AI、VR、相互監視ーーケヴィン・ケリーが語った3つの不可避なテクノロジートレンド

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テクノロジーのトピックを追いかける人で、”ケヴィン・ケリー”の名前を知らないものはいない。

スチュアート・ブラントと共に伝説の雑誌『ホール・アース・カタログ』や『ホール・アース・レビュー』の発行編集を行い、93年には雑誌『WIRED』を創刊。99年まで編集長を務めた人物だ。

少し前には、人類が生み出してきたテクノロジーの持つ普遍性についてを説く“テクノロジー版〈種の起源〉”とも呼ばれる処世『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』を通じて、テクノロジーとどう向き合うのかを示唆してくれた。

今回、彼が新刊『〈インターネット〉の次に来るもの(原題『The Inevitable』)』と共に来日。出版を記念してWIREDが主催したイベント「ケヴィン・ケリーが教えてくれる『本質的に”不可避”な未来』」を取材した。

同氏は、書籍内で紹介している12のテクノロジートレンドのうち、3つのヒントを共有した。

1.Cognifying

最初に紹介されたトレンドは、「Cognifying(コグニファイング)」だ。IBMは、Watsonのことを、コグニティブコンピューティングと表現している。同システムは、経験を通じてシステムが学習し、相関関係を見つけて仮説を立てたり、また成果から学習することができる。

ニューラルネットによるディープラーニングが発達し、センサー技術の浸透によって収集可能なデータも膨大なものとなった。こうしたデータを学習させることで、AIは拡張してきている。

AIの話になると、人の仕事を奪うといった話や、人間のように思考するといった話題になることが多い。ケヴィン氏が考えているAIはこれらとは異なる。

ケヴィン氏は、人工知能は人間の持つ知能とは異なるものになると予見している。かつて、コンピュータが多数出現したように、知能も多数出現するとみている。膨大な知能が生まれ、人間の知能はその中のひとつに過ぎないものになる。

ケヴィン氏は、AIを「エイリアン・インテリジェンス」と呼んだ。AIは人間とは異なる知能であり、だからこそ人間の知能だけでは解決できない課題を解決しうるというのだ。

これこそがAIのメリットであり、人間の知能がアプローチすべき領域とは異なってくる。人工知能であれば、疲労はない。そのため、生産性や効率性を上げていく作業が向いている。これを、「第二の産業革命」とケヴィン氏は表現する。

機械化が進み、動力が自動化する以前の時代では、自然の力か人力、もしくは動物の力を使うしかなかった。それが、産業革命以降、「250馬力」というエネルギーでものを動かすことが可能になった。

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第二の産業革命では、たとえば「250知能」を搭載した機械やデバイスが生まれるのかもしれない。すでに機械化が進んでいるものは、すべからく知能が搭載されていき、効率化が進んでいくことになるだろう。

その中で、人間が行うべき仕事は、効率性が重要でない仕事、例えばイノベーションなどになるとケヴィン氏は語る。イノベーションは、非効率さや失敗があって初めて生まれる。こういった作業こそ、人間が担うべき仕事になっていく。加えて、人間に求められるのはAIと良い関係を築くことだ。

人間が担うべき作業は人間が行い、AIが担うげき作業はAIが担う。役割分担を行いつつ、互いの不足を補うような関係を築くことが重要になっていくだろう、とケヴィン氏は語った。

2.Interacting

次に語られたトレンドは「Interacting」、相互作用についてだ。かつて、トム・クルーズが主演した映画『マイノリティ・リポート』の制作に関わったというケヴィン氏は、指先から身体全体、感覚全体を使ってデバイスを操作するようになっていくと語る。

相互作用の究極として語られたのが、ここ最近話題のVRだ。VRは、全く違う世界に入り込む。ケヴィン氏が最初にVRを体験したのは、1989年のこと。当時のデバイスも、体験の質はそれほど今とかけ離れてはいなかったという。

