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井口尊仁氏インタビュー:オーディオソーシャル参入から4年、さらに進化を遂げた「Dabel」はユーザ10万人達成を目指し爆走中

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井口尊仁氏が手掛けてきたプロダクトやサービスは、すでに終了したものも含めるとかなりの数になるため、それらを最初から遡ることはしないが、この4年間、彼は声を使ったサービス、オーディオソーシャルという領域にフォーカスしてきた。2016年の「baby(ベイビー)」を皮切りに、翌年にはそれの進化系「Ball(ボール)」が誕生。さらにピボットを重ね、アメリカで「Dabel(ダベル)」をローンチしたのは昨年1…

井口尊仁氏。井口氏自宅近くの京都・法然院にて。
Image credit: Masaru Ikeda

井口尊仁氏が手掛けてきたプロダクトやサービスは、すでに終了したものも含めるとかなりの数になるため、それらを最初から遡ることはしないが、この4年間、彼は声を使ったサービス、オーディオソーシャルという領域にフォーカスしてきた。2016年の「baby(ベイビー)」を皮切りに、翌年にはそれの進化系「Ball(ボール)」が誕生。さらにピボットを重ね、アメリカで「Dabel(ダベル)」をローンチしたのは昨年1月末のことだ(当初の名前は「ear.ly(イアーリー)」。

以前からサンフランシスコと京都の2つの都市を拠点に活動するデュアラーである井口氏だが、新型コロナウイルスの拡大以降は海外渡航の手段が閉ざされ、ほぼ京都に留まっての活動を余儀なくされている。ただ、それが Dabel にとって向かい風かと思いきや、むしろ成長は堅調の様子。ローンチから1年半を経て、現在、100日以内にユーザ数10万人達成キャンペーンの真っ最中だ。Dabel の何がそんなに人を惹きつけるのか。先週、大阪に帰省していた筆者は、井口氏を京都に訪ね話を聞いた。

新しい友人(ニューフレンド)を発見するツールとしてのオーディオソーシャル

「Dabel」
Image credit: Doki Doki

Dabel を形容するのに最適な言葉を見つけるのは難しい。言うまでもなく、そのアプリ名は日本語の「駄弁る」という言葉に由来するが、井口氏自身は「井戸端会議のためのアプリ」と紹介していて、筆者にとっては誰もが「DJ になって、AM ラジオのトーク番組ができるアプリ」といった印象を受ける。「Voicy」や「Radiotalk」や「stand.fm」に一見似ているが、番組ホストが承認すればリスナーがトークに参加し掛け合いができる。

アメリカで人気に火がつき始めたのは、昨年5月くらいから。視覚障害者用コミュニティサイト「AppleVis」が取り上げてくれたのがきっかけだ。そこで6月くらいからボイスオーバー機能(視覚障害者用のアシスト機能で、iOS アプリ内のメニューやボタン、画面上のテキストなどをタップすると読み上げてくれる機能)に力を入れたところ、彼らがニューフレンドを見つけるためのツールとして積極的に使ってくれるようになった。

日本では今年3月に入り、MIKKE の井上拓美氏が始めた「オ茶(お茶に誘う感覚で実際お茶しながら語り合うオンラインミートアップ)」や、アパレルメーカー「オールユアーズ」の木村昌史氏といった人たちが使い始めてくれて、そこから流行り始めた。日本人ユーザに特徴的なのは、多動的でとんがった人が多いこと。エネルギーがあって発散する場所を求めてきた人たちなので、コンテンツが面白い。タイムシフトでも聴けるが、リスナーの9割はライブで参加している。(井口氏)

そして、これこそがオーディオソーシャルの最大のメリットだろうが、Dabel は話すホスト側も、聴くリスナー側も AirPods を使うことが推奨されているが、そうすることで、ほぼ場所を選ばずに番組を配信・聴取することができる。YouTuber のように映像を撮るためにスマホを三脚にセットしたり、自撮り棒を構えたりする必要も無い。実際に筆者の友人は、Dabel を使って物理的に異なる場所から女友達3人で午後のティートークを繰り広げ、別の機会には寿司屋のカウンターから握りを食べながら番組を放送していた。

