中国のインターネット大手Tencent(騰訊)は、いかにして中国人ユーザに音楽にお金を払ってもらえるようにしたか

by TechNode TechNode on 2017.9.10

8月のある猛烈に暑かった夜、中国人青年バンド TFBoys のデビュー4周年を祝うべく、何千人という中国の若者が南京にあるグランドスタジアムを埋め尽くした。このイベントに参加できなかった1億1,800万人は、インターネットを通じて放映された番組を観て、忘れられない夜を共に過ごした。歓声は Danmu(弾幕)と呼ばれるリアルタイムコメントの滝となり、ライブ映像の上を流れ続けた。実際に参加できなかった人々の後悔は、ライブストリームを通じて送られる3.4億個ものバーチャルギフトに形を変え、その夜行われたすべての活動は Tencent(騰訊)によって QQ Zone(QQ 空間)、QQ Video(QQ 視頻)、QQ Music(QQ 音楽)、WeSing、Kuwo(酷我)、KuGou(酷狗)、KuGou Live(酷狗 Live)を通じて独占運営された。

KuGou Live を除いて、ここで紹介した Tencent のプロダクトは、ライブストリーミング用にデザインされたものではないが、これにこそポイントがある。例えば、ソーシャルネットワーク QQ Zone のユーザは、自分の大好きなアイドル TFBoys を見るために KuGou Live に乗り換える必要が無いわけだ。Tencent のような、人々のコミュニケーションの仕方、決済手段、ビデオゲームの遊び方を革新してきた中国のテック大手は、次に音楽の消費方法を再定義する準備が整ったようだ。

まずはじめに、Tencent はこれまでに、ほぼすべての音楽市場を支配できるようになった。昨年7月、同社の旗艦サービスである音楽ストリーミングの QQ Music が競合の China Music Corporation(中国音楽集団、CMC)と合併、Tencent Music and Entertainment Group(騰訊音楽娯楽集団、TME)を設立した。中国インターネットデータセンター(互連網数據中心、DCCI)の報告によれば、これにより、Kuwo、CMC が以前所有していた KuGou、QQ Music を合わせると、マーケットシェアの75%を占めることになった。

2016〜2017年の中国のミュージックストリーミングアプリのシェア(出典:DCCI、グラフ作成:TechNode=動点科技)

しかし、この単独企業による独占は、事業の収益性が高いことと同義ではない。中国人は数十年にわたり、海賊版コピーのはびこる国で音楽を無料で入手することに慣れてしまった。

TME のバイスプレジデント Andy Ng(吳偉林)氏は、は国際レコード製作者連盟(IFPI)とのインタビューで、次のように語っている。

音楽にアクセスしている我々の月間アクティブユーザの数は現在6億人を超えており、1,500万人が有料購読者だ。有料購読へのコンバージョンはまだ3%未満だ。

彼は、より成熟した市場であれば、コンバージョンレートは20〜30%くらいになるだろうとも付け加えた。しかし、Ng 氏は楽観的だ。

我々には、成長に向けた大きな機会と可能性がある。

彼が挙げた数字は、紛れもなく将来有望なものだ。IFPI によると、2016年の中国の録音音楽コンテンツの売上は、ストリーミングサービスの30.6%上昇に支えられる形で、全体で20.3%上昇した。Tencent Music は、かつて音楽を無料で聞いていた中国人に、既にお金を払ってもらう方法を見い出しつつある。

状況に合わない著作権管理

ライセンス料が売上の大部分を占める一方で、Tencent は長期的に見て著作権を牛耳れる企業が競合よりも優位に立つことを知っている。Tencent は5月、ユニバーサルミュージックグループ(UMG)と提携した。同社は、Tencent と独占ライセンス契約を締結した、三大レコードレーベルの最後の一社である。CMC の合併で中国のレーベルがリストに加わったことにより、Tencent のストリーミング配信権は中国で競合が居ないものとなった。

Tencent はこのコンテンツを競合にもサブライセンスする。サブライセンス先の一つが、NASDAQ に上場する NetEase(網易)の子会社 NetEase Cloud Music(網易雲音楽)だ。この2年間、QQ Music と NetEase Cloud Music の両社は、積極的に違いを著作権侵害で訴えてあってきた。一度ある音楽が自社プラットフォーム上で独占になれば、それでユーザを取り込むことができることを望んでのものだ。

著作権にからむ裁判合戦は、中国のオンライン音楽に対する規制強化の背景に対抗する形で起きている。2015年7月、政府はついに、すべてのインターネット音楽プロバイダーに海賊版コンテンツを削除するよう命令した。ソニー・ミュージックエンターテイメント中国・台湾 CEO の Samuel Chou 氏は、2016年を「中国の音楽新時代元年」とさえ呼んだ。

