洗濯物折り畳みロボット「ランドロイド」開発のセブン・ドリーマーズ、資金を追加調達し海外展開を加速させる理由とは【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


人工知能にとっての難題にはよく驚かされる。人工知能は、碁、チェス、クイズでは、最も技量に長けた人間よりも上手であり、クルマの運転や音楽の作曲においても、多くの人より上手だ。しかし、人工知能にとって、洗濯物を畳むのは信じられないほど難しいものになるようだ。

阪根信一氏と、セブン・ドリーマーズの彼のチームは12年間にわたり、この特別な問題に取り組んできた。そして今、世界初の商用洗濯物折り畳みロボットを発売しようとしている。彼らにとって世界市場に出るのは初めてで、生産にあたりパナソニックと提携した。

阪根氏と私は、日本における人工知能やイノベーションについて多く語り合い、彼がイノベーションを起こすまでの類いまれな経歴についても取り上げることができた。セブン・ドリーマーズは典型的なスタートアップではなく、多くの日本企業が学ぶことができるイノベーションに向けた青写真を示してくれる。

Tim:

ランドロイドって、何ですか?

阪根氏:

洗濯物折り畳みロボットです。最下部の引き出しに洗濯済みの衣服を入れると、ランドロイドがそれを折り畳み、衣服の種別や、家族の誰の服かに分けて整理します。

Tim:

簡単な話に聞こえますが、人工知能にとって衣服を折り畳むのは難しくないんではないでしょうか?

阪根氏:

いえ、大変難しいんです。事実、我々はこのプロジェクトに12年間以上を費やしています。プロジェクトは2005年にスタートし、Tシャツやタオルを折り畳めるようになるまでだけで3年を費やしました。しかし、我々はTシャツやタオルを、ある特別なやり方でマシンに入れてやる必要があり、それが当時の実用的なソリューションでした。実際のところは、折り畳みが難しいわでけはないのです。開発に何年もの時間を費やしたのは、ロボットがランダムにカゴに入れられた衣服を取り上げ、確かめ、認識し、折り畳むというところでした。

Tim:

すでに競合がいるようですね。タオルや T シャツの折り畳みロボットを作った Berkley のチームや、シャツを折り畳む FoldiMate などです。

阪根氏:

この分野では多くの研究がなされていますが、おっしゃったような企業はまだプロダクトを発表できておらず、また、両社の技術では、ユーザはロボットが折り畳み始める前に、衣服を決められた場所に丁寧に配置する必要があります。これは、現実的なアプローチだとは思いません。そんなことすると、ユーザは折り畳みに要するよりも多くの時間を、衣服を配置するのに使うことになります。

Tim:

では、ランドロイドは何でも折り畳めるのですか? パンツでも、シャツでも、靴下でも、何でも?

阪根氏:

ランドロイドには3つだけ折り畳めないものがあります。裏返しになった衣服の折り畳み、シャツのボタン留めやボタン外し、靴下の折り畳みはできません。

Tim:

靴下は折り畳めないんですか?

阪根氏:

いや、折り畳むことはできるのですが、両足の靴下を一対にできないのです。両足の靴下をマッチングするのは、人工知能にとって極めて難しいのです。サイズや柄が少し違っただけで、人工知能は混乱してしまいます。しかし、この機能は今年末までには準備できるようにする計画です。

Tim:

人工知能はマシン本体に備わっているのですか? それとも、クラウド上に置かれているのですか?

阪根氏:

両方ですが、複雑なコンピューティングと人工知能エンジンの大半は、クラウド上に置いています。その方が価格が安くて済むし、そして最も重要なことですが、我々のすべてのお客様にパフォーマンスをアップグレードしやすい。例えば、靴下を折り畳みできる機能アップグレードも準備ができ次第、すべてのお客様が利用できるようになります。

Tim:

靴下の左右合わせ以外に、他に改善点はどういったところでしょうか?

阪根氏:

スピードですね。現在は1アイテムにつき、5〜12分かかっています。ランドロイドは衣服を投入して自動で動作させられるので実用面では問題にはなりませんが、もう少し速く処理ができるように取り組んでいるところです。

Tim:

セブン・ドリーマーズは典型的なスタートアップではありませんね。多くの点で、中堅の同族ビジネスのようだからです。

阪根氏:

最近はスタートアップのように運営していますが、私は2000年にアメリカで PhD を取得後、父の事業を手伝うために日本に戻りました。数件の新しい事業形態を作り、2003年に CEO に就任しました。私は2010年までに資金調達し、IPO したかったのです。しかし、会長である私の父は、外部から投資を受け入れることを好みませんでした。彼は経営権を維持したかったのです。自分で会社を作り IPO した祖父のことが、父をそう思わせたのでしょう。祖父は財政的に成功していましたが、(IPO により)結果的に経営権を失いました。父は、そのような目に合わないようにしたかったのです。

Tim:

ということは、あなたは三代目の起業家ということになりますね。

阪根氏:

そういうことになりますね。いずれにせよ、父と私は、イノベーティブな部門を新会社としてスピンオフさせ、私が CEO に就任し、ビジネスの拡大に向けて資金調達することを決めました。これまでに9,500万ドルを調達しています(編注:2016年11月の60億円調達に続き、2017年6月にアメリカの KKR、香港の復星国際、鈴与、滋賀銀行、大和企業投資などから25億円を調達した)。当初の調達ラウンドはランドロイド以外の製品のためのものでしたが、最近の調達はランドロイドを改善し、積極的に海外展開するためのものです。

Tim:

どうしてそんなに早く海外展開するのですか?

阪根氏:

現在、我々には大きなアドバンテージがあります。世界中で唯一の実用可能な市販製品であり、今や市場はグローバルです。他社も我々に追いかけ、最終的にはプロダクトを市場に出すでしょう。我々は常にその最前列を走っていたいのです。そして、最も認知されたブランドになりたいのです。日本だけを考える日本企業が多すぎるわけですが、もし、セブン・ドリーマーズのような小さな会社が国際展開できれば、誰しもがそれをできるということになります。


私がランドロイドを見たとき、ご存じスタンリー・キューブリックの2001年宇宙の旅を思い出さずにはいられなかった。

ランドロイドは、そのオープニングシーンから大きな黒の一枚岩のような形をしており、最も目につくのは HAL を思わせる大きくて丸いライトだ。でも、2001年宇宙の旅がランドロイドのデザインに影響を与えたとは思っていない。HAL は後に、殺人を犯す心身症にかかったからだ。それに、阪根氏やセブン・ドリーマーズのチームは、(HAL のように)自分たちを他者と比べようとはしない。人工知能にとって簡単なタスクや難しいタスクについて考えれば考えるほど、未来は HAL ではなくランドロイドのようなものになるのだろうと確信するようになった。

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