今年初め、Google 会長を務める Eric Schmidt 氏は「2020年までに、地球上のすべての人がインターネットにアクセスできるようになるだろう」と述べた。インターネット利用者がアジアの総人口に占める割合が 5〜6% であることからすれば、この予測はやや懐疑的にも聞こえるが、そもそも、インターネット・アクセスを持たない新興国のユーザを懐柔する策として、Google が Android を始めたことを考えれば、Schmidt 氏の発言は根拠の無いものではないだろう。
インドは、インターネットの普及率が11%と高い値ではないが、そもそも母数が大きいため、ユーザ人口で日本のそれを遥かに超えている。では、インドのスタートアップ/テックシーンは、どうなっているのだろう。
THE BRIDGE では、インドのスタートアップ・シーンについて、これまでに以下のような記事を掲載している。
半年ほど前、ルクセンブルクからの帰路、インドのインターネット市場に絶大な可能性を感じ、熱い視線を送る人物に出会った。ワンディッシュの村田大(だい)氏だ。彼はバンコクへ、私は東京へと向かうトランジットとなったアムステルダムの空港で、数時間にわたって話し込んだのをよく覚えている。
村田氏は2014年、インド最大の Eコマースサイト Yebhi 向けに、日本企業の進出支援を本格的に開始する。数ある選択肢の中から、インドのEコマース市場が日本企業にとって、なぜ魅力的なのか。インドが持つ潜在力や市場動向も含め、村田氏に尋ねてみることにした。
インドのeコマース市場を支配する、3強+2
2012年現在、インドのEコマース市場規模は140億ドルに上るが(Hindustan Times による) 、実にその売上の過半数を FlipKart、Snapdeal、Yebhi という3強がを占めている。2013年には、ファッション専門の Fashion and You、そして6月には Amazon が現地企業を買収して Amazon India を立ち上げた。先週には、contextAsia とネットプライスドットコムが、インドの決済プロバイダ Citrus への出資を発表するなど、インド市場に対する世界からの期待は熱を帯びつつある。
インドには、日本のソーシャル・コマースに代表されるような、スタートアップがEコマース・プラットフォームを立ち上げる事例はまだ見られません。大手が数百億円以上の売上を出していて、彼らがテレビ・コマーシャル等を使って、大々的にプロモーションをしているという状態。それに、インドは決済や物流プラットフォームがまだ貧弱なので、自ら配送や倉庫などのネットワークを持っている企業でないと、安定したEコマース事業を展開することはできません。そこで、そのようなインフラを持ち、経験も豊かな Yebhi と組むことにしたのです。(村田氏)
インドの経済界においても、Yebhi が持つ経験とノウハウは評価が高く、最近では、インド国鉄のEコマースサイトや、インド Philips のEコマースも運営を受託している。
高価な日本製品が、インドで売れるのか?
日本企業や小売店が、インドのマーケットプレイスに商品を出してみて、果たして売れるのだろうか。そのためには、まず一般市民の購買力を検証する必要がある。
村田氏によれば、インドでは、大学生が1ヶ月間アルバイトで稼げる金額が約100ドル。大卒であれば500ドル、これが2〜3年の勤務経験を経て800ドルになり、20代後半でマネージャーになれれば、1,200〜1,300ドルというのが相場だ。ざっくり言えば、日本の平均的な給与水準の4分の1ということになる。ここから、果たして、高品質ながらも高価な日本製品を買いたいというモチベーションが、ユーザに生まれるのだろうか。
注目すべきは可処分所得の高さです。彼らは実家暮らしが多く、両親や親戚と同居していることが多い。つまり、稼いだ給料は、ほぼ小遣いにできるということです。Yebhi は決して価格訴求をしているサイトではないが、購買単価5,000円とかのシャツやパンツが、普通にポンポン売れている。商品の販売価格帯も日本と同じようになりつつあり、このようなトレンドを考えると、例えば、日本企業が商品を中国のEコマースで売るよりも、インドで売った方が利益が上げられるのではないか、と思うわけです。
アジアで日本製品に対する評価が高いことは言うまでもなく、インド人もそのことはよく知っている。しかし、情報が少ないため、日常的にそれをどこで買えるのかがわからない。インド最大級のEコマース・プラットフォーム Yebhi 上に、「Japan Selection」という日本製品を専門に扱う常設コーナーを設けることで、特定のメーカーや品目に留まらない、日本製品を買い求めたい消費者をインド中から集めることができるわけだ。
オンラインからオフラインへの展開も夢ではない?
Yebhi は、インド国内の実店舗商業施設 Shoppers Stop(200店舗)、スーパーマーケット Vishal Mega Mart (100店舗)などとも連携が強い。したがって、Yebhi でオンライン販売した日本製品が高評価を得られた場合、それを Shoppers Stop や Vishal Mega Mart でも実店舗販売することについても、Yebhi は前向きなのだそうだ。
ワンディッシュでは、これまでのインドビジネスを通じて獲得したネットワークを駆使して、Eコマース以外にも、日本のスタートアップが創り出したプロダクトのマーケティングも支援している。例えば、ビジネスチャットツールの「チャットワーク」は、サンフランシスコやルクセンブルクに拠点を置いてサービスを全世界展開しているが、同ツールのインドでのマーケティングはワンディッシュに委託している。ワンディッシュの努力が功を奏じて、最近では、チャットワークの英語ユーザの流入は、欧米にも増して、インドからのサインアップが急速に伸びているのだという。
グローバルにビジネスを展開すると、ともすれば、サービスから日本的なカラーが失われがちだ。一方、海外では、我々が考える以上に日本のプロダクトやコンテンツに対する期待や評価は高いわけで、これを商機と捉えてマネタイズしないのはもったいない。
Yebhi の「Japan Selection」は 2014年3月15日にオープンする予定で、ワンディッシュでは現在、インドに出店したい企業を募集中だ。詳細はこちらから。
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