
今年開催されたラスベガスの CES や CEATECH JAPAN といったコンシューマーエレクトロニクスの見本市で話題をさらった国産プロダクトがある。
ランドロイドだ。
画像解析、人工知能、ロボティクスの「調和」が編み出したのは「全自動衣類折りたたみ機」というイノベーションで、国内の技術集団「seven dreamers laboratories(以下、セブンドリーマーズ)」が開発元になっている。プロダクトの詳細については各所で出ているので割愛するが、その名の通り「洗濯物をたたんでくれるロボット、それ以上の説明はない。
同社は先ごろ、大和ハウス工業とパナソニックの2社との提携を発表し、3社で設立した合弁会社セブン・ドリーマーズ・ランドロイドを通じて初号機となる「ランドロイドワン」を2017年3月から予約販売開始する計画を披露している。
この開発元となったセブンドリーマーズが11月14日、パナソニックと大和ハウス工業の2社と、 SBIインベストメントが運用するファンド等をを引受先とする第三者割当増資を実施したと発表した。調達した資金は60億円で、株式比率や払込日などの詳細は公開されていない。
2005年に構想が始まり、2013年には思い描いた「たたみ」を実現したランドロイド。本誌ではセブンドリーマーズ代表取締役、阪根信一氏にこの誕生までの道のりについて話を聞いたのでこちらに掲載させていただく。(太字は聞き手の筆者、回答は全て阪根氏)

この世にないものを生み出したきっかけは「妻の一言」
今日はストレートに「何がどうなったらロボットが洗濯物をたためるようになったのか」をお聞きしようと考えてお伺いしました。何がどうなったらたためたんですか?(笑
まあ、直球でお返しすると「人工知能で衣類を認識できるようになったから」というのがシンプルな回答ですかね。
なるほど。では順を追ってお聞きしますね。最初の発想はどういった経緯からだったんですか
その話の前に少しセブンドリーマーズが大切にしてるクライテリアについてお話しさせてください。私たちには「世の中になくて生活を変えるもの、そして生活を豊かにするもの」という3つのクライテリアがありまして、この中で技術的にハードルが高いものに挑戦するというのが方針なんです。
確かに。ハードル高いもの作られました
発想した当時、これからこのクライテリアを満たすことをやろうと色々マーケットを考えていたんです。それで周りを見渡すと男性を満たすものは多いけど、これからの時代、女性や老人、子供といったキーワードが重要になってくる。
やはり答えは家の中にあるだろうと普段はあまり仕事の話は妻にしないのですが、ふと、まあそういうことを話してみたんですね。何があったらいいんだろう、と。そしたらほぼ即答で「洗濯物たためる機械にきまってるじゃない」って返ってきたんです。
おお、奥さんがきっかけだったんですね
思ってた以上にハードル高かったです(笑。でも、僕がやってできることならば、今のメカトロニクスや当時はまだAIなんていう前で、ニューラルネットワークとか呼んでましたが、これを駆使すればできるかもしれないって思ったんです。
これがその日なんですね
はい。2005年頃のことです。ただ、それから数年経って「まだできてないの?」って言われた時はキツかったです(笑。

開発にかかった10年、リーマンショックの衝撃
そこから開発が始まった。10年近くかかったんですよね
はい。妻に言われてはっと気がついて、次の日に軽く特許などを調べたらやった形跡はあるけど継続している雰囲気はない。それでチームを集めてさらに詳細に調べてもやはり同じ結果でした。家電メーカーも手がけた形跡はあるけどやはりプロジェクト化しているものはなさそう。
これはいけると
当時、とある家電メーカーのホームページに30年後の未来の家電っていうコーナーがあって、そこに載っていたぐらいですからね。
2035年だ
グローバルに特許などを調べてもやってる人がいないのでもうよし、やろうと。当時は5年後には形になってると思ってましたね。ただこれは見積もりが甘すぎました。さらにリーマンショックが2009年に発生して人員も削減する状況もありました。
そもそも開発の資金が必要ですよね。よくある話では最初に出資金を集めてスタートみたいなケースですけど、ランドロイドはどうやったんですか?
当時、ヘルスケア領域で立ち上げていた事業が当たって収益を生んでくれていたのです。これがつい最近まで結構な利益を作ってくれていたのでランドロイドなどの事業の立ち上げに役立ってくれました。
なるほど。リーマンショック前後の人員削減をするまでにどのあたりまで開発は進んでいたのですか?
Tシャツをたたむところまでですね。ただ、これはその衣類が「Tシャツ」だとわかっている前提なんです。でもそうですよね、それって意味ないって。最初から洗濯乾燥機との一体型を考えていたわけで、くちゃくちゃになった洗濯物をロボットが理解できなければダメだったんです。ここで壁にぶち当たってお手上げ状態でした。
リーマンショックに技術的な壁が重なって止めようと思わなかったんですか?
普通の経営判断だったら止めるでしょうね。でもできるって思っていたんです。あと、4年続けて今更止められないっていうのもありました。社内でも相当議論されていた案件でしたから。結果的にその後、2年で事業がV字回復したので再度、人員を増強して進めることになるのですが。

