2013.7.13

サービスをやりたい起業家、事業に投資したいVC

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数カ月前、メンターにこんなことを聞かれた。

「キゴヤマ(※)、あんたサービスやりたいの?それとも事業やりたいの?どっちなの」。

確かに私はスタートアップを取材するブロガーであると同時に、メンバーたちと一緒にサイトを運営する経営者でもある。もしかしたら起業家としての意識もあるかもしれない。

では事業家かといわれると少し違う印象がある。

起業家と事業家。これまであまり意識してこなかったこの「生命体」についてここ最近考える機会が増えた。三連休のお休みネタということで、お時間ある方は少しばかりお付き合い頂ければ幸いだ。

定性的な起業家、定量的な事業家

先日、関西出身の起業家、マイネットの上原仁氏に関するこんな記事を掲載した。

【企画】起業はアート、ビジネスは科学−−マイネット上原氏が語る企業の成長と失敗から得られる学び

起業家の発想は常に定性的だ。こんな問題がある、こんなサービスがいいんじゃないか。スティーブ・ジョブズ氏のようにプロダクトを突き詰め、相対的ではなく、絶対的な指標でのみ突き進み、起業家はこの世の中に「新しい価値観」を生み出す。

一方で事業家は論理的思考を好む。孫正義氏や三木谷浩史氏といったIT時代の事業家は、決してアイデアのみを頼りに巨大企業を作ってきたわけではない。マーケットを計り、トレンドを調べ、ありとあらゆる定量的な数値計画を作ってこの世の中に「新しい市場」を創造する。

起業家はアーティストであり、事業家は科学者である。上原氏もまたたどり着いた地点で、自身をそのいずれかに見ているのかもしれない。

ソーシャルサービスを作る起業家、CD教材を売る事業家

もう少し具体的な話をしよう。日本という国は言語に関して少なからずストレスを持っている。言語が自由に使えれば世界は広がる。ここに課題を感じる人は多い。

起業家という存在はこの問題に対して新しい価値観や技術という答えを持ってくる。エニドアの山田尚貴氏はクラウドソーシングの考え方を使ってソーシャル・翻訳のConyacを作った。Lang-8の喜洋洋氏はソーシャルネットワークを使って英語添削のコミュニティLang-8を作った。

これが起業家の発想法方だ。彼らは問題に対してアイデアでユーザーに向き合おうとする。

事業家はどうだろうか。例えば多くの人が目にする教材販売なんかはわかりやすい。テレビやラジオをみていたら一度は目にするCD教材だ。

彼らの思考は数字だ。CD一枚あたりのコストを算出し、どれだけのボリュームで販売すればいくら利益が出て、広告でどこまでその売り上げをスケールさせることができるか、徹底的に数値計画を立てる。彼らは問題というチャンスに対して数字と結果で市場と向き合う。

事業家は数値計画の変更を嫌う。前例があり、パターンと確率で導き出される答えを元に市場を作る。起業家がどれだけ新しい価値観を提供したいといっても、ユーザー数が不確実な間は嫌悪し、嘲笑する。逆にユーザーが爆発したものを見つけると我先にそこに群がる。

起業家と事業家は共にスケールを求め、中途半端ものは資格を失う

極端なほどアプローチが違う両者だが、ある共通の目的を持っている。それがスケールだ。起業家はサービスを成長させることを望み、事業家は市場の拡大を夢見る。

サービスのユーザー数にしろ、市場のサイズにしろ、この拡大を突き詰める「覚悟」がない限り、スタートアップは中途半端に終わってしまう。

スタートアップは「受託開発はするな」という話題を耳にしたことがあるかもしれない。

起業家はスケールする日を目指してプロダクトを磨き続ける。改善を重ね、ユーザーの声を聞き、時に大胆なピボットを試みる。全ては成長のためだ。ここに受託開発してる暇はない。

事業家は発見したビジネスの勝ちパターンを展開させるため、人員、設備、資金というリソースをかき集め、可能な限り市場の拡大を目指す。ここに受託開発に裂くリソースはない。

やるべきことが見えて、覚悟を決めた人だけが先に進むことができる。

サービスをやりたい起業家、事業に投資したいVC

起業家と事業家を好むのが投資家だ。

彼らもまた二つに分かれるように思う。

ある投資家は起業家が好きで、彼らが生み出す新しい価値観、世界観に期待をしている。
ある投資家は事業家が好きで、彼らが生み出す新しい事業と市場に期待をしている。

もちろん、人というのは二つに分けられないから、経営者にこの二つの要素がそのように配分されているのかをみるのだ。そして当然のことながら、投資した金はいつか回収しなければならない。

その投資家がサラリーマンで、運用ファンドの成績を厳しく問われている人であればどうか。
その投資家が起業家出身で、自己資金で少額投資している人であればどうか。
その投資家が事業家出身で、壮大な市場を夢想する人であればどうか。

タイトルは少し釣り気味な付け方になったが、あくまで一例だ。投資事業をやっている人は論理的な構造を好む。アイデアのみに勝機はない。

起業家、事業家、投資家。それぞれの目的、考え方、ポジション、様々な要素を考え、相手の立場に立ち、覚悟を決めれば、自ずから答えは見えてくるのではないだろうか。


※キゴヤマは筆者のペンネームみたいなものです

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kigoyama

kigoyama

ブロガー。TechCrunch Japan、CNET JAPANなどでテクノロジー系スタートアップの取材を続け、2010年にスタートアップ・デイティング(現THE BRIDGE)を共同創業。1977年生。(株)THE BRIDGE代表取締役

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