個人的な意見ではあるが、音質がよく臨場感に富んでいるのは Dabel の特徴の一つだと思う。前出の彼女が板前とやりとりしている音声は、あたかもリスナーである自分も寿司屋のカウンターに同席しているような錯覚さえ覚えた。さほど大きな声を出さなくていいので周囲に迷惑もかけにくいし、音声のディレイが最小化されていることから、ホストがリスナーの参加を許可した際の音声による掛け合いもストレスなく楽しむことができる。

新型コロナウイルスが明らかにした残酷な真実

筆者が最近好んで話すことの一つに、「新型コロナウイルスで失われたものは、セレンディピティかもしれない」というくだりがある。テックカンファレンスの多くがオンライン化されるなか、話したい相手を特定してコミュニケーションするのとは対照的に、たまたまパーティーで出会った誰かと親密な関係を築くことになるかもしれない「偶然の出会い」はオンラインでの再現が難しい。我々の現在の人間関係の多くは偶然の賜物であり、テックコミュニティの醸成にそうした不確実さが不可欠であることは、Paul Graham 氏も説いている。

しかし、ここで新たな気付きが得られる。Dabel はそんな現在の世の中に一筋の光明を与えてくれるかもしれない。

Dabel をやっていて、世界中でパンデミックが起きて、そうして明らかになった残酷な真実がある。

パンデミック以前、我々は知り合い、家族、友人、パートナーとよく雑談していた。でも、パンデミックで会えなくなった。そして、人々は Dabel を使ってニューフレンドを見つけるようになった。ここでわかったことは「結局、雑談の相手は誰でもよかった」ということ。(井口氏)

元来、コミュニティは人が自分が身を置く物理的環境に依存していることが多かった。インターネットやモバイルの出現により、この物理的制約はある程度取り除かれていたが、新型コロナの感染拡大により移動の自由が奪われたことが拍車をかけ、人々は自分が話したいと思う相手と話をし始めたのだ。その相手は会ったことがない人かもしれないし、地球の真裏に住んでいる人かもしれない。物理的環境や既存の人間関係に依存せず、共通の関心事を頼りに語りあう体験は、5月にβローンチした「Talkstand」にも似ている。

世界が追いついてきた「オーディオソーシャル」のトレンドと課題

今年2月、京都 MTRL で開催された「Ten Thousand Eight Hundred Forty One」ローンチイベントで話す井口氏
Image credit: Masahiro Noguchi

今年5月、シリコンバレーに本拠を置きオーディオソーシャルアプリを開発するスタートアップ Clubhouse は、創業から2ヶ月にして1億米ドルのバリュエーションをつけ、シリーズ A ラウンドで Andreesen Horowitz から1,000万米ドルを調達した。Clubhouse は今、シリコンバレーで最も勢いのあるスタートアップと言える。この出来事はオーディオソーシャルが一定の評価を市場から得た快挙と言え、おそらく遠くない将来、資金調達を実施する Doki Doki(Dabel を運営する井口氏のスタートアップ)にとっても追い風になるだろう(ちなみに、Doki Doki は2016年初め、Skyland Ventures、サイバーエージェント・ベンチャーズ、梅田スタートアップファンドから4,000万円、2017年2月、プレシードラウンドで京都大学イノベーションキャピタルから5,000万円を調達)。

もっとも、オーディオソーシャルは新しい分野だけに良いことづくめではない。先頃アメリカでは、ベンチャーキャピタリストらが Clubhouse 上で交わしたクローズドな議論で「シリコンバレーのジャーナリストらが力を持ち過ぎている」と批判した内容が外部流出し波紋を呼んでいる。部屋の隅っこでのヒソヒソ話が、テクノロジーを介したことで公衆の面前に晒されるリスクは常に付きまとう。くだんの応酬は女性差別や人種問題などにも及んでおり、先行きは不透明だ。井口氏もまた、Clubhouse での一件を〝他山の石〟と捉えている。