技術チームが乗り越えた「お手上げ」状態の障壁
技術者の方々が匙を投げそうになった「くちゃくちゃの洗濯物を認識する」過程ですが、ではどうやってその壁をクリアしたんですか?
洗濯物が無茶苦茶になってる状態でも襟のところを見ればわかるじゃないですか。俺でもわかるんだからロボットでもわかるんじゃないかって。で、機械学習を続けるんですけど無理。
それで開発陣から「まとまった状態ではなく、1枚1枚切り離せば出来るかもしれません」と提案を受けたんですね。ただ、人間にできることがなぜできないんだって釈然としない部分もありましたけど、まあこれはしょうがないなと。
一枚ずつ切り離す方法でできたんですか?
それでやり方を変えたんですがやっぱり認識してくれない。柔軟物なのでパターンが多すぎるんですよ。全く答えに近づかない。
絶対無理そうですね(笑。どうやって壁を乗り越えたんですか
最終的にたたんだ状態があるじゃないですか。次に広げる。ここは認識するわけです。で次、次と状態を変えていった。こっからが本当の挑戦でしたね。 (筆者注:ここからの詳細については機密事項に入るので内容は伏せられています)
たたんだ状態から元のくちゃくちゃの状態まで一歩ずつ5年。ブレイクスルーってどれぐらいの回数ありましたか?
うーん、2年に1回ぐらいですね。よっしょキタコレ!ってやってすぐに次の壁がやってきて「うーん」ってなる(笑。
キツいですねー。でもできた。たためた!やった!っていうポイントってどこかにあったと思うんですがそれはいつ頃やってきたんですか?
実際にはバラバラにできてくるので、これ、と決めにくいんですが、広げてこれがTシャツだと認識してそこからたためた、という日を記念日とするなら2013年の暮れぐらいですかね。あれは嬉しかった。当時はそれこそ資金調達しないともう厳しい状況で、そのプレゼンテーションを投資家向けに実施した日はしびれました。うまく動くかどうかドキドキで。
ーーこうして2014年5月に外部投資家に初お披露目となったランドロイドは資金を獲得し、その後、パナソニックや大和ハウス工業、SBIインベストメントなどのパートナーを獲得していくこととなる。
ギリギリの判断、最後に必要なものは
最後に。阪根さんは多分、普通の経営者であれば止めるような状況でも判断をすることで「ロボットが洗濯物をたためる世界」を作りました。判断に重要なものはなんだと考えますか?
私はやはり理系なので数値はきちんと取るようにしています。けれど、世の中にないものを作ろうとすると、数字で判断できないことが多いです。
大学の時、ある教授に教えてもらったことがあるんです。例えば今日は10月のある日ですよね。ここまでは先人の研究者たちが解明してくれた明るい道です。でもこれから僕らが踏み出そうとしているのはここから先の暗い道になるわけです。
全く見えない道を歩むのにどの方向に行くべきか、その教授に「シン、どう判断する?」って聞かれたんですね。それで、うーん経験じゃないんですかねって答えたら、それは明るい道での話だと。
なるほど。
答えは「勘だよ」って言うんです。
突き詰めた最後は人間パワーですか
もちろんこれは単なる勘だけじゃないですよ。明るい道を調べ尽くして、人間の英知を知り尽くす。これを積み重ねた上で新しいものというのは生み出されるんだと。例えば当時、私が空飛ぶ靴を作りたいと思ったとしてもやっぱり直感的に「まだできない」って思えるんです。それが重要なのだと。
非常に興味深いお話、ありがとうございました。正式リリースや将来バージョンも楽しみにしています
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