「失敗から学ぶ新しいスタート」〜京都・第12回Monozukuri Hub Meetupから【ゲスト寄稿】

Sabrina Sasaki 氏

本稿は、「Monozukuri Hub Meetup」を主宰する Makers Boot Camp でマーケティングを担当する Sabrina Sasaki 氏による寄稿を翻訳したものである。

オリジナルはこちら

Makers Boot Camp は京都を拠点とするハードウェアに特化したスタートアップアクセラレータである。


今回の記事は Monozukuri Hub Meetup の連載に戻るが、今回は我々が新設した Kyoto Makers Garage のデビューとなる。この新しいハブで、すべての種類のメイカー達を祝福すべく、沈黙を破ってロボティクスの国での失敗談を共有してくれる、勇敢な日本のスタートアップを2社お招きした。

あらゆるコミュニティにおいて最も重要なことの一つは、レッスンや誤りを含む相互のコラボレーションだ。しかし、私が日本で働き始めてから気づいたのは、こと「F」で始まる言葉(failure=失敗)については、スタートアップエコシステムの中においてでさえ、タブーということだ。疑わしいというなら、スタートアップ関連イベントを主催し、失敗談を喜んで話してくれる起業家を見つけてみるとよいだろう。

日本文化を見てきた人の多くの見解では、日本では失敗は昔から悪いものとみなされ、リスクに対する欲求を制限する永続的な恥をしいられる。これにより、たとえ潜在的な利益を約束したとしても、失敗の可能性が増える選択肢は、日本人にとっては快適なものではない。(Peter S. Goodman 氏談、 ニューヨークタイムズ誌 から引用

驚くまでもなく、スタートアップの失敗談は、新しい物事を発明しようと一人で余裕のある時間を過ごす、好奇心旺盛なエンジニアやデザイナーを支援するためにあるのではない。

メイカー達にとっては、新しいハードウェアビジネスを作ろうとする人々に会える時間に他ならない。我々は日本のスタートアップについて話をするとき、いま話を聞くことができる成功談以外にも、沈黙モードを破って、さまざまな種類の物語の共有にもステージを提供する。

受付チーム:ネームタグと Q&A セッションの資料を配布し、準備万端。

「F」で始まる話題を扱うイベントが関西では稀であることを考慮し、我々はイベントが始まる前に、すでに質問の書かれた Q&A セッション用の資料を受付デスクで配布した。

対話のウォーミングアップとして、最初のスピーカーは海外からのゲストである MakerTour のチームメンバー Lucas Graffan 氏と Marie Levraul 氏が務めた。彼らは、メイカーのムーブメントやコミュニティの重要性についての思いが人一倍だ。

MakerTour のチームメンバー、Lucas Graffan 氏と Marie Levraul 氏

彼らは前回のヨーロッパでの探検ツアーに続いて実施した、8ヶ月に及ぶアジアでの旅の概要を説明し、メイカースペースの世界的影響力の高め方について話をフォーカスした。世界中のあらゆる場所でメイカースペースの数は増加しており、MakerTour のチームは、イランから韓国まで、情報が整理されたアジアのメイカースペース30拠点のハイライトを紹介した。

最後に、彼らはメイカースペースの将来に対する困難や可能性について共有し、コラボレーションから生まれたスタートアッププロジェクトの実例を紹介した。Lucas と Marie は日本に到着したばかりで、この日を丸々、我々と共に Kyoto Makers Garage で過ごした(彼らの最新情報については、YouTube チャンネルを見てほしい)。

2番目のスピーカーは、みまもーら CEO 兼共同創業者の河合斎行氏が務めた。河合氏のスタートアップアイデアは、河合氏の68歳になる父が高齢者共通の問題である軽度の認知症と診断された際の、個人的な体験が元になっている。この種の病気への対処に限界があることを感じた河合氏は、直面するリスクが現実のものとなったとき、家族の問題を解決すべく、自らのソリューションに取り組むことを決めた。一人の強い日本人男性として、河合氏の父は野球を楽しみ、時には家から250キロメートルも離れたところへ出かけもしていた。

