iOS開発者の堤修一さんにインタビュー(後編):世界で通用するエンジニアになるには? スペイン、米国での模索を経て気づいたこと

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堤修一さん(左)、ベルリンのHacker Paradiseのお仲間と
堤修一さん(左)、ベルリンのHacker Paradiseのお仲間と

世界中を旅しながら仕事をするハッカー集団「Hacker Paradise」のベルリンプログラムに参加されていた、iOS開発者の堤修一さんへのインタビュー、後編です。前回は、自分探しの果てに30歳を過ぎてからほぼ未経験でエンジニアとしてカヤックに入社し、エースエンジニアになるまでの話をお伝えしました。約3年間勤めたカヤックを退社したあとは、活動舞台を世界に広げるべく堤さんの奮闘は続きます。インタビュー後編では、スペインでの書籍執筆、シリコンバレーでの経験、そして最後はベルリンでのお話をお届けします。

関連:iOS開発者の堤修一さんにインタビュー(前編)カヤックで「使えないおじさん」からエースエンジニアになるまで

スペインでの初の英語面接で「スカイプ面接恐怖症」に

堤:ぼくにとっての「青春時代」を過ごしたカヤックを2012年の年末に辞めることにしまして。で、辞めることを決めた週にちょうど本を書かないかという話をいただいたんです。きた!! と思いました。

本はいつか書きたいなと思っていたのでちょうど良いタイミングだったのと、あと海外に出たいなと思っていた時期なので、まさに本の執筆はどこでもできるので良い仕事がきたなと思いました。

それで、2013年の2月に1ヶ月スペインに行きました。

佐藤:おお! またなぜスペインに?

堤:アメリカやアジアよりもヨーロッパに興味がありました。国の雰囲気としてもイギリス、スペイン、ドイツあたりに行きたいなと思ってたんです。あと冬だったんで、一番寒くないスペインにしました。スペインのバルセロナで本を書きつつ、現地でiOSエンジニアを募集している企業に応募してみたりもしました。

それで、現地の企業とはじめてスカイプ面接をしたんですけど、相手が何を言っているのかよくわからなくて。ビザのことを聞かれたのはなんとなく分かったので、ビザは持っていないと答えたら、なんかアイムソーリー的なことを言われました(笑)。

佐藤:アイムソーリー的なことって…!(笑)

堤:自己紹介もしないままに面接が終わってしまって…もうそれでスカイプ面接がトラウマになってしまいました。それがスペインでの最初で最後の面接になりました。

スペインの失業率の高さも現地で実感したので、スペインで仕事をするのは無理だなと思いました。あと、ちょうど日本からもフリーランスの仕事がきたのでそれも引き受けて、ああ海外でも日本の仕事をリモートでできるんだなという実感は得られました。

そういうことをブログでも発信してたんですけど、ちょうどAppSociallyの当時のCTOがコンタクトしてきてくれたんです。シリコンバレーのシードアクセラレータの500 Startupsに参加するから、一緒にやらないかと言われて。当時まだスタートアップ界隈に疎くて、シードアクセラレータ? 500 Startups? なんじゃそりゃって感じだったんですけど、とりあえずスカイプで話を聞いてみました。

シリコンバレーで500 Startupsのアクセラレータプログラムに参加

AppSociallyのメンバーとして、500 Startupsに参加した堤修一さん(左)
AppSociallyのメンバーとして、500 Startupsに参加した堤修一さん(左)

堤:それで、いろいろと条件交渉をしたら話がまとまって、スペインのあとはアメリカで仕事をすることになりました。500 Startupsの経験はとても刺激的でおもしろかったです。

シリコンバレーには2013年後半までいました。そのとき、リンクトインのプロフィールの住所をマウンテンビューにしてたんですけど、そしたらシリコンバレーの名だたる大手テック企業からスタートアップにいたるまでスカウトメールがじゃんじゃんきました。ぼくの実績はこっちでも通用するんだなと思いつつも、英語でのコミュニケーションがやっぱりまだ自信がなかったんです。プロダクトをつくる上では、チームで議論を突き詰めていかないといい仕事ができないので。

それで、まずはエンジニアとしてのスキルをもっと突き詰めて、世界のチームから「ちょっと英語ができなくても話したい」と思われる存在になりたいと思いました。なので、日本でエンジニアとしての技術と実績をもっと磨こうと思いました。

そんなわけで2014年は日本でやろうと思ってたころなんですが、そのころハードウェアと連携するアプリが面白いなと思い始めたんです。ちょうどアメリカにいたときにPebbleを見たり、Kickstarterのことも知ったりして。

当時は iOS SDKを出しているガジェットをたくさん買ってました。あとArduinoの電子工作とかもやったり。でもやっぱりハードウェアに触るとその複雑さもよくわかって、ぼくはiOSのソフト側に徹しようという思いも強まりました。あと、ハードウェアとiOSアプリを連携させるキー技術がBLE(Bluetooth Low Energy)であるということがわかってきて、そういうのを記事に書いたりしてました。

WHILLは500StartupsでAppSociallyと同じバッチだったんですけど、ソフトウェアエンジニアを探していたときに声をかけてくれて。で、WHILLと仕事をしたらBLEにも詳しくなって、そういうことをブログに書いてたら、次はMoffの方も声をかけてくれて。

そんなこんなで、BLEを使うiOSアプリづくりについて本を書く話もきて、2015年3月にBLEの本も書きました。これです。

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佐藤:でっかい本ですね!

