日米のテックシーンをつなぐ「If Conference」、昨年に続き第2回がNYで開催(前編)〜「Fast Company」編集長、レイ・イナモト氏らが登壇【ゲスト寄稿】

本稿は、ニューヨークを拠点に活動するジャーナリストで翻訳家の安部かすみ氏による寄稿である。昨年の「If Conference」の模様はこちらから。


ニューヨークはつい数日前まで薄手のコートが必要なほどだったが、この日は摂氏30度を超え、半袖姿の来場者も目立った。
Image credit: Kasumi Abe

「もし日米のテックコミュニティが一堂に集まれば、そこからどんな繋がりが生まれるだろう?」———そんな素朴な疑問から、昨年ニューヨークで誕生した「If Conference」(イフ・カンファレンス、略してイフコン)。

第2回目となる今年は5月18日(木)、昨年同様にタイムズスクエアにある Microsoft で行われた。「The destination for Japan Inspired Innovators」(日本に影響を受けたイノベーターたちの場所)というサブタイトル通り、今年も日米のアントレプレナー、投資家、会社員、学生ら約300名が来場した(人数は主催者発表)。

スピーカーとして、日米の起業家や会社役員ら14名が登壇し、講演やパネルディスカッションを行った。本誌では、その中から主要なスピーチをピックアップしてレポートする。

アフタヌーンキーノート:よいアイデアの源泉

ビジネス書『Rules of Thumb ー Truths for Winning at Business Without Losing Your Self 』の著者でもあるウェバー氏。日本では、『魂を売らずに成功するーーー伝説のビジネス誌編集長が選んだ飛躍のルール52』も販売されている。
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まず「アフターヌーン・キーノート」として登壇したのは、ビジネス雑誌『Fast Company(ファストカンパニー)』の共同創刊者、および編集長である Alan Webber (アラン・ウェバー)氏。同氏は創業前の1980年代、『Harvard Business Review(ハーバード・ビジネス・レビュー)』のマネージングエディターをしていた経歴も持つ。

ウェバー氏は、「Where do Great Ideas Come From?」(よいアイデアはどこからやってくる?)をテーマに、アイデアを生み出すヒントについて語った。同氏は1989年、3ヵ月のフェローシップ・プログラムで来日しており、孫正義をはじめとする約300人の起業家やビジネスマンにインタビュー。「ちょうどバブル景気に湧いていた時代の日本を体験し、多くの成功者の声を聞けたことは、私のその後の人生を変え、雑誌創刊にも良い影響を与えた」と話した。

またこの日は、『Fast Company』や『Harvard Business Review』で学んだことを元に出版した『Rules of Thumb ー Truths for Winning at Business Without Losing Your Self』( ルールズ・オブ・サムー自分を見失わずにビジネスで勝つ52の真実)から、いくつか成功の秘訣をシェアした。一部をここで紹介する。

新鮮な目でビジュアルを見直す

行き詰まったら新鮮な思考で、そもそも自分のビジネスはどんな問題を解決するものなのかを問いかけ、ビジネスを開始したきっかけを思い出してみる。

よい質問はよい答えを導く

手のひらサイズのノートを常に携帯しており、興味深い話はすぐにメモをとるというウェバー氏。「たまたま乗った Uber の運転手との会話も、あなたのアイデアに影響を与えてくれるかもしれません」。
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ポラロイドカメラ誕生の裏には、発明者の娘が撮影の際に「なぜ今、写真を見ることができないの?」と問いかけたことがきっかけになった。その逸話を引き合いに、「なぜできないんだ?」( Why not?)、「もしできたらどういうことができるか?」(What if)、「どのように?」(How?)と問いかけることが、アイデアやイノベーションには必要。

最後に聞く質問を最初にせよ

勝利の定義がわからなければ戦う意味がわからないのと同じように、成功の定義を知らずして成功はできない。成功とは? なぜこれをやっているのか? モチベーションを保つにはどのようなサポートやリソースが必要なのか? 立ち止まって、最後の質問を最初に問いかけられる余裕と時間を持つこと。

ウェバー氏は、「すばらしいアイデアが浮かび起業しようと思ったら、人々に話を聞き、ノートをとり、ブランドを作り、センスをディベロップし、自分にとって勝利とは何かという最後の質問を最初に問いかけることから始めよ」というメッセージで、この日のスピーチを締めくくった。

デザインキーノート:デザイナーとして学んだこと

日本の飛騨高山で育ち、スイスの高校を経て、アメリカのミシガン大学に留学。帰国後は日本で働き再渡米した稲本氏。
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日本人クリエーティブディレクター、稲本零(Rei Inamoto)氏の登壇にも、大きな注目が集まった。稲本氏は Inamoto & Co.を1年半前に創業。『Forbes』誌の「広告業界で最もクリエーティブな25人」に選ばれ、世界で最も注目されている日本人の1人だ。

この日は、「Designers as Entrepreneurs(起業家としてのデザイナー)」と題して、留学やアメリカ企業で働いた経験と、そこからの学びを語った。

稲本氏は、ネイティブと見まごうほど大変流暢な英語を操る。この日のスピーチは全編英語であるばかりか、ジョークも交え何度も聴衆の笑いを誘っていた。今ではそんな彼も、20代前半ごろまで英語で数々の苦労をしたという。ここでは彼がそこから学んだ教えをいくつかシェアする。

サバイブするには強い信念が必要

土から作った「土スープ」という常識を打ち破る話題のメニューを開発した成澤由浩シェフの事例を上げ、その成功は「土にこそ豊富な栄養素が含まれており、顧客に届けたいという強い思いがあったからこそ」と分析。大切なことは、なぜ私たちはこのビジネスをしているかをクリアにすること、そして信念を曲げないこと。

弱みは強みである

25歳のとき、サッカーのプレー中に目をけがし、網膜はく離の手術も経験。「大変辛いリハビリだったが、この経験を通して楽観的であることの大切さを思い出す」とも。
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アメリカのデザイン系企業に就職し、言葉の壁にぶつかった。当時の自分は英語が流暢ではなく、複雑なデザインコンセプトをクライアントに説明できずにいた。しかし、いかに込み入った内容でも、子供でもわかるぐらいのシンプルな言い方で説明すれば、どんな人にも理解してもらえると気づいた。当時の自分の弱点が今の強みになっているし、誰でも弱みを強みに変えることができる。

テクノロジーが人間の仕事を奪う?

また、テクノロジーが人間の仕事を奪うと懸念されていることについて、「実際にプログラマー、医者、ウェイター、調理師、経理などは10年後かなり少なくなるだろうと予想されている。しかし産業革命の時代も同じように言われていたが、雇用を生み続けた。物事には0から10まであり、人間が優れているのは0から1を生み出すことと、9から10への総仕上げ。その部分を大切にするべき」と持論を展開した。

真剣に聞く来場者。講演後のQ&Aもスピーカーごとに盛り上がりをみせた。
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後編に続く)

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