中国の深刻なクレジットギャップ解消に向け、フィンテックスタートアップらが取り組むビッグデータの活用法

by Tech in Asia Tech in Asia on 2017.10.12

Photo credit: estherpoon / 123RF

Angel Zhang さんは22歳の誕生日を迎えようとしていた。彼女は少しお金をかけて、何か特別なことをしたいと思っていた。月300米ドルを負担してくれる両親にさらにお小遣いをもらうこともできた。しかし彼女は、代わりに Ant Financial(螞蟻金融)が運営する仮想クレジットカードの Huabei(花唄)を頼ることにした。

Zhang さんはこう語る。

最近では、ほとんどすべてのショッピングアプリが独自のクレジットサービスを提供しています。

彼女は中国北部の大学に通う、4年生の学生だ。多くのクラスメイトと同じく Zhang 氏には収入がない。

期限までにローンを返済すれば、限度額を増やしていくことができます。

今では彼女はありとあらゆる種類のものをクレジットで支払っている。衣類、化粧品、日用品、ホテル、電車の切符、さらには電話代までもだ。フェイスマスクや新しい靴など新しいものが欲しくなった時に、以前ほど長い時間をかけてお金を貯めなくてもよくなった、と彼女は Tech in Asia に語っている。

Angel Zhang さんを含め、中国の大学生は最近になって月額返済のマイクロローンを利用できるようになった。2014年の世界銀行の見積もりによると、中国では79%の人々が銀行口座を持っている。しかし、金融機関から融資を受けたことがある人は人口のわずか10%にすぎない。消費者の与信スコアリングが導入されてから日が浅いことが理由の一つである。中国の銀行規制当局は、2006年までは消費者信用データベースを開発してこなかった。対照的にアメリカでは、クレジットスコア評価会社の FICO が1989年に評価システムをローンチしている。

中国の国営の与信システムは、人口カバー率も限られている。2015年時点で中国人民銀行(PBOC)は人口の約3分の2のデータを持っていたものの、クレジットヒストリーがあったのは約3分の1に留まる。

しかし、ビッグデータのおかげで中国のフィンテック企業らにこういった課題に対する解決の機会が生まれた。

アジアを専門とした金融業界の調査およびコンサルティングを行う企業、Kapronasia のディレクターである Zennon Kapron 氏はこう語る。

中国では現金が非常に重視され、消費者らは借り入れに頼ることがあまりなかったのです。しかし、状況は変わりつつあります。借り入れ、ピアツーピアプラットフォーム、消費者金融、クレジットカード、住宅ローンなど、借り入れのために消費者信用が照会される機会が著しく増えています。

ただ、同氏によると、PBOC の信用データベースはそれほど堅牢ではない。貸付企業なら誰でもアクセスできるわけでもないという。

アクセスできない企業らは、独自の信用格付けシステムを作るか、サードパーティーのスコアリング企業を利用する必要があります。

融資の迅速化

ある人物の信用度を測るには、借り手の支払能力と支払意志を知る必要がある。そして、ビッグデータが活用される昨今、決定を自動化できるコンピュータシステムの開発もまた重要だ。これにより人の介入をできるだけ少なくすることができる。

Dumiao(読杪) の副社長である Ren Ran(任然)氏はこう述べている。

データがすべてです。多くのデータを集めれば、それだけデータが豊かになります。データが多様化すれば、モデルが改善されます。

Dumiao は北京のフィンテックサービス会社 PINTEC(品鈦) の与信部門だ。同社は月に約300万件の融資リクエストを扱っているという。

彼は強調する。

料理のようなものです。料理を作るには、最初に食材を用意する必要があります。食材を持っていなければ、シェフの腕前は関係ありません。

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Dumiao(読杪) VP Ren Ran(任然)氏はアメリカの実験的製品技術インキュベータ Capital One に勤めていた経歴をもつ.
Photo credit: PINTEC(品鈦)

公的な貸付データが不完全かつアクセスも限られているため、中国のフィンテック企業は往々にして、さまざまな情報源から大量の消費者データを集める必要がある。検索結果、ソーシャルメディア、e コマースでの購入履歴、オンラインの旅行データ、位置情報、通話記録、ひいては社会的つながりなどが情報源となる。また、より標準的なユーザ情報としては、教育レベル、給料、雇用主、国民 ID 番号なども使用される。

こと信用履歴がほとんどない消費者を分析するには、これらの情報を一元的に集約することが不可欠だ。Ren 氏によると、Dumiao のユーザ数の約85%は22歳から35歳で、上海や北京のような大都市にいるユーザは15%未満だという。これらの利用者はスマートフォンを生活の一部にしており、クレジットの利用にまったく抵抗のない、デジタルネイティブの世代だ。

