Facebookは、無料ネット接続サービス「Free Basics」でインドの人々を欺こうとしている【ゲスト寄稿】

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Mahesh Murthy 氏

本稿は、インド・ムンバイを拠点とする起業家兼投資家の Mahesh Murthy 氏による寄稿だ。

ここで示されている見解は著者本人によるもので、e27は必ずしも同意していない。

本稿は初出が LinkedIn Pulse であるため、THE BRIDGE が独自に著者に翻訳転載の了解を得ている。


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出典:Global Research

今日(原文掲載日:12月29日)、Facebook はインドで次の広告を掲載した(写真上)。タイトルは 「ネットの中立を求める活動家があなたに言いたがらないこと」。

私はネットの中立を求める活動家だ。そして私は、あなたが知りたいことを喜んで何でも話そうと思う。実際、私たちの集団は無償で働く少人数メンバーで、定職についている職場から休みをもらって活動している。いつでも、何でも話したいと思っている。

私たちは他人の考えをひねりつぶすビジネス用の斧など持っていないし、Facebook のライバル企業のために働いているわけでもない。何か挙げるとすれば、私たちは Digital India の一部だが、この組織はFacebookが生まれるはるか以前から存在していたもの。どのような質問に対しても私たちはオープンだ。

私たちは、昨年、Internet.org とよばれる取り組みを物静かに変えようとして、10億ルピー(150億米ドル)もの金額を広告に費やしたほか(インドであげた収益の3分の1の規模?)、今年もまた私たちインドの人々を騙そうとしている Facebook とは違う。私たちは懸命な取り組みをして、こうした製品、テクニカルに言えば「ゼロレーティングのアプリ」を昨年禁止させたのだ(昨年、何百万人もの署名活動を行っていたのを覚えているだろうか? それが私たちだった)。

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この Facebook の広告支出には、わが Modi Narendra 首相を持ちあげるために Mark Zuckerberg 氏が愛し感情のこめられたイベントの費用は含まれていない。これは Modi 首相がアメリカを訪問した際、政府を通じて Free Basics 案件の地ならしをしようとしたものだ。そう、これはうまく成果をあげた。TRAI(インドのテレコム規制当局)は封印されていた問題を取り上げ、Facebook は同計画を再び推し進める力を与えられたと思っている。

そしてその広告費は、「無料のインターネット」を救おうと呼びかけるタイムラインに掲載された広告やメッセージに追加されたのだった。あなたもクリックしていたかもしれない。

Facebook によれば私たち活動家が何も語っていないという10のポイントについて、これから吟味していきたい。でもその前に、どうして私たちがこれほど大騒ぎをして、何十億ドルもの価値を持つ企業に立ち向かおうとしているのかを知っていただきたいと思う。

世界のインターネット地図(出典:Internet.org)

それはどういうことか?

簡単に言うと、こういうことだ: 私たちの電波や無線周波数はインド国民のものだ。インド政府はその名においてこれを一定の条件で電気通信会社に一時的にラインセンス供与している。そして、その条件は常に貧しい人々を含むインドのすべての発展を促すものだ。

事実、インドの電気通信政策はこれまでに少しばかりの奇跡を生み出してきた。この国において10億もの接続がなされることで私たちの生活が変わり、改善したのだ。この基礎にあるのは、国民の誰もが利用できる全面的でオープンなインターネット環境を提供するよう、モバイルオペレーターが強制された政策である。多くの貧しい国々が、事態を正しく動かす方法についてのインスピレーションを私たちから得ている。

このような政策になったのは、あなたがおそらくこうした情報をモバイルインターネット、おそらくは携帯電話の Facebook で読んでいるからだろう。しかし Facebook は何億ドルもの資金をかけてこの国の政策を変えようとしている。

モバイル企業が政府の電波を使って Facebook しか提供しないような新しい政策が採用されるという事態を想像してほしい。Google も、Naukri も YouTube も、その他必要なサイトは何も使えない。ただ使えるのは Facebook だけ、他に少々つまらないサイト。使えるのはこれだけだとする。

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テレコム会社 Reliance による、Free Basics の広告

デジタルの平等からデジタルの奴隷へ

それこそ、携帯電話を持つ余裕はあってもネット接続ができないインドの貧しい人向けに Facebook が提供したいと考えているサービスなのだ。データパッケージ料金が月20ルピー(0.301米ドル)、携帯電話料金が2,000ルピー(30.14ドル)以上であるとすると、この命題はそれ自体成立しない。そして同社はこれをインターネットユーザを大々的に収奪するために正当化していると私たちは考えている。以下、様々な側面から検討してみることにする。

