タイ・バンコクを拠点に東南アジア地域で店舗向けのオンラインペイメントサービスを提供するOmiseは7月21日、第三者割当による増資を発表した。調達した資金は1750万米ドル(100円換算で17億5000万円)で、シリーズBとなる新たなラウンドの引受先となったのはSBIインベストメントと複数の企業でその詳細は非公開となっている。
なお、既存投資家であるSinar Mas Digital Ventures、Ascend Money、Golden Gate Venturesも同ラウンドに参加しており、これまでに同社が調達した資金は合計で2500万米ドル以上となった。この調達額は東南アジア地域のフィンテック・プレーヤーとしては最大規模になるとしている。
Omiseが前回のシリーズAおよび追加ラウンドで資金を調達したのが2015年10月。Omise共同創業者兼CEOの長谷川潤氏は本誌取材に対し、今回の調達資金を元に「2018年末までに20カ国展開を目指す」と回答している。
また、今回の資金調達と併せて同社にアドバイザリーボードとしてJune Seah氏とMichael Bradley氏の両名が参加することも発表している。Seah氏はVisaのアジア太平洋地域担当で20年近くの経験を持つ人物で、Bradley氏は決済ソリューションを提供するCyberSourceにて同じくアジア太平洋地域を担当していた。Bradley氏はOmiseのCCO(Chief Commercial Officer)に就任する。
さて、日本人起業家のチャレンジが大きく花開きつつあるようだ。
Omiseの概要やサービスについては以前取材した記事を参照していただきたいが、彼らの強みとしてはグローバルに展開しているStripeやBraintreeなどの決済プレーヤーと違い、ローカルに強いという点が挙げられる。
「グローバル・プレーヤーたちはクレジットカードに特化することで欧米地域での展開を一気に進めました。しかし東南アジアではそもそものカード普及率が相対的に低いので、通用しなかったんです」(長谷川氏)。
彼らが現在展開しているのが本拠地としているタイを含め4カ国。それぞれにおいてローカルで普及している決済方法、例えばタイではクレジットカードに加えてローカルのデビットカード、ネットバンク、ビルペイメント(バーコードによる支払い方法)などに対応している。これがグローバルプレーヤーとの差別化につながった。
一方で課題もある。利益率の問題だ。オンライン決済サービスがグローバル・ローカル共に大量に出現する中、ただでさえ薄い手数料モデルが競争激化でさらに薄くなってしまう。
「今後、決済ビジネスはプロフィットが重要になってきます。Visa / Masterというカードブランドを共通の背景としたモデルではどうしても限界があるんです。それで考えているのが独自インフラです。日本でもあった家族カードのようなものがありましたが、こういったものを独自に用意することでカードネットワークに手数料を落とさないモデルも追加できるんです」(長谷川氏)。
冒頭にあったVisaなどで活躍した人物をアドバイザリーボードに招聘したのもこういった戦略に基づくものなのだという。
大型調達を経て今後は決済事業におけるディープラーニング、機械学習を活用した不正検知やリコメンデーションなどにも取り組むそうだ。
「2015年には小規模事業者に向けた決済サービスに力を入れ、数千アカウントを獲得しましたが、現在は大型のクライアントを獲得する方向にシフトしています。例えばタイ最大の通信キャリアTRUEや航空会社のNok AirなどもOmiseの決済インフラを使っています」(長谷川氏)。
東南アジア地域ではインフラの安定運用に99.999%というサービス保証のようなものはあまりないそうなのだ。Omiseはクラウド環境と独自のカードネットワーク接続を実現することで「銀行が落ちてもウチは落ちない」(長谷川氏)サービスを実現しており、それが大手クライアント獲得につながっているのだという。
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