CeBIT 2014に見るスタートアップ・トレンド〜ドイツ最大のITカンファレンスの内覧会から(1/2)

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3月10日~14日の5日間、ドイツ・ハノーバーで CeBIT 2014が開催される。昨年にも書いたが、CeBIT はヨーロッパを代表する家電やテクノロジー製品のカンファレンス・イベントで、開催期間中は、毎年数十万人に上る参加者が北ドイツのこの街を訪れる。

最近この種のイベントで必ずと言ってよいほど併設されるのが、スタートアップにスポットライトを当てたセッションや展示ブースだ。スタートアップ・コミュニティに身を置く我々から見れば、これは至極当然の成り行きなのだが、伝統ある名高いカンファレンスで、世界中から集まるアーリー・アダプターを前にスタートアップがプロダクトを披露できるのは、またとない好機会だろう。CeBIT のスタートアップ・コンペティション「code_n」には60カ国450社からのエントリーがあり、うち50社が参加することになる。

CeBIT の本イベントを約1ヶ月半後に控えた先週、同じ会場でプレス向けのプレビュー・イベントが開催された。ヨーロッパを訪れる度に思うことだが、彼らのプロダクトには、日本やアジアではあまり見られない、ユニークなデザイン美がある。本イベントの前出しとして、出展が予定されるスタートアップの中から、筆者の興味をそそったもののいくつかをご紹介したい。

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左から:Hartwig von Saß(CeBIT スポークスマン)、Oliver Frese(CeBIT 運営責任者)、
Dieter Kempf 教授(ドイツのIT業界団体 BITKOM の代表)、Simon McDonald(駐ベルリン・イギリス大使)

プレビュー・イベントのオープニング・セレモニーでは、CeBIT 運営責任者の Oliver Frese が挨拶を始めた。今年から CeBIT は月〜金の一週間イベントとなった。参加者はこの一週間会社の仕事を休んでハノーバーに来れば、CeBIT を隅から隅まで堪能することができ、毎日開かれるセッションにもくまなく参加できる。前後の土日は、ハノーバーやドイツの他の都市で観光を楽しむのもよいだろう。

このセレモニーにイギリス大使が招かれていたのは、今年の CeBIT のパートナー国がイギリスだからだ。CeBIT では、ドイツ国外からも多くの人に参加してもらうため、毎年イベントを共に盛り上げるパートナー国を設定していて、今年はそれがイギリスということになる。このプレビュー・イベントには、THE BRIDGE で日英の翻訳を担当してもらっている佐藤ゆきさんも来ていたのだが、イベントの合間に供されたオードブルに、デパートで食べるお子様ランチの日の丸よろしく、あらゆる料理にユニオンジャックがはためいていて、筆者と彼女はその光景に笑いが止まらなかったのだった。

スタイラスやパッドが無くても文字が書ける、カールスールエ工科大学の AirWriting

カールスールエ工科大学(Karlsruher Institut für Technologie)は、AirWriting という文字入力デバイスを展示していた。腕時計状の加速度センサーを腕につけ、ペンで文字を書くように手を動かすと、XYZ三方向の加速度をセンサーが読み取り、文字認識がなされるというしくみだ。この種の技術でしばしば必要になるスタイラスを受け止める側のパッドが不要なので、ユーザは片手の動作だけで文字を綴れることになる。これなら、一方の手が荷物でふさがっていたり、電車で立ったまま吊り革を握っていても、空いている方の手で文章を書いたり、コーディングしたりすることが可能になる。

OCR と同じく、まれに文字が誤認識されることもあるが、辞書を持っているので自動的に補正される。現在はアルファベット大文字のブロック体でしか実現できていないが、これが筆記体や漢字にも応用できるようになれば、ウエアラブル・デバイス時代の入力インターフェースとして理想的な手軽さと言える。

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写真中央の女性が、AirWriting を開発した、カールスールエ工科大学の Tanja Schultz 教授
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文字を書く方の右手にはセンサーを装着、左手には何も持っていない
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実験者が右手で文字を書く動作をしたところ、画面には「hello how are you」と表示された

スマホを使ったメッセージングと通話に、高レベルのセキュリティを提供するアプリ Chiffry

CIA元職員のエドワード・スノーデン氏の亡命以降、アメリカの諜報機関がさまざまな情報収集をしていたことが明らかになった。なかでも、ドイツ国内で話題をさらったのは、メルケル首相の私用の携帯電話をアメリカ国家安全保障局(NSA)が盗聴していたかもしれないという疑惑だ。海外の外交官らと打合せしていると、彼らがおもむろにセキュリティ・デバイスをラップトップに挿入して通信しているのを目撃することがあるが、スマートフォンでのやりとりには、どのように対応しているのだろうか。

ドイツ政府のお墨付きをもらった、暗号化ハードディスクドライブ「HS256S」で知られる DIGITRADE社は、Chiffry というセキュリティ・アプリを開発した。このアプリを導入したスマートフォン同士であれば、すべての通話とメッセージが暗号化されるとしている。現在は Android 向けのベータ版のみダウンロード可能で、近日中に iOS 版も公開される予定だ。

おそらく、我々のスマホの通話やデータ通信も、通信キャリアの電波ベースの低いレイヤーではデフォルトで暗号化されているはずなので、Chiffry が提供するのは、よりアプリ層に近いレイヤーでの暗号化ということになる。ただ、スクリーンやマイク/スピーカーなど、インターフェースの直前直後で信号をタッピングされれば、どんな通信も盗聴できてしまうので、Chiffry がその安全性をどのように担保しているのか興味のあるところだ。

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電力メータの検針を簡素化する Pixolus

ドイツでも日本と同様、電力メータの検針がある。電力会社の担当者が検針に来て、消費した電力に応じて電気代が請求されるわけだ。この検針というプロセスはことのほかコストがかかるらしく、電力会社はあの手この手で省力化を図ろうとしている。ケルンのスタートアップが開発した Pixolus は、電力メータの目盛りをスマホのカメラで読み取るアプリで、取り込んだ消費量のデータは世帯情報と結びついて、電気代の計算に回される。ドイツでは一般家庭でも電力が完全自由化されており、電力会社間で競争原理が働くので、こういう経営努力も求められるというものなのだろう。

ただ、ドイツでは基本的に電力メータの検針は年に一回だ。毎月の電気代は、過去一年間の消費実績を12等分して請求されるしくみなので、日本のように東電や関電のおばちゃんが、玄関先に毎月やってくることはない。つまり、この時点で既に一定の省力化は図れているはずで、さらに省力化を求めるのは、ムダを徹底的に排除したがるドイツ人の気性の現れだろうか。

日本では検針のおばちゃんが専用の携帯端末を持ち歩いているし、先進国では遠からぬ将来スマートメーターが導入されて検針のプロセスは完全自動化されるだろうから、Pixolus は発展途上国に合った技術移行期のソリューションという見方ができるのかもしれない。

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今回はここまで。本稿に紹介した以外にも面白いスタートアップに出会えたので、近日中に後編として記事を公開するので乞うご期待。3月に開かれる本イベントで、自分の目で確かめたいという人は、ここからチケットを購入できる。

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