Facebook の望みは、私たちのあまり裕福でない仲間がお互いポークし合い、キャンディー・クラッシュゲームで遊ぶことはできても、Google で何かを調べ、 Khan Academy で何かを学び、商品マーケットプレイスで製品を販売し、さらにはNaukriで職探しできないようにすることなのだ。

1つたとえ話をしよう。私たちはたんぱく質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラルといったバランスのとれた食事が必要だが、政府はこれを提供するのに Sahakari Bhandar という流通システムを有している。Facebookの望みは、私たちの政府が所有するシステムを使って同社ブランドのコカインしか販売しないというものであり、他店にアクセスできない人に対しても特別に店舗を設けて何かを売ることをしないというものだ。

広告の中で同社は、貧しい私たちの仲間に対して実際にはデジタルの奴隷、あるいはデジタルのアパルトヘイトをもたらしているのに「デジタルの平等」を届けたいと主張しているのだ。何十億ものサイトがある完全なインターネットにアクセスでき、デジタルの平等を享受している残りの人たちとは異なり、私たちの仲間である貧しい人、若い人、将来の世代に対してはほんの少しのサイトしか提供したくないと Facebook は言っているのだ。つまりはそういうことである。

かつて、Internet.org はこのような取り組みをしていたが、その名前は正しくないと私たちは指摘していた。提供されていたのはインターネットでもなかったほか、ネット企業が使用していたものは非営利ベースではなかったからだ。だから Facebook はその名前を Free Basics に変え、私たちの喉元を再び襲おうとやって来たのだ。同じ毒物を入れた新しいボトルではあるが、大々的なキャンペーンを実施してだ。

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私たちの主張

私たちの政府に対する主張は以下の通り。私たちの電波に関して、インドのモバイルキャリアはインドにいる全ての人に対し、Facebook が選んだ少数のサイトだけではなく、全面的にインターネットに接続してもらえるようにすること。それだけだ。政府の占有物である無線周波数を使った Facebook による簒奪を特別視してはいけない、というものだ。

Facebook の主張はこうだ。政府が所有する帯域幅を使用するモバイル企業にはFacebook と同社が選んだサイトしか提供できないようにして、各社が望むだけの場所とユーザをつかみ取れるようにする、というものだ。

Facebook によると、同社がこのような取り組みをするのはより多くの人にインターネットを利用してもらえるようにするという慈善目的である(あたかも、インドであげた収入のほとんどをいわゆる慈善事業を推進するという全面ページの広告にあてる慈善事業だと言わんばかりだ)。しかし実際には完全にビジネスなのだ。

これに対して私たちはこう主張している。

慈善のためにデータを提供するという御社の考え方は素晴らしいと思う。しかし、もしそれを慈善事業として行うのなら、御社が選んだ少数のサイトだけでなく全てのインターネットを対象に提供していただけないだろうか。例えば、月500MBを全てのインドの人に提供してはどうか。

それは物理的には可能だ。しかし彼らはそうはしないだろう。同社は政府の帯域幅を使って他の選択肢を考慮に入れることなく Facebook だけを私たちの仲間である貧しい人たちに使ってもらいたいのだ。

Facebook の主張に対する反論

私たち「活動家」があなた方に話していなかったという「Facebook の Free Basics についての10の説明」に向き合っていこう。

1. 「Free Basics はどのキャリアに対してもオープンである」

確かにその通り。そうではないと私たちが主張したことはない。論点がずれている。

2. 「当社では Free Basics で誰にも課金していない」

それは承知している。私たちは課金しているなどと主張したことはない。さらに論点がずれている。

3. 「当社は Free Basics で消費されているデータに対して対価を支払っていない」

私たちは対価を支払っているなどと言ったことはない。ここにも誤解がある。Facebook はサービスに無料でサインアップしてもらうためにオペレーターに対価を支払ってはいない。しかし、こうしたオペレーターが消費者を引き寄せるためのマーケティングに多額の金額を支出している(Reliance の無料ネットの広告で見られた通りではないか?)。いずれにせよ、オペレーターにとってはメリットがある。広告に支出できるのだから何も現金を支払う必要はないのではないか?