オーディオソーシャルは、intimate な(親密性の高い)メディア形態。エモーションとかパッションとかを載せやすい反面、俗人的な情報など共有するとセンシティブな内容を含みやすいことも事実。これは諸刃の刃で、Clubhouse の今回のケースは、悪い方のパターンが出てしまったケースだ。

Dabel では、ban console(規約違反を冒したユーザの排除管理)なども機能改善しているが、それでも今後、炎上案件は出てくる可能性はある。でも、一概に悪いことばかりではない。新しいメディアだから炎上するリスクは常にあるけれど、Dabel は安全安心なプラットフォームを目指して攻めに転じ、ここからスケールアウトしたい。(井口氏)

現在4万人いる Dabel ユーザのうち女性は約3割、また全体の67%をアメリカ人、10%を日本人が占めているなど、日本のスタートアップが作り上げたサービスとしてはダイバーシティに富んだデモグラフィックを誇る。アプリ上で会話に参加した人ののべ参加回数は55万回、また、アプリでの1回あたりの平均滞留時間も57分程度と Facebook のそれよりもはるかに長い。

ユーザエンゲージメント力の高さから注目を集めるオーディオソーシャル。井口氏は、この新しい分野をグローバルに席巻したいと意気込みに力を込めた。

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声で繋がるアプリ「baby」が、グループで語り合える「Ball(ボール)」に進化——モーションデザイナー小野友資氏を迎え、〝カフェ的空間〟のベータテストを開始

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シリアルアントレプレナーの井口尊仁氏率いるスタートアップ Doki Doki が、同社初のプロダクト「baby(ベイビー)」をローンチしたのは昨年11月のことだ。とは言え、このモバイルアプリを日本のアプリストアでダウンロードすることはできず、アメリカ市場を中心に入念なユーザバリデーションや機能開発が繰り返されてきた。今年の2月には、学術研究の共同推進を念頭に、プレシードラウンドでで京都大学イノベー…

シリアルアントレプレナーの井口尊仁氏率いるスタートアップ Doki Doki が、同社初のプロダクト「baby(ベイビー)」をローンチしたのは昨年11月のことだ。とは言え、このモバイルアプリを日本のアプリストアでダウンロードすることはできず、アメリカ市場を中心に入念なユーザバリデーションや機能開発が繰り返されてきた。今年の2月には、学術研究の共同推進を念頭に、プレシードラウンドでで京都大学イノベーションキャピタル(京都 iCAP)から5,000万円を調達。この際、井口氏はその後の baby の展開について、ブログで次のように明らかにしていた。

ベイビーの新バージョンでは、「声の出会い」からさらに進んで、日々のおしゃべりの継続的発生プロセスに注目した、よりユースケースの見え易いものになる。

そこではより常用性が高く声(おしゃべり)によるコミュニケーションを担うインフラへとステップアップを成し遂げることが最大の狙いになる。

それは、声を中心にしたメッセージングサービスとして、今までに無い新しい体験性を提供できるものになると確信している。2017年春はその起点になる重要なタイミングだと考えている。

FabCafe MTRL で開催されたイベントで開発中の「Ball」を紹介する井口尊仁氏(2017年3月撮影)
Image credit: Masaru Ikeda

Doki Doki は17日、この baby を進化させたアプリとして「Ball(ボール)」をローンチ、本日からベータテストを開始したことを明らかにした。baby の事実上のピボットと考えてよいだろう。5秒間の音声のやりとりでコミュニケーションする点については baby のときから変わりないが、Ball では声をキャッチボールするように、グループ内で声を投げ合う体験が提供される。アプリを立ち上げていれば、同じグループ内にいる他のユーザからの自動的に音声が流れてくるしくみだ。

小野友資氏

井口氏は、Ball が提供する体験を「カフェ的空間」と形容している。言葉で説明するには難しい体験だが、この体験をアーリーアダプターに知ってもらうために、今日から「100 PEOPLE IN THE CAFE@BALL」という100人限定のクローズドベータテストを開始した。この「CAFE@BALL」のカフェ店長は、YUYBOOKS の代表で、京都精華大学でも教鞭をとるモーションデザイナーの小野友資氏が務める。ベータテストに参加できる100名が誰になるかは非公開だが、この100名からは友人を招待することができるようだ。

