「DAO TOKYO 2024」が開幕、DAOの資金管理・組織運営など最前線のエキスパートが議論

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Image credit: Masaru Ikeda

東京を拠点とする Web3特化型インキュベータ Fracton Ventures は、都内でカンファレンス「DAO TOKYO」を21日と22日の2日間にわたって開催している。Web3 を実現する仕組みの一つで、ブロックチェーン技術を活用した分散型自律組織(DAO)関連のビジネスや組織に関わる人々が一堂に会し、議論を重ねたり、親交を深めたりするためのイベントだ。今年で2回目を迎える DAO TOKYO には、世界中から数百名の人々が集まった。

21日の午前中には、DAO のトレジャリーに関するパネルディスカッションが持たれた。DAO のトレジャリーとは、コミュニティの活動で使用される資金のことだ。一般的に DAO のトレジャリーはブロックチェーン上で透明性を持って公開されるが、法やセキュリティのリスク、資金運用に関して合意を得る複雑なプロセス、運用の効率化などいくつかの課題がある。このセッションでは、DAO の資金管理や投資戦略、報酬体系、セキュリティなど、幅広いトピックについて議論が交わされた。

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パネリストには、分散型金融(DeFi)のトレジャリーマネジメントサービスを提供する karpatkey のガバナンスリード Coltron 氏、Web3 雇用のための報酬プラットフォーム「Toku」の共同創業者 Dominika Stobiecka 氏、DeFi デリバティブ市場を牽引する Cega の共同創業者兼 CEO 豊崎亜里紗氏が登壇した。モデレータは、アメリカ・サンフランシスコを拠点に、Web3 のリスク管理サービスを提供する Webacy の CEO 五十川舞香氏が務めた。

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DAO 資金管理のポイント

セッションの冒頭で議論されたのは、DAO の資金管理におけるアプローチについてだ。Coltron 氏は、まず DAO の目的を明確にすることの重要性を強調した。Coltron 氏は ENS(Ethereum Name Service)の例を挙げ、明確なフレームワークとマンデートを持つことの重要性を指摘した。

重要なのは、DAO の意図は何かということです。サービスプロバイダにとっても、DAO にとっても、これを明確にしておくことが非常に重要です。DAO はサービスプロバイダを招き入れる前に、実際のフレームワークを整える必要があります。ENS は非常にうまくやっていました。フレームワークを整え、意図を持ち、RFP(提案依頼書)プロセスを経て、マンデートが非常に明確でした。サービスプロバイダとして参加する際、仕事が非常にやりやすくなります。

karpatkey のガバナンスリード Coltron 氏
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DAO ごとに異なるリスクプロファイルの管理方法について、Coltron 氏は、具体的な戦略を決定する前に、DAO のコントリビュータやオペレータとの議論が不可欠だと強調した。

DAO によってリスクプロファイルは異なります。歴史的に見て、karpatkey は一般的に低利回りでリスク回避型の戦略を好んできました。資本保全に重点を置いた戦略です。しかし、今日の市場では、より高い利回りへの需要が高まっているのを感じています。DAO のコントリビュータやオペレータと話し合い、具体的な内容を詰める必要があります。そうすることで、戦略を実行する際に、なぜその戦略を選んだのかが非常に明確になります。

DeFi オプションの多様性

Cega の豊崎氏は、現在の DeFi エコシステムにおける課題と、DAO の資金管理におけるオプションについて詳しく説明した。そして、DAO のポートフォリオ最適化の重要性を強調した。

現在の DeFi には大きな問題があります。リスクプロファイルの両極端にある2種類の利回りしかないのです。非常にリスクの高いパーク(編注:例えば、イールドファーミング=DeFi サービスに資産を貸し出して金利や手数料収入を得る、などを指すと見られる)やミームコインに投資するか、(マルチプラットフォームステーキングソリューションの)Lido やバリデータになることで米国債利回りを下回る投資をするかのどちらかです。

この問題に対処するため、豊崎氏は DAO のポートフォリオ最適化の重要性を強調し、DAO の成熟度に応じた投資戦略の変化を提案した。

Cega の共同創業者兼 CEO 豊崎亜里紗氏
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まず考えるべきは、あなたの DAO に最適なポートフォリオ構成です。伝統的な金融本「ウォール街のランダム・ウォーカー(バートン・マルキール 著、井手正介 訳、日本経済新聞出版社 刊 )」は、若いうちは多様な利回りに投資し、ある程度の市場リスクを取るべきだと述べています。そして成熟するにつれて、より保守的な戦略にフォーカスすべきだと。これは DAO にも当てはまると思います。

立ち上げたばかりの時は、イーサリアムのようなブルーチップに資金の一部を配分し、市場の動きに乗るのも良いでしょう。なぜなら、DAO の存在自体が市場の成長と相関関係にあるからです。しかし、大規模な DAO に成長したら、karpatkey のようなパートナーに資金管理を任せるのが良いでしょう。彼らは異なる利回りオプション間の最適な配分について、非常に洗練された理解を持っています。

