インドネシアで e ウォレットサービスを提供する Go-jek の Go-Pay は、過去2年間、常に国内トップの座を守ってきた。この状況が近い将来変わるようなことはあるのか? 東南アジアの配車サービス大手 Grab による、同社の e ウォレットサービス OVO と DANA を統合する計画について書かれた Reuters の独占報道は、すでに目にしたことがあるかもしれない。DANA は、Ant…
Image credit: Grab
インドネシアで e ウォレットサービスを提供する Go-jek の Go-Pay は、過去2年間、常に国内トップの座を守ってきた。この状況が近い将来変わるようなことはあるのか?
東南アジアの配車サービス大手 Grab による、同社の e ウォレットサービス OVO と DANA を統合する計画について書かれた Reuters の独占報道は、すでに目にしたことがあるかもしれない。DANA は、Ant Financial(螞蟻金融)と Emtek Group のジョイントベンチャーが運営する、インドネシアに重点を置く e ウォレットプラットフォームだ。
2019年の Q2には、Go-Pay のすぐ後ろに OVO が迫っている。レポートのインフォグラフィックに注目してみると、OVO が第2位の e ウォレットサービスの座をめぐって、しばらくの間 LinkAja(元 Tcash、主要な国有企業の後援を受けている)と競っていたことに気づくだろう。
また2018年 Q4に第4位の座からスタートした DANA が、すぐに LinkAja を4位に押しのけて3位の座にのし上がっている。
以上4つのプラットフォーム以降は、CIMB Niaga や BTPN など、民間銀行や国有銀行がローンチしたプラットフォームが占める。かつて国内トップの e ウォレットサービスだった Doku は、時代の変化を示すかのごとく、第9位の座におさまっている。
やれやれ、情報のつまった段落であった。
Image credit: Ovo
さて、留意しておかなくてはならない一連の情報はまだ他にもある。OVO が今では e コマースユニコーン Tokopedia の公式の e ウォレットサービスとなった。一方で DANA は、Bukalapak と一緒に e ウォレット「BukaDana」をローンチした(なぜって、DANA も Bukalapak も Emtek のポートフォリオだからである)。
Tech in Asia では、有料購読サービスを提供。有料記事の閲読、全記事への回数無制限閲読、5万社を超える企業データベースへの無制限アクセス、カンファレンスへの限定割引などの特典があります。詳しくはこちらから。 テックやスタートアップの界隈では、インドネシアはしばしば「Underbanked(銀行口座を持っていない)」というバズワードと関連付けられている。同国の経済はいまだに強く現金に基づい…
Tech in Asia では、有料購読サービスを提供。有料記事の閲読、全記事への回数無制限閲読、5万社を超える企業データベースへの無制限アクセス、カンファレンスへの限定割引などの特典があります。詳しくはこちらから。
この現状に対する1つの答えは e ウォレット、つまりユーザがデジタルでお金を貯めたり送金したりすることができるアプリであるようだ。インドネシアのモバイル機器の浸透率は高いが、例えば近隣のシンガポールとは違い、現地の決済エコシステムは Visa や Mastercard のような大手金融プレイヤーに支配されていない。その結果として、決済業界はディスラプションを起こすための機が熟している。
ジャカルタのあるショッピングモールには決済アプリのキャッシュバック・キャンペーンを告知する張り紙が並ぶ。 Photo credit: Tech in Asia
基本的な機能の面では多くの e ウォレットにあまり違いはない。大半の e ウォレットではユーザは電子的にお金を貯えることができ、それを送金や請求書への支払い、e コマースの買い物、通話クレジットやプリペイド型の e トークンなどデジタル商品の購入といった取引に使うことができる。
最も良い e ウォレットとは、オフラインの店舗と手を結ぶか、もしくは大きなユーザベースを持つ企業と独占的なパートナーシップを結ぶかして、巨大なエコシステムに統合されているものである。後者の例には、Grab や Tokopedia と提携した Ovo、もしくは Bukalapak と提携した Dana が挙げられる。配車サービスとの協力(Go-Pay や Ovo)は、その規模と取引頻度のため、明らかにアドバンテージがある。e コマース大手との協力(Ovo や Dana)にも同様のことが言える。
この争いの勝者が決まるにはまだほど遠い。これらのプレイヤーが積極的にリーチを広げるにつれて、インドネシア人にとってはスマートフォンの中に複数の e ウォレットを入れておくことが一般的になっている。そのため使う対象に応じて、普通はキャッシュバックという形で、最も良い見返りを提供してくれるものを利用することができる、
現在までのところ、37社の e ウォレット業者がインドネシア中央銀行から認可されており、そのうちの10社は過去1年間に運営を開始しものだ。
インドネシアで月間アクティブユーザ数の多いファイナンスアプリ(2019年2月現在)
提供元:AppAnnie
注:Go-Jek と Grab はファイナンスアプリのカテゴリに含まれていないが、もしこの2つを分析に加えるならば、月間アクティブユーザ(MAU)は Ovo を上回り、それぞれ第1位と第2位になる。