Ball では投稿された5秒間の音声が、24時間後には消えてなくなる仕様だ。この ephemeral な点といい、アメリカ西海岸の大学シーンからアプリが生まれた背景といい、Ball はSnapchat と生い立ちが非常によく似ている(Snapchat はスタンフォード大学の学生達が作り出し、一方、Ball の前身となる baby は U.C. Berkeley でユーザバリデーションが繰り返されていた)。

クローズドベータテストながら、Ball はアメリカのみならず、当初から日本国内でも利用を可能にするようだ。全くの新しい体験だけに、このコンセプトがどのようにユーザに受け入れられるかは未知数だが、このアプリが人間関係やコミュニケーションにどんな変化をもたらすか、今後の動向に注目したい。

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〝出会わない系〟音声ソーシャルアプリ「baby」を開発するDoki Doki、京都大学イノベーションキャピタルからプレシードで5,000万円を資金調達

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声で繋がるソーシャルアプリ「baby(ベイビー)」を開発する、京都/サンフランシスコを拠点とするスタートアップ Doki Doki は21日、プレシードラウンドで京都大学イノベーションキャピタル(京都 iCAP)から5,000万円を調達したと明らかにした。今回調達した資金をもとに、同社は京都大学学術情報メディアセンターと共同して学術研究を推進するとしている。 Doki Doki は昨年10月、ba…

声で繋がるソーシャルアプリ「baby(ベイビー)」を開発する、京都/サンフランシスコを拠点とするスタートアップ Doki Doki は21日、プレシードラウンドで京都大学イノベーションキャピタル(京都 iCAP)から5,000万円を調達したと明らかにした。今回調達した資金をもとに、同社は京都大学学術情報メディアセンターと共同して学術研究を推進するとしている。

Doki Doki は昨年10月、baby をアメリカでリリースした(日本の iTunes AppStore ではまだダウンロードできない)。baby は5秒間の声をシェアし、新しい友達とつながることができるソーシャルアプリだ。英語では ephemeral という形容詞で表現されるが、つまるところ、一度再生するとコンテンツが消えて無くなる Snapchat の音声版ととらえればよいだろう。とかくソーシャルアプリが最終的には実際に顔を合わせて会うことを目的とすることが多いのに対し、Doki Doki では、近くにいる人や like-minded な人々と感情や時間を共有できるのが特徴的だ。

京都大学学術情報メディアセンターとの研究では、baby を使って、5秒間の声によるソーシャルなコミュニケーションと音声コンピューティングを核としたリサーチを進め、その研究成果をグローバル市場に展開するとしている。より具体的には、初期段階では音声学領域における、5秒間の声を使った外国語学習の実用化試験を起点とし、将来的には、感情分析や機械学習などを用いた、音声コミュニケーションの進化を促進する共同研究を実施したいとしている。

Doki Doki の創業者で代表取締役の井口尊仁氏に baby を日本のアプリストアで公開する目処について聞いてみたところ、昨年末の京都でのお披露目以来、大幅にバージョンアップを重ねており現時点で未定とのこと。ただし、1月のブログへの投稿で、井口氏は次のように述べている(一部抜粋)。

テキストチャットのような、文字をベースにしたボットの世界は遠からず(数年単位で!)音声のチャットをベースにしたボットの世界へと展開していくと思う。

ベイビーの新バージョンでは、「声の出会い」からさらに進んで、日々のおしゃべりの継続的発生プロセスに注目した、よりユースケースの見え易いものになる。

そこではより常用性が高く声(おしゃべり)によるコミュニケーションを担うインフラへとステップアップを成し遂げることが最大の狙いになる。

それは、声を中心にしたメッセージングサービスとして、今までに無い新しい体験性を提供できるものになると確信している。2017年春はその起点になる重要なタイミングだと考えている。

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井口尊仁氏率いるDoki Doki、米国で先行リリースした〝出会わない系〟ソーシャルアプリ「baby(ベイビー)」を京都でお披露目