音楽ストリーミングのさらに先へ

しかしながら、法的な強制力を高めてみても不十分だ。Warner Music Asia の社長 Simon Robson 氏は、次のように述べている。

中国では長くの間、音楽はタダだと考えられてきたので、人々の感覚を変えるには時間がかかるだろう。我々は、市場の約90%が海賊版という場所で、状況について話しているのだ。

海賊版から合法的なしくみへの移行をスムーズにするため、Tencent も少し手を加えた。QQ Music は、月額8人民元(約130円)、12人民元(約200円)、15人民元(約250円)の3種類になった。それと比べ、Spotify Premium は月間9.99ドルだ。しかし、投資家に大きな支援を受けたインターネット企業の間で、恒常的な価格競争の恩恵に預かってきた中国人ユーザにとって、これは何も新しいことではない。自転車レンタルのスタートアップ間の戦いが好例だ。Kuwo、KuGou、NetEast Cloud Music は皆、QQ Music と類似価格帯のサービスを提供している。

Tencent の WeChat(微信)がメッセージアプリの域を超えて、中国サービス経済のすべての側面に浸透しつつあるのと同じく、TME は音楽ストリーミングを中心として、音楽に金を支払わせる付加価値サービスのエコシステムを構築しつつある。基本的な戦略は、コンサートチケット、プロ仕様の音質、オンラインゲームで世界的な独占をする親会社の恩恵に預かって、ゲームクレジットを得られるなどのプレミアムユーザ向けの特典などだ。

QQ Music は「デジタルアルバム」というものもテストした。QQ Music 上で人気の高いアルバムがリリースされると、そのアルバムはストリーミング対象の楽曲から外され、ユーザは一回のみの手数料を払って視聴ができるというものだ。2〜3ヶ月後、QQ Music はそのアルバムをストリーミング対象に戻す。

このモデルは、初期の成功を見せた。映画『ワイルド・スピード ICE BREAK』のオリジナルサウンドトラックが QQ Music 上にお目見えすると、1週間で100万枚超のデジタルコピーが売れた。IFPI に Ng 氏は次のように語っている。

(中国の若者は)心底尊敬しているアーティストをサポートするのに、喜んで数ドルを支払っている。

DCCI によれば、QQ Music ユーザの90%超が1990年以降に生まれた人たちだ

最後に、Tencent はオーディオの域を超えて、中国のインターネット業界を賑わす最も熱狂的なバズワードとなったビジネスに2016年から参入した。そのビジネスとは、ビデオライブストリーミングだ。iResearch(艾瑞諮詢)の最近の報告によれば、ビデオライブストリーミングの市場は208億人民元(約30億米ドル)規模と推定されている。観客は画面の前から動かず、バーチャルステージ上にいる自分の〝アイドルもどき〟にバーチャルアイテムを投げる。この〝アイドルもどき〟たちは自らスポットライトの下に立ち、そうでないときは小さな町のジャガイモ畑で額に汗して働く農民の若者だ。TFBoys に寄せられるオンラインでの熱狂は、この過密な業界においても、Tencent にまだ活躍の場が残されていることを物語っている。

QQ Music で配信された TFBoys のコンサート(QQ Music のアプリからのスクリーンショット)

黒字化

音楽ストリーミング周辺の一連のビジネスモデルとあわせ、TME は親会社に対しても売上増加に貢献している。2016年、Tencent のソーシャルネットワーク売上は54%増加し、約40億米ドルとなった(ゲーム売上の100億米ドルに比べれば、まだ小さいものだが)。この増加は、Tencent の音楽ビジネスやバーチャルアイテム販売など、デジタルコンテンツサービスの成長を反映したものだ。本件に詳しい人物によれば、TME のライブストリーミングの売上の大部分は、CMC の合併によって Tencent が支配権を手に入れた KuGou Live からもたらされているとのことだ。

西洋諸国では、Spotify が有料ユーザ2,000万人を抱えているにもかかわらず、利益を出せる状態にたどつりついていない。Spotify が得た多くの売上はライセンス料に消えるからだ。しかし、2016年中頃に TME の CEO Cussion Pang(彭迦信)氏がインタビューで語ったところでは、QQ Music は素晴らしいことに黒字化している。Spotify と同じく、QQ Music にとって最大の売上の源は月額利用料で、続いて広告料だ。TME はバリュエーション100億米ドルでの IPO の準備を進めており、世界はそれがどのようなものになるか、耳を傾けることになるだろう。

【via Technode】 @technodechina

【原文】

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