仏大統領選挙、有力候補5人が掲げるテクノロジー政策を比較分析

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Image credit: adrianhancu / 123RF

フランス次期大統領を待ち受けているのは、政治や経済への不満が渦巻く国の現状だ。そんな懸念の中、テクノロジー市場とスタートアップ市場の急速な発展が近年では大きな明るい話題になっている。

日曜日(4月23日)にフランスで次期大統領を選ぶための第1回投票が行われる。そこで多くの票を得た上位2名の候補者が、5月7日の第2回投票に進むことができる。

最後まで勝ち残った者が「La French Tech」の運命を決めることになる。「La French Tech」とは、テクノロジー業界の発展を推進するために現在の社会党政権が3年以上前に立ち上げたプログラムだ。このプログラムには、起業家精神を高め、投資家を引き付けるための幅広い政治的および経済的な支援が盛り込まれている。

そのプログラムは実際にどれほど信用できるものなのか、そして、フランスのテクノロジーエコシステムは独立してやっていけるのか、そう疑念を抱く者もいるだろう。しかし、現時点でフランスのテクノロジー業界が凄まじい勢いを持っていることは明らかだ。

テクノロジーというテーマについて候補者らはどのような立ち位置を取っているのだろうか。

第1回投票を数日後にひかえ、世論調査も活発化している。 5人の有力候補がおり、第2回投票への進出が可能な票数を獲得する見込みがあるのはそのうちの4人。最新の世論調査の集計によると、中道のエマニュエル・マクロン氏が23%で、極右のマリーヌ・ル・ペン氏が僅差でそれに続く。

さらにその後ろには、保守派のフランソワ・フィヨン氏と極左のジャン=リュック・メランション氏が20%で並び、社会党のブノワ・アモン氏は8%となっている。

ここからは、テクノロジー政策に関する公約について、これら5名の候補者が語ってきたことを見ていこう。

エマニュエル・マクロン氏

フランスのスタートアップ業界から最も支持されている候補者はマクロン氏だと言っても差し支えないだろう。彼は現在の社会党政権下で経済大臣を2年務め、起業家精神を積極的に支持し、保護主義に走るのではなく、むしろ現在テクノロジーがもたらしているディスラプションの波を受け入れる必要があると主張してきた。

昨年に大臣の職を辞した後、マクロン氏はオバマ式の組織戦略とデジタル戦略を用いて独立系政治グループ「En Marche!(前進!)」を設立した。フランスの政治において、伝統的に左右に分かれた社会党と共和党の間には新たな中道が存在する、というのが彼の考えだ。

また、彼は親 EU・EU 残留派の最有力候補だ。一方、労働改革を支持する考えが労働組合の不評をかなり買っている。

彼は著作の中でこう語っている

研究とイノベーション、労働と起業家精神によって、経済的および社会的な流動性を再構築したいと考えています。デジタル革命は、私たちの生産、消費、生活のあり方に変化をもたらします。

公約の中で彼は以下のことを述べている

  • 職業訓練、環境事業、フランス政府のペーパーレス化に520億米ドルを注ぎ込む。
  • フランス人が労働者や起業家として登録しやすくなるように、労働と社会保障関連の法律を改正する。
  • 起業家への失業給付を拡充する。
  • 行政サービスを簡素化およびオンライン化し、悪名高き鈍重なお役所仕事の迅速化を図る。
  • ホテルや職業ドライバーの免許など新規事業者の許認可を与える機関向けにデジタルデータベースを作成し、プロセスの迅速化と透明性の向上を図る。また、これにより、フランスのスタートアップが海外のテック企業と競争しやすくなるような環境をつくる。
  • 欧州における単一デジタル市場の推進とリスクキャピタルファンドのサポートを継続する。
  • 高速光ファイバと無線ネットワークの拡大を進める。
  • フランス再建に向けた文化的および経済的に重要な原動力として、起業家精神の奨励を継続する。

マリーヌ・ル・ペン氏

そう、彼女は反移民を掲げる非寛容な極右政党「国民戦線」の声なのだ。注目すべきは、彼女がフランスの EU 離脱とユーロ廃止を望むポピュリズム的な経済政策を掲げていることだ。米トランプ大統領のように、彼女は経済的混乱によって取り残された人々にもっと焦点を当てることを約束し、労働者階級の有権者の心をつかんでいる。現在の世論調査どおりにいけば、第2回投票は彼女とマクロン氏の決選投票となる。そして、マクロン氏が労働組合から嫌われていることを考慮すれば、大方の予想を覆すギリギリの勝負になる可能性がある。