厚生労働省によれば、2025年までに700万人を超える高齢者が認知症に苦しむとされ、これは日本の高齢者人口の約20%に上る数字だ。2016年だけでも、2万人の高齢者が行方不明になり、200人以上がほぼ死亡状態で発見されている。認知症が悪化すれば、患者は徘徊をはじめ道に迷むようになり、思いだにしないほど遠くへ行ってしまう。

みまもーらは2016年7月に設立され、横浜市の EASEL との協業により新しいモニタリングサービスを開発している。高齢者やペットのモニタリング支援ソリューションとして、世界初のバンドタイプの LoRa + GPS デバイスをまもなくローンチする見込みだ。このデバイスは、可搬性、無線の信号強度、バッテリーの持続時間といった現在の選択肢を克服しようとしている。

今年7月、みまもーらは15メートルという限られた範囲だったがフィールドテスト(BLE デバイス)に失敗、製品のトラッキングシステム性能を保証するには十分な結果ではなかった。

そこで、河合氏はどのようにこの問題を解決したのだろう? 彼はすぐに、特別なメンターシップと認証を得るための支援を求め、業界の専門家に連絡をとると決めたのだ。現在河合氏のアドバイザーを務める松本氏に河合氏があったとき、松本氏は LoRaWAN を使う方法に切り替えるよう勧めたのだ。問題は解決したが、依然として多くの課題が残されていた。

河合氏のメイカー達に対する勧めは、自分が進もうとする分野の専門家に連絡をとるべきというものだ。そうすることで、学習の成長カーブがスタートアップに適したスピードになるかもしれない。

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Nature Japan の塩出晴海氏は、新鮮なニュースでスピーチの口火を切った。塩出氏の最初のプロダクトで、エアコン向けのユニバーサルスマートコントローラ「Nature Remo」がローンチしたばかりなのだ。成功するスタートアップにとっては大きな一歩に聞こえるかもしれないが、彼はすぐさま聴衆に対し、今回の功績を話す前に、常に経験した一通りの失敗のことを共有したいと語った。彼がキーノートスピーカーとして今回のミートアップに招待されたのも、まさにそういう理由からだ。

塩出氏は、かつて日本の大企業に勤め発電所の開発に携わっていたとき、システム的な問題があることに気づいた。発電所開発の現場で、塩出氏は多くの災害を目撃した。そこで、塩出氏は日常のムダづかいを手始めに、電源システムのサプライチェーン全体を考え直そうと決めた。

差別化を測るため、彼は自らプロジェクトをスタートすることを決めた。家の中でエネルギーのムダづかいの主な源の一つは、部屋の温度制御、もっと具体的に言えばエアコンで、全然スマートには動作していない。

Google Home や Amazon Echo のような新デバイスが世界的に人気を集める中、塩出氏は、機種にかかわらず、エアコンの遠隔制御を支援できる、より簡単なデバイスが存在すべきと悟った。これこそが、ルームエアコン用ユニバーサルスマートコントローラ「Nature Remo」の主なコンセプトだった。

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このようなプロダクトに確実な需要があることを知らしめ、また、生産の当初予算を確保するために、Nature Japan は KickstarterIndiegogo、そして国内の Makuake でクラウドファンディングを立ち上げた。Nature Remo の製造開始を待たずに、Nature Japan はすでにクラウドファンディングで2,250台を販売、予約注文で1,000台以上の追加販売を達成した。このようなイノベーティブな製品に、確かなニーズがあることが証明されたわけだ。成功裏なマイルストーンを達成しつつも、クラウドファンディングはその後始まる本当の仕事の前哨戦にすぎない。

