リモートワーク時代のチームビルディング革命ーーRetreatが切り拓く新・企業文化/山田俊輔 × ACV 林智彦【ACVポッドキャスト】

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

シリコンバレーにある若手の日本人向けのシェアハウス「テックハウス」。ここには、AI、Web3、メタバースなどの最先端分野でサービスを開発する、20代・30代の日本人起業家たちが集まっています。このコミュニティにおいて中心的な役割を果たす人物のひとりが山田俊輔さんです。

シリコンバレーを拠点に、リモートチーム向けのオフサイトミーティング支援サービス「Retreat」を展開されています。コロナ禍で急速に広まったリモートワークの課題に着目し、チームの結束力を高めるユニークなソリューションを提供しており、昨年には米国のトップティアVC「Andreessen Horowitz(a16z)」のスカウトファンドからも出資を受けるなど注目を集めています。そんな山田さんに起業からスケーリングまでの道のりと、ビジネス成功の秘訣を語っていただきました。

バーニングニーズを捉えたサービス立ち上げ

Retreatウェブサイトより

Retreatは、リモートワークが一般化する中で生まれた新しいニーズに応える形で誕生しました。山田さんは、多くの企業がリモートワークを導入したことで、従来のオフィス中心の働き方が変化し、チームメンバーが実際に会う機会が激減したことに着目します。

「例えばニューヨークの会社が、ヨーロッパとか、カナダとかいろんなところで仕事始めてしまって、コロナが終わってみんなで会おうよといってもなかなか会う機会を作ることができなくなってしまったんです」と山田さんは当時の状況を振り返ります。

この課題に対して、Retreatはチームビルディングの一環として、社員旅行などメンバーが集まる機会を提供するサービスを立ち上げました。しかし、こうしたイベントの計画や実施には多くの困難が伴います。特にHR担当者やオフィスマネージャーなど、普段このような業務を担当していない人々にとっては大きな負担となっていました。

山田さんは、この「バーニングニーズ」に応えるため、旅行代理店の資格を取得し、米国のトラベル機関ネットワークにも参加。ホテルの予約やフライトの手配、さらにはアジェンダ作りまで、オフサイトミーティングの全てのロジスティクスを一括して提供するサービスを構築しました。

「50名以上だとホテルのブッキングがすごく大変なんです。フライトとか、アジェンダ作りですね、その辺りを全部まるっと提供する」というRetreatのサービス内容は、多くの企業の悩みを解決するものでした。

山田さんは、このサービスの立ち上げにあたって、徹底的なユーザーリサーチを行いました。実際にHRの方々にインタビューを重ね、彼らの抱える課題や不安を深く理解することで、真に必要とされるサービスの形を見出していったのです。

シリコンバレーでのビジネス展開と人脈構築

Retreatで開催したカンファレンス

シリコンバレーでビジネスを展開する上で、山田さんが特に重視したのが人脈の構築です。投資家やメンターとの信頼関係を築くことが、ビジネスの成功に不可欠だと考えたのです。

「事業のアップデートなどは頻繁に共有するようにはしてます」と山田さんは語ります。エンジェル投資家やメンターに対して、定期的に事業の進捗状況を報告することで、常に関係性を維持する努力を続けているのです。

また、シリコンバレーの特徴的な文化であるミートアップやイベントにも積極的に参加しています。特に、有名投資家のJason Calacanisさんが主催するLaunchのイベントには頻繁に顔を出しているそうです。このような機会で世界的に有名なテック・タレントたちと出会えるのもシリコンバレーならではです。山田さんはJasonさんが主催する「This Weeks In Startups」の公開収録でゲスト側の方に座ったところ、Pinterestのファウンダーに遭遇したそうです。このエピソードからも分かるように、こうしたイベントは著名な起業家や投資家と出会える貴重な機会となっています。

「シリーズBとかCクラスとかが結構来るんで、そこでコネクションを作って、食事に行ったりしますし、その後飲みに行って仲良くなったりしてます」(山田さん)。

山田さんはこうした出会いを大切にし、その後の関係性構築にも注力しています。

リモートワーク時代のチームビルディングの重要性

Retreatを利用する理由

Retreatのプロダクト開発において、山田さんが特に注力したのが差別化戦略です。確かにチームミーティングのアレンジは大変ですが、参入障壁が高いかと言われると山田さんも「自分たちが普通に受託できるレベルに参入障壁は低い」と認識しており、他社との明確な差別化を図ることが大切です。そこで山田さんたちは差別化の一つの軸としてホテルとの強いコネクションづくりに注力したそうです。これが顧客に対する大きな価値提供につながっていると考えています。

グローバルで戦う醍醐味はマーケット規模にも現れます。山田さんの試算によれば、対象となる企業数は約340万社。ここに対して現在は顧客の幅を広げることに注力しており、例えばスクールトリップなど、新しい分野への展開も始めているそうです。

Retreatのサービスを通じて、山田さんはリモートワーク時代におけるチームビルディングの重要性を強く実感しています。オフサイトミーティングを通じて、普段は交流のない部署間のコミュニケーションが活性化したり、プロダクトや顧客への理解が深まったりする様子を目の当たりにしてきました。

「エンジニアチームとマーケティングチームって、リモートだったらどうしても話さない、もうなんかSlackも違うんじゃないかというレベルなんですけど、やはり実際の場で会うと(会話が弾んで)プロダクトの理解や、顧客理解はすごく深まるんです」(山田さん)。

また、投資家を招いてのオフサイトミーティングなども行われており、これらのイベントを通じて社員の帰属意識が高まったり、会社の目指す方向性への理解が深まったりする効果も見られるそうです。

山田さんは、オフサイトミーティングの効果を定量的に測定するため、アンケートやサーベイを活用しています。これにより、参加者の満足度や変化を把握し、次回のイベント改善にも活かしています。

興味深いのは、多くの企業が1回目のオフサイトミーティング後、必ず2回目を実施するという点です。これは、オフィスに費やしていた予算をオフサイトミーティングに振り替えることで、リモートワーク時代における新たなチームビルディングの形を見出しているためだと山田さんは分析しています。

Retreatのサービスは、単なる手配サービスにとどまらず、企業文化の形成や従業員のエンゲージメント向上に大きく貢献しています。リモートワークが一般化する中で、こうした「人と人とが実際に会う機会」の重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。山田さんの取り組みは、新しい働き方時代における企業運営の一つのモデルケースとなっているのです。

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