企業価値2億米ドルに達したシンガポールのコワーキングスペーススタートアップJustCo、独自の成長を遂げるそのわけとは?

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アジアにはコワーキングスペースが豊富にある。

グローバル不動産会社 Jones Lang LaSalle のレポートによると、アジア太平洋地域では世界のどの地域よりも早いスピードでコワーキングスペースの供給が広がっている。コワーキングスペースの床面積年間増加率はアメリカで25.7%、ヨーロッパで21.6%だが、アジア太平洋地域では35.7%にもなる。

コワーキングスペース運営企業は、独自のニーズを持つアジアの新進起業家の成長から利益を得られると考えている。Kong Wan Sing 氏が Liu Lu 氏、および Kong Wan Long 氏とともに2011年に JustCo を設立したのも同じ理由からだ。

シンガポールのコワーキングスペース「JustCo」
Photo credit: DIA Brands

Wan Sing氏はニューヨーク大学卒業後、投資銀行 Goldman Sachs の内定を蹴り、ボストンに移って自身の金融企業を立ち上げた。新たな起業家の1人となったことで、スタートアップの設立者と事業主には単なるオフィス以上のものが必要であることに気付いた。

同氏は当時を振り返る。

私たちは低コストかつ自由度の高い賃貸物件を必要としていました。オフィスの立ち上げのサポート、インターネットアクセス、利便性はもちろんのこと、何よりコスト削減が重要でした。

その時、同じ悩みを抱える起業家や事業主をサポートする機会があったのです。

JustCo が手掛けるオフィスは、社内の空間プランナーとインテリアデザイナーがチームを組んでコンセプトを考案しており、一般的な備品と家具が備え付けられている。また、定期的にビジネスイベントやレクリエーションイベントの主催と提供も行っている。

市場の開拓

JustCo はアジアの30以上の場所でサービスを展開しており、1万7,000人以上の会員を抱えている。一方、アメリカの競合企業 WeWork は世界485の場所でサービスを展開し、46万6,000人の会員がいる。

これらの数字を見てみると、配車サービスとは違い、コワーキングスペース市場は1人勝ちになるようなものではないということがわかる。ビジネスの仕組みはいたってシンプルで、自分たちが借りた不動産にサービスを付加して、それを第三者に借りてもらうのだ。

オフィス移転コストは馬鹿にならないため、コワーキングスペースにおけるユーザ定着率は高い。それはつまり、新規ユーザ獲得コストが高くなるということでもある。アジア太平洋地域におけるコワーキングスペースの選択肢の幅が広がる中、JustCo は競合他社との差別化を図る方法を見つけ出す必要がある。

コワーキングスペース運営企業は長期賃貸契約のリスクにも直面している。このような契約では将来数年分の家賃の支払いを約束することになる。経済が悪化した際には支払いが困難になり、顧客にもオフィスを退去してもらうことになりかねない。WeWork がコワーキングスペースをすべて自社所有物件にしようとしているのもそのためだ。

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JustCo の共同設立者 兼 CEO Kong Wan Sing 氏(前列中央)ら
Photo credit: JustCo

JustCo は単なるコワーキングスペース企業から生まれ変わろうとしており、他社と提携して家主や不動産所有者の不動産管理を手掛けている。2018年には、シンガポールの政府系ファンド GIC、および多国籍企業 Frasers Property と提携して、1億7,700万米ドルの共同投資を行った

Wan Sing 氏には、不動産所有者がコワーキングスペース運営企業に管理を任せるようになりつつあるトレンドをチャンスと見ている。2018年12月、シンガポール企業 GuocoLand は 20 Collyer Quay にある自社のコワーキングスペースの管理を JustCo に依頼した

資金調達の面では、コワーキングスペースの運営企業に興味を示している不動産企業にアプローチをかけている。2017年10月、JustCo はシリーズ B ラウンドでタイの不動産開発グループ Sansiri から1,200万米ドルを調達した。この投資により同社の企業価値は2億米ドルにまで一気に上昇した。

JustCo は他社とも提携してオフィス空間の提供と管理を行っている。今年初め、Verizon のアジア初となるイノベーションコミュニティスペースのプロデュースと管理のサポートを任されることになった。また、Trive Ventures とも提携して、スタートアップインキュベータプログラム Trive Labs を立ち上げた。

さらに、Enterprise360 というチームも作っている。Wan Sing 氏によると、このチームは企業顧客が「自分たちの大規模オフィススペースに自社ブランドの看板を取り付けたり、専用の入り口を作ったり、占有エリアを確保できるよう」サポートするという。

拡張計画

JustCo は今年、アジア太平洋地域でさらなるサービス拡大を計画している。Wan Sing 氏は次のように語る。

当社はオーストラリアや韓国、台湾、日本、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドといった新規市場で JustCo のサービスを展開しようと考えています。

また、シンガポールやタイ、インドネシア、中国などの既存市場でもサービスを拡大していく予定です。

さらに、サッカーコートと同じ広さの約7,500平方メートルという大規模オフィスを展開することで、各顧客に専用の設備を提供していると同氏は述べた。また、オーストラリアでも同様のコンセプトを展開する計画があるという。

JustCo は、オーストラリア第1号のコワーキングスペースを2019年3月にシドニーに開設した。6月にはさらのもう1つのスペースをメルボルンに開設する計画があり、15 William Street タワーの4フロアを占めることになる。メルボルンでは 276 Flinders Streetでも4フロアのスペースを準備しており、シドニー第2号となるスペースも Mirvac 60 Margaret Street で準備中だ。

Photo credit: JustCo

台北の信義区、松山区、中山区の3つの金融街でも新たにコワーキングスペースを確保した。

また、Frasers Property の複合用途開発の一環として、タイで3番目となる支社を開設する予定だ。同社はバンコクの中心から離れた場所に倉庫を持っているが、バンコク中心部でミーティングを開いたりオフィスを持ちたいような、Frasers Property の法人顧客をサポートする。

Wan Sing 氏は次のように語った。

2015年以来、JustCo の従業員数は5倍に増え、コワーキングスペースの増加にも対応できるようになっています。

今年は IT やインフラ、ワークスペースのデザイン、セールス、コミュニティに関連する、シンガポール地域の従業員数が60%増える予定です。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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