トヨタ系ら85億円出資したSYNQA(シンカ)、企業を「フィンテック化」させるその手法

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写真左から共同創業者のDon Ezra Harinsut氏と長谷川潤氏

ニュースサマリ:一部報道があった通り、総合フィンテック企業「SYNQA」は6月22日、シリーズCラウンドの資金調達を公表する。

追記:SYNQAから公式のリリースが公表されている。

出資したのはSCB 1OX、スパークス・グループ(未来創生ファンド・2号)、トヨタファイナンシャルサービス、三井住友銀行、SMBCベンチャーキャピタル、あいおいニッセイ同和損害保険、および非公開の投資家。SCB 1OXはタイのサイアム商業銀行傘下にあるホールディングス企業。

資金調達は第三者割当増資によるもので、引受先各社が出資した総額は8000万ドル(日本円で85.8億円相当)。各社の出資比率や評価額、払込日程などの詳細は明らかにしていない。

SYNQAはシンガポール拠点のホールディングス企業で、子会社にペイメントを手がけるOmiseと、イーサリアム・ブロックチェーンネットワークを開発・運営するOMG Networkなどを持つ。2020年4月にOmise Holdingsから社名をSYNQAに変更していた。

調達した資金はアジア全域における企業のデジタル化支援を目的としたソリューション開発や、グループ拡大のための企業買収などに投じられる予定。グループ共同創業者で、SYNQA代表取締役の⻑谷川潤氏によれば、現在の組織は270名規模に拡大しているそうだ。

話題のポイント:旧Omise Holdingsが大型調達です。Omiseと言えば、タイにおける決済プラットフォームとしての展開や、ブロックチェーンを活用した事業で知られています。特にイーサリアムの初期支援企業(第一号)としての顔は有名で、発行したOmise GOのICO(トークンによる資金調達)では2500万ドルを集めることに成功しました。ICO以外でのファイナンスはシリーズBまでで2000万ドル以上を集めています。

一方、暗号資産関連のアップダウンが激しかったせいか、彼らが祖業としているペイメントや、今回、大きく調達を果たすことになったエンタープライズ事業の全貌がやや見えづらくなっている印象がありました。長谷川氏が「あらゆる企業をフィンテック化する」と表現した、プラットフォーム戦略はどのようなものか、同氏の言葉と共に紐解いてみたいと思います。

感染症拡大で加速したペイメント事業

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主力事業のOmise Payment

まず、足元を支える祖業のペイメント事業「Omise Payment(以下、Omise)」ですが、長谷川氏の話では、今回の感染症拡大でも大きな影響を受けることなく、年次で30%成長を維持しているということでした。特に影響があった旅行関連(OTA)サービスへの大型導入がなかったこと、接触を避けることからECの需要が大きく伸びたこと、店舗でのキャッシュレス(Omiseでは実店舗の決済インフラも提供)が加速したことなどが結果的に追い風となったようです。

「キャッシュレスの流れは元々、モバイルペイメントが東南アジアで伸びていたというのもあって加速していたんです。そこにきて今回の感染症拡大で人々がお金に触れたくなくなった」(長谷川氏)。

ただ、この決済代行サービスは王者PayPalをはじめ、数多くの競合となるサービスが複雑に乱立しています。元々、手数料についてはVISAなどのクレジットカードブランド利用が必須であるなど、普及している市場での差別化は困難な状況でした。そこで彼らは勝ち筋としてまず市場を途上にあったタイに定め、インドネシア、マレーシア、シンガポール、日本とアジア中心に攻めることにしたのです。

そしてそれとほぼ同時に着目していたのが、技術基盤となるブロックチェーンです。決済に関わる取引を自律分散化することができれば、圧倒的なコストメリットが生まれる可能性があったからです。

同社はイーサリアムにいち早く企業として参加し、トランザクションの処理能力を高めたプラズマ開発に協力するなど、大きな影響を与えてきました。過程の中で実施したICOや、Omise GOトークンなどの結果は全て、現在のOMG Networkに引き継がれていくのですが、ここがやはり今回の大型調達のポイントとなるわけです。

