無料の仮想通貨というスタイル:なぜブロックチェーンのスタートアップはトークンを配るのか?

by Tech in Asia Tech in Asia on 2018.3.6

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Photo by lucas Favre on Unsplash

仮想通貨は現時点で1,500種類を超えているが、その種類が増えるにつれ、ブロックチェーン業界でスタートアップが喧騒に埋もれず頭角を現すのはますます困難になってきている。それこそが、矛盾しているように見えるが、トークンを無料で配ることがユーザを引きつけるやり方として人気を集めるようになってきている理由である。

この無料の仮想通貨は「エアドロップ」と呼ばれ、企業の Telegram コミュニティに参加したり製品をソーシャルメディアで宣伝したりすることから、お金を払ってさらに同じトークンを購入することまで、幅広い範囲でユーザの行動へのインセンティブとして使われている。

時にはユーザは何もする必要がなく、ただ一定量のイーサ(ETH)もしくはビットコインを所有するだけでいいという場合もある。中国ではエアドロップが「お菓子を配る」と上手い言葉で表現されている。

仮想通貨の投資信託会社 Aristo Capital の設立者 Rhythm Gupta 氏はこのように説明した。

市場の関心を得る非常に簡単な方法です。誰でも無料は大好きですから。ですので、何かをただで差し出せば、相手は必要であれば何でもしてくれるでしょう。

企業がトークンを発行し売ることができるイニシャル・コイン・オファリング(ICO)のおかげで、ブロックチェーンスタートアップは膨大な資本へとアクセスできるようになった。中には数分で数百万米ドルを調達した企業もいる。ICOdata によると、昨年にトークンのクラウドセールを通じて企業が調達した資金は合わせて61億米ドルに上るという。

しかし ICO は資金調達だけではない。企業のプロジェクトのマーケットへの道であり、初期のユーザベースを得るための種蒔きの方法である。エアドロップであればそれも可能で、しかもクラウドセールとは違い、ユーザ側にはコストも経済的なリスクもない。フリートークンを受け取った人はスタートアップのプロジェクトにさらに注目するようになり、アーリーアダプターにもなり得るという希望もある。

ICO を避けて、機関投資家やエンジェル投資家といった、より旧式の方法で資金を調達しようとする企業にとっては、このことは特に重要である。例えば、証券プラットフォームの Polymath は非公開で資金を調達した後に、1,000万の POLY トークンを潜在的なユーザに配った。これは本稿執筆時点で1,240万米ドルに相当する。

上海を拠点に設立された仮想通貨ファンド I Blockchain Capital のリサーチャーである Maggie Yi 氏は、次のように語る。

多くのプロジェクトはプライベートセールで十分に資金を得ています。ICO をしたりもしません。

しかしそれでも注目を集めるために、プロジェクトはコミュニティに向けてトークンのエアドロップを行うのです。

ICO が禁止された中国のような国では、エアドロップはより幅広い人々に対して規制当局と衝突することなく仮想通貨を流通させる新たな方法にもなっている。

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ICOdata によれば2017年には世界中で884件の ICO が行われた.

仮想通貨マーケティング

クーポンやお得意様向け還元キャンペーンと同じように、エアドロップの形式は広範囲にわたる。ソーシャルメディアでの発信に報酬を出すといったことで注目を集めることを目的とすることもあれば、既存のトークン所有者に対して仮想通貨を交換所ですぐに売るのではなく所有し続けるよう促すものもある。

例えば、実店舗向けに仮想通貨のポイント・オブ・セールス(POS)デバイスを開発しているジャカルタ拠点の Pundi X は、2021年1月まで毎月かなりの量のフリートークンを配っている。

Pundi X のバイスプレジデント Peko Wan 氏は Tech in Asia にこう語った。

私たちの目標は、ターゲットとする国の全土に少なくとも10万のブロックチェーンベースの POS デバイスを3年以内に展開することです。

同社は毎月のエアドロップが「PXS(Pundi Xのトークン)所有者がより長期間保持しておくよう促す」ことになり、また「『風説の流布』の企みによる憶測を減少させる」ことになると望んでいる。

Wan 氏の説明によると、他のエアドロップと同様に、Pundi X は毎月末のユーザのウォレット内の PXS コインの数によって、どれだけのフリートークンを受け取ったのかを判断する。最初の年には PXS の所有者は所有トークンの約7%を受け取る。2年目にはだいたい2%となり、最終年にはおよそ0.88%となる。

バンコクを拠点とする決済サービススタートアップ Omise のような他の企業はもっと幅広くトークンを配布する方法としてエアドロップを見ており、それはネットワークセキュリティにとって重大なものになり得る。