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(本稿における写真は、一部を除き Doki Doki の提供) <11月14日23時更新> 2016年年初のラウンドの調達先に、サイバーエージェント・ベンチャーズと梅田スタートアップファンドを追加 セカイカメラ、tab、Telepathy——この男が手がけてきたアプリやデバイスは、毎度のように話題に事欠かない。昨年には新たなスタートアップ Doki Doki を設立、今年初めに Skyland V…

(本稿における写真は、一部を除き Doki Doki の提供)

<11月14日23時更新>

  • 2016年年初のラウンドの調達先に、サイバーエージェント・ベンチャーズと梅田スタートアップファンドを追加

セカイカメラtabTelepathy——この男が手がけてきたアプリやデバイスは、毎度のように話題に事欠かない。昨年には新たなスタートアップ Doki Doki を設立、今年初めに Skyland Venturesサイバーエージェント・ベンチャーズ梅田スタートアップファンドから資金調達していたので、そろそろ何か事を起こすのではないかと思っていた。くだんの井口尊仁氏は、6月に開催された Samurai Island Expo ’16 (SIE ’16) で、何かしら音声で情報を共有するアプリの開発に着手していることを示唆していたが、その詳細については明らかになっていなかった。

Doki Doki は10月に声で繋がるソーシャルアプリ「baby(ベイビー)」をアメリカで先行リリース、昨日、京都の MTRL 京都(マテリアルきょうと)で日本初となるアプリの披露イベントを開催した。「baby」は iOS 9 以上で動作し、今のところ対応言語は英語のみ(ただし、入力音声は言語を問わない)。また、アメリカの iTunes AppStore でのみ公開されており、日本の iTunes AppStore からはダウンロードできない(アメリカの iTunes AppStore 用のアカウントがあればダウンロード可能)。

〝出会わない系ソーシャルアプリ〟の誕生

baby-mobile-snapshot-1

baby は5秒間の声をシェアし、新しい友達とつながることができるソーシャルアプリ。ユーザには位置的に自分に近いところにいる他ユーザの声(「voice」と呼ぶ)がタイムラインとして流れてくるので(このタイムラインを「parade」と呼ぶ)、Tinder ライクに気に入ったときには右へフリック(この動作を「ping」と呼ぶ)、気に入らなかったときには左へフリック(この動作を「ban」と呼ぶ)。ユーザ双方が互いを ping すると友達となり、parade を介さないプライベートなボイスチャットが楽しめるようになる。parade では1回のロードで、自分に近い人から順に10件の voice が流れてくる仕様となっている。

近場にいるということで、いくつかの問題が解決できると考えました。まず、言葉の問題。ワールドワイドなサービスであっても、近くにいる人となら、共通の言語を話している可能性が高い。それに、行っている場所、参加しているイベントなどを考えると、共通の話題がある可能性も高い。(井口氏)

baby-mobile-snapshot-2

世の中にありがちなソーシャルアプリは、すでにオフラインで出会っている人がオンラインでも出会えるようにするサービス(Facebook や LINE はこれに相当するだろう)か、会ったことのない人にオンラインでつながり、さらにオフラインでもつながろうとするサービス(いわゆる、出会い系全般)に大別されるだろう。しかし、baby はオンラインで新しい友人を作って価値観や話題を共有するものの、実際にオフラインで会うことを前提としない、いわば〝出会わない系〟のソーシャルアプリだ。baby 開発の背景には、何より井口氏自身の経験が大きく影響している。

サンフランシスコにいることが多かったけれど、とにかく孤独だった。誰かと喋れれば幸せ、という感じ。だからと言って、Facebook のフレンドとは、そう気軽に話せる間柄の人たちばかりではない。ニューフレンドを見つけるのって大変だし、できたらできたで、何かとコストがかかるし「Tinder」とか「happn」とかも、いかにもダイレクトなデイティングばかりが多くて…。

