激しさを増すインドネシアのeウォレット競争、その主なプレイヤーとは?

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テックやスタートアップの界隈では、インドネシアはしばしば「Underbanked(銀行口座を持っていない)」というバズワードと関連付けられている。同国の経済はいまだに強く現金に基づいている。多くのインドネシア人は銀行口座を持っていないが、持っていたとしても現金以外の支払方法では、クレジットカードではなく銀行間振替を選ぶ。

この現状に対する1つの答えは e ウォレット、つまりユーザがデジタルでお金を貯めたり送金したりすることができるアプリであるようだ。インドネシアのモバイル機器の浸透率は高いが、例えば近隣のシンガポールとは違い、現地の決済エコシステムは Visa や Mastercard のような大手金融プレイヤーに支配されていない。その結果として、決済業界はディスラプションを起こすための機が熟している。

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ジャカルタのあるショッピングモールには決済アプリのキャッシュバック・キャンペーンを告知する張り紙が並ぶ。
Photo credit: Tech in Asia

基本的な機能の面では多くの e ウォレットにあまり違いはない。大半の e ウォレットではユーザは電子的にお金を貯えることができ、それを送金や請求書への支払い、e コマースの買い物、通話クレジットやプリペイド型の e トークンなどデジタル商品の購入といった取引に使うことができる。

最も良い e ウォレットとは、オフラインの店舗と手を結ぶか、もしくは大きなユーザベースを持つ企業と独占的なパートナーシップを結ぶかして、巨大なエコシステムに統合されているものである。後者の例には、Grab や Tokopedia と提携した Ovo、もしくは Bukalapak と提携した Dana が挙げられる。配車サービスとの協力(Go-Pay や Ovo)は、その規模と取引頻度のため、明らかにアドバンテージがある。e コマース大手との協力(Ovo や Dana)にも同様のことが言える。

この争いの勝者が決まるにはまだほど遠い。これらのプレイヤーが積極的にリーチを広げるにつれて、インドネシア人にとってはスマートフォンの中に複数の e ウォレットを入れておくことが一般的になっている。そのため使う対象に応じて、普通はキャッシュバックという形で、最も良い見返りを提供してくれるものを利用することができる、

現在までのところ、37社の e ウォレット業者がインドネシア中央銀行から認可されており、そのうちの10社は過去1年間に運営を開始しものだ。

インドネシアで月間アクティブユーザ数の多いファイナンスアプリ(2019年2月現在)

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提供元:AppAnnie

注:Go-Jek と Grab はファイナンスアプリのカテゴリに含まれていないが、もしこの2つを分析に加えるならば、月間アクティブユーザ(MAU)は Ovo を上回り、それぞれ第1位と第2位になる。

Dana

タイプ:e ウォレット
関連企業:Alipay、Emtek Group、Bukalapak、Blackberry Messenger

Dana の設立者は、インドネシアにおいて中国の Alipay(支付宝)のカントリーマネージャーを務めていた Vincent Henry Iswaratioso 氏である。このスタートアップは Alipay の技術を利用しているが、Alibaba がそれ以上の関与をしているかどうかは不明だ。Dana の主要な投資家はインドネシアのメディア関連複合企業 Emtek Group である。

Dana のローンチ以前に、Emtek Group は e ウォレット開発の Espay と、ペイメントゲートウェイの Doku という2社のフィンテック企業を買収しており、これによってインフラと、そして最も重要なこととして e マネーライセンスを入手した。

App Annie のデータによれば、MAU に基づいた順位では、Dana はインドネシアで第3位に位置している。また Emtek の別のポートフォリオ企業である e コマースマーケットプレイス Bukalapak 用の e ウォレットとしても使われており、Emtek がコンシューマー版を開発した Blackberry Messenger 上でも使うことができる。

他社との重要な違い:Dana は上位の e ウォレットの中では唯一、Alibaba Group(阿里巴巴集団)との直接的なつながりを持っている。だが興味深いことに、Alibaba が支援する Tokopedia とのパートナーシップは結んでいない。

Go-Pay

タイプ:e ウォレット
関連企業:Go-Jek

Go-Pay は Go-Jek アプリ内部に埋め込まれている支払機能である。当初は Go-Jek エコシステム内の取引に使われていたが、現在ではオフラインでも使用することができ、合わせて30万店の参加店舗に受け入れられている。

ユニコーン企業の中でも Go-Jek は早いうちからデジタル決済に向けて動き、2016年には決済企業 MVCommerce を買収していた。これによって Go-Jek は必要不可欠なインドネシア中央銀行の e マネーライセンスを入手したが、このライセンスは Grab や Tokopedia、Bukalapak などがまだ手にしていないものである。

同社のスーパーアプリのさらなる成功を目指して、Go-Jek は2017年に優れたオフライン決済処理業者の Kartuku を含む、フィンテック企業3社の買収も行った。