彼女は具体的な投資先として、貸借では「Aave」、ステーブルコイン利回りでは分散型金融プロトコル「Curve Finance」、オプションでは Cega など、各カテゴリのリーダー的存在と協力することで、リスク管理された安定したリターンを生み出せると提案した。

DAO の報酬構造

Toku の共同創業者 Dominika Stobiecka 氏は、DAO の報酬構造について詳しく解説した。Stobiecka 氏は、まず予算設定の重要性を指摘した。

投資の観点からどこから始めるかを考える前に、まず「予算はいくらか」という問いに答える必要があります。興味深いことに、多くのプロジェクトでは報酬が運用予算の大半を占めています。出発点として、実際に持っている資金は何か、投資したい資金は何か、成長を加速させるために使いたい資金は何かを把握することが重要です。最近では、個人を雇うのではなく、特定のトピックに関する深い専門知識を持つサービスプロバイダを招聘するという考え方が一般化しつつあります。

Toku の共同創業者 Dominika Stobiecka 氏
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Stobiecka 氏は、報酬が DAO の長期的な目標と密接に結びついている必要性を強調した。報酬は運用予算の大きな部分を占めるため、DAO の長期的な目標と密接に結びついている必要があるという。彼女は具体的な報酬モデルについて、次のようなバリエーションをあげた。この中でも、DAO でフルタイムで働く場合は課題も多い。Toku が特に解決しようとしている問題の一つは、DAO で働いた場合の納税方法や、雇用規制の観点から少し構造化されていない場合のビザ取得方法だという。

  1. プロジェクトベース …… ガバナンス提案を通じて、特定の目的のために3ヶ月、6ヶ月、1年といった期間で人材を招聘する。
  2. 助成金 ……特定のプロジェクトや取り組みに対して資金を提供する。
  3. 遡及的資金提供 …… 成果に応じて事後的に報酬を支払う。
  4. バウンティプログラム …… 小規模な作業に対して報酬を支払う。複数の DAO のために同時に作業を行うことも可能。
  5. フルタイム雇用 ……DAO の成熟に伴い、フルタイムで働く人材が増加している。

DAO のセキュリティ課題

Webacy の CEO 五十川舞香氏
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モデレーターの五十川氏は、DAO のセキュリティに関する問題を提起した。五十川氏によると、DAO のセキュリティには主に2つの側面がある。資金へのアクセスとガバナンス提案への投票だ。

多くの DAO 資金は Gnosis Safe(Gnosis が開発したマルチシグ対応のデジタルアセット管理プラットフォーム)やマルチシグを使用しており、そのセキュリティは比較的良好です。しかし、誰かの秘密鍵が侵害されるケースもあります。マルチシグであれば通常は問題ありませんが、例えば L2 で多くの名前を持つ場合、1人がすべてのマルチシグにアクセスできるようなケースもあります。これらはリスク管理が必要な状況です。

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また、ガバナンス提案に関しては、スパムやシビル攻撃(悪意のある攻撃者がブロックチェーン・上に複数の偽の ID やノードを作成し、不当な影響力や支配力を得ようとする行為)の検出が困難になっているという課題がある。五十川氏は、投票に関して、何がスパムで何がシビル攻撃なのかを判断するのが難しくなっているという。非常に成熟したシビルシステムとシビル攻撃者が存在しているためだ。この問題に関連して、Coltron 氏は「AI 委任者(AI delegates)」の出現という新たな課題を提起した。

最近、我々が関わっているプロトコルの1つで、本質的に AI 委任者に関する議論がありました。これは注目すべきトピックですが、実際に AI のフォーラム投稿や AI アカウントを立ち上げている人がいて、かなり説得力がありました。私自身、かなりインサイトがあると思っていますが、これは本当に現実なのかと思う瞬間がありました。これは継続的に進化していくものだと思います。資金が大規模である限り、何かを利用しようとする試みは常にリスクとして考慮しなければならないでしょう。

DAO の投資戦略——安全 vs. リスク

パネルの後半では、DAO が現在の暗号資産環境を考慮して、よりリスクの高いアプローチを取るべきか、それともより安全なアプローチを取るべきかという問題が議論された。豊崎氏は、まず安全な選択肢から始めることを推奨した。一方で、一定のリスクを受け入れながら、より大きなリターンを目指すことができる選択肢もある。Cega に扱うオプション商品は20〜25%の利回りがあり、L2 トークンのステーキングも同様の利回りがあるという。