世界中のメイカー達に向けた、塩出氏の失敗レッスンをチェックしてみよう。

  1. 使える工場を見つけるのは簡単ではない。協業できる一連の製造業者を紹介してくれる知人が居ても、時間を使って、すべてのサプライヤーを訪問し彼らの製造能力をチェックするのは手間のかかる仕事だ。もし事を簡単に運びたければ、そうすることが時間を節約することになる。塩出氏のケースでは、HWTrek のネットワーク(残念ながら11月の終わりまでしか利用できない)が役に立ったものの、それでも、中国や台湾のすべての場所を訪問する必要があったという。
  2. 我々はとても小規模だ。スタートアップの夢は大きくあるべきだが、大量の注文をこなし簡単に金を稼ぐことに慣れている製造業者にとっては、我々が依頼する小規模ロット生産は魅力的ではない。あなたのビジョンやスタートアップが直面する困難を理解してくれ、長期にわたる利益確保を優先してくれるパートナーを探そう。
  3. ハードウェアは物理だ。どんなにスタートアップが世界をディスラプトしたいと言っても、これは避けようのない事実である。1日の終わりには、自然の摂理に従わざるを得ない。我々のケースでは、よいデザインのものができるよう取り組んでいた。たいていの住居の壁に合う白色のデバイスだ。しかし、我々が理解していなかったのは、多くのリモコンが黒色か透明である理由だ。その方が、赤外線デバイスは屋内家電に接続しやすくなるのである。
  4. ものづくりは長い道のりだ(それは常に、起業家が望む以上に長いものである)。形あるプロダクトを作るには、パートナーやサポーターに加わってもらう必要がある。自らのチームがどんなに優秀でも、そこには一定のリスクと失敗がつきものである。

 

Nature Remo は自らの間違いから、業界の慣行には理由があることを学んだ。それは物理だ。

失敗についての塩出氏の注釈

  1. 失敗は避けようのないステップだ。それを乗り越えよう。
  2. 行動、行動、そして行動。失敗しても、それを最大限に活用し、次へ向けて進もう。
  3. 執念は、ソリューションを見出すカギである。いつも完璧に事が進むことを期待しているなら、目標を考え直した方がいい。私は現在のステージに至るまで、プロトタイプを20回作り直さねばならなかった。

休憩の後、招待ゲストを交えて2つのパネルディスカッションが持たれた。

最初のパネルでは、スタートアップとのコラボレーションの話題を取り上げ、ヨーロッパと日本のエコシステムプレーヤーには類似性があることについて、KVART のイノベーションコンサルタント Torsten Fischer 氏に私が話を聞いた。

ドイツ出身の Torsten 氏は、アジアの循環経済に特化し、日本やヨーロッパにおけるイノベーションの会話を橋渡ししてきた。

ヨーロッパの大企業とスタートアップ間の Win-Win となるコラボレーションは、まだ新しいもので開発初期の段階にあるそうだ。顧客志向のイノベーティブなソリューションを提供できる柔軟性を持った若い起業家に大企業が参加することで、日本はコラボレーションから多くのことを学べるだろうと Torsten 氏は考えている。一方で、スタートアップは自分たちが持っていないブランディングやインフラストラクチャーについて、大企業から利益を得ることができるだろう。

失敗という話題について、Torsten 氏はヨーロッパのハブの多くにおいても、それは前向きには受け止められていないと話したが、この話題を避けることはできないし、起業家のスキルを形成するために、我々は失敗から学ぶ方法をリードし、理解しようとすべきだろう。

2つ目のパネルは、我々の CEO である牧野がリードし、2つの日本のスタートアップが加わった。この最後のセッションでは、聴衆はさらに多くを学び、起業家に直接個人的な質問をすることができた。このセッションがイベントの主要な部分であり、参加者がより絆を深めたように見えるひと時だった。

ハードウェアの失敗について共有したい話があれば、sabrina @ makersboot.camp までメールしてほしい。スタートアップが直面する困難について、より多くのことを知りたければ、我々に思いを寄せてほしい。

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