信用力の評価のためにビッグデータを活用すると、さらなる利点が生まれる。すなわち、スピードとコストだ。

Simon Loong(龍沛智)氏はこう言う。

銀行が抱えていた最大の問題の一つは、すべての取引が少なくとも1回は対面での取引を必要とすることです。

同氏は香港のフィンテックスタートアップ WeLab の設立者であり、Citibank や Standard Chartered など金融企業での勤務経験も持つ。

彼の指摘によると、借り手となる顧客を見つけるために銀行はスタッフを雇い、また、物理的な支店を維持している。一方、WeLab 傘下で与信による貸付を展開するスタートアップ Wolaidai(我楽貸)は、完全にモバイルによる集客プロセスを採用している。顔認識、テキストと画像の分析、ユーザのオンライン行動の監視などの技術を活用した結果、同社の与信プロセスはわずか1〜2秒で完了する。Simon 氏によると、毎月の申請処理数は100万件以上に上るという。

Wolaidai は、同社のローン滞納率(借り手の支払いが遅滞する割合)は2〜3%だとしている。貸付の規模は450米ドルから7,500米ドルとなっている。

彼は次のように Tech in Asia に語った。

1回の貸付は最低でも3万米ドルからという銀行がありました。それ以下では銀行側の商売が成立しないというのです。あまりに人手に頼っているやり方だからでしょう。そのため銀行は多数の人々を対象にした少額融資には向きません。

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北京の PINTEC(品鈦) 本社
Photo credit: PINTEC(品鈦)

ノイズの除去

もちろん、ビッグデータから限度額を算出するには、それなりの課題がある。機械学習のモデルを定期的に更新し、新しいデータや市場の変化を常に取り入れることが必要だ。

Ren 氏によると、Dumiao のデータサイエンティストたちは日々システムを分析して改善を続けている。しかし、「時にはモデルに盲点がある場合がある」とも認めている。世界的な統計学者 George Box 氏の言葉を引用し、彼はこう付け加えた。

あらゆるモデルは不完全ですが、有用なモデルもあります。

フィンテックスタートアップらが抱える別の課題は、詐欺の検出だ。個人の ID を盗んでローンを申請する者などを自動的に検出しなければならない。多くの場合はユーザの行動を追跡することで検出できる。ID を出力する方法や、ユーザが位置情報の共有に同意する場合には、その情報も手がかりになる。

一例として、若い世代の社会人を対象にした分割払いの e コマースサイト Fenqile(分期楽) では、ほぼ同じエリアに住む多数のユーザが同じ製品を同時に購入した場合に、詐欺としてアラートが上がるようになっている。

同社の広報担当者によると、詐欺の場合もあれば、特異な事象の場合もあるという。ある時、キヤノンの特定のモデルのカメラが多数のユーザに同時に購入されることがあった。これはシステムによって検知されたが、調べたところ、地元の写真クラブがメンバーらに当該のモデルを推薦していただけだったと判明した。

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WeLab 設立者兼 CEO Simon Loong(龍沛智)氏
Photo credit: WeLab

各種のデータはそれぞれ違った手法で生成される。実際のところ、PBOC の信用報告書から得られるデータが最も質が高いが、この報告書の入手は難しい。そう述べるのは、中国の検索大手 Baidu(百度)に勤めた経歴があり、現在は中国のオンライン貸付マーケットプレイス Dianrong(点融) でビッグデータチームを率いる Sync Shan(単憶南)氏だ。なお、Dianrong の共同設立者 Soul Htite 氏は Lending Club の共同設立者でもある。

個人の信用報告書を入手できるなら、間違いなく利用します。

Shan 氏は語る。優秀な借り手とそうでない人を区別する上で役立つ、非常に信頼性の高いデータだからだ。

彼はピラミッド型の階層図を示した。これは、信用度を分析するためのデータ階層を示している。一番上の層は、住宅ローンとクレジットカード情報を含む、全国的な信用データベースのデータだ。二番目の層は、消費習慣や購買行動である。その下にはさらに、携帯電話のデータ、社会的つながり、ローンアプリ自体が把握するユーザ行動のデータが続く。

彼はこう説明する。

上位の層のデータほど信頼性があります。ですが、十分な数のユーザをカバーできているとは言えません。

逆に言えば、下位の層に行くほど信頼度との相関は弱くなるが、より広いユーザ情報を捕捉できるということだ。

さらに考慮すべきは、データの取得コストだ。Shan 氏によると、コストと Dianrong のモデルのパフォーマンスとのバランスを取らなければならないという。Dianrong のモデルでは、ユーザを信用リスクの観点から複数の層に分類している。約15セントという安価なデータがある一方、はるかに高価なデータもあると彼は指摘する。

データ不足の危機

事業規模を拡大すると、データの取得コストは飛躍的に増加する可能性がある。Ant Financial のように複数の消費者向けプラットフォームを運営していない企業の場合はなおさらだ。同社は Alibaba(阿里巴巴)を通じて e コマースのデータを手軽に取得している。データの提供や処理をサードパーティーに頼る場合も相応の注意を要する。今夏、中国のとあるデータブローカーが、消費者情報を適切に保護しなかったとして警察による捜査を受けて閉鎖に追い込まれたと報じられている。