堤:これいつも持ち歩いてるんです。とりあえずこれを海外で見せると、言葉は通じなくても「オーマイガー!」って感じになるんで(笑)。

佐藤:確かに触れるものってインパクトありますもんね。

堤:3月にこの本を出版するまでは3ヶ月ぐらい執筆にかかりっきりでした。本の執筆もして、結構自分のなかでは達成感もあって、そんなときにまたふと「海外に出てみようかな」って気持ちが沸き起こってきたんです。ちょうどそのころにHacker Paradiseのことを知って、実際に行動を起こしてみようという気持ちになりました。面接にも合格して、お客さんともスケジュールを調整して、ベルリンに来たというわけです。あとブログにも書きましたが、GitHub経由で海外からも仕事の依頼がきて、ちょうど海外をまた攻めるぞモードになり始めてました。

佐藤:こうして、今ベルリンにいらっしゃるわけですね。

成功体験、失敗体験の積み重ねは大事

佐藤:実際にHacker Paradiseに参加されてみてどうでした?

堤:よかったのは、外国人の中に一人で飛び込んでみると、成功体験や失敗体験の数を積み重ねられることですね。たとえば、今までは外国人の中に一人で飛び込むといつも「一刻も早くこの場から逃げ出したい」という気持ちになっていたんです。でも今回参加して、一定の条件がそろえば気まずさを感じないことがわかって、開き直れるようになりました。

佐藤:それはどんな条件なんですか?

堤:まず、相手がぼくと話すことを無駄だと思っていないなと感じられること、あと人数がぼく以外に二人までという条件です。相手が自分に話かけてくれる頻度とかで、相手が自分に興味が持っているかどうかがわかるので。そういう人にはぼくも安心して拙い英語をぶつけられるんです。

あとは案件に関する話とか、会話にきちんとした目的がある場合は安心して話せることがわかりました。あとスカイプだとこわかったんですけど、実際に会えば大丈夫だとわかりました。そういう一定の条件を満たしていれば大丈夫なんだという成功体験が得られたのは良かったですね。

でもね、来る前は本当にこわかったです。

Hacker Paradiseのみなさんと
Hacker Paradiseのみなさんと

佐藤:え、そうなんですか? そんな風には見えなかったんですけど。

堤:いえ、すごくこわかったです。Hacker Paradiseに参加する前は、不安ばかりでした。

佐藤:ちなみに、ベルリンという場所についてはどんな印象をもたれましたか?

堤:シリコンバレーに行ったときは、家賃も高いしビザを取得するのも大変だしで「そこまでしてここで働く意味があるのか?」って気持ちもあったんですけど、ベルリンに来てみてフリーランスビザの話とか面白いスタートアップの話も聞いたりしてとても面白い街だと思いました。あと夜中に歩いていても危険な空気がしないとか、車を運転しなくても電車やバスで市内中どこでも行けるのが魅力的でした。

佐藤:海外での仕事を広げたい若いエンジニアへの方に対して、なにかアドバイスはありますか?

堤:一番効果的だと思うのは、GitHubでの活動です。GitHubでのスター数は世界共通の客観的指標だし、ソースコードを公開するので実力を直接示せるからです。世界に通じる指標という意味ではStackOverflowのreputationも効果があると思います。あと、海外にいる日本人の間でプレゼンスを高めるという点ではブログでの発信も効果がありますね。その繋がりで現地のスタートアップを紹介していただけたり、ということも今回ありました。

あと、これは仕事全般に関することですけど、苦手なことを克服するよりも得意なことを攻めて、周囲を自分に引き寄せるようにするというのは意識していますね。たとえば僕は海外で仕事したいのに英語が苦手なんですけど、英語を勉強するよりも、まず得意なiOSの分野で技術力と実績を磨いて、それをGitHubやリンクトインでアピールすることで、向こうが僕と話したい状況をつくる、みたいなやり方です。その方が楽しいですし、効果的なので。海外でミートアップよりもハッカソンの方に出るのも同じような考え方からですね。苦手な英語でトークをがんばるよりも、つくって成果物を見せた方が自分の強みを活かせので。

佐藤:なるほど。実用的なアドバイスをありがとうございます。たくさんお話しを聞かせていただき、ありがとうございました!

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