他社との重要な違い:Go-Jek アプリに統合されているため、配車サービスや Go-Food の食品配達など、このスーパーアプリが提供するサービスの大部分の取引に独占的な権限を有しており、競争相手は現金のみである。ユーザは Go-Jek の運転手を通じて Go-Pay の残高を補充することができ(ユーザは運転手に現金で払い、運転手はその額を自身の Go-Pay 残高から送金する)、これは他の e ウォレットにはない利点となっている。

また Go-Pay はブランドの認知度でアドバンテージがあるため、業界内で先行者となることもできる。

LinkAja

タイプ:e ウォレット
関連企業 :4つの国有銀行とインドネシア最大の通信事業者

インドネシアにおけるデジタル決済に向けた民間のダイナミックな拡大を目にし、4つの国有銀行と同国最大の通信事業者 Telkom は、それぞれが持っていたモバイル決済サービスを LinkAja という1つのプラットフォームに融合させた。通常の決済サービスと共に、LinkAja は保険のようなサービスにも参入するものと見られている。

LinkAja は2019年3月にローンチしたばかりであるが、Telkom の T-Cash というよく知られていたアプリを前身としている。フィンテックアプリに関する App Annie のデータによれば、MAU に基づいたランキングでは、T-Cash は Ovo に次いでインドネシアで第2位につけていた。

他社との重要な違い:LinkAja は親会社の巨大なユーザベースへの自動的なアクセスを有している。Telkom の子会社 Telkomsel(シンガポールの SingTel が少数株主となっている)はインドネシア最大の携帯電話会社であり、LinkAja の別の親会社である Bank Mandiri はインドネシア最大の銀行である。

Ovo

タイプ:e ウォレット
関連企業:Grab、Tokopedia、Lippo Group

App Annie のデータによれば、インドネシアにおいて Ovo は MAU でトップのアプリである(付記:独立したアプリではない Go-Pay はここに含まれない)。複合企業 Lippo Group によって当初はリワードアプリとして開発されたこの e ウォレットは、50万店以上の店舗で使用できるとされている。

GrabPay の元トップ Jason Thompson 氏が CEO を務める Ovo は、インドネシアにおける Grab と Tokopedia のエコシステムの一部でもある。e ウォレットの GrabPay と TokoCash がライセンスの確保に失敗した後、このユニコーン2社は手を組み、最終的には Ovo に投資を行った。

直近では、同社はピアツーピア(P2P)貸金業者のスタートアップ Taralite を買収し、貸金業にも進出している。

他社との重要な違い:Ovo はオフラインの店舗獲得において最初にスタートを切っている。複合企業 Lippo Group とのつながりは、Ovo に Lippo のショッピングモール(およびその店舗ら)や、とりわけ Matahari デパートチェーンへのアクセスを与えた。Go-Pay とは違って独立したアプリであるために、Ovo は Tokopedia のような他社と協力してユーザベースをスケールすることも容易だ。

ShopeePay

タイプ:e ウォレット
関連企業:Shopee

インドネシアで最新の e ウォレットの1つである ShopeePay を支援するのは、(当然ながら)地域の e コマース大手 Shopee であり、同業の Garena の子会社 AirPay とも提携している。他の e ウォレットとは違い、まだ新しいためか、今のところ ShopeePay を使うことができるのは Shopee 内の取引だけである。

決済エコシステム内におけるその他のプレイヤー

Jenius

タイプ:デジタルバンキング
関連企業:Bank BTPN(現地の銀行)および日本の三井住友銀行

Jenius は、最近日本の三井住友銀行(SMBC)の現地子会社と合併した、インドネシアの Bank BTPN によるデジタルバンキング商品である。これを使うことでユーザは、銀行口座を開くことなく、Jenius に実物のデビットカードを申し込むことができる。また、銀行口座と同じような貯蓄の仕組みを、年利5%にも達し得る金利と共に提供している。

決済の面では、ユーザは Jenius を使って Go-Pay や Ovo、LinkAja を含む e ウォレットの残高を補充することができ、また請求書の支払いにも使うことができる。Jenius アプリそのものを決済に使用することは他の e ウォレットに比べて制限が大きいが、カードを使えば選択肢は大きく広がるだろう。

同社は2018年末までに120万人のユーザを獲得しているとも述べている。

Moka

タイプ:ポイントオブセールスのソフトウェア

ポイントオブセールスのソフトウェアを開発する Moka は、昨年インドネシアでシリーズ B ラウンドの資金調達を行ったフィンテックスタートアップ5社のうちの1社であり、Sequoia Capital、ソフトバンク、および East Ventures から2,400万米ドルを手にした。同社の過去の投資家には、Go-Jek を支援する Northstar Group やシンガポールの Wavemaker Partners が含まれている。

同社によれば、インドネシア中の1万2,000店以上の店舗が Moka を使っており、小売店舗やコンビニエンスストア、レストランなど幅広いビジネスに対応している。このソフトウェアは Ovo と LinkAja による支払いも受け付けている。

