2019年に注目したい「小売市場14社」と「4つのトレンド」まとめ

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本稿は世界のスタートアップシーンを伝える起業家コミュニティFreaks.iD編集部との連動記事。いち早くニュースをチェックしたい人はこちらを参照してください。

今回は2018年にFreaks.iDで紹介した小売スタートアップを紐解き、大きく4つのトレンドを簡単に紹介していこうと思います。

1.配達自動化と業態変化

いよいよ配達プロセスの自動化が本格的に始まったのが2018年の大きなニュースと言えるでしょう。

11月には自動配達ロボットを開発する「Starship Technologies」がオンデマンド配達サービスの運用を本格的に開始しました。同社は過去にオンデマンド配達アプリ「Postmates」や「DoorDash」と提携して試験運用を実施していましたが、自社でサービス立ち上げに踏み切りました。今後、20カ国100都市でサービスを展開する予定といいます。

Starshipと関係が近しいと思われていたPostmatesは配達ロボット「Serve」の利用を開始。Serveは自律的に歩道を走る4輪型ロボット。カメラが搭載されており常にスタッフが遠隔でモニタリング。何か問題が発生した際には客や歩行者との対応をリモートで専門スタッフが行う仕組みになっています。

米国だけでなく欧州の動きも注目です。エストニア発スタートアップ「Cleveron」はラストワンマイル宅配車「Lotte」の開発・運用を開始しました。各地拠点にある巨大なロッカーに配達物を自動運転で運び入れます。商品を格納する際はロボットアームが車から伸びる仕組みとなっており、配達からロッカーへ商品を収めるまで完全自動化されているのが特徴。将来的には個人宅の郵便ポストにまで商品を配達をさせる計画だそうです。ロボットアームでポストに商品を届ける点は斬新かもしれません。

配達プロセスの自動化だけでなく、配達市場の業態変化が発生した点も印象的な1年でした。

たとえば、配車サービス利用中に車内でスナックや飲料水を購入できる「Cargo」が10月に2,200万ドルの資金調達に成功しています。ドライバーは無料でCargoから在庫商品を仕入れ、販売した商品売上の一定額を収めるビジネスモデルとなっています。そのため、ドライバーは在庫リスクを抱える心配が一切発生しません。日本の置き薬の文化と同様に、足りなくなった場合、必要な商品を補充する形となっています。

Cargoの巧みな点は売れ筋商品のデータを収集できるマーケットリサーチ・チャネルを開拓した点にあるでしょう。大手飲食企業が発表する新作スナックや飲料水を試験的に販売をしてマーケットデータを獲得できるB2B向けのサービスとしての切り口も考えられます。この点、単なる売上をシェアする収益源だけでなく、リサーチ企業としての立ち位置も確立できる可能性が大いに期待できます。

11月、Softbankらがピザテック「Zume Pizza」へ総額3.75億ドルの大型投資をした件も大きな話題となりました。Zume Pizzaは自動ピザ焼き機を搭載した配達車を開発。顧客宅へ届ける途中にピザを焼き、出来立てを届けるサービスを確立しています(焼く前までのピザ手配の工程は工場でロボットに任せて完全自動製造)。

CargoやZume Pizzaで特筆すべき点は、配達中に商品を完成させたり、販売してしまう業態が登場していることでしょう。トヨタ自動車が公表した未来の自動車社会「e-Palette Concept」にも通じた世界観が具体化されている印象です。e-Paletteの世界では自動運転車が小売店舗やちょっとした製造工場、仕事場になります。Eコマースや店舗、自動運転のコンセプトがうまく融合した世界です。モビリティーが単なる移動手段ではなく店舗になったり食品工場になる未来の兆しを感じ取れます。

2.「シェアリング店舗」から「コミュニティ型店舗」へ

従来、1店舗当たり1ブランドが入居することが当たり前でした。しかし、ブランド側に月額サブスクリプションモデルでブース毎に場所を貸し出しをする「シェアリング店舗」の概念が広がりました。ブース貸しのため1店舗に20〜30以上のブランド入居が可能となります。こうしたシェアリング店舗の最先鋒がスタートアップ家電に特化した店舗を運営する「b8ta」です。

同社は店舗内天井部に顧客動向をトラッキングするカメラを設置し、どのような属性の顧客が・どのくらいの時間・どのブースに滞在したのかを計測。商品体験の時間を計測することでブース出展の費用対効果を数値化させました。実際、Google広告へ出すよりb8taに商品を出展して、実際に顧客に触ってもらった方が転換率は高いようで、店舗だけでなく広告事業のディスラプトを狙っているのがb8taの真髄とも言えます。10月にはGoogleとの提携を発表し、大きく注目を集めました。

