ソーシャルインパクトを掲げるスタートアップたち【TechStars選出(1/3)】

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TechStarsウェブサイト

ピックアップCox Enterprises Social Impact Accelerator Powered by Techstars

ニュースサマリー:スタートアップアクセラレータープログラムを展開するTechStarsは、SGDs分野に特化したプログラム「Cox Enterprises Social Impact Accelerator Powered by Techstars」を開始している。今年度選出されたスタートアップは以下の計10社。

同社は、UberやTwilioなど名だたるスタートアップを輩出してきた実績を持つアクセラレーター。今までに2800社以上に対し、103百万ドルの資金提供を実施、120か国で活動を展開している。本稿では上記から7社について解説してみたい。

話題のポイント:TechStarsのアクセラレーターとしての特徴は、ある特定のテーマを掲げ大企業とのパートナーシップを組んでプログラムを展開していることが挙げられる。例えば、日本企業との関わりで言えば、音楽関連特化のプログラムTechStars Musicにエイベックスがスポンサー企業として参加したことが話題となった

今回取り上げる「Cox Enterprises Social Impact Accelerator Powered by Techstars」は、SGDsをテーマとしている。今年5月に選出されたスタートアップが発表され、DemoDayは完全オンラインで実施された。初回はSDGsの教育をテーマにしたスタートアップ3社を紹介する。

KaiXR

概要:世界中の多様な経験をバーチャルリアリティのフィールドトリップという形で提供

課題:子供たちが遠足に行く機会が急速に減っている。特に貧困家庭層を中心に、子供が遠足に行く機会が急速に減っており、新しい発見機会の損失が始まっている。

市場背景:同社CEO Kai Frazier氏は、低所得者層向けの学校で教員をしていていており、それがこうした社会課題に関心を持つきっかけだったという。歴史を教えていた同氏は、授業での学びを深めるために博物館へ子供達を連れて行きたかったが、移動バスや昼食のための資金の確保ができなかった。Frazier氏の家庭も貧しく日々の生活に手一杯で、家族で旅行に出かけることもできなかった。そのような中、学校の遠足が唯一、今まで知らなかった世界や仕事を体験でき、視野を広げることのできる貴重な機会だった。

一方で最近では遠足への補助金は年々減少傾向にあり、学校での遠足が中止され始めている。遠足に行く生徒は高校を卒業する可能性が95%と高いのにも関わらず、COVID-19前からアメリカの50%の学校はもはや遠足を提供していない。加えて、世界的なCOVID-19の蔓延により、全学校が遠足を実施しなくなった。

一定程度のテクノロジースキルの獲得も子供たちにとってますます重要になっている。アメリカでは、2010年以降に創出された新規雇用の3分の2近くが、技術スキルを必要とされ、2024年までに技術系の卒業生が50%不足すると予想されている。

提供しているサービス:Kai XRは、教育におけるアクセシビリティとインクルージョンが優先されるべきとの考えのもと設計されている。様々な刺激を幼いころから受け、新しい技術に関心を持ってもらい、技術スキルを学ぶための入り口になることを目標としている。

同社は、どのVRヘッドセットでもどのデバイスからもアクセスのできる、子供たち向けに遠足をVR経験ができ、さらにテクノロジーを学ぶ教育プラットフォームを提供。

機能は大きく3つに分かれている。「EXPLORE」メニューでは、宇宙飛行士など様々な仕事を経験をすることができる。UCバークレーなどからの資金提供を受けて、コンテンツの制作を行っている。「DREAM」メニューでは、テクノロジーのスキルを学ぶことができる。ここでは、子供たちは自分の夢の世界を友達と共同制作することができる。「CREATE」メニューでは、一から仮想世界を創りあげることができるものだ。

ビジネスモデル:学校や各家庭だけでなく、医療機関による活用も想定している。また、多くのVR会社は特定のヘッドセットにコンテンツ提供をしているが、同社ではどのVRセットでもどの端末でも利用することが可能である。特別なアプリケーションも不要なことも特徴。