4. 「どのデベロッパも Free Basics 上に自社のコンテンツを持てる」

これができないなどと誰が言ったのだろうか? しかし巨大なサイトは持てない。各社はFacebookに自社の顧客を持ってもらいたくないし、Facebook に顧客データを詮索してほしくない。なぜなら、その全てのトラフィックが Facebook のサーバ経由でなされるからだ。

インドではデータ料金がとても安い。その結果、一定の時間であれば全ての人が全面的にオープンなインターネットを利用できる。政府は中立的で無料のインターネットサービスを国民に提供できたはずだ。貧しい人たちにインターネットを利用してもらうのに別の方法があったのだ。国民をFacebookに売り渡してしまう選択肢を選ぶ必然性はない。

5. 「約800のデベロッパが Free Basics のサポートにサインアップした」

それをしていないと私たちが言ったことはない。さらに多くのデベロッパはサインアップしていない。つまり論点がずれている。

6. 「このサービスは壁に囲まれた庭ではない。ユーザの40%は30日以内に全面的なインターネット接続に移行する」

これが意味するのは、ユーザの60%は Facebook の牢獄に閉じ込められるということだ。たとえ1人であってもインドの人が接続を拒否されるのはなぜか? インターネットはすべての利用者に対してオープンでなくてはいけないものであり、かねがね述べているようにインターネットは中立的でなくてはならない。特に、無線周波数という公共の財産を使う場合はこれが当てはまる。

7. 「Free Basics は成長を続け36か国で人気を博している、オープン志向のプログラムなのでメリットが大きいとして歓迎されている」

これは正しくない。このような嘘は、私たちが今体験しているようなことに縁のない、貧しくて救いようのないアフリカの国々ではまかり通っているのかもしれない。また、これらの国には成長している子どもたちに本当のインターネットに接続する機会を奪っている政府に対し主張をする私たちのような「活動家」がいないのだ。

さらに言えるのは、日本、ノルウェー、フィンランド、エストニア、オランダといったネット先進国が Free Basics のようなプログラムを全面的に禁止しているのだ。あなたからの協力があれば、昨年1,200万通のメールを TRAI に送り、インドでもこれを禁止したようにできるかもしれない。 しかし Facebook はそれ以降、多額の現金を投じて広告、ロビー活動、外交政策、PRを駆使してこの国で禁止をさせないようにした。そして封印されていた問題を再びよみがえらせたのだ。あなたからの協力次第で再び封じ込めることもできる。

さらに重要なこととして、呼ぼうと思えばデジタルアパルトヘイトとも言えるこのプログラムはワールドワイドウェブを発明した紳士である Tim Berners-Lee 氏から博士号を持つ研究者、この分野で著名な市民運動・社会問題の関係者といった専門家が世界の至るところで厳しく非難しているのである。

タンザニアがFacebookに対してノーと言えなかったという事実があったとしても、インドがイエスと言う理由とはならない。実際、インドがこのデジタル・アパルトヘイトに対してノーと言うことで、アフリカの人たちや政府の支出で Facebook にしかメリットを与えないこの悪魔のようなプログラムを追放しようとする貧しい国々にインスピレーションを与えるのではないかと願っている。

8. 「最近の代表的な利用者を対象とした調査によると、インドの人の86%はFree Basics を支持していた」

これはどういうことだろうか? Facebook が作成した「インドをインターネットで接続する」や「無料のインターネット」というミスリードな質問に対して「はい」とクリックすれば、同社のプログラムに賛成したことになるのだろう。公平な決定をするには、2つの事象を同時に行うことはできないのだ。

9. 「320万もの人がTRAIに対し Free Basics を支持するよう要請した」

それが何なのかと言いたい。Facebook のユーザベースである1億3,000万人のうちの320万人は前回と同じようにページ上部でクリックして提出するよう Facebook によりミスリードされた結果が表れているにすぎない。ここでは両方の事象が伝えられていなかった。回答者は高尚な動機により行動したのであり、決して Facebook の事業戦略を後押ししたわけではなかった。ノーと言ったのに、そのように回答するよう仕向けられたのだと知って多くの人は衝撃を受けているだろう。

10. 「Free Basics のある Facebook 版には広告がない。Facebook は収益を得ていない。これをしているのはインドの人をつなぐためであり、そうすることのメリットは明らかである」

まず、ここには意図せざる嘘がある。Facebook は収益を生み出している。世界で約1,200億ルピー(180億ドル)に相当する金額だ。それから、国際的に見れば真実は半分だけである。このFree Basicsからまだ収益があがっていないのは、このサービスを提供している Facebook の現行バージョンにはまだ広告が掲載されていないからだ。

私たちはこの嘘の尻尾をつかんだ!12月28日時点の最新情報: Facebook の Chris Daniels 氏は、将来、Facebook の Free Basics に広告を掲載する権利は同社が留保しているとしっかり述べている

もし Facebook が巨額の資金と現在インドであげている収益の大半を政治家への斡旋に使っているのに、わが国民には慈善事業をしたいのだと言うために使っているのなら、金銭的な見返りが間違いなくあるはずだ。もし製品が無料であるというのなら、ユーザこそが売られているアイテムなのだ。