テクノロジー政策に関する公約として、彼女は以下のことを約束している:

  • 「知的な保護主義」を通じて、「不正な国際競争に直面するフランス企業を支援する」。
  • 小規模企業の事務負担と税負担を軽減する。
  • 中小企業やスタートアップ向けの研究開発減税制度、ベンチャーキャピタルやスタートアップまたは自社でベンチャーファンドを設立する大企業向けの税制優遇措置を設ける。
  • フランス国内の生産者に課せられた規制基準に準拠していない海外商品の輸入および販売を禁止する。
  • 同時に、国内で流通する商品および製品に対し生産国の明記を義務づけ、「メイド・イン・フランス」を支援する。
  • オンライン上の「サイバー・ジハーディズムや小児性愛」との戦いを強化しつつ、憲法によって保護されている基本的自由に表現の自由とデジタルの自由を加えることにより、これらの自由を保証する。同時に、名誉毀損や中傷にあった被害者のために苦情処理手続を簡素化する。
  • フランス国内に設置されたサーバに個人情報の保存を義務づける個人情報保護を含めた憲法価値の憲章を制定する。
  • フランス人の雇用という国家的優先課題を効果的に実践するために、外国人従業員の雇用に追加税を設定する。
  • 経済安全保障局を新たに設け、国益を損なう海外投資を規制することにより、重要かつ有望な業界の保護を行う。「ハゲタカ・ファンド」や「敵対的な株式公開買い付け」から企業を保護し、有望な業界において権益を確保するという二重の使命を持ったソブリンファンドを創出する。
  • 新たなテクノロジーに関連した労働形態の変化(「ウーバリゼーション、ロボット化、シェアリングエコノミーなど」)を予測するために、財務省に経済変化を専門とした大臣職を設ける。関係部門と協力して、公正な競争を維持するための新たな規制を制定する。
  • 国内企業に公的補助金が支給された場合、それから10年間海外企業がその企業を買収することを禁止し、フランス国内におけるイノベーションを奨励する。寄付に対する税額控除を増やすことによって、研究やイノベーションといった戦略的分野を促進する。公的研究予算を30%増額する(GDP の1%が上限)。
  • 中小企業「専用のワンストップショップ」を設け、事務手続き上および税制上の複雑さを軽減する。
  • 自営業者のための社会保障を拡充する。
  • 医療制度を現代化する国内スタートアップを支援する。
  • インフラへの投資、特に農村地域における高速インターネットと無線通信範囲を拡大するような投資を支援する。

フランソワ・フィヨン氏

保守派のフィヨン氏は元首相で、共和党予備選では予想を裏切り、より穏健派の本命候補者を打ち破り勝利を収めた。もともと、第2回投票に進出する可能性が最も高いのはフィヨン氏とル・ペン氏で、フランス国民は右派候補者と極右候補者のいずれかを選ぶことになるだろうと予想されていた。しかしフィヨン氏は、英国人妻ペネロペ氏などの家族に対して公職を与え、勤務実態のない彼らに不正に給与を支給したとして非難された。 この「ペネロペゲート」と呼ばれるスキャンダルによって、一度は世論調査の結果が落ち込んだ。だが、後半になって立ち直りを見せている。

フィヨン氏は仏テクノロジー業界の新たな擁護者になりたいと声高に述べている。今年初めにラスベガスで開催された CES を訪れた彼は、より広い範囲でコネクティビティと起業家精神への投資やサポートを行うことにより、フランスを「スマートな国家」にしたいと宣言した。彼は「オタク」を自称しており、コンピュータの修理が好きなのだそうだ。

著作の中で彼はこう語っている。

私は自分の国を現代化したいのです。デジタル、それは経済において数ある中の一部門というだけではありませんし、ガレージ内から始まる未来的なスタートアップというだけでもありません。私たちの目の前で起こっているのはまさに産業革命であり、文化、価値観、経済、さらには主権に関する大きな課題を私たちに突き付けています。しかし、それは同時に大きなチャンスをもたらします!私たちには現実的なデジタル政策が必要です。すべてのフランス国民がこの革命から恩恵を受けることを願っています。

テクノロジーに関して彼が掲げる公約を以下に挙げる:

  • 超高速フランス計画への追加資金投入および再編成、さらに「5G 計画」の始動により、2022年までの超高速固定およびモバイルブロードバンドの展開を加速させる。
  • 電子民主主義と電子政府サービスを拡大する。
  • 国、地域、地方の自治体においてオープンデータと API の利用を拡大する。
  • 個人情報の保護を強化する。
  • 医療制度を現代化するために、遠隔医療と電子医療サービスに投資して展開する。遠隔地からより多くの人々の健康状態を観察し、患者のケアをより効果的かつ効率的に行えるようにコネクテッドオブジェクトを導入する。
  • ドイツと連携し、自動運転車やコネクテッドビルディングなどの新たな欧州産業の発展を支援する。
  • 人工知能とブロックチェーンの分野で欧州がイノベーションの中心となるようなプロジェクトを特定して支援するためのプログラムを開始する。
  • 企業や政府のサイバーセキュリティ要件を強化する。
  • 中学生のための「デジタル文化」プログラムの追加、デジタルを専門とする教師の採用と訓練の強化、高等教育のためのデジタル訓練プログラムの開発を含む、あらゆるレベルでのデジタル訓練および教育を強化する。
  • テクノロジー巨大企業が納税を回避できる所在地を選ぶのを防ぐため、欧州全域で税法を改正する。
  • 国内の主要テクノロジー部門のための大きな資金調達メカニズムを新たに構築する。

ジャン=リュック・メランション氏

メランション氏は2008年に離党するまでは社会党に所属し、その後「La France Insoumise」や「Unbowed France」という独立系の政治団体を設立している。泡沫候補だったがここ数週間で世論調査の上位に浮上し、先週(4月第3週)トゥールーズで行った集会では7万人を集めた。

最も注目すべき彼のテクノロジーの利用方法は、選挙運動へのホログラムの活用だ。

また彼は一部の起業家からも支持を得ている。下の動画(フランス語)は一例だ。そして、彼が政界へ復帰できたのは昨年のこの演説に助けられた部分もある。この演説はフランスではちょっとした話題になった。

テクノロジーに関する公約として、彼は以下のことを掲げている

  • EU の抜本的な改革を開始する。ビジネス界寄りの基本構造が再交渉で見直されない場合、EU 離脱のための国民投票も辞さない構えだが、欧州全域で協力がなされるはずだという考えも明言している。
  • フランスの産業経済を復活させるために、環境産業とテクノロジー分野への大規模な公共投資を行う。
  • 最低賃金を引き上げ、労働時間を短縮する。
  • 高速インターネットの導入を加速させるために大規模な公共投資を行う。
  • 彼が掲げる一連の「メイド・イン・フランス」案が実施されれば、多くのシリコンバレー企業(Uber など)は、フランスで事業を行うために労働規則の大幅な見直しを余儀なくされそうだ。どの海外企業も労働者に労働組合を組織する権利を与えなければならず、フランス国内の他の労働基準を遵守しなければならない、と彼は述べている。
  • 経済的進歩の第一目標として、商品やサービスのコストを下げることに執着するのは、そのような政策が経済的および社会的に及ぼす多大な影響を無視しているに等しい、と考えている。
  • 「設立3年未満の企業を優先した、独立業務請負人と中小企業を支援する公共サービスを設けます。そのサービスの下には、法律、マネジメント、人事、税制、環境責任、イノベーションなど様々なスキルを持った専門家が集まります。さらに、起業家にとっては、法律、商業、行政上の障壁を排除できる上に、小規模企業の設立、継承、経営に要する手続きを誰でも無料で行えるようにします。」

ブノワ・アモン氏

アモン氏は社会党の候補者だが、彼にとってみればそこに所属していることで得られる利益はまったく無かったようだ。2012年に議員に選出された後、彼は進歩的なオランド政権の閣僚メンバーとなった。しかし、オランド大統領がより中道的な路線へのシフトを決めたのをきっかけに、閣僚から退いた。オランド政権下で首相を務めたマニュエル・バルス氏を相手に、アモン氏は番狂わせの勝利を収めた。

しかし、この選挙での進歩的な彼の主張はメランション氏の主張に飲まれてしまった感がある。さらに、彼のサポート陣営は10名に満たないスタッフで運営されている。それでも、今週末の投票日(4月23日)には浮動票が舞い込むことを願って戦い続けている。結果はまだわからない。彼が活用している Snapchat の投稿で何か変わるかもしれない:

それはさておき、テクノロジー政策について彼は以下のように語っている

  • 「すべての人にデジタルテクノロジーが行き渡るようにします。」
  • 「戦略的投資プログラムを展開します。」さらに彼は、中小企業が資金調達しやすい環境をつくると付け加えた。
  • 流動性供給について、フランスの中央銀行が自ら資金を供給する権限を拡大する。
  • 新たな事業や研究に投資する人々に対する税額控除の改革を行う。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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