私は常に、まず安全な選択肢から始めることに焦点を当てています。暗号資産と従来の市場を比較すると、検証サービスや Lido、あるいはトークン化米国債は、ポートフォリオにおける債券のようなもの(利回りも低いがリスクも低い)だと考えています。伝統的な市場では、60%を安全資産に、40%をリスクのある資産に配分するのが最適とされています。DAO のポートフォリオでも、リスク選好に応じて60% から70% をトークン化米国債や Lido に配分し、残りを他の選択肢にに配分することができるでしょう。資金の40% をそこに分散投資することができます。L2 トークンのステーキングも同様の利回りがあります。

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Coltron 氏は、DAO の成熟度に応じてリスクプロファイルを変更する「ライフサイクルファンド(ファンド・オブ・ファンズの一形態で、年金運用など中長期運用の投資家向けに設計された投資信託)」のアイデアに興味を示した。

正直なところ、私たちはこれまでそのような完全なアナロジーで考えたことはありませんでした。ENS と仕事をしていますが、ENS は自分たちの重みと立場を考慮しています。内部で行われていた議論は、このプロトコルに依存している人が多いので、これらの資金は安全である必要があるというものでした。そのため、よりリスクの低い戦略に傾いていました。

Coltron 氏は、リスクと利回りの相関関係を指摘しつつ、投資方針書の重要性を強調した。

利回りはリスクと相関しています。完全にブーストされたプールでない限り。だからこそ、優先順位を決める必要があります。これは、投資方針書やこれらの基本的なフレームワークが必要な理由でもあります。期待値が明確になり、それらの決定がより容易になります。

豊崎氏は、多くの DAO 資金がデルタニュートラル戦略のみを採用している点に疑問を投げかけた。デルタニュートラルとはオプション取引の手法の一つで、市場リスクを全く取らない、つまり市場が上がるか下がるかの方向性リスクをゼロにする戦略だ。原資産の価格がどちらに変動しても、変動の幅が同じであれば同等の損益が生まれる、

伝統的な市場でも、ファンドは完全にデルタニュートラルなアプローチを取っていません。20%のリターンで1%未満の市場リスクを取る取引は、非常に良い取引です。人々は1%のリスクに対して過度の恐怖や不確実性、疑念を抱きがちですが、期待値を見れば、20%の利回りで1%のリスクボラティリティの資金運用は、3%の利回りで0%のリスクボラティリティの運用よりもはるかに収益性が高いのです。DAO の資金管理においても、完全にデルタニュートラルではない戦略を検討する価値は大いにあると考えています。

DAO の税務管理

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複雑な投資戦略を採用する DAO にとって、税務管理は避けて通れない課題だ。この問題について Toku の Dominika Stobiecka 氏は、DAO の法的構造に焦点を当てて説明した。Stobiecka 氏によると、DAO の法的構造には大きく分けて2つのアプローチがあるそうだ。

  • 管轄区域や法人化を避けるアプローチ …… このアプローチを取る DAO は、責任に対する最大のエクスポージャーを持ち、税金に関しても最大のリスクを抱えることになる。規制当局は、このような DAO のコントリビュータを特定しやすいため、彼らを追及することに大きな関心を持っている。
  • 複数の法人格を設立するアプローチ …… DAO があり、財団があり、開発会社がある。これらは分離されている、同じエコシステムの一部として、特定のプロトコルやアイデアの発展のために協働している。

Stobiecka 氏は、後者のアプローチの利点を強調した。

各エンティティには非常に特定の目的があり、規制の観点からも非常に異なる扱いを受けます。この分離は、異なるプール間で責任を遮断するのに役立ちます。

さらに、Stobiecka 氏は DAO が「インターネットに属し、どこにも属さない」という考え方の限界を指摘した。

長期的に持続可能なものを構築しようとするなら、コンプライアンスを維持する方法を考える必要があります。これは税金の観点だけでなく、コントリビュータをどのようにそれらのリスクにさらすかという観点からも重要です。

税金の扱いについて、Stobiecka 氏は次のように説明した。

税金の扱い方は法的構造に大きく依存します。利益が出て、エンティティが法人化されている場合、通常の企業と同じように法人税や資本利得税が課されます。これは良いことです。長期的に構築し、ルールに従っていることを誰にでも伝えられるよう、これらの確立されたフレームワークを活用したいのです。

最後に、Stobiecka 氏は DAO の運営者に対して、創造的なエネルギーを適切な分野に集中させるよう助言した。

時々見られるのは、人々(DAO の運営者)が間違ったことに革新しようとすることです。税金やコンプライアンスは、力を注ぐべき分野ではありません。創造的な精神力は、プロトコルやコミュニティなど、本当に重要なことに費やすべきです。

パネリストたちは、DAO の成長段階に応じて戦略を柔軟に変更することの重要性を強調し、同時に長期的な視点でのリスク管理と法令遵守の必要性を指摘した。今後、DAO はより複雑化・大規模化していくことが予想されるが、その中で、適切な資金管理戦略と運営体制の構築は、DAO の持続可能な発展に不可欠な要素となるだろう。

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