「インドの人をつなぎたい」といった嘘はもう忘れよう。もしそれが本当なら、オープンかつ全面的なインターネットを無料で全国民に提供しているだろう。それは簡単にできるが、同社はそれをしない理由を次のように繰り返し説明してきた。貧しい人は始めに Facebook にサインアップしなくてはいけない、 それから不揃いのサイトがいくつか表示されるようになる、と。

本当の理由は、これまで決して否定されることがなかったところにある。つまり、Google との競合関係、そして問題の多い株価。私たちは Google のために弁明をしているわけではないが、この点に興味を持つ人は多いだろう。

両社ともに15億のユーザを有しているが、Google の収益は7,000億ルピー(105億ドル)であるのに対して Facebook の収益はその5分の1の規模である。別の言葉で言えば、インターネットを利用する新規ユーザ1人あたりでみると、Facebook が8ルピー(0.12米ドル)稼いでいるのに対し、Google は48ルピー(0.72米ドル)稼いでいることになる。

Facebook の株価はマルチプル(倍率)でみると Google よりかなり高い水準にあるが、同社にこれほどの価値があるのか疑問の声が出始めている。成層圏レベルにある高い価格を支持する理由がなければ、株価は落ちていくだろう。

Facebook が株価を維持するためには、また Zuckerberg 氏とその妻が今と同じようにリッチであり続けるには、Facebook にサインアップしてくれる新規ユーザを見つけなくてはならない。しかし同じことは Google には当てはまらない。次の戦略を考えてみてほしい。大規模なレベルで Facebook は提供するが Google は提供しないプログラム。

最初の15億以外の人間はどこにいるか? ほとんどはインドと中国だ。Facebook は中国では利用が禁止されている。だから Mark Zuckerberg 氏のバランスシートに欠かせないのは誰か? そう、私たち、インドの人だ。1兆ルピーの企業価値を持つ会社にとって、10億ルピーほどの広告支出などどれほどのものだろうか?

これで、現在起きていることに対し、あなたは別の見方ができるようになったはずだ。これまで決して否定されることがなかった論点である。

ところで、Free Basics を運営しているのは NGO 子会社でも、Facebook の CSR での取り組みでもない。Facebook の事業部門の一つに過ぎない。

まとめ

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Save The Internet India

確かに、私たちネットの中立を求める活動家は、インドの多くの人から全面的なインターネット接続を奪う Facebook の取り組みに反対している。そう、私たちは同社がこの国にもたらしたいとして、貧しい人に Facebook だけを与え、その他のサイトを利用させないデジタル・アパルトヘイトの考え方に反対している。

そしてさらに、同社が無料のデータを取引条件なしで提供してくれるのなら、喜んで賛成する。結局のところ、同社がサービスを提供したいと思っているのは私たちの無線ネットワークなのだ。この会社は私たち、インドの人々のために仕事をしなくてはいけないのであって、決して Facebook のオーナーのためであってはならない。

Facebook の Free Basics が良くない理由は他にもたくさんある。起業家にとってもよくない。 Facebook に広告を出すまでは新規の潜在的なユーザがネット上にいる起業家のビジネスを発見することはない。大企業についても同じことが言える。

また、もし Facebook がこのサービスで逃げ切るのを許すなら、他の企業も別のサイトで独自の「Free Basics」を提供するようになるだろう。そうなると私たちは皆、別々の、しかも小さな接続ネットワークでサービスを利用するようになってこの国は分断され、お互いに話もできなくなってしまうだろう。

私たちの時代にあっては、インターネットは最大の革命である。インターネットの広がりと深さゆえに Zuckerberg 氏は現在あるような姿のビジネスマンになれた。彼が今、インターネットの外にある小さなネットワークを推し進めようとしているのは悲しいことである。そこでは未来の Zuckerberg はそのポテンシャルを発揮できない。これでは、あの帝国主義、東インド会社時代の繰り返しだ。「デジタルの平等」を傘にきた詭弁だ。

私たちは、できるだけ多くのインドの人に、できるだけ安い料金で全面的かつ制限のないインターネットサービスを提供するようなあらゆる取り組みには賛成している。今回の同社の取り組みはそうではない。

ここで1つお願いがある。

私たちには何十億ルピーも使える予算はない。私たちがあなたに求めているのはただ、この見解について考えていただき、私たちの国とってのベストは何かを決めていただき、私たちに同意していただけるかを確認してほしい、ということだけだ。もし賛同いただけるのなら、ここにある請願に署名してほしい。そしてできるだけ多くの人とこの件についてシェアしてほしい。

あなたからシェアしていただければ、億万長者の広告予算にも打ち勝つことができる。よろしくお願いいたします。

【via e27】 @E27sg

【原文】

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