もう一つ問題があって、例えば、HangOut とか Whatsapp とか。リアルタイムの通話って、相手と時間を調整するのが大変。であれば、5秒間という時間を区切って、そのボイスを共有できればいいのではないかと考えた。

baby の位置付けは、テキストチャットと電話の中間みたいなもの。テキストって、エモーションは伝えられないでしょ? 喋ったときの満足感とか、そういうものが無い。だから、寂しさや辛さは解決できない。でも、声の通話は面倒なので、それを解決できないかなと。公開(parade 機能のこと)も、プライベート(プライベートのボイスチャット)もできるものを作ってみた。これで、タイミングは非同期ながら、感情を共有できるようになる。(井口氏)

「baby」のルーツは、サンフランシスコと京都から

baby に声を吹き込む小野紗和子氏

今春からは小野紗和子氏がマーケッターとして Doki Doki に参画。彼女が中心となって、U.C. Berkeley の学生らに baby を使ってもらってユーザヒアリングを繰り返し、それを baby の機能に反映させることで、ユーザからは高い満足度が得られるようになったと言う。

学生達は皆忙しい。でも忙しい中でも、コミュニティとか、パーティーとか、周りとコミュニケーションをとりたいと考えている。彼らの用途に、baby がピッタリハマった感じ。WeChat(微信)の Nearby 機能を使っている人たちもいたけど、そちらだとデイティング目的の人しか集まらないんだそう。(小野氏)

ところで、今回の baby のお披露目は、一般的なアプリやサービスのローンチイベントと違って、東京では開催されていない。さらに、日本人ユーザに向けた披露の機会ながら、日本の AppStore からはダウンロードできないという、メディアにもユーザにも優しくない姿勢。これは、いわゆる逆輸入型のような、井口氏の編み出した新種のマーケティング戦略なのかと思いきや、どうやらそういう意図ではなさそうだ。

(baby の)プロトタイピングを始めたのが昨年12月。そして、今年5月くらいから、そのプロトタイプをサンフランシスコに持って行ったら、とってもウケた。ウケたというか、自分も楽しかった。男性には、特に反応がよかった。これまでのアプリになくて baby にあるもの、それは心の友を見つけられる「新しい出会い」ですね。

日本でも使えるようになるのかって? もちろん、アメリカの AppStore からダウンロードしてもらえば、日本でも使える。ただ、日本だと、まだ周りにユーザが居ないので、parade に voice は多くは流れてこないだろう。まず、アメリカでユースケースを確立してきたいと思っている。そして、あちらで完成されたものを日本に持ってきたい。(井口氏)

baby のキャラクタ。アプリ上では、声のピッチやトーンにあわせて表情が変化する。

baby の開発を通じて、井口氏は、京都とサンフランシスコの間にスタートアップ・コミュニティの架け橋を築く思いもあるようだ。学生時代を京都で過ごしたというバックグラウンドもさることながら(井口氏は立命館大学の哲学科を卒業)、彼の好きなサンフランシスコと似た雰囲気がこの街にはあるのだという。

京都に本社を置くベンチャーキャピタルが、いくつか営業を開始している。それに、海外の人が日本に来る理由のカルチャーは、その多くが京都に集約されているように思う。アカデミアも集中している。キャピタル・カルチャー・アカデミア、これらが潤沢な場所で、何かできるような気がしている。

サンフランシスコの人が、京都で働きたい人も多く出て来るだろう。京都のスタートアップがサンフランシスコへ出て行くケースもあるだろう。京都はアートスクールが日本で一番多く、研究開発に適している大学も多い。そして、(私のような)変態が多い。(井口氏)

「スタートアップたるもの、自らプラットフォームになろう」

baby が面白いのは、コミュニケーション・アプリにありがちな、Facebook 連携や Twitter 連携を行わず、完全にユーザ同士のネットワーク効果にユーザ流入を頼っている点だ。この仕様についても単なる偶然ではなく、井口イズムが大きく関係していた。

コミュニケーションのプラットフォームを、日本人が自ら確立する必要があるんじゃないか、と思ったんです。日本のスタートアップって世界で何かをしようというのに、結局、シリコンバレーの大手サービスが作った API を叩くようなのが多いでしょう? Facebook とか、LINE とか、誰かのサービスに乗っかっていくことに極めて無防備。

シリコンバレーの API を叩くだけでなく、自分たちがプラットフォームになれるんじゃないかって。それは極めて大事なこと。(井口氏)