B8taのようなブース出展型店舗の考えは瞬く間に広がり、ニューヨーク拠点の「Bulletin」はアパレル特化のシェアリング店舗を運営しています。11月にはシカゴ拠点の「Leap Services」が300万ドルを調達。D2Cに代表されるECブランドがLeap Servicesが運営するシカゴ店舗に自社旗艦ブースを出店できるサービスです。

さて、店舗にコミュニティ要素が入ってきたトレンドも見逃せません。10月、コミュニティー型百貨店を運営する「Fourpost」が開業前にもかかわらず500万ドルを調達したニュースには驚きました。

11月に米国ミネアポリスと、カナダのエドモントで大型店舗を開店。仕組みはシェアリング店舗と同じく、ブランドが月額サブスクモデルでブースを借ります。体験型ショッピングを競合優位性としているため、イベント事業にも力を入れて百貨店を顧客とブランドのミートアップの場と捉えているのが特徴。

大手コワーキングスペース「WeWork」も会員向け店舗「WeMRKT」の店舗数を500まで拡大することも報じられました。入居小売企業が商品の本格販売前にマーケティングテストとしてWeWorkの会員向けに試作品を販売できます。会員側は市場に出回る前に商品を購入できるベネフィットを得られるため、Win-Winの構図となっています。ブランド側は同じWeWorkに入居している商品購入顧客からヒアリングすることも可能でしょう。

このように実店舗に「シェアリング」の考えが浸透し、徐々に「コミュニティ」の概念が広がりつつあることがトレンド言えそうです。

3.特化型コマースの台頭

特定の顧客属性に特化したブランドの登場が目立った1年でもありました。

最たる例は10月にWalmartが女性向けアパレルEC販売を手がける「ELOQUII」を買収した一件です。ELOQUIIはプラスサイズと呼ばれる、通常より少し大きめの女性服を取り扱うブランド。また、11月にはプラスサイズ女性服サブスクリプション「DIA&CO」が4,000万ドルを調達していることもあり、特化型Eコマースに注目が集まってます。

#MeToo運動を皮切りに女性の自由なスタイルをコンセプトにしたブランドがSNS上でも支持されるようになりました。こうした煽りを受けてELOQUIIやDIA&COが大きく躍進し、受け入れられたとも考えられます。

とはいえ女性服以外にも、スポーツチーム・漫画・ゲーム会社と独占契約を行い、プレミアム商品パッケージを月額サブスクリプションモデルで提供する、ギーク向け月額サブスク・コマース「Loot Crate」が2,300万ドルを調達したニュースも好例です。日本で言うところのいわゆる「オタク」をターゲットに絞ったEコマースサービスを展開しています。

前述した3つのサービスは、特定分野に高い熱量・関心を持つコミュニティを囲っており、サービス離脱率も低いように思えます。一度サービスコンセプトへの共感や、リッチな商品体験を経験してしまえば、高いLTVを獲得できる点が特化型コマースの最大の特徴。加えて、顧客同士のコミュニティ化が進めば、イベント事業などの横展開も可能となるため、非常に広範な市場参入が可能となります。

4.サプライヤー/製造効率化

最後にご紹介したいのは、小売市場の川上に当たるサプライヤー及び製造業者向けサービスです。

12月にはセレクトショップ向け仕入れマーケットプレイス「Faire」が5.35億ドルの評価額で1億ドル調達しました。セレクトショップの課題点は世界中の見本市へ高い出張コストを費やして出向き、かつバイヤーの感覚だけで選ばれた売れるかどうかわからない商品を仕入れる不透明なプロセスにありました。

そこでFaireはAIを用いて各セレクトショップが運営するウェブサイトを画像認識で解析。Faireが取り扱うどの商品が各店舗のコンセプトとマッチし売上を上げられるのかをAIが算定。最適な商品をショップ側に販売します。仕入れてから60日間以内であればFaire側に無料返品できるため、リスクフリーで仕入れることができます(初めてFaireから仕入れた商品限定)。AIを用いて商品の仕入れプロセスの圧倒的効率及び最適化を成功させました。

製造業でも同様の効率化の動きが見られます。10月、オンデマンド・アパレル商品製造プラットフォーム「The/Studio」が1,100万ドルを調達。世界4,752の工場をネットワークに持ち、顧客企業は商品製造過程を丸投げできます。「製造工場版Airbnb」のようなコンセプトを用いることで、最速で商品製造を行うことを可能にさせました。

The/Staduioの場合、利用企業と工場とのマッチングにAIが組み込まれていることが十分に考えられます。こうしたサプライヤーや製造事業者の効率化にAIが一役買っている点も見逃せないトレンドとはずです。

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