こうした背景には、moz:llaと提携し、最先端のテクノロジー支援を受けることに成功するなどが挙げられる。遠足は、一人当たり100〜1000ドル、最新のゲームセットOculus Questは600ドル以上するが、kaiXRは一人10ドル/月額で実現。同社によると、TAMはアメリカだけで6.7Bドルと算出している。

Blue Studios.io

https://www.instagram.com/p/CB_HxSJnVd7/

概要:STEM教育(科学・技術・工学・数学)に特化した、ライヴストリーム・オンデマンドプラットフォームを提供

課題:IT社会とグローバル社会に適応した国際競争力を持ったSTEM人材の育成と環境整備

市場背景:STEM教育の需要は伸びているが、ITや先端技術に触れることが可能な施設が必要なため、各家庭で実施するのは難しい。各種インターネットのメディアはあるが、You Tubeは子供にとって安全性が確保されているとはいえない。また、Khan Academyは双方向の対話は現状実現できてない。

加えて、学校の教師はデジタルコンテンツを持ち合わせていない状況がある。一方で、この分野でプロフェッショナルスキルを持ったインフルエンサーは職業を必要としている。この状況を解決するのが、Blue Studios.ioのサービスである。

提供しているサービス:同社は、高度なSTEMスキルを持つインフルエンサーのネットワークを活用し、子供たちに対して、双方向の対話が可能な授業を提供している。

まず、SNS等より候補者となるインフルエンサーのスクリーニングを実施する。審査を通過した候補者に、予め準備されたトレーニング研修を受講してもらう。その後、同社の撮影キットを利用し撮影をするか、同社の持つスタジオで撮影を行う。この一連のプロセスを完全に自動化しているのが特徴。

ビジネスモデル等:2019年9月にローンチした同社は、2020年4月現在で4,000人を超えた。顧客は、英語圏15カ国に及んでいる。ライブストリームのクラスへアクセス権限のあるスターターキットは月額9.99ドル、小規模グループの授業を希望する場合にはプレミアムキットが月額49.99ドル、ライブストリームに必要な器具を調達したい場合には、キット単位で30~40ドルとなっている。

創業メンバーは、一からSTEMコンテンツを創作し、500万ドルのSTEM教育コンテンツの学校への販売実績を持つ。同コンテンツは、2万人の学生、グローバルで40都市以上で活用されたという。

BestFit

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BestFitウェブサイト

概要:大学生が学業に専念するために、生活に必要な情報を取りまとめたウェブプラットフォームを提供

課題:低所得層やマイノリティー、移民一世の子供が大学に入学することができても、75%は卒業することができていない。それは、食糧、住居、テクノロジー、移動手段といった生活に必要なライフラインへのアクセスが十分にできず、やむなくドロップアウトしているためだ。

市場背景:金銭による学びの機会損失を防ぐためには給付金制度などが存在しているものの、複雑な手続きや調整が必要で、情報探しに多大な時間を必要とする。アメリカでは、未支給給付金は60億ドルを超えており、実はあまり活用されていない背景を持つ。

BestFitは、創業者二人がともにコロンビア大学ティーチャーズ・カレッジの大学院生時の2017年秋に、研究プロジェクトとしてスタートしたものである。

提供しているサービス:BestFitは、ドロップアウトを余儀なくされる可能性のある大学生に対し、学業に専念することができるよう、食料、住宅、身体的・精神的健康、交通、食料とインターネット、教育、金融、補助金などに関するリソースを取りまとめ、ウェブサイトを通じて提供している。必要なリソースを一括してアクセスができるように設計されているので、必要な支援を探し、申請することをワンストップでできる。

ファイナンス等:2020年4月にアメリカジョージア州アトランタでローンチし、現在、パイロットテスト中。2社と契約済みで現在も募集中。同社はビルメリンダゲイツ財団やシリコンバレーのインパクト投資ファンドImaginable Futuresより資金調達を実現している。(2に続く)

執筆:NeKomaru/編集:岩切絹代・増渕大志

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