フィンテックスタートアップも同様で、データ収集についてユーザの許諾を得る必要がある。これは多くの場合、長大な利用規約に盛り込まれている。

PricewaterhouseCoopers でサイバーセキュリティとプライバシーサービスのパートナーを務め、企業に技術リスク管理のアドバイスを行っている Samuel Sinn 氏は、次のように述べている。

データを第三者のデータブローカーに転送して処理を依頼するケースでも、データ保護の一義的な責任は金融サービス機関にあります。

データを第三者企業に転送したからといって責任を免れることはできない、と氏は強調する。

フィンテックスタートアップにとってパートナーシップが大きな意味を持つ理由は、まさにここにある。彼らは自社の技術を提供し、見返りに信頼できるデータを得ているからだ。学生や農家のようなニッチな層に関するデータならなおさらだ。例えば Wolaidai は、農村部の店舗と村を対象にした e コマーススタートアップ Ule のローンのデータを処理している。Wolaidai はデータを処理すると同時に、中国の農村部のデータを入手している。

Wolaidai の別のパートナーである Foxconn(鴻海/富士康)は、Wolaidai が中国のブルーカラーの労働者を取り込むことができるよう協力している。Loong 氏によると、Foxconn は製造業大手であり、中国のブルーカラー労働者を最も多く抱える企業の一つだ。

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Dianrong ビッグデータ部長 Sync Shan(単憶南)氏
Photo credit: Dianrong(点融)

ブラックボックス

一方で、ビッグデータを信用評価に全面的に活用するにあたっては、技術的課題を超えた問題があることもまた事実だ。オンラインデータを一元的に集約し、人々の懐事情(特に低収入の人々)を特定する目的で使う場合は、倫理面での配慮が必要になる。

例としてアメリカでは、大手データブローカーらは「良いカモのリスト」を販売していたとして痛烈な批判を浴びている。2014年、投資ジャーナリストの Julia Angwin 氏が出版した『Dragnet Nation: A quest for privacy, security, and freedom in a world of relentless surveillance』(邦訳未出版、タイトル仮訳:「ドラグネット国家:絶え間ない監視世界でプライバシー、安全、自由を追求する」)によると、このリストには「年老いていて、金銭的に苦しんでいるか、またはある種の売り込みに弱い」人々が掲載されている。

2012年10月、米国連邦取引委員会は、Equifax を罰金刑に処した。不正な売り込みを働く者に対して、最近住宅ローンの支払いが滞った消費者のリストを販売したためだ。Equifax は、今年に入って大規模な情報漏洩事件を起こしたことでも悪名高い。

中国では、データのプライバシーと個人情報の収集に関する法律がまだ出始めてまもない段階だ。6月には、最新のサイバーセキュリティ法が制定された。国境を越えたデータ転送、データ収集、情報インフラなどに関するさまざまな原則とガイドラインなどが事細かに定められている。

Sinn 氏は Tech in Asia にこう語っている。

現状では、中国にはデータのプライバシー保護に関する法律は存在しません。サイバーセキュリティ法の、個人情報の収集に関する条項でカバーされているに過ぎません。しかし、将来的には新しい法律の制定が予想されますので、企業は注視する必要があるでしょう。

中国の規制当局は、行き過ぎたローン企業への対策も進めている。こうした会社の中には、中国の大学のキャンパスをターゲットにし、高利で貸し付けを行ったり、凶悪犯罪者を雇って返済を迫ったりする企業すらある。借金を抱えて取り立てに追われる中で、自殺する学生も複数出ている。

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Photo credit: Mingwei Li / Unsplash

最後に、中国の消費者金融のスコアリングに関する概要については、依然として統一された基準がない。PBOC の信用データベースの他にも、8つの企業が消費者の信用スコアリングシステムを開発している。Tencent(騰訊)と、Ant Financial の独自の与信システムである Sesame Credit(芝麻信用)もこの一種だ。

以上が2015年の状況である。今日、8社はいずれも公的な与信の審査資格を有していない。各社の主となる事業との関連を考慮するに、規制当局が各サービスの公平性と独立性に疑義を抱いているためだ。中国政府は今年、オンライン決済の国営の審査機関を発足させた。これにより、Alipay(支付宝)や WeChat Pay(微信支付)などの各種サービスは、支払いデータを共有することが義務付けられる可能性がある。国レベルの与信システムへの道が開かれるかもしれない。

今後しばらくの間は、中国のフィンテックスタートアップらは、さまざまなデータと Sesame Credit などからのクレジットスコアをうまくつなぎ合わせ、借り手の信頼度を推定できるよう試行錯誤する必要があるだろう。

アメリカの Capital One での勤務経験を持つ Ren 氏はこのように語った。

中国ではアメリカほどデータの集約が進んでいません。データは散在していますが、それがかえって特に私のようにデータでいろいろ遊びたいという人々にとって、好ましい状況を作り出しています。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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