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かつては、iTunes AppStore の締め出しにあい、iOS 向けのネイティブアプリ事業からの撤退を余儀なくされたスタートアップもあった。このときのニュースは、アプリストアというサードパーティのプラットフォームに依存している以上、自らの意思に反して事業断念を余儀なくされるリスクが少なからず存在することを教えてくれた。

立ち返って考えてみると、便利になった時代であるからこそ、API を叩いているばかりではなく、自らプラットフォーマーになるのはスタートアップ、特に、世界へ打って出たいスタートアップにとっては重要なことかもしれない。

オンラインでの出会いを前提としない、究極のコンテキストである声というメディアを通じて、世界を馳せるコミュニケーション・プラットフォームに成長できるかどうか。日本でも baby が利用できるようになる日が、今から楽しみである。

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セカイカメラがサービス終了を発表、伝説に残るピッチを振り返る

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※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから。 頓智ドットが2008年の TechCrunch 50 で、スマートフォンによる拡張現実感(AR)ソリューション「セカイカメラ」を発表してから、もう5年以上も経過したとは信じがたい(上記ビデオ参照)。このピッチで、同社の井口尊仁氏は、“look up, not down” して、身の回りのあらゆるものにタグが見つけられ…

※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから

頓智ドットが2008年の TechCrunch 50 で、スマートフォンによる拡張現実感(AR)ソリューション「セカイカメラ」を発表してから、もう5年以上も経過したとは信じがたい(上記ビデオ参照)。このピッチで、同社の井口尊仁氏は、“look up, not down” して、身の回りのあらゆるものにタグが見つけられる、スマホの使い方を提案した。しかし、残念ながら、頓智ドットのウェブサイトの発表によれば、セカイカメラはまもなくサービスを終了することになる。

2009年、私は井口氏にセカイカメラについて、インタビューする機会があった。畏敬の念さえ覚えさせる未来志向のサービスだった。現在では、井口氏は Telepathy へと身を移し、スマホを宙に構えるよりは、よりARには適した Google Glass のようなソリューションを提案している。[1] このメガネが成功するまでの道のりは依然長いが(Telepathy の話をするとき、これを「ベーパーウェア」だと言う人は多い)、私は井口氏がセカイカメラから Telepathy に移ってきたのを歓迎している。

同時に、いくつかの理由で彼のプレゼンテーションは特別な存在だ。

  1. 井口氏のプレゼンテーションは問題ない。ーー英語で話したりピッチしたりするとき、自信を失ってしまう日本のスタートアップが多い。私の知る日本人は往々にして完璧を求めたがるが、それが過ぎるのも上達する機会を遠ざけてしまう(ことわざで、「最善は善の敵」)。[2] たとえ英語がうまくなくても、話そうとする内容の要点をとらえるようにし、足りない部分は熱意で補うことだ。(自分のプロダクトに熱意が無い人は、即退場。)
  2. 影響力の強さ。ーーこの特別なプレゼンテーションから、どれほどの位置情報サービス、ARサービスが提供を受けたことだろう。どれだけの人が、似たようなサービスを作ったことだろう。[3]
  3. 欧米人は、日本のことが好きで仕方がない。ーーこのピッチで強調されたのは、頓智ドットが日本のスタートアップで、何かしら未来を垣間みられると思わせたことだった。2013年の現在でも、ロボット、新幹線、タコの看板、忍者、きゃりーぱみゅぱみゅなど、メイド・イン・ジャパンはクールで、未来を思わせるブランドである。この可能性がわからないなら、Tokyo Otaku Mode を見てみるべきだ。

Telepathy がプロダクトを市場投入できるかどうかについて、私は少し懐疑的だ。しかし、セカイカメラのサービス終了が発表されたのをふまえて、2008年の最初のピッチは、インターネット史上に残る面白い出来事の一つだったと言える。

