
「けんすうのこと知らないの?すぐに取材行った方がいいよ」
ーーある友人の起業家が私にかけてくれた言葉が今でも記憶に残っている。けんすうとはもちろん、ハウツーサイト「nanapi」の創業者であり、代表取締役の古川健介氏のことである。当時、まだ会社名がロケットスタートという名前だった頃、私はその言葉に押されて代々木にあるお世辞にもカッチョイイとは言い難いオフィスを訪ねることになった。
古川氏、いや、この記事では彼の愛称、けんすうと呼ばせてもらおう。そう、狭いアパートの一室に10人ほどだっただろうか、息づかいも聞こえてくるようなその部屋で、私はホワイトボードを前にしたけんすうから、いかにこのnanapiというメディアが生まれたのかを聞いていた。彼の話すコンテンツ・デリバリの話は今も昔も変わっていない。
<参考記事> [jp] ソーシャルの力で「あたりまえ」を教えてくれる。nanapiは新時代のライフハックサイトだ。

実はサービスのリリースは2009年9月で、私が取材した2010年6月というタイミングはなんとも言えない微妙なものだったが、結果的にここから私は彼のことを時折取材し、記事に残すことになった。世はまさにクーポン共同購入の大合唱、私は次々と生まれるクローンを追いかけつつ、新しいトラフィックの流入元となりつつあった「ソーシャルメディア」に注目していた頃だったと記憶している。
そして今日、初めて彼に会ってから4年、nanapiとけんすうは大きな決断をすることになる。
KDDIによる子会社化だ。
10月16日に報道された内容では単にKDDIによる子会社化となっているが、複数の関係者からの話を統合すると、今回のKDDI側の出資額は40億円を超え、過半数を超える比率を獲得することになる、というのが事実のようだ。また別の情報筋によればその評価額は約77億円で、古川氏はそのほとんどの株式を保有したまま次の運営にあたる、ということだった。
創業2007年12月のロケットスタート創業、和田修一氏と共に本格的にnanapiを立上げた2009年6月から数えてわずか5年数カ月の出来事になる。
nanapiを振り返る
さて、いつもなら未来の話をするところなのだが、今日は少し趣を変えて、nanapiが出来てからしばらく取材したこの数年間を振り返ってみたいと思う。これはこれで後に続く起業家の方にとっても参考になる話は多いはずだし、nanapiの未来を考える上でも大切な情報になると思う。
話を元に戻そう。私が微妙な時期に取材をしたnanapiはその数カ月後、初めての対外的な転機を迎える。
大型調達だ。
2010年11月に公開された3億3000万円の資金調達は当時としては破格の金額だった。後のインタビューでも聞いているが、社外取締役でもあるグロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏とけんすうは2008年の秋に出会っているから、このディール、2年越しということになる。たった数年前のことだが、当時はそれぐらい時間がかかってもおかしくない話だった。

ただ、この頃は後のインタビューにもある通り、地味に成長を続ける話題が多く、あまり私も積極的に取材して記事にすることはなかった。個人的なつながりでたまに会ったり、イベントなどの会場で状況を確認していたのは覚えている。さらに2011年3月に発生した震災は、この頃にスタートアップした企業全てになんらかの影響を与えている。
当時のことを振り返って高宮氏が「平坦な伸び率のまま、中期戦略の大きな絵についての議論の中で、最悪成長率はこのままじわじわで、1年後にキャッシュが尽きたらどうしましょうかって話が出た時、実は最悪の場合はウチでもう一回支えなきゃいけないって腹括ってたりしました」と語っていた言葉には、2011年から2012年のnanapiの苦悩というか、一気にいけないもやもやしたものが感じられる。
この約2年のもやもや時期を乗り越えて、nanapiは月間の訪問者数を1000万人の大台に乗せることに成功する。ようやくやりました、と連絡を貰って書いたインタビューがこれだ。

当時は社名もロケットスタートから正式にサービス名と同じnanapiに変更(2012年4月)したこともあってか、サイトの成長ロジック、広告のビジネスモデル、運営体制、全てに対してけんすうは自信を持って答えていたことを覚えている。(久しぶりの長いインタビューだったのでお互いやけに張り切ってた)。アドネットワークによる広告収入がチューニングで0.5円を超えるなど、嬉しそうに語るけんすうの顔は取材していて楽しいものだった。
そしてその成長は認められ、2013年7月に二度目となる2億7000万円の資金調達を実施する。グロービス・キャピタル・パートナーズに加え、KDDIのOpen Innovation Fundがここに参加した。思えば今日の出来事も随分前から動いていたのだとよくわかる。けんすうは当時、KDDIと連携して「スマートフォン時代の問題解決ポータル」を作るんだ、と展望を語っていた。
そしてそれが今日の発表にも繋がっている。
2010年6月に250万「ページビュー」だったサイトボリュームは4年で「月間3500万訪問」に大きく成長し、突如として始まったスマートフォンアプリ「アンサー」はあっという間に4000万回答を突破、単なるQ&Aから即レスコミュニティに進化を遂げている。まあ、もちろんこれはあくまで回答数なので、まだ非公開のユーザー数が開示されるまでにはもう少し時間がかかりそうだが、それでも成長は成長だ。
けんすうはこの大きなターニングポイントを経てどこにいくのだろうか。
実は少し前、私はけんすうと最近の近況報告をする機会があった。その時、彼はここにきてまた新たな悩みを抱えてるとも話している。nanapiはどれだけボリュームを大きくしたとしても、やはり広告ビジネスには限界が見えてしまう。Impあたりゼロコンマ数円の単位に神経をすり減らしても、幸せになる日はなかなか近づいてこない。
想像するに、今回の子会社化はまだけんすうが辿り着いていない答えを見つけるための方法なんだと思う。
だからまだ見つけていない答えをああだこうだと言うよりも、まずはここまでのけんすう、そしてnanapiのチームが辿ってきた道のりを少しだけまとめさせてもらって、そしてまた、彼が新しい答えを見つけたときにその話を書きたいと思う。
そして最後になったが、「絶対書いた方がええで」とけんすうを紹介してくれた共通の友人起業家に感謝したい。
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