処理速度が改善したOMG Network

OMG Networkの大きな話題は、米ドルとペッグされているステーブルコイン「テザー(USDT)」によるネットワーク利用です。これ自体の詳細はさておき、リリースの中でOMG Networkは「1秒間の取引処理を数千件、手数料についてはイーサリアムの30%程度に抑えることに成功した」と伝えています。

イーサリアムを使った取引では、資産を自律的に分散管理し、P2Pで移送・交換することが可能になります。例えばデジタルアイテムをコピーされることなく売買する、といった用途です。これまでは処理速度に問題を抱えていたのですが、OMG Networkではその問題を解決しつつあるのです。

彼らがデジタルアセットについてどういう取り組みをしてきたのかについては、こちらの記事も参照ください。

TOYOTA Walletで試される「企業のフィンテック化」

ペイメントソリューションとそのトランザクションを支えるブロックチェーン・ネットワーク。この二つがSYNQAの強みです。ではこれが重なると何ができるのか。その鍵となるのが「企業のフィンテック化」という現象です。

Every Company Will Be a Fintech Company(全ての企業はフィンテック化する)

これは、投資ファンドAndreessen Horowitzが今年頭に提唱した考え方で、簡単に言えば、あらゆる企業が金融サービスの提供社となってゆく世界観のことです。

また、最近Uberがドライバーへの給与即時支払いのための独自デビットカードの提供を開始しましたが、同デビットカードの発行及びトランザクション処理、そしてライセンスはパートナーである「Green Dot」というBaaS企業が全て肩代わりして実施しています。Green DotによるUberのフィンテック企業化はまさに、“全てのスタートアップがフィンテック企業になる”という主張の説得力を大きく後押する事例だと言えるでしょう(記事より引用)。

実は、今、SYNQAの事業で最も伸びているのがエンタープライズへの導入支援です。現在、270名の体制の内、70名ほどが在籍しており、しかも日本を拠点として活動しているのがその部隊です。いわば、UberにおけるGreen Dot的存在がSYNQAになるわけです。

「エンタープライズってリードタイムがすごく長いんですね。元々インフラを持っていたので、勝手にインテグレーションしてください、だったのを加速するために私たちは『プロフェッショナル・サービス』と呼んでいるんですが、開発導入支援を強化していたんです。これが今一番伸びています」(長谷川氏)。

エンタープライズという点ではLayerXに近い部分もあるのですが、主にフィンテック支援に特化している点が異なります。例えば、今回出資したトヨタファイナンシャルサービスで開発している「TOYOTA Wallet(トヨタウォレット)」にはSYNQAグループのノウハウが活用されています。

さらにSIerと異なる点はやはり、OMG Networkの存在です。上に乗っかるサービスはポイントやウォレット、決済などそれぞれですが、その取引を支えるのは自律的な彼ら独自の分散ネットワークになります。ここが共通基盤となれば企業間での繋ぎ込みや、発行されるポイントなどの資産価値の交換などが容易になるほか、全体のネットワークをアップデートできるようになるのも、プラットフォーム共通化の利点です。

「Appleって元々ハードウェアの企業でしたよね。でも現在は収入の33%以上がサービスからのものになっています。これを可能にしたのが、エコシステムの存在です。日本のハードウェア企業との違いはここで、何らかのサービスを利用したいと思ったらApple Payがあるわけじゃないですか。さらに言えばグローバルで同じ体験ができるようになっている。ハードやサービスと決済が繋がっていないだけで体験が悪くなる」(長谷川氏)。

気になる8000万ドルの資金使途ですが、シンプルに時間を買うという考え方のようです。彼らの事業を加速させる事業買収や、東京の開発人員を拡大させることに投じられるようです。

「もう、今のステージでは燃やす(赤字を埋めるために投資する)ために使うという段階ではなくなっています。黒字化可能な状態なので、ここから更に成長率を上げるために時間を買う、という選択をしたんです。現在もいろいろ候補となる企業を見て回っています。あと、日本で導入支援をするためのチームを作っていて、そこはすごい勢いで拡大させています」(長谷川氏)。

日本人起業家としてアジアで創業し、力をつけてまた日本に凱旋してきた長谷川氏らSYNQA。日本企業を中心にアジアのフィンテック化というアップデートを果たすことができるか、結果に注目したいと思います。

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