Xendit

タイプ:ペイメントゲートウェイ

ペイメントゲートウェイのスタートアップ Xendit はシリコンバレーにも正式に認められている。CEO の Moses Lo 氏はカリフォルニア大学バークレー校 MBA でビジネスの修士号を受けており、同社は Y Combinator の卒業生であり、同社の投資家のうちの1社は Accel Ventures(Facebook や Dropbox の初期投資家)である。またシードとシリーズ A の両方で、East Ventures から資金を調達している。

Xendit のクライアントには、POS ソフトウェアスタートアップである Moka、保険大手の Allianz、そしてオンライン旅行代理店の Ticket.com などがいる。

KinerjaPay

タイプ:ペイメントゲートウェイ、e ウォレット

KinerjaPay は e コマースプラットフォーム、e ウォレット、ペイメントゲートウェイを含む「オムニチャネル」な決済ソリューション一式を提供している。ユーザは KinerjaPay の Kmall e コマースプラットフォームや、同社のペイメントゲートウェイを使っている店舗で e ウォレットを使い商品を購入することができる。

2019年初頭、KinerjaPay はインドネシアの建設会社 Wahana Group から2億米ドルの投資を獲得した。また同社はアメリカ OTC 市場で上場されたインドネシア最初の e コマース企業という点で他社とは一線を画している。

最近の進展

ここまで見てきたように、インドネシアと東南アジアの両方のユニコーン企業が顔をそろえているが、その度合いには差がある。Go-Jek の Go-Pay は初期にこの業界に参入したが、ShopeePay はライセンスが承認されたばかりだ。

一部のユニコーン企業にとっては、独自の e ウォレットを作り上げようとする試みは簡単な道のりではなかった。一例を挙げれば、Grab は他の市場で使われている GrabPay のシステムにインドネシア中央銀行の e マネーライセンスを獲得することができなかった。同様に Tokopedia と Bukalapak も獲得できなかった。

Go-Jek はすでにライセンスを持っていた MVCommerce を買収することで、幾分道のりを簡単にすることができた。一方で旅行のユニコーン企業 Traveloka は唯一、専用の e ウォレットを持っていないが、同社は分割払いや「後払い」のようなフィンテック製品の選択肢を提供している。

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Ovo は最近 e コマースのユニコーン Tokopedia との提携を発表した。
Photo credit: Ovo

人気があるやり方は、Go-Jek の先例に倣うことのようだ。ライセンスを所持している e ウォレットとパートナーになる(Bukalapak と Dana のように)か、もしくは遠回りをして上記のような e ウォレットに投資を行う(Ovo と Tokopedia、そして Grab がそうしたと言われているように)かのどちらかである。

e コマースマーケットプレイスは、Kredivo や Akulaku のようないわゆる「デジタルクレジットカード」とも協力しているが、それらは一般的な e ウォレットと比べると、運用に多少の違いがある。これらの企業にはクレジットの要素があり、ユーザに今買って後で払うという買い方や、e コマースで分割払いによる買い物ができるようにしている。

だが最近の Ovo の動きがその兆候であるとするならば、e ウォレットとオンライン貸金業者の間にさらなるシナジーが発生することになるかもしれない。同社は最近 P2P 貸金スタートアップの Taralite を買収し、エコシステム内の買い物客や店主に向けてローンやクレジットを拡大した。Ovo はオンライン貸金業者の Do-It や投資信託マーケットプレイスの Bareksa と協力しており、ユーザに投資信託を提供している。

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Go-Pay ユーザは Go-Jek ドライバーを介してチャージすることができる。
Photo credit: Go-Jek

市場のリーダーに関しては、最近の Grab の主張によると Ovo との(および間接的に Tokopedia とも)パートナーシップを通じて、「インドネシア最大のデジタル決済エコシステムの一部」になっている。

しかしながら、Go-Jek は Go-Pay のマーケットシェアの数字を明かしておらず、以前は Go-Pay が「インドネシアでトップの決済プラットフォームとして独走状態」ではないかと言われていた。

昨年行われた Financial Times の調査も Go-Jek の主張を認めているように見える。調査回答者のほぼ75%が、もっとも頻繁に使用するモバイル決済サービスとして Go-Pay の名を挙げたのだ。Ovo は2番目に人気がある選択肢であり、回答者の40%余りに選ばれた。

いずれにせよ、この戦いはまだまだ終わらないようだ。多くの実店舗、特にチェーン店でレジに向かえば、多くの業者が最新のキャッシュバックキャンペーンを宣伝しているのが目に入る。中には最大で50%のキャッシュバックを提供しているところもある。

フィンテック業界はまだ比較的新しく、全面的な報奨金戦争に対する欲求、または忍耐が、まだあることは理解できる。しかしながら、誰もが思うことは、いつまでそれが続くのかということだ。もし配車サービスと e コマースの両方で何らかの限界に達するようなことになれば、永久には続かないだろう。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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