ただ、問題だったのは金額だ。とても多くの人の手に渡せるような値段ではなかった。だが、その後十数年で、スマートフォンが普及し、テクノロジーがコモディティ化した。

スマホには、加速度計、ジャイロスコープ、省電力など、VRに必要な機能がそろっていた。ケヴィン氏は、スマホとVRは同じ技術を使っているため、VRはスマホの次のプラットフォームになり得るのではと語る。

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次なるプラットフォームとして注目されるVRは、二つのパターンに分類される。ひとつが、「Immersion VR」だ。これはヘッドマウントディスプレイを身につけることで、まるで別の世界に輸送されたように脳が感じる体験のことを指す。よくVRが紹介されるときは、こちらの場合が多い。

もうひとつが「Presence VR」だ。現実世界に、デジタルなものを表示させることで、存在させるように感じさせるタイプのVRだ。複合現実(MR)と呼ばれる領域となり、「Magic Leap」が有名だ。

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「Magic Leap」はデバイスを必要とするが、ケヴィン氏はヘッドマウントディスプレイがなくとも、複合現実は可能だと語る。この週末、日本全国で話題となった「ポケモンGo」がその例だ。

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ケヴィン氏は、VRは将来のインターネットだと語る。ヘッドセットを付けることで、二つの世界をひとつにできれば、身体の色々なところに作用するようになる。同氏は、この状況を従来の「知識のインターネット」と対比させて、「経験のインターネット」と呼んだ。

これまで知識や情報をベースとしていたインターネットは、大脳新皮質に影響していたが、VRは脳の違う側面に影響する。「経験のインターネット」においては、視覚だけではなく、触覚など他の知覚も必要になる。知覚を増やせば増やすほど強力になり、素晴らしい領域へと突入する。

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経験のインターネットの例として示されたのが、Microsoftが開発する「HoloLens」を例に出した。まるでその場に存在するかのような表現を可能にする「HoloLens」は、Skypeの100万倍の効果を生むはず、とケヴィン氏は語っていた。

よりリアルな経験をしてもらうためには、体の動き、表情、声などが重要になる。アイコンタクトやボディランゲージといった要素がそろうと、相手がその場にいるという「納得感」が高まる。

何もリアルな人を表示するだけでなく、アバターを通じてコミュニケーションすることも可能になる。「サマーウォーズ」や「アクセル・ワールド」のようにアバター

の表情がユーザの表情に合わせて変化するようになればいい。

最近では、装着者の表情を仮想世界のアバターに反映させるVRヘッドセット「Veeso」が登場し、Kickstarterで資金を募っている。

テクノロジーが進歩していくと、VRの世界がデフォルトな場所になるとケヴィン氏は予測する。そうなれば、VRの世界はソーシャルメディアの中で最もソーシャル性の高いものになると語っていた。

3.Tracking

3番目に語られたのが、「Tracking」だ。様々なことがトラッキングされ、これは不可避だとケヴィン氏は語る。VRと組み合わさることで、この流れはますます強くなる。感情、動きが捕捉され、理論的にはすべてがアバターへと反映される。これが最大のデータアセットになっていく、そうケヴィン氏は語る。

加えて、フィットネストラッカー等が増加したことで健康状態をトラッキングできるようになった。脳波や睡眠サイクルなど、あらゆるものをトラッキングできる世界になった。

こうした世界において、重要になるのがプライバシーの捉え方だ。監視社会に関する議論もあるが、ケヴィン氏は「co-veillance」という考え方を提唱していた。トラッキングされる代わりに、自分も誰が監視しているのかがわかる状態。互いに監視し合うことで、アクセスする情報に責任を持たせることに繋がるという。

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最後に、ケヴィン氏は現代の状況を、「何かを作る上でいま以上にやりやすいときはない」と語った。過去30年に起きた変化以上の変化が、これから30年で起きる。AIも、VRも、ARも、これから発明されていく。20年後、人々が当たり前のように使っているものは、これから生み出されるのだ。