デザインスタジオのReaktorがダイドードリンコと挑んだ、飲料自販機に革新を起こす挑戦——大手企業の開発現場に、アジャイル手法を持ち込む

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写真左から:Reaktor Japan エンジニア Gabriel Lumbi 氏、ダイドードリンコ 経営戦略部 事業開発グループ アシスタントマネージャー 西佑介氏、Reaktor Japan 代表取締役 Aki Saarinen 氏、Reaktor Japan シニアサービスデザイナー 宮本麻子氏
Image credit: Masaru Ikeda

デザインスタジオの Reaktor については、THE BRIDGE で以前この記事で取り上げたことがある。Reaktor はヘルシンキで2000年に設立されたデジタルプロダクトのデザインスタジオで、世界的な有名企業の作品を数多く手掛けたことで知られる。今回、Reaktor が取り組んだのは、時代の移り変わりと共に商流が変化しつつある自動販売機の分野だ。

日本は人口や国土面積を勘案した自動販売機の普及率で世界トップの座を誇り、その利便性や機能の多さから言っても日本のお家芸と言えるだろう。まさに我々の生活には無くてはならない存在だが、そんな自動販売機にも新たな革新が迫られているという。コンビニエンスストアやスーパーが増え、自動販売機に頼るまでもなく、思い立ったときに安価で飲料を求められるようになったからだ。

飲料大手のダイドードリンコが全国に有する自動販売機の数は28万台で業界3位、実に飲料製品の売上の約8割を自動販売機からの購入に依存しているという。「飲料を売るだけでは、もったいない。何か他のことにも使えないのか」——そんな発想から、既存ビジネスのデジタルトランスフォーメーションを得意とする Reaktor に白羽の矢が立ち、自動販売機に革新をもたらすプロジェクトがスタートしたのだ。

ダイドードリンコ本社内に設けられたプロジェクトチームで、Smile Town Portal の開発に余念の無い、同社経営戦略部と Reaktor の皆さん
Image credit: Dydo Drinco

ダイドードリンコではこのプロジェクトに先立ち、同社の経営戦略部が中心となって、飲料購入後にスマートフォンでポイントが貯められる「Smile STAND」というサービスをリリースしている。しかし、自動販売機は地域に密着していて、さまざまな場所に設置されているという性質をかんがみ、「もっと、情報発信に利用できないか? 技術力が高く、サービスを提供できる会社がないか」とパートナーを探していたところ、Reaktor を紹介してもらったのだという。

Reaktor のチームは、大阪にあるダイドードリンコの本社にあるプロジェクトルームに詰め、ダイドードリンコの経営戦略部のメンバーと共にサービス開発に没頭、そうした苦労の末に生まれたのが、今年9月にローンチした「Smile Town Portal」というサービスだ。Smile Town Portal では、先に書いた Smile STAND に対応した自動販売機(スマートフォンと Bluetooth 通信ができる機能を持った自動販売機)で利用でき、自動販売機の半径1キロ県内にある飲食店や美容院などの店舗情報を、スマートフォン上の専用アプリ「DyDo Smile STAND」に配信する。配信される情報は、リクルートの「ホットペッパーグルメ」や「ホットペッパービューティー」から情報の提供を受けているのだそうだ。

Image credit: Dydo Drinco

(サービス開始の)9月の段階で3万台、来年の1月20日までに5万台、最終的には15万台にもっていくのが目標。将来的には、自動販売機がそこにあるからこそできること、というサービスを追求し実現していきたい。

現在はサービスをリリースし、自動販売機を増やしているという状況。もともとダイドーの客層は40〜50代の方が多いのだが、リリースしたアプリを通じて次第に30代のお客も取れて来ている。どんな商品をどの時間に買ったか、性別や年齢などの情報も蓄積できるようになり、顧客の囲い込みにも使えることがわかってきた。(ダイドードリンコ 経営戦略部 事業開発グループ アシスタントマネージャー 西佑介氏)

Smile Town Portal 対応の自販機
Image credit: Dydo Drinco

東京では山手線の駅などで、前に立ったお客の出で立ちなどから判断して飲料製品をお勧めするインテリジェントな飲料自動販売機を時折見かける。JR 東日本ウォーターサービスが展開している自動販売機で、カメラなども備わっているのでマーケティングデータも取得できるようだが、まさに「時折見かける」という普及程度だ。一方、ダイドードリンコの場合、Reaktor と取り組んだプロジェクトについて、構想から実行、そして導入までのスピードが速く、同社の自動販売機の2台に1台の割合で、数年以内に Smile Town Portal に対応することになる。大手企業のクオリティアシュアランスや、全国展開する手間を考えれば、このタイムラインはなかなか驚異的である。

今回のプロジェクトで Smile STAND のしくみづくりはダイドードリンコが、Smile Town Portal のサービス開発やソフトウェア開発は Reaktor が担当したとのことだ。Smile Town Portal の立ち上げに要した期間は3ヶ月程度で、「自動販売機に対して面白いよねというイメージを持ってもらえば、それが成功になるのではないか(西氏)」と革新的なサービスに対して、社内での KPI の設定についても柔軟なようだ。Reaktor がフィンランド企業であること、また、ダイドードリンコがモスクワ市内に700台程度の自動販売機を展開していることもあり、Smile Town Portal のアイデアが海外進出する可能性についても期待が持てそうだ。

ただ、今回のプロジェクトの成果について、西氏は Smile Town Portal というアウトプットだけでなく、そのプロセスについても大きな学びがあったと、オープンイノベーションの意義について強調する。

ダイドードリンコにとって、今回ほど他社と3ヶ月間ガッツリ一緒にプロジェクトに取り組むということは無かった。ユーザが気に入ってくれそうなものを、アジャイルなやり方でソフトウェア開発し、それを大阪のプロジェクトルームでラピッドサイクルで回すという、当社にとっては極めて新しい方法。

当初、会社としては「どういうことが起こるの?」という不安もあったが、IoT の領域に入っていくと、プロダクトの開発はこういうことになっていく、というのが我々もわかったし、他の社員にもわかってもらえたように思う。

Reaktoro からは、最初に出してもらったもの(プロトタイプ または MVP)が、我々がやりたいことにすごくフィットしたもので出てきた。このアウトプットのおかげで、上職にプロジェクトのことを納得してもらうのも比較的スムーズに進んだ。(西氏)

ダイドードリンコ本社内に設けられたプロジェクトチームで、Smart Town Portal の開発に余念の無い、同社経営戦略部と Reaktor の皆さん
IMage credit: Dydo Drinco

Reaktor の日本法人である Reaktor Japan 代表取締役の Aki Saarinen 氏は、デザインと開発作業を組み合わせながら進める方法、ソフトウェア開発とクオリティアシュアランスをステップバイステップで進めていく方法がとれたからこそ、今回の短期間でのプロジェクトが実現できたと話す。このようなアプローチを通じて、日本の大企業がスタートアップからベネフィットを得られる機会を、他のスタートアップにも体現してほしいと、高まるオープンイノベーションの可能性について期待感を示した。

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