フォーチュン1000社が「スタートアップ・ゲノム」から学べること

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スタートアップ・コンパスは、同種のスタートアップとの比較やベンチマークなどを用いて、スタートアップにより成功しやすい手法を広めるべく活動している。その研究や調査の集積は、「スタートアップ・ゲノム」というリポートにまとめられている。スタートアップ・コンパスはシリコンバレーに本拠を置き、世界にあるスタートアップ関連コミュニティと関係を締結し、知見の共有やコミュニティ間の交流に力を注いでいる。

スタートアップ・デイティングが以前、スタートアップ・コンパスの記事(『シリコンバレーにある650社のスタートアップを研究して分かったこと』『スタートアップが失敗する一番の原因は「時期尚早な規模拡大」』)を掲載して反響が大きかったことや、アジアのいくつかのスタートアップ・コミュニティからの推薦もあり、日本でのメディア・パートナーを務めることになった。

スタートアップ・コンパスが提供してくれる情報はニュースではないが、スタートアップが生き抜いていく上で非常に有用な情報を提供してくれる。スタートアップ・コンパスや、そのアライアンス・メンバーである世界のスタートアップ・コミュニティから発せられる知見を、半定期的に日本語で提供したい。


【原文】

2011年2月、私たちはシリコンバレーの掟を破り、さらに世界中のスタートアップの成功率を上昇させる、とても挑戦的なプロジェクトを始めた。

2週間前、私たちはスタートアップ・ゲノム・コンパスを立ち上げた。これは、スタートアップのベンチマーク・ツールであり、スタートアップの初歩的な失敗となる原因の調査である。反応は予想外に大きかった。8500社以上のテック系スタートアップがこのアプリケーションを使い始め、私たちの調査レポートは25000回以上ダウンロードされた。今では15カ国語以上の言葉でかかれたブログ記事やインフォグラフィックス等をインターネット上で見つける事が出来る。世界中のいたる所にすむ何千の起業家の人生に触れられたことは、とても恐れ多いことだ。

この6ヶ月、スタートアップ・ゲノム・プロジェクトは膨大な量のスタートアップのデータを収集し、起業家の思う優秀なリーダーを総合し理論上のモデルを構築した。また、起業のプロセスやイノベーションを可視化することに挑戦した。

我々の理論上のモデルの本質は、スタートアップを環境や市場と相互作用を起こすプロダクト中心の生命体と捉えることにある。この生命体の核となる軸は、顧客、プロダクト、チーム、ビジネスモデル、ファイナンスである。スタートアップの重要な課題は、いかにこの5つの軸を実際の顧客の反応と協調させるかである。顧客との協調から早々と外れてしまう例に、プロダクトの軸を急いで進めてしまうケースがある。結果としてオーバースペックな商品となり市場に受け入れられにくくなる。

スタートアップのグループ分けやベンチマークにあたって、私たちはそれらをタイプとステージで分けた。異なるタイプのスタートアップは、顧客との関係や顧客開拓の複雑性により分類する。ステージは、スタートアップが大企業までに成長するまでのライフサイクルによって分類する。各ステージには異なるゴールがあり、また鍵となるアクティビティがある。例えば、最初のステージの「発見」では、スタートアップは主に定性的な調査プロセスを得て、問題と解決方法が適切かどうかを確認する。次のステージ「検証」では、スタートアップは、実際に動作するプロトタイプをつかってより量的な調査を行う。(より詳細な方法論はこちらから)

CC BY 2.0: via Flickr by betsyweber

我々がスタートアップ・ゲノム・プロジェクトを始めてから、多くのフォーチュン100企業の幹部が我々に接触してきた。我々のツールや調査が、彼らの仕事にも適応できないか興味を示しているのだ。当初、我々はスタートアップに注目していたが、この方法論がスタートアップの進捗のみならず、さまざまな革新的なプロジェクトの進捗を図るのにも応用できることがわかった。これらの飛躍的な考察の基礎となる理論は、クレイトン・クリステンセン(ハーバード・ビジネススクール教授。「イノベーションのジレンマ」著者)とスティーブ・ブランク(「アントレプレナーの教科書」著者)によって考えられた。

CC BY 2.0: via Flickr by Eva Blue

クレイトン・クリステンセンは、破壊的なイノベーションは起こすことは、イノベーションを続けることと本質的に異なると指摘した。異なるルール、異なるマネジメント戦略、異なるタイプの人々が必要になるのだ。スティーブ・ブランクは、この起業についての科学の話を、大企業で起きる破壊的なイノベーションに関連づけた。破壊的なイノベーションのための理想的な組織構造は、スタートアップであると気づいたからである。問題は、起業についての科学が発展しているにも関わらず、イノベーションは未だに黒魔術の類いとみなされている点である。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブス、マーク・ベネオフの革新的な成果は、彼らのカリスマ性により実現されたとみられている。なぜなら、彼らが力がかなうはずもない敵や巨大マーケットに、どのようにして勝ったのか説明が困難だからである。

しかし、今、スタートアップ・ゲノムは、これらの革新的なプロジェクトが成功するか否かを明るみにし、経営や会計のイノベーションに新たなパラダイムを提供することができるだろう。

