
カナダの10代にとって自殺は2番目に多い死因である。国は自殺防止のために努力しているものの、年々その数は増加を続けている。自殺の研究のための予算の増加、新たなメンタルウェルネス教育プログラム、人の手による国内の自殺統計のモニタリングといったことが行われており、これらの努力はカナダにおける自殺防止の重要な土台となっているが、より多くの命を救うためにはさらなる手段が必要なことも明らかだ。AI が持つ予測能力とスケーラビリティはこの点で助けになるものである。
カナダ当局はオタワを拠点とする Advanced Symbolics とプログラムの開発について協議を行っている。このプログラムはソーシャルメディアの力を利用し、自殺行動が地理的に急上昇するのを予測するものである。報道によると、3ヶ月間の実証実験を含む合意がなされる模様だ。その実証実験では研究者が16万人分のソーシャルメディアのアカウントを調査し、カナダ全土のコミュニティで自殺に関連した死亡が発生しようとしていることを示すトレンドを特定する見込みだ。とある地域で自殺の可能性があると AI が予測した場合、当局は政府のヘルスプログラムに行動を起こすよう促す。カナダ政府は実験のための契約を来月まとめることとなっている。3ヶ月間のテストの後で、当局は将来的に必要かどうかを判断する。
カナダ公衆衛生庁(PHAC)の担当者は次のように述べた。
自殺防止のため、効果的な防止プログラムを開発し早期に介入できるようにするために、我々はまず自殺に関連した行動の様々なパターンや特徴を理解しなければなりません。自殺と関連した行動について論じているユーザのオンラインデータに基づき、PHAC はパターンを特定する新たなアプローチの試みを探っています。
将来有望な解決策
Advanced Symbolics は市場調査の動向を特定するために AI を使用している。同社 CEO である Erin Kelly 氏はこう語る。
弊社は世界で唯一、ブレグジットやヒラリー氏とトランプ氏の選挙、そして2015年のカナダの選挙について正確に予測できた調査会社です。
政治や広告に対する世論を追跡し分析するために同社が使用したものと同じ方法が、自殺率を低下させるのにも役立つのではないかという希望がある。
もしプログラムがうまくいけば、AI の助けによってカナダの保健機関は次にどこで自殺の急な増加が発生するかを見極め、発生の数ヶ月前に予防的な措置をとることができるようになるだろう。
Advanced Symbolics の主任科学者である Kenton White 氏は次のように述べている。
弊社が理解しようとしているのは何が予兆かということです。予兆が分かれば次のホットスポットがどこかを予測することができますし、悲劇が発生する前に自殺防止のための必要なリソースをカナダ政府が提供する手助けもできます。
倫理的な影響の可能性
このアイデアは、ユーザのメッセージのやり取り、公開記事、そしてライブストリーミングをモニタリングし、その個人に自殺のリスクがあるかどうかを見極めている Facebook の AI と似ている。Advanced Symbolics が提示したソリューションと Facebook の現在のソリューションの主な違いの一つはプライバシーである。Facebook の AI はプライベートな会話と公開コンテンツの両方を分析するが、このソリューションではあくまでも公開された投稿のみを対象に、特定のコミュニティや国内の地域での全体的な感情を集めるためにモニタリングするものである。政府の支援を受けるプログラムであるために、Advanced Symbolics のソリューションはコンテンツの公と私の境界を遵守しなければならない。しかし政府の AI がソーシャルメディア上でカナダ人を見張っているという不安は、まだプロジェクトをうっすらと覆っている。
考えられるこういった不安の声に応えて Kelly 氏はこう語る。
弊社はいかなる人のプライバシーも侵害しません、公開された投稿だけです。ソーシャルメディア上の集団を代表するサンプルを作り、干渉することなくその振る舞いを観察するのです。
公と私を分けたモニタリングでプライバシーに関するカナダ人の不安はうまくいけば収まるかもしれないが、それでもこの試みの間、透明性を保っておくことは政府機関にとって重要となるだろう。政府のプログラムが社会の動きをモニタリングしているという考えよりも不愉快なものはあまりない。しかしこの取り組みを進めるにあたってどうしてもやらなければならない理由があるということをカナダ市民には忘れないでほしい、と研究者も政府当局も願っている。
その先にあるもの
Advanced Symbolics は現在、自殺行動がどのように現れるか、そして AI はどのようにしてソーシャルメディア上の赤信号を見分けるのかを確定するプロセスに入っている。同社は選び出されたソーシャルメディアのアカウントを対象に、その行動のモニタリングを来月から開始する計画だ。
下記はアメリカやカナダに住み自殺を考える人が利用可能な支援団体である。
【via VentureBeat】 @VentureBeat
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