独自の製品を作る前に、リミックスの方法を学ぼう【ゲスト寄稿】

本稿は、Cherubic Ventures(心元資本)によるものだ。2014年に設立された同社は、アメリカとアジアの両方で活動するアーリーステージ・ベンチャーキャピタルであり、運用総資産(AUM)は4億米ドルだ。シードステージ投資を中心に、次の象徴的な企業の最初の機関投資家になることを目指し、大きな夢と世界を変える勇気を持つ創業者を支援している。同社は、サンフランシスコ、シンガポール、台北に拠点を置いている。

英語によるオリジナル原稿は Cherubic Ventures の Web サイトで読める。(過去の寄稿

This guest post is authored by Cherubic Ventures. Founded in 2014, they are an early-stage venture capital firm that’s active in both the US and Asia, with a total AUM of 400 million USD. Focusing on seed stage investments, Cherubic aims to be the first institutional investor of the next iconic company and back founders who dare to dream big and change the world. Their team sits across San Francisco, Singapore, and Taipei.

The original English article is available here on the Cherubic Ventures website.


DJ in the Mix – Free Photoby Viktor Hanacek via Picjumbo

すでにあるものをコピーすることと、次のものを想像すること。創業者のスキルとして最も重要なのはどちらだと思うだろうか? ほとんどの人は後者を選ぶだろう。しかし、私は実際には前者、または、前者の「××バージョン」というものを選ぶ。音楽業界の言葉を借りるなら「リミックス」だ。

まず、私のリミックスの定義を説明しよう。これは、既存の素材を模倣し、転換させ、新しいものに組み替えることだ。模倣とは、過去の芸術作品の成功のエッセンスが何であったかを学び、そこからインスピレーションを得ることであり、転換とは、元の作品の枠を破ることであり、組み替えとは、異なる作品の要素を取り入れ、それらを統合することである。このプロセスは、まったく新しいアイデアを形成するプロセスと強く似ていると思わないだろうか。

事実、コンテンツの創造やビジネスの確立、そして一般的に人間の文化のほとんどは、何らかの形で、異なる既存のものを組み合わせることから生まれている。基本的に、著名な芸術家たちは皆、最初は他人の模倣からスタートし、徐々に自分のスタイルを確立していった。ビジネス面では、Google が世界最大のオンラインポータルとして成功したのは、オリジナルのコンテンツを作ったからではなく、他人のコンテンツを整理し、再生し、リミックスしたからだ。

もしすべての独創的なアイデアが、それを思いついた人にしか使われないとしたら、大量のイノベーションが市場から消えてしまうだろう。もし、携帯電話の位置情報機能のアイデアがリミックスの対象にならなかったら、Google Maps や Uber が存在しただろうか? また、タッチスクリーン技術を連携できなかったら、今日のスマートフォンはどうなっていたか想像してみてほしい。

リミックスで重要なのは、オリジナル版のエッセンスを抽出した後、それを市場の需要に合わせて最適化し、新しいだけでなくオリジナルの価値を超えるものを生み出すことだ。

例えば、初期の iPhone の大きなセールスポイントはタッチスクリーンだった。当時、タッチスクリーン技術は大型のインタラクティブボードにしか使われていなかった。Apple は、携帯電話にタッチスクリーンを組み込んだ最初の企業であり、この技術を前進させ、携帯端末の標準的な構成にした。

Steve Jobs 氏はかつてインタビューで、Apple 製品が競合他社にコピーされることをどう思うかと聞かれ、「優れた芸術家はコピーをし、偉大な芸術家は盗む」と単刀直入に答えた。

ビジネスにおけるリミックスのもうひとつの形は、マーケティングイノベーションにおいてよく見られる。例えば、Apple と Hermes(エルメス)のようなブランドがコラボして、テクノロジーと高級ファッションを融合させた時計バンドを作ったり、ブティックヨーグルトブランド「Matthew’s Choice(馬修厳選)」がバブルティーショップや有名デザート店と組んで新商品を発表したりする。これは両ブランドの認知度を高めるだけでなく、新たな顧客層を惹きつけ、新たな市場を開拓する。

TikTok の登場以来、リミックスは Z 世代の常識となっている。TikTok のバイラル短尺動画は、既存の動画からダンスを真似たり、名曲にリップシンクして遊んだり、スピードを変えたり、ピッチを調整したり、異なるビートをブレンドしたりして新しいバージョンを作ったりと、リミックスのコンセプトに根ざしていることが多い。

TikTok では、曲のスピードアップに特化したアカウントが40万人以上のフォロワーを獲得している。Warner Music が Spotify で展開しているスピードアップした音楽チャンネル「sped up nightcore」は、月間,1300万人以上のリスナーを集めている。おそらく将来的には、どの曲もヒップホップ、アコースティック、ダンスなど、さまざまな聴衆の好みに合わせた複数のジャンルバリエーションを持つようになるだろう。

著作権の帰属が明確である限り、コンテンツのリミックスはクリエイター、リミキサー、リスナーにとって Win-Win の状況をもたらす。リミキサーにとっては、既存の素材から積極的に取り入れることができるため、創造性は偶然のひらめきを待つことだけに依存することはない。オリジナルのクリエイターにとっては、作品の再マーケティングに役立つだけでなく、著作権の帰属が明確なリミックスは、新たな収入源を生み出すことができる。視聴者にとっても選択の幅が広がる。

グラミー賞受賞アーティストの Kimbra は最近、自身の最新シングルをオープンな音楽著作権プラットフォーム「Oursong」で公開し、他のクリエイターがリミックスできるようにした。たった1曲で、200以上のリミックスバージョンが集まった。将来的には、オリジナルクリエイターの同意があれば、これらのリミックスは Oursong を通じて Spotify のような音楽ストリーミングプラットフォームに直接アップロードすることができるようになり、クリエイターにさらなる収入をもたらすだろう。

これらの例はすべて、イノベーションの鍵は常に100%オリジナルであることではないということを思い出させてくれる。むしろ、インスピレーションの断片の中から可能性のある要素を見つけ、それを転換させ、組み替え、市場の需要に基づいて継続的に反復することなのだ。このアプローチによって、サービスを待っている未満足の顧客の宝庫を発見することができる。

※ Matthew’s Choice と Oursong は、Cherubic Ventures の投資先である。

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