Omise は同社のブログでこう述べている。

トークンがもっとも有用なのは可能な限り幅広く流通している時であると私たちは考えます。残念ながら、すべての人が最初期のトークン生成イベントの瞬間へ参加するのに必要な時間や機会、技術的な能力があるわけではありません。

救済策として、Omise は7月の ICO 後に0.1ETH 以上持っているすべての人に同社のOmiseGo(OMG)トークンを提供した(イーサリアムブロックチェーンは公開されているので、基準をクリアするすべてのウォレットアドレスを検索できる)。同社は約700万 OMG トークンをエアドロップキャンペーン中に配布した。これは本稿執筆時点で約1億3,600万米ドルに相当する。

イーサ所有者に対する Omise のエアドロップは、イーサリアムの開発者と協力してプロジェクトを進めたいという願望によってのものでもあった。同社は創設者である Vitalik Buterin 氏を含むイーサリアムのもっとも有名な貢献者の何人かとつながりを持っている。昨年、EOSや Qtum、NEO といった多くのプラットフォームがイーサリアムのライバルとして出現した。

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エアドロップは中国のメッセージングアプリ「WeChat」で普及している「紅包」形式で配布されることもある. これは、ブロックチェーンスタートアップの MakerDAO が自社のトークンの一部を Bixin(WeChat に似たアプリ)上で無料配布したもの.
Image credit: Chao Pan

エアドロップの中には単純に感謝を表すものとして、特にパブリッククラウドセールで入手の機会を逃したプロジェクトの支持者のために実施されるものもある。

I Blockchain Capital の Yi 氏は次のように語った。

Nucleus Vision の ICO には本当に参加したかったのですが、叶いませんでした。

実際、そのプロジェクトは人気が高かったため公開前に4,000万米ドルのハードキャップに達し、Nucleus Vision は ICO をキャンセルすることとなった。

その後、彼らはエアドロップを実施したのですが、私もすぐさまサインアップしました。

e メールスパム

当然、ICO と同様に、エアドロップの質や合法性はばらつきが激しい。ほとんど価値のないトークンのエアドロップもあれば、e メールの連絡先やリードジェネレーションのための安っぽい手段として実施されるものもある。多くのエアドロップキャンペーンは、見返りを得るためだけに Telegram グループに参加したりトークンを保持したりしているユーザを引き止めておくことができない。

ユーザのデータを入手するためにエアドロップを行うような、悪意のあるプレイヤーもこの業界には大勢います。

Gupta 氏はこう警告する。例えば、詐欺師がユーザに e ウォレットのプライベートキーを知らせるよう求め、資金を自分のポケットに移せるようにするといった具合だ。

モントリオールを拠点とするプロダクトデザイナー Alexis Morin 氏は次のように語る。

仮想通貨ではあらゆるチャネルにわたって詐欺師がはびこっています。ですから私は無料のものには常に注意深く接します。

2012年に Morin氏はビットコインマイニングを通じて仮想通貨に興味を持ち、今ではイーサや中国のブロックチェーンスタートアップ Tron が発行する TRX といった複数のトークンに投資している。

エアドロップを行うと主張する数十の詐欺の Twitter アカウントをこれまで通報してきました。それらのアカウントは削除されています。

同氏はそう付け加え、偽のアカウントが、例えば Vitalik Buterin 氏の写真をプロフィールに使って、ユーザを騙しお金を送らせようとするといった複数のケースを例に挙げた。

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Vitalik Buterin 氏を騙った偽 Twitter アカウント.

それでも、エアドロップがすぐになくなったりすることはないだろうと業界内部の多くの人は考えている。特に、世界中の政府が ICO を綿密に検査し続け、ブロックチェーンのプロジェクトが公開クラウドセールを超えるユーザ獲得の新たなチャネルを捜し求めている状況では。

Jake Lim 氏は次のように述べた。

規制上の問題でパブリックセールは減っていくのではないかと思います。エアドロップやその他の形式のユーザ参加がトレンドになるのではないでしょうか。

同氏は個人的に25以上の仮想通貨に投資しており、また韓国を拠点とするブロックチェーン決済サービス Overnodes のグローバルなビジネス展開を行っている。

さらに、同氏はこう付け加えた。

エアドロップは受け取り側のコミットメントを必要とせずに、ユーザがプロジェクトに帰属することを可能にするものです。エコシステムを拡大する素晴らしい方法です。

POLY と OMG のレートは、1米ドル=0.813POLY=0.052OMG である。

(追記:Omise がエアドロップを実施したのはネットワークセキュリティのみを目的としたのではなく、イーサリアムコミュニティへの配慮もあってのことであると明確にするために、本記事に加筆を行った。)

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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