日本のスタートアップが海外進出すると多くの障害に直面するが、同時によいこともたくさんある。

日本はクールであり、想像力に富んでいる。欧米社会は、日本のことが好きである。

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Telepathy 井口尊仁氏

  1. しばらく使い続けると、腕がだるくなるのではないかと思う。  ↩
  2. TechCrunch 50 の Q&A セッションのビデオも見てみるとよいだろう。こちらもなかなか陽気で素晴らしい。  ↩
  3. 私は、京都の Yesterscape のファンだ。時を戻す面白い要素を持った AR ソリューションである。  ↩
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TechCrunch Tokyoレポート: Telepathy井口尊仁CEOが語る、ウエアラブル・テクノロジーの未来 #tctokyo

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※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから。 TechCrunch Tokyo の最初のセッションで、Telepathy の CEO 井口尊仁氏は、First Capital Management(FCM)のチーフ・インベスト・マネージャー Kevin Landis 氏と共に登壇した。FCM が8月、Telepathyに500万ドルを出資したことは記憶に新しい。…

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※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから

TechCrunch Tokyo の最初のセッションで、Telepathy の CEO 井口尊仁氏は、First Capital Management(FCM)のチーフ・インベスト・マネージャー Kevin Landis 氏と共に登壇した。FCM が8月、Telepathyに500万ドルを出資したことは記憶に新しい。

モデレータを務めた西村賢氏は核心をついて、Telepathy One がよく比較される Google Glass について尋ねた。

Google Glass はまだ日本で発売されておらず、比べるのは難しい。しかし、我々のデバイスはコミュニケーションにフォーカスしている。人間は、コミュニケーションの生き物と言っていいだろう。そして、スマートフォンがその大部分を占めるようになった。(中略)Google Glass と同じく、電力消費が最大の課題だ。常にコミュニケーションできるようにしておく上で、この問題は我々の開発で、大きな部分を占めている。[1]

井口氏は、PRチームの要望により、プロダクトに関して話せる内容に制約があるとした上で、Telepathy One のユーザ・インタフェースを可能な限り小さなものにしたいと述べた。

これは、大きなパラダイム・シフトになるだろう。

まるで、身につけていることを忘れるような、目立たないものにしたい、と井口氏は語った。この話を受けて西村氏は、ジェスチャーを使うのかと尋ねてみたが、井口氏はしばらく間をおいて、その質問には「答えない」と述べた。

Kevin はさらに、この点が既に市場に出回っている他のウエアラブル・テクノロジーと比べ、次のように述べた。

Fitbit や Jawbone はうまくいっていて、IPO も成功するだろう。彼らは大きな市場を追いかけているが、一つだけ問題がある。自分のフィットネスをモニターしたい、改善したいと、人々が思うかどうかだ。しかし、それは単なる一問題に過ぎない。Fitbit や Jawbone は、スマートフォンを経由してユーザとユーザの間に介在する。Telepathy は、このようなプロダクトの必要を無くしてしまうかもしれない。もしそうだとしたら、Fitbit やJawbone はなくなるだろう。私にとっては、この上なく素晴らしいことだが。

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このセッションで最も興味深かったのは、井口氏が本当に Google Glass よりも安い価格で Telepathy One を市場に出せるのか、と質問を受けたときだった。井口氏は価格やリリース日については言及を避けたが、このようなデバイスを作るチャレンジや、そのチャレンジの背景について語った。

簡単なことではないが、簡単じゃないから挑戦している。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、誰もができることなら、挑戦する意味はない。これはイノベーションではない。挑戦できて幸せだ。

iguchi-takehito-techcrunch-tokyo-280x217井口氏は、Telepathy のチームをシリコンバレーと東京で拡充していることについても語った。シリコンバレーのメンバーはソフトウェア、ユーザ・インタフェース、コア・アプリ開発に長けている。東京のチームは、コア・ハードウェア開発に特化しているということだ。

Telepathy One の発売時には、アメリカ市場から発売を開始するだろう、とも井口氏は付け加えた。

Telepathy のチームには課題が山積しているが、井口氏は頭ではなく、首にぶらさげる形で Telepathy One を着用していたのが印象的だった。


  1. 井口氏の発言は、会場での同時通訳を元にしたものであることに注意されたい。彼はこのセッションで、日本語で話した。 ↩
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