生活を変えるスマートホーム、HOMMAの戦略と挑戦

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HOMMA創業者・CEOの本間毅氏

コロナ禍において大きく考え方が変わったもののひとつに暮らし方、働き方があると思います。企業も敏感にその流れを受け止めていて、例えばJR東日本とKDDIは、品川駅を中心に地方へサテライト拠点をつくる分散型のまちづくり事業をスタートさせています。また、生活用品大手、無印良品では2015年から地域のくらしにフォーカスした情報発信活動「ローカルニッポン」を開始していますが、このライフスタイルの変化により二拠点生活やワーケーションといった「別の視点」がより強く加わることになりました。地域の魅力発見だけでなく「自分ゴト」として考える人も増えたのではないでしょうか。

ライフスタイルの変化で最も大きな割合を占めるのが衣食住の中の「住」です。

雨風を凌ぐものであり、家族というコミュニティを育む場所であり、そして資産としての側面もあります。さまざまな機能を兼ね備えた「住」ですが、スマートデバイスの数々や車におけるTeslaのようなダイナミックなイノベーションはまだ起こっていない領域で、特に国内における戸建て住宅の市場は新規着工の住宅数が43万戸(2019年・建築着工統計調査)で横ばい、事業社についても2013年の飯田グループHD(住宅系6社が統合)や2020年のPLT(パナソニック系とトヨタ系が統合)が誕生するなど「熟成」が進みつつある市場とも言えます。

大きな転換点にあってやや停滞した巨大市場に対し、ダイナミックな変化を仕掛けようというのがHOMMAです。シリコンバレーを拠点に、日本人の連続起業家である本間毅氏がスタートアップさせたこの取り組みは何度か本誌でも取り上げさせていただきました。

同社は今年5月にシリーズAラウンドのファーストクローズを終え、800万ドルの調達に成功しています。出資したのは既存投資家のB Dash Ventures、Mistletoe、D4V、Convertible Note(転換社債)でレモンガス、城東テクノ、野原ホールディングス、Goldengate Investment Clubがフォローオンとして参加しています。

また、新規の投資家としてNTTドコモ・ベンチャーズ、コクヨ、プロパティーエージェント、アクアクララ、サニーサイドアップ、個人投資家として杉原章郎氏、大前創希氏、藤野英人氏、藤森義明氏、石塚亮氏らも参加しています。同社のこれまでの累計調達額(株式のみ)は約2,600万ドルに到達しており、これら調達した資金でHOMMAの住宅およびスマートホーム技術の開発強化を進めるとしています。

HOMMA HAUSの体験

HOMMA HAUS Mount Tabor

HOMMAが開発する「HOMMA HAUS」は独自に開発した「Cornerstone AI」というスマートホームプラットフォームをビルトインした住宅です。複数のIoT機器やセンサーを住宅に組み込むことで、住んでいる人に合わせて家が動く、そういった体験を提供しようとしています。実際に住んでいる本間さんにどのようなものになっているのか尋ねたところ「感じないぐらいに自然」な体験を実現できているとお話してくれました。

例えば生活の中で何度もやっている照明の操作は、自分たちでも気が付かないほど当たり前の行動になっています。しかし、HOMMA  HAUSでは人が入ることで明かりが灯り、仕事の時間には自動的に調光して青い光を、リラックスしたい時には温かい光に変更してくれるなど、自分のライフスタイルに家が合わせて動いてくれる、と表現されていました。

空調についても、センサーが家に組み込まれているので、人の動きを感知して家が操作してくれるといった具合です。キーレス、エアコンレスといったコントロールを必要としない(※念のためマニュアル操作のパネルはあるそうです)生活は、一度慣れてしまうと元に戻れないスムーズな体験になるのだとか。これらの機能はネットを通じてアップデートがかかります。

※修正:操作パネルではなく操作が可能なアプリでした。修正させていただきます。

また、家単体ではなく、コミュニティとしてのHOMMA HAUSも魅力のひとつです。

HOMMAは住宅という大掛かりな仕組みをアップデートするため、ステップバイステップの戦略を組んできました。テストモデルのHOMMA ZEROは現在、同社のオフィスとしても活躍しており、その次のHOMMA ONE(一戸建て)はすぐに買い手がつきました。これらの建築・分譲ステップを踏みながら、本間さんたちは開発ノウハウと分譲販売のファイナンシャルモデルを設計したそうです。

HOMMA HAUS Mount Tabor

現在、HOMMAでは昨年11月から18戸のHOMMA HAUSが立ち並ぶ分譲戸建ての HOMMA HAUS Mount Taborを建築中です。特にお話を伺っていて興味深かったのがコミュニティだからこそできるサービスの可能性です。HOMMA HAUSにはスマートロックやセキュリティが家自体にインストールされているため、例えば掃除や宅配、メンテナンスといった外部サービスを自宅にいることなく受けることが考えられます。この際にも事業社としては一定の数がまとまっている方が当然、スケールメリットを見出しやすくなります。

本間さんは自分たちだけで建てるプロジェクトをステップ2と称しており、今後の可能性としてHOMMA独自のスマートホーム・プラットフォームのテクノロジーをライセンスするという考え方も示してくれました。

前述した通り、特に国内の戸建て住宅市場は横ばいが続いており、空き家についても2033年には1955万戸(2018年は846万戸・住宅土地統計調べ)に拡大するという試算があります。スタートアップが単独で街を作るという考え方はやや時間軸に問題があるかもしれませんが、例えばこういった空き家の課題を既存プレーヤーと一緒にアップデートしたり、大手ホームビルダーが差別化要因として彼らのプラットフォームを採用するなどすれば、ダイナミックな動きが期待できるかもしれません。

実際に自分たちがホームビルダーとして建てたからこそ分かるペインポイントも強みだとお話されていました。

サステナビリティへの取り組み

スマートホームで売却1号となったHOMMA ONE

インタビューの終わり、本間さんは家づくりをした経験から持続可能な社会への取り組みについても考え方を教えてくれました。そもそもスマート化することでの節電や環境負荷の低い建材を使うなど、見える形の行動をされているそうなのですが、それ以上に印象的だったのが地域社会とのつながりについてでした。

冒頭に書いた地域分散の考え方はコロナ禍で一気に大きな転換点を迎えたと思いますが、やはり都会の生活に慣れた人が突然、生活環境を大きく変えるというのは心理的な負荷がかかります。しかし、もし、その街に従来使っていたものと同様のスマートなインフラが整っていたらどうでしょう。

現在はまだ頭の中の話、としつつ、本間さんは地域にHOMMAのプラットフォームをインストールしたコミュニティを創るアイデアを教えてくれました。この方法は既存のホームビルダーと連携して実施する考え方で、実現すれば、意外と早くにワークフロムローカルが現実のものとして目の前に現れるかもしれません。

コロナ禍によってライフスタイルに発生した大きな変化は私たちの生き方や働き方、家族との向き合い方に大きな影響を与えました。元に戻すことが難しくなった今、パラダイムの扉は大きく開きます。そこにどのような体験を用意するのか、テクノロジー・スタートアップの役割が問われることになりそうです。

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