以下に、私たちの調査から得られたよりいくつかの発見と、私たちのツールや調査が役に立つ3つの例を示した。

調査からわかったこと

  • 最も成功しているスタートアップは、少なくともピボットを一度以上経験している。ピボットを一度か二度したスタートアップは、 ピボットを経験していないスタートアップと比べて 、2.5倍資金を多く調達し、3.5倍ユーザー数の伸びが良く、早まった拡大をすることが52%少ない。ピボットとは、スタートアップがビジネスの大部分の変更を決定することである。

大企業では、社内スタートアップに対してピボットを行わせない傾向にある。

  • 異なるタイプのマーケットや商品には、異なるタイプの創業者やリソースを必要とする。B2C対B2Bというのは、もう意味のある分け方ではない。インターネットは、顧客との力の関係性を大幅に変えてしまったからである。我々は、4つの基本的なスタートアップのグループを発見した。「顧客獲得」「必要とする時間」「市場リスク」「チーム構成」において異なる性質を持っていることがわかったのだ。

大企業は、彼らの本業から学んだことをイノベーション戦略に反映しようとして失敗する。

  • スタートアップの失敗の理由は、拡大が速すぎる場合が多い。我々が収集したデータの7割では、拡大が速すぎるか均整がとれていないことが失敗理由だった。均整がとれていない主な要因は、資本が大きすぎたり、チームが大き過ぎたり、チームの構成が悪かったり、テストが不足していたりなどである。ほとんどの大企業は同じようなことをしていて、計画の成功率を過信している。

結論

  1. 早すぎる拡大をして100,000ユーザを突破したスタートアップは一つもない。
  2. 早すぎる拡大をしたスタートアップの93%は、一つの基準となる月10万ドルの売上を出せなかった。
  3. 適切な拡大をするスタートアップは、早すぎる拡大をするスタートアップより20倍成長が速い。

大企業は、社内スタートアップに早すぎる拡大を強いる傾向にある。

  • 早期のスタートアップは、発見に多くの時間を費やしている。いびつなスタートアップは、自分たちのプロダクトを顧客が欲しがっていると正当化することに集中するのに対し、分別のあるスタートアップはその2〜4倍の時間を使って、顧客が誰なのかを調べている。分別のあるスタートアップは情報を調べている。そうでないスタートアップは、(調べずに)行動を起こしている。スタートアップで広く知られていることだが、スタートアップを成功させるリーダーは、とにかく調査をする人物であり、失敗させるリーダーは、調子良く見当違いなことを実行している人物だ。

大企業は最初の市場調査からすぐに実行に入り、
「発見」と「検証」という二つの重要な段階を見逃す。

  • マネタイズを急ぐスタートアップは失敗しやすい。マネタイズに躍起になると、いびつさを引き起こす。93%のいびつな状態のスタートアップのビジネス拡大時の収入は、月10万ドルにに満たない。収入は検証するのに重要な指標であるが、あまりに執着しすぎるとスタートアップにとって、機会を逸失したり、事業拡大にはつながらない機会に傾倒し、小さなビジネスや店舗のコンサルタントに変わってしまう。

大企業は、提供する新商品や新サービスの真の価値より収入に固執しがちである。
その結果、不適切な価格設定となる。

CC BY-NC-SA 2.0: via Flickr by thewoodenshoes

ユースケース

  • 私たちは大企業に対し、スタートアップを評価し、投資に最適な時期を決めるのを助けることができる。
  • 私たちは大企業の社内スタートアップを評価し、効果的な購買や構築の決定を助けることができる。
  • 私たちのフレームワークを、ビジネスの進行や制御システムの測定の指標とし、企業買収後の向上プロセスを促進する。

世の中では、70%から95%の買収が失敗している。この大きな数値は、スタートアップに大企業の財務、人事、プロダクト、マーケット、ビジネスモデルを取り入れようとして生まれた不和が原因である。買収されたとき、ほとんどのスタートアップはこれらの点に対して確信がなく、大企業の持つ、これらの一つにでも順応させようとするあまり、会社の成長を止めてしまったり、潰してしまったりする。

たとえば、親会社は、ビジネスモデルがなく、たくさんのユーザを持つスタートアップを見込み客の獲得に使いたいのかもしれない。その結果、スタートアップのプロダクトを最初の価値目標から離れさせてしまい、ユーザベースを失い、チーム内に大きなビジョンの対立を生みかねない。

私たちのフレームワークは親会社がスタートアップの開発ステージを計るのを可能にし、スタートアップが成熟し安定に必要なレベルに達した時に統合することで、これらの企業病を解決できる。

競争のプレッシャーは増え続けるので、どの大企業もイノベーションがますます生命線となってきている。イノベーションがストップすると、会社の寿命のカウントダウンが始まる。スタートアップ・ゲノムは無限の命を保証するわけではないが、より健全な生活のために、インフラやツールを作ろうとしているのだ。

(本稿は、Sandhill.com にも掲載されました。)

【via Startup Compass】 @startupcompass