Dana の設立者は、インドネシアにおいて中国の Alipay(支付宝)のカントリーマネージャーを務めていた Vincent Henry Iswaratioso 氏である。このスタートアップは Alipay の技術を利用しているが、Alibaba がそれ以上の関与をしているかどうかは不明だ。Dana の主要な投資家はインドネシアのメディア関連複合企業 Emtek Group である。
Dana のローンチ以前に、Emtek Group は e ウォレット開発の Espay と、ペイメントゲートウェイの Doku という2社のフィンテック企業を買収しており、これによってインフラと、そして最も重要なこととして e マネーライセンスを入手した。
App Annie のデータによれば、MAU に基づいた順位では、Dana はインドネシアで第3位に位置している。また Emtek の別のポートフォリオ企業である e コマースマーケットプレイス Bukalapak 用の e ウォレットとしても使われており、Emtek がコンシューマー版を開発した Blackberry Messenger 上でも使うことができる。
他社との重要な違い:Dana は上位の e ウォレットの中では唯一、Alibaba Group(阿里巴巴集団)との直接的なつながりを持っている。だが興味深いことに、Alibaba が支援する Tokopedia とのパートナーシップは結んでいない。
他社との重要な違い:LinkAja は親会社の巨大なユーザベースへの自動的なアクセスを有している。Telkom の子会社 Telkomsel(シンガポールの SingTel が少数株主となっている)はインドネシア最大の携帯電話会社であり、LinkAja の別の親会社である Bank Mandiri はインドネシア最大の銀行である。
Ovo
タイプ:e ウォレット 関連企業:Grab、Tokopedia、Lippo Group
App Annie のデータによれば、インドネシアにおいて Ovo は MAU でトップのアプリである(付記:独立したアプリではない Go-Pay はここに含まれない)。複合企業 Lippo Group によって当初はリワードアプリとして開発されたこの e ウォレットは、50万店以上の店舗で使用できるとされている。
GrabPay の元トップ Jason Thompson 氏が CEO を務める Ovo は、インドネシアにおける Grab と Tokopedia のエコシステムの一部でもある。e ウォレットの GrabPay と TokoCash がライセンスの確保に失敗した後、このユニコーン2社は手を組み、最終的には Ovo に投資を行った。
KinerjaPay は e コマースプラットフォーム、e ウォレット、ペイメントゲートウェイを含む「オムニチャネル」な決済ソリューション一式を提供している。ユーザは KinerjaPay の Kmall e コマースプラットフォームや、同社のペイメントゲートウェイを使っている店舗で e ウォレットを使い商品を購入することができる。
2019年初頭、KinerjaPay はインドネシアの建設会社 Wahana Group から2億米ドルの投資を獲得した。また同社はアメリカ OTC 市場で上場されたインドネシア最初の e コマース企業という点で他社とは一線を画している。
一部のユニコーン企業にとっては、独自の e ウォレットを作り上げようとする試みは簡単な道のりではなかった。一例を挙げれば、Grab は他の市場で使われている GrabPay のシステムにインドネシア中央銀行の e マネーライセンスを獲得することができなかった。同様に Tokopedia と Bukalapak も獲得できなかった。
Go-Jek はすでにライセンスを持っていた MVCommerce を買収することで、幾分道のりを簡単にすることができた。一方で旅行のユニコーン企業 Traveloka は唯一、専用の e ウォレットを持っていないが、同社は分割払いや「後払い」のようなフィンテック製品の選択肢を提供している。
Ovo は最近 e コマースのユニコーン Tokopedia との提携を発表した。 Photo credit: Ovo
人気があるやり方は、Go-Jek の先例に倣うことのようだ。ライセンスを所持している e ウォレットとパートナーになる(Bukalapak と Dana のように)か、もしくは遠回りをして上記のような e ウォレットに投資を行う(Ovo と Tokopedia、そして Grab がそうしたと言われているように)かのどちらかである。
e コマースマーケットプレイスは、Kredivo や Akulaku のようないわゆる「デジタルクレジットカード」とも協力しているが、それらは一般的な e ウォレットと比べると、運用に多少の違いがある。これらの企業にはクレジットの要素があり、ユーザに今買って後で払うという買い方や、e コマースで分割払いによる買い物ができるようにしている。
Tech in Asia では、有料購読サービスを提供。有料記事の閲読、全記事への回数無制限閲読、5万社を超える企業データベースへの無制限アクセス、カンファレンスへの限定割引などの特典があります。詳しくはこちらから。 一般的なインドネシア人が株式市場に投資するのを手助けする新たなアプリが、大物投資家から支援を受けた 東南アジアの e コマースは過熱しているが、同地域の消費者はまだ e ウォレットよ…
Tech in Asia では、有料購読サービスを提供。有料記事の閲読、全記事への回数無制限閲読、5万社を超える企業データベースへの無制限アクセス、カンファレンスへの限定割引などの特典があります。詳しくはこちらから。
一般的なインドネシア人が株式市場に投資するのを手助けする新たなアプリが、大物投資家から支援を受けた
