないかと想像するのですが。

山田さん:もうそれはね、本体の事業そのものがそんなに暇じゃないので(笑)、みんなすごく忙しくしている中で、新しいこと考えろといってもなかなか手が回らないところがあるので、スタートアップさんの力を借りるためにCVCをやっていると。先程の4分野も、やりたいと手を挙げてくれた社員がやってくれているんですけど、やはりもっと、私自身としても、もっと出てきて欲しい。とんがってきてほしいですね。

——とはいえ、多くの大手企業では、本業から新しい領域にいくことに苦労されているかと思います。その背景や理由はどんなところにあると思いますか?

荒井さん:大企業サイドから見た場合、スケール感のギャップはあると思います。「スタートアップのやっているところって面白いんだけれど、すぐにマーケット作れるわけじゃないよね」と。やはり兆円企業ともなれば、1000億の事業を作っても全体の10%でしかないわけで、やはり小さく見えてしまう。

山田さん:それに関しては将来的な姿を見て考えなければいけませんよね。私としては、本当のところはCVCとM&Aは社内的にあまりリンクしないのではないかと思っているんです。

スタートアップはスタートアップとして、投資してしっかりやってもらう、と。将来的にひょっとしたらスタートアップを組み込むということでM&Aもあるかもしれませんが。今、本当に苦労しているのが、経営人材が不足していることなんですよね。

荒井さん:そうなんですか。

山田さん:日揮は90年以上の歴史のなかで、企業を買収するようなことはほとんどなかったんです。自社を中心にオーガニックグロースしてやってきた、そんな会社がM&Aした会社を経営していくっていうときに、経営人材を送り込めない。経営を経験している人材が少ないという課題に直面したんです。経営人材がいて初めて、M&Aを通して自分たちとのシナジーを考えていけるわけですから、そのような人材をどうやって社内で育てていけばいいのかというのが最大の課題です。

荒井さん:確かに、M&Aを実行する際にも経営人材は希少性が高いですね。例えば事業承継だと社長がいなくなってしまうので、新たに社長となる人材を送らなくてはならない。そうすると、こちらから派遣できる人材がいないことがネックとなって、事業承継自体が検討できなくなってしまうことはあります。

——何か解決策はあるのでしょうか?

荒井さん: M&A仲介業の立場で考えると、サーチファンドが1つの答えかもしれないですね。やりたい人が手を挙げて、自分で事業を探してくる。人を先につけてしまって、後からお金を出すと。

——日揮さんでは、教育や採用などの打ち手は打っていらっしゃいますか?

山田さん:打ち手として検討しているのが、日揮が資金を投入している関連会社があるので、そういうところに、人材を送るなどですね。今までは関連会社へは「行きっぱなし」の人材を送り込んだりしていたんですよ。本社でのキャリアが登り切った後、次のポジションとして関連会社に行ってもらっていた。

そうではなくて、若いうちから送り込んで、経営を経験してから本社に戻ってきてもらうと。そういうことを年単位で、会社のシステムとして入れていくことで、時間はかかりますが経営人材を増やしていく。そうしないと、せっかくM&Aをしてもその会社を運営できなかったらM&Aの意味がないですから。

そういった意味合いでも、スタートアップ投資をし続けることが極めて重要です。人材交流をしていく中で次世代の経営人材を育てていく。それが企業としての強さになっていくはずです。

次回につづく:スタートアップのM&Aで考えたい「失敗」のこと|日本型大企業とスタートアップ、協業成功のヒント #3

BRIDGE Members

BRIDGEでは会員制度の「Members」を運営しています。登録いただくと会員限定の記事が毎月3本まで読めるほか、Discordの招待リンクをお送りしています。登録は無料で、有料会員の方は会員限定記事が全て読めるようになります(初回登録時1週間無料)。
  • 会員限定記事・毎月3本
  • コミュニティDiscord招待
無料メンバー登録