THE BRIDGE X Lab.では、4月より課題解決に関する勉強会形式のミートアップ「Lab.」を開催している。4月の教育・子育て問題、5月の資金繰り問題に引き続き、6月のテーマは「認知症ケア」。今回のテーマはinquire(インクワイア)代表のモリジュンヤ氏が取材を担当してくれた。1カ月の取材レポートをライブ配信と報告会イベントで共有させていただいたほか、パートナー企業のみなさんにも配信させていただいている。(※ご興味ある方はこちらからお問い合わせください。)
2025年に認知症患者の数は700万人に
少し調べ始めるだけで、実に深刻な状況にあることがわかってきた。超高齢社会を迎える日本では、2035年に総人口に占める高齢者の割合が33.4%となり、3人に1人が高齢者になるという推計が出ている(出典:厚生労働省 国立社会保障 人口問題研究所)。
加えて、高齢になることのリスクに認知症の発症率が増加することが挙げられる。日本では、65歳以上高齢者の約15%が認知症になるというデータもあり、さらに年齢が上がっていくごとに発症率は上がっていく(出典:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター)
2025年までに、約700万人の人々が認知症になるという推計も出ている。患者の家族や介護をする人々まで含めると、かなりの規模だ。これだけの人々が認知症になると予想されている中で、テクノロジーにはどのようなことが可能なのか。2017年6月の1ヶ月間をかけて、少しずつ状況を整理していった。(レポートより一部抜粋/取材・執筆はモリジュンヤ)
認知症ケアに取り組むテクノロジー企業5社レポート
ここからは6月29日に開催したLab. Nightから、認知症ケアに関するスタートアップ5社のピッチの様子をレポートさせていただく。

<ピッチ登壇企業>
- リストバンドで高齢者の位置や行動をリアルタイム把握できる「みまもーら」
- 健康や食事、脳刺激などのコンテンツで認知症を予防する「脳にいいアプリ」ベスプラ
- VRで認知症を体験できる「VR認知症プロジェクト」シルバーウッド
- 開発プロダクトによる認知症データの分析およびフィードバックを提供するブレインケア
- ビデオ通話による遠隔診療「LiveCallヘルスケア」スピンシェル
リストバンドで高齢者の位置や行動をリアルタイム把握できる「みまもーら」
「みまもーら」は内臓バンドを高齢者がつけることによって、位置や行動を常時把握できるIoTデバイス。LoRa+GPSを搭載しており、位置情報はスマホアプリから確認が可能。
「探す」ボタンを押すことで捜索モードを起動し、最後に検知された位置情報を表示することもできる。みまもーらの対象範囲は約10kmで内臓電池の寿命は10年間。理論上では東京23区内であれば位置情報がわかるということだ。同社調べによると、行方不明者の捜索願いが年間2万件以上警察に提出されており、そのうち400人は生存確認がとれない。そういった背景からみまもーらは誕生している。
2017年6月には東京都内5カ所(東京都港区・中野区・新宿区・品川区・国分寺市)において、通信実験を実施している。
健康や食事、脳刺激などのコンテンツで認知症を予防する「脳にいいアプリ」
ベスプラの運営する「脳にいいアプリ」は、認知症予防に効果が期待できる運動や食事、脳刺激、ストレス緩和、社会参加に関連するコンテンツを配信している。iOS9.0以降およびAndroid5.0以降に対応。
それぞれのコンテンツは研究結果を元に作成されており、健康のカテゴリであれば歩数計、ストレス緩和であれば簡単なパズルや間違い探し、と利用者が楽しんで認知症予防に取り組めるのが特徴的だ。また連携した「家族サイト」で、家族とデータ共有しコミュニケーションをとり安心するという形を目指している。同サービスは2月にリリースされた後、4カ月で1万5000ユーザーを獲得しており、50代女性のユーザーがもっとも多い。
アプリの効果やデータを分析した内容に関する特許取得などに取り組み、今後の展開として2019年を目処にIotプラットフォームの開発や認知症の改善にも視野を広げている。
VRで認知症を体験できる「VR認知症プロジェクト」
風邪などの自身が体験したことのある病気であれば共感や理解があるが、認知症と言われるとその辛さや本人が感じていることは理解がしづらい人も多い。そんな認知症の理解をVR体験によって深める取り組みがシルバーウッドの運営する「VR認知症プロジェクト」だ。
同プロジェクトは、認知症の中核症状を日常の出来事のVRから疑似体験できる。同社は認知症を問題として解決するのではなく、認知症の人やその家族の人たちが生きやすい社会をつくることを目標としている。現在、VR認知症を使用した実証実験を予定しており、徳島県那賀市で認知症に対するリテラシーや認識の変化の数値化を考えている。実際に那賀市にて効果がみられれば、他の地域にも展開していきたい意向だ。
認知症予防に関する予防食やデータ分析のブレインケア
ブレインケアは認知症予防に関するサービスを開発、運営している。6月14日には資金調達を実施しており、キャピタルメディカグループやJR東日本スポーツと業務提携による認知症研究を開始している。
同社は頭にヘルメットのような機器を装着して脳波を測定から認知トレーニングをするプロダクトや赤ペン先生方式で脳トレをする「認活道場」、認知症テストおよびリスク低減プログラムの提供サービス「アタマカラダジム」などを開発をしている。同社はこれらのプロダクトで認知症予防をすすめるとともに、取得した知見やデータを分析して本人や介護スタッフにフィードバックする仕組みづくりを目指している。
同社の調べによると、認知症の介護にかかるコストは社会費用で2014年度14.5兆円。(慶應義塾大学調査による)各家庭ごとにみた場合、おおよそ1日8時間分、3日間家族などが介護に時間を費やすとすると年間で約382万円分のコストが発生する。こういったコストを抑えるために同社は認知症になるまでを可視化して、リカバリする取り組みを進めている。
ビデオ通話での遠隔診療「LiveCallヘルスケア」
2017年6月にリリースしたばかりのスピンシェルが運営する「LiveCallヘルスケア」。同サービスはビデオ通話により遠隔診療が受けられる。
同社によると認知症初期段階の患者は病院へ行くのを拒むことが多いようだ。その結果早期治療の機会損出や家族とのコミュニケーションの悪化を招くこともある。実際にLiveCallヘルスケアを利用する医療施設では、そういった患者でも医療をうけやすい環境をつくることを目標とする。医師や患者はブラウザもしくはアプリから利用可能で、ビデオ通話による診療をはじめ予約や決済、薬の配送サポートなど遠隔診療に必要な機能を揃えている。
以上、認知症ケアの課題解決に関するスタートアップ5社に登壇していただいた。冒頭にも記載した通り、厚生労働省が発表するデータによると現在認知症患者数は約465万人で、2025年には752万人までになると推計されている。人口比率で2025年には65歳以上の3分の1が認知症になると言われる時代に向けて、どの登壇企業もこの数字や関連するコストに対して解決に取り組んでいた。
実証実験やデータの収集、分析が多く必要になってくるこの分野。Lab.での本テーマにおける勉強会は一旦終了となるが、引き続き形を変えて取り上げたいと思う。(現在、一般向けのクラウドファンディングも実施しています。ご興味ある方はそちらもご覧ください)
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