東南アジアの e コマースは過熱しているが、同地域の消費者はまだ e ウォレットよりも現金を好んでいる。
2017年のインドネシアのデジタルな買い物では代金引換が3分の2以上を占め、クレジットカードが使われたのは約20%だったと eMarketer は報告している。2016年の現金以外の支払いは、インドネシアとフィリピンでそれぞれ取引の30%と24%だけであったと Oliver Wyman の報告は示している。モバイル決済は両国ともに約0.1%かそれ以下であった。
Photo credit: Ant Financial(螞蟻金融)
近隣の中国がおそらく世界で最も強固なモバイル決済手段を持っていることを考えれば、東南アジアで e ウォレットの受け入れが遅いのは奇妙に思えるかもしれない。テック大手の Alibaba(阿里巴巴)と Tencent(騰訊)は Alipay(支付宝)と WeChat Pay(微信支付)でこの分野を支配している。
ある意味では、中国で e ウォレットが成功していることは、中国市場の状況が他では再現困難であることを浮き彫りにしていると言える。しかし東南アジアがキャッシュレスな世界へと顧客を向かわせたいのであれば、そこから学べることもある。
マレーシアでは、72%の人がモバイル決済に安全面の懸念を持っているが、見返りがあればもっと e ウォレットを使うようになると55%の人が答えていることを、2016年に Nielsen が見出した。フィリピンとシンガポールでもそれぞれ回答者の63%と58%が見返りについて同じように答えた。
モバイル決済を使う別の理由は会計時間の速さである。インドネシア、タイ、ベトナムのそれぞれ65%の回答者は、それがモバイル決済を使うためのより良い動機付けになると答えた。これはすでに中国中の飲食店で実施されており、たとえば、消費者は列に並んでいる間やテーブルに座っている間に QR コードを読み取り即座に注文することができる。
惹かれるものがなければ消費者は e ウォレットへと変える理由がほとんどないため、サービス提供者はサービスを魅力的にしようと努力している。WeChat、GrabPay、Go-Pay はピアツーピアの決済を提供し、ユーザ間の資金の移動を容易にしている。現在マレーシアで利用可能な Razer Pay はセブンイレブン店舗で購入できる暗証番号で e ウォレットに残高を追加できるようにしている。Go-Pay は人々がモバイル決済を試してみるよう、20%と50%のキャッシュバックの提供も11月に始めた。
だが新たなユーザを得ることは難しい。クレジットカードやデビットカードはもっとシンプルで、しばしば e ウォレットよりも信頼度が高い。多くの場合、e ウォレットはそういったカードの中間的なものとしても使われる。
3.Alibaba と Tencent は店舗を巻き込んでいる
当然ながら、e ウォレットは店舗を巻き込まないとユーザを集めることはできない。これは e ウォレットが実店舗で競争を始めてから Alibaba と Tencent が非常に上手くやったことである。
両社は早くから、未発達な市場の店舗経営者は設備の更新に大きな投資が必要となるモバイル決済という選択肢をあまり受け入れたがらないだろうということを分かっていた。アメリカでは多くの決済端末が Apple Pay や Google Pay を受け入れるために NFC(近距離無線通信)に対応するようアップグレードしなければならなかった。
中国では誰でも QR コードをプリントアウトし、それをスキャンして支払うということができる。消費者が携帯電話上で QR コードをスキャンし支払いを行えるよう、多くの決済端末がアップグレードし、この動きを加速させてきた。これは中国ではどこにでもある決済の方法となり、QR コードリーダーでキオスクやマクドナルドでの決済を自動化させている。シンプルだが効果的なモバイル決済の実施方法だ。
店舗にとっては取引ごとに一定の割合でクレジットカード会社に取られるインターチェンジフィーが、常に障害となる。Apple Pay と Google Pay はクレジットカードの情報を保存しアプリ内に蓄えられたカードに直接請求する仕組みであり、インターチェンジフィーは変わらずある。このプロセスは e ウォレットを現状に比べてあまり画期的なものとはせず、店舗が新技術採用のために今までのやり方を変える理由にはならない。
東南アジアにおける決済の未来は、その未来が中国と似たものになるかどうかに関わらず、モバイルである。Euromonitor International のデータによれば、東南アジアのモバイル決済はタイとインドネシアが先頭に立ち、2016年の100億米ドル以下から2021年までに310億米ドルへと成長すると見られている。
インドネシアのオンデマンド配車アプリ Go-Jek が、シンプルな e ウォレットを導入したのは少し前のことだ。ユーザはアプリ上でクレジットを保管し、運賃の支払いやサービスなどの購入にあてることができる。クレジットポイントは e ウォレットの残高から差し引かれるため、現金を扱う面倒を省くことができる。Go-Pay クレジットは、運賃の支払い以外に、アプリ経由でサービスやアイテムを購入する際にも使用…
インドネシアのオンデマンド配車アプリ Go-Jek が、シンプルな e ウォレットを導入したのは少し前のことだ。ユーザはアプリ上でクレジットを保管し、運賃の支払いやサービスなどの購入にあてることができる。クレジットポイントは e ウォレットの残高から差し引かれるため、現金を扱う面倒を省くことができる。Go-Pay クレジットは、運賃の支払い以外に、アプリ経由でサービスやアイテムを購入する際にも使用できる。