年がら年中インターネットばかりしている人にとって、今年のスタートアップバズワードは ICO(イニシャルコインオファリング)であろう。ICO はスタートアップが通常のベンチャーキャピタルのルートをスキップして、一般の人々から資金調達する代替手段である。(IPO 同様に、とはいえ通常 ICO では株式の移転は発生しない。)
その仕組みは、企業が暗号コインを一般の人々に対して発行し(このため「コインオファリング」という言葉となる)、イーサやビットコインといった仮想通貨と交換するというものだ。通常ファンディングのキャンペーンは特定期間開催され、プロジェクトのローンチ後、暗号コインは暗号通貨取引所でトレードされるようになり、投資家はコインの価値が上がるのを待ったり、すぐに売却したりできる。
ここまでですでにお分かり頂いたかもしれないが、現状 ICO を取り巻く環境には規制がなく、各国政府は思案顔で眺めていたり、禁止というハンマーを振り下ろしたりしている。各国政府の警戒と懸念はもっともなことで、辺境開拓地帯ともいえる ICO はスキャム(詐欺)の温床であり、先々バブルを形成する可能性もある。
シンガポールで開催された SLUSH で、投資家2人と創業者1人のパネルディスカッションで、エコシステムは ICO やその応用、将来についてどう考えるべきか討論があった。
- Joo S.Wong 氏……アーリーステージ VC の True Global Ventures インベスターパートナー
- Emmie Chang 氏(モデレーター)…ブロックチェーンスタートアップ特化型 VC の Superbloom Capital 共同設立者兼マネージングパートナー
- David Moskowitz 氏…スマートコントラクト特化型ブロックチェーンスタートアップの Attores 共同設立者
ディスカッションでのキーポイントは以下の通り。
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ICO は合法的な代替資金源であるか否か

Image credit: e27
2013年からブロックチェーン業界に携わる Moskowitz 氏は、Attores を立ち上げた当初資金調達難に直面したと話す。そして同氏は援助を求めて仮想通貨コミュニティに関わるようになり、なんとか必要資金を確保した。
コミュニティの将来ビジョンとつながるアイデアを持っている必要があります。(Moskowitz 氏)

そうした点で、分散化を広めるという Attore の計画は仮想通貨コミュニティのビジョンと良く合うものだった。
Moskowitz 氏によると、活気ある ICO 情勢はイノベーションと分散化の進展を加速し、トークナイゼーションの普及ペースが向上するという。
Wang 氏は単一的な答えを示すのは難しいと感じていると話す。
ICO は全く新たな世界であり、他の投資機会と同様に、投資家は資金を投じようとしている事業の全体像を理解するべきである。
ICO は小口投資家に世界を開きます。有望な企業はVCのプライベートドメインに留まっていました。ですので、ICO は個人にもチャンスが広がることになります。(中略)また、ICO は資金調達に苦戦している企業に機会を開くことにもなります。
IPO した企業を見てみると、Facebook のような大企業になれるのは3,000社に1社だけです。VC の集まりを見てみると、うまくいく可能性はおそらく3社に1社となります。(Joo 氏)
とはいえ、VC では投資対象企業に対してデューデリジェンスを実施するのでリスクは抑えられる。
ICO はグローバルな効率性アクセラレータなのです。ICO は世界を変える方法を加速させ、もっと多くのイノベーションを世界にもたらしていくことになるでしょう。(Joo 氏)
しかし Wang 氏はエコシステムに不要な規制が導入される可能性があり、そしてそれは健全と言えるものではないと想定されるので、よく注意しなければならないとも話す。VC は ICO 情勢について学習する必要があるという。
もしスタートアップが VC よりもICOで資金調達することが多くなったら何が起こるのだろうか。(Chang 氏)
こうした ICO 企業のうちどれだけが実際に製品を作れるのだろうか? 製品を作った実績のない者がビジョンを実現できるのだろうか? 彼女は、ICO の投資家が単に投資フェーズに留まらず積極的に投資先企業に関わっていくべきだと推奨する。製品を批評し、フィードバックしたりなどということである。
Moskowitz氏 はそうした事態はかなり少数に限定されると楽観的である。
コミュニティは見抜くことができると思います。もし企業に製品がなかったり、製品を作った実績がなければ、ICOには参加しないでしょう。(Moskowitz 氏)
ICO が合法的な投資機会であるか否か

Moskowitz 氏によると、ICO は投資機会の民主化だという。参加することにより、プラットフォームの成長やインターネットの分散化の加速を支援することになるのだ。
ICO では投資家には金額制限がないので、潜在投資家に門戸を開くことになる。
ICO 市場には悩みもあるが、若い企業の成長を助け買い手に門戸を開く。
これは市場にとって良いことだ。Joo 氏は ICO の立ち上がりをeコマースの始まりになぞらえる。
たった数年前、Borders(書店チェーン)と競合する書店を始めるには多額の資本を集める必要がありました。(中略)しかし Amazon はコネチカット州の倉庫でこれを実行し、必要資本もそれほど多くはありませんでした。(Joo 氏)
ICO 企業に良いコンセプトや健全な製品ローンチ計画、そして優秀な創業者がいる限り、荒れ地で宝石を探す人にとっては優れた機会となるだろう。ICO は VC が資金を調達するのにも役立つことだろう。
Chang 氏は投資家に対し、ICO に参加してどのような仕組みなのか見たりプロセスを理解したりするよう呼びかける。こうした ICO 企業の多くは飛躍的な成長率で成長しており、投資家は実入りの良い案件に投資できる可能性があるのだ。
ICO は投資の将来の形となる可能性があり、多くのミレニアル世代が金融面での自由を実現する助